陰陽五行戦記
第一章 ◇平安編◇
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鞍馬山の中腹、奥の院魔王殿と呼ばれる一帯は、すべての木々に炎が燃え移り、さながら灼熱地獄の様相を呈していた。 樹齢数百年になろうかと言う杉の大木が、もう何本もたいまつのように炎に包まれている。 風にあおられて煙と火の粉、そして黒いススが舞い散る。 辺り一体を多い尽くす膨大な熱と立ち木が燃える猛烈な匂い。 すでに火傷しそうなほどに顔の間近で炎の熱気を感じる。 視界のほとんどが炎の赤と、煙の黒で埋め尽くされている。 煙の匂いにも鼻が麻痺してしまったかのようで、呼吸をしても咳き込まないのが不思議なほどだ。 「なんだよ…、これは…」 呆然と口から出た独り言。 風が吹き、さらに炎は勢いを増す。 真田淳二は立ち尽くしていた。 灼熱色に輝く『式神武戦具』も、誇らしげに輝いていた六文銭の意匠も今は黒いススと淳二自身の出血で汚れていた。 どれだけの熱量を受けたのか、鎧の一部が半ば溶けかかっているほどだ。 さっきから一歩も動けない。 いや、本来は意識があることすら不思議なほどの重傷を負っているのだが、その痛みすらも淳二は認識していないかもしれない。 目の前で展開されている光景に圧倒されていた。 取り返しのつかない現実に打ちのめされていた。 そして、それがうまく認識できていない。 「広奈ちゃん…」 何がどうなっているのか、オレに教えてくれよ…。 だが、その呼びかけに答えるはずの美しい少女の姿はもうなかった。 いつだって柔らかな微笑をたたえて余裕のある佇まいをくずさなかった広奈。 恐怖や動転、そしてなにより敗北や“死”からも超絶していたように見えていたのに。 なのに…。 苛烈すぎる魔王の攻撃をまともに受けて、この世にいた痕跡すら残さず…。 消えてしまった。 広奈ちゃんが、いなくなってしまった。 信じられない。あんなに透き通った広奈ちゃんの声を、もう聞くことができないなんて。 信じたくない。あんなに綺麗な広奈ちゃんの姿を、もう見ることができないなんて。
「ハル…」 あれは何なのだ。 目には入ってくるけど、脳がそれを認識してくれない。 さっきまで伊達春樹だったモノ。 どうしようもなく善人で、悲しいくらいに誠実で、報われない努力を重ねてきて、それでもわずかの時間で見違えるほどに強くなった。 そんな春樹なのに。 本当に、これは現実に起こっている出来事なのか?
「くそっ、ダメか…」 力が抜けていく。 怪我のせいだけじゃない。多分オレはどうしようもないほどに絶望を感じている。 そしてこのまま意識を失ったほうが、きっと楽になれるだろうとも。 それこそゲームだったら間違いなくリセットボタンを押したくなる状況だな。 最悪だ。 一体、どこで選択肢を間違ったんだろう。 っていうか、オレが弱すぎたのか…。 広奈ちゃん、ごめん…。守れなくて、ごめん…。 輪…、美亜子ちゃん…。悪い…あとのこと頼む。なにも出来なくてほんとごめん…。 そしてハル…。オレ、見届けることすらも、もう無理みたいだ…。 ごめん…、みんなごめん…。
視界が真っ暗になり、淳二は力なく崩れ落ちた。 消えゆく意識の最後。 函館の町と、家族の顔と、いつもの教室で笑いあう、輪や、美亜子、そして広奈と春樹が。 懐かしい光景が淳二の脳裏をかすめた。 帰りたかったふるさと。戻るべきところ。 木々が燃えはぜる音と、知らない誰かの咆哮が耳に届いたのを最後に、淳二の意識も消えた。 見届けるものもいなくなった魔王殿。 倒れた淳二の体の上に、雪のように火の粉が舞い落ちては消えていく。 空にはようやく黒雲が広がり始めていた。 もうじき、雨が来る。 やがて、死んだように動かない淳二の体を強い光が包み込み、
・ ・ 時間を少しさかのぼる。
ちょうど比叡山を飛び越えて、そのまま鞍馬山のふもと、由岐神社に向かう飛行ルートだ。 正直これから魔王との決戦を迎えるのでなければ、こんなに優雅で贅沢な景色が見られる遊覧飛行もないだろう。 ま、命綱も無しで十二神将に抱えられて飛んでいるんで、高所恐怖症の方にはお勧めできないけど。 オレとしてはタケコプターで飛んでるようないい気分だな。風が気持ちいい。 早朝の静謐な空気は、上空に上がるとちょっと冷えすぎるくらいに身にしみる。 それもちょっと湿り気を帯びているような気もする。例えるならば朝露にぬれた高原の朝、って感じ? 右を見れば東の空にはすでに朝日が昇っていた。 だけど、反対の西の空には微妙に黒い雲が増えているようで、午後ぐらいから雨が降るかもしれない。 「ぶえーーっくしょいっコラァ!」 盛大なくしゃみが出た。 そう言えばすでに変身したオレたちは『式神武戦具』をまとって『陰陽武戦士』になっているわけだが、この姿のままでいても、やっぱり風邪を引くのだろうか…。 「淳二さん、大丈夫ですか?」 右隣、数メートルの至近距離をやっぱり十二神将に抱えられて飛んでいる広奈ちゃんが、心配そうに声をかけてくれた。 こんな上空で、風の音が激しい中でもよく通る。やっぱり綺麗な声。 「う〜ん、ちと寒いけど大丈夫。でもなんか懐かしいね、このルート。下に見えるのはこの前行った比叡山でしょ?」 「ええ、たったの二日前なんですよね、比叡山に行ったのも。ですが、本当に短い時間で色々なことがありすぎて、もっと昔の出来事みたいに思えますわね」 「確かに!」 そう、思い起こせば二日前の朝、やっぱりこんな風に十二神将に送ってもらって良源さんのいる延暦寺に行ったんだった。 そして、比叡連者の皆さんと模擬戦闘して、次の日は大江山を攻略。んで、今日は鞍馬山に攻め込むわけだ。 まったく忙しいったらないな。晴明さんも人使いが荒いぜ、まったく…。 まぁ、その分魔王を倒した後はオレたちが現代に戻るための算段をしてくれることになってるけどさ。 えーと、そう言えばハルはどうした? 左後ろに視線をやると…。
しかも、ここからでは風の音とかで聞き取れないけど、一人でなにかぶつぶつしゃべってるっぽいし。 「ねぇ、広奈ちゃん、ハルのやつどうしたの?」 不思議に思ったので、困ったときの広奈ちゃん頼み。 「ええと、おそらくは小十郎さんとなにかお話をしているようですが…」 なるほど。 オレは頷いて納得した旨を広奈ちゃんに伝える。 考えてみれば誰も不思議がらなかったけど、いつの間にかハルと小十郎は目と目で通じ合う仲(?)になっていたらしい。 なにか二人にしか分からない方法で、意思の伝達をしている姿をオレも何度か見せられてるしな。 「淳二さん」 「ん?」 ちょっとだけ広奈ちゃんの声が真剣だった。 「以前見たとき、鞍馬山は膨大な数の怨霊が黒いもやのように山を包んでいました。そして、それは徐々に一点に集まっていました。覚えていますか?」 そう言えば、広奈ちゃんは鞍馬山を見てそんなことを言っていた気がする。 オレが頷くと、 「今はもう鞍馬山に怨霊らしき影は見えません。おそらくは魔王の下に集まったのでしょう」 それはつまり、魔王がパワーアップしている可能性が高いってことか。 「でも、それをなんとかするために、晴明さんは馬鹿でかい結界を作ったんだろ?」 広奈ちゃんははっきりと頷かなかった。 そして、心なしか不安そうな表情でこう言った。 「ええ。そうであればわたくしたちも危険な目に遭わずにすむのでしょうけど…」
魔王との最終決戦に今まさに向かっている途中、春樹にとっては上空を飛ぶ恐怖や魔王との戦いへの恐れが頭の中を占めているかと思いきや、案外そうでもなかった。 高度500mで人知れず小十郎と会話をしていたのだった。 最初のうちは、魔王との戦いに挑む春樹を小十郎が励ますような会話が繰り広げられていたのだが、それが一段落すると、春樹はふと大事なことを思い出していた。 最終決戦に向かう高揚感がちょっと落ち着いたところで、ふと我に返ったというか…。 妙に律儀で、妙に頭の固いところがある春樹は、これまで献身的に春樹を助けてくれた小十郎に対しても、本当に魔王との戦いにまでつき合わせていいのだろうか、すごく危ないだろうし、などとこの期に及んで真剣に考え込んでしまったのである。 春樹の腰に吊るされた『九頭竜の剣』に巻きつく純白の夜刀神、小十郎。 平将門の式神との戦いの後、自分につき従ってくれた小さな従者。 その小十郎に対し、実は春樹はまだ他の誰にも言っていない秘密を共有していたのだった。 それは、竜宮での夜に交わした、ある約束のこと…。 (小十郎) 春樹のテレパスに従者が答える。 (はい、ご主人さま) (あの、今更こんなことを聞くのは心苦しいんだけど、でも…、やっぱりこのことははっきりさせておいたほうがいいと思って…) 純白の夜刀神が、思念の中で疑問符を投げかけてきた。 (どうしたんですか?) 春樹は、少し躊躇したが、でもはっきりと言った。 (本当に僕に付いてきてくれるの? 多分今日の戦いはこれまで以上に危ないと思う。もしかしたら大怪我したり、死んでしまうかもしれないよ?) だが、小十郎はある意味で予想通りの答えを返すのみである。 (そんな、もちろんですよ! ボクはご主人さまにずっと付いていきます。魔王が相手でも、たとえ八岐大蛇と戦えと言われたって、ボクは付いていきますから!) そんな小十郎の答えが、今の春樹には少し重い。 どこまでも献身的な小十郎。なのに自分は何も小十郎の望みをかなえてあげられそうにないから。 (ねぇ、小十郎?) (はい?) だから、春樹は思い切って告げることにした。 (僕は優柔不断で臆病で、だから今まで言えなかったけど…、僕はこの戦いが終わっても小十郎の望むように東国へは行けないと思う。僕は将門のような新皇にはなれないよ)
しかし、将門に殺されかけた恐怖が抜けない春樹は、一人傷ついた心を癒すべく竜宮温泉に浸かっていた。 そこに、突如人間の姿になって現れた小十郎は、当然ながら春樹をひどいパニックに陥らせた。 まぁ、春樹が狼狽した理由のほとんどは、小十郎が一糸纏わぬ素っ裸だったからなのだが。 言うなれば春樹にとっては貞操の危機(?) 文字通りの“伊達男危機一髪”である。 なんとか春樹と会話を試みたい小十郎と、なんとか逃げるか前を隠したい春樹。 深夜の竜宮での不毛な追いかけっこがしばらく続いた後で、最終的には小十郎に軍配が上がった。 小十郎は視線による感情操作の妖術を用いて春樹を落ち着かせると、自らの正体を明かし、半ば強制的にいくつかの話を打ち明けたのだった。 当然、両者裸のままで。 竜宮の温泉に浸かりつつ、二人正座で向かい合って。 傍から見たら、どんなに衝撃的で忘れられない光景なのだろう? 熱に浮かされたように、人外の美少女の話に耳を傾ける春樹。 小十郎の術は強力だった。 まず、春樹の動揺の源である羞恥心と言うものが一時的に消えた。 副作用(?)として将門に対する恐怖も消えていた。 それから、妙に冷静沈着になった。どこが妙かと言えば、目の前に人間離れした美少女が裸でいるのに、全然そういう気分にならないのである。 …詳しい解説は避ける。
そう切り出した小十郎の話。
剣の神子は九頭竜に対して『鎮めの祭祀』を執り行うことが出来るということ。 そして春樹が『九頭竜の剣』に選ばれた存在である以上、剣の神子である自分は春樹の従者として命ある限り付き従うということ。 それが自分の使命であり、存在意義のすべてであること。 「その剣を持つ限り、あなたさまはボクのご主人さまです。ボクはご主人さまの言いつけにはたとえどんな命令であろうとすべて従います。ご主人さまに危機が迫るときはボクは命を捨ててもご主人さまを守ります。どうかそのことを忘れないでください」 実際、小十郎はその誓いの通り、将門との戦いでも、大江山での激闘のときも春樹を命がけで守ったのである。 ただし、 「そ、そんなこと急に言われても…」 もちろん春樹にとって小十郎の語る絶対服従の誓いは明らかに荷が重かった。 いきなりご主人さまと呼ばれ、従者となると言われたところでむしろそこには困惑しかない。 なにせ、ペットを飼うのとはわけが違う。 こうして人間の姿になれると知った以上、春樹としては小十郎は一人の人間。一人の女の子である。 ということは、小十郎の申し出は、春樹にしてみれば、いきなりプロポーズされたに等しい。 突然現れた美少女が「一生つき従います。ずっと守ります」というわけだ。まさに押しかけ女房である。 どう考えても明らかに荷が重い。 ってか、限りなく人生の一大事である。 早くも配偶者決定? しかも人外? 春樹の脳裏に広奈の姿がよぎりまくったのは言うまでもない。
武田さんが僕のために笑ってくれたら、それだけで僕はなにもいらないのに…。 あ、でも待って。お付き合いはともかく、僕は武田さんと、けっ、結婚、…したいと本当に思っているのかな? あんなに素敵で、色々な才能があって、きっと世の中の色々な方面で凄い活躍をするであろう彼女と、なにも出来ない僕とが本当につりあうわけないよね…。 僕が武田さんを好きなのは、あくまで憧れの対象としてであって、本当に結婚相手として考えたことなんてなかったな…。 そっか、やっぱり恋人にしたい女性と、結婚したい女性は別、って言うくらいだし、理想と現実はこんなものなのかな。 あ、でも、小十郎って本当に、よく見ると信じられないくらい綺麗……。
ていうか、広奈と小十郎を天秤にかけてないか? そんな春爛漫な思春期クンの内心を読んだかどうかはわからないが、小十郎はさらにこんなことを言ってきた。 「あの、そんなに深刻に考えないでください。従者にしてくださるのが無理なら、ボクのことは馬とか犬とかぐらいに思って、そばに置いてくださるだけでいいんです」 さらに微妙なところである。 今度は家畜やペットレベルでの話になってきた。 そうなると、今度は春樹的、基本的人権(?)が黙ってはいない。 そう。つまりは主従とかではなく、あくまで対等な立場、対等な関係のほうが良いのに、と思ってしまうのが春樹流の思考なのである。 なにせ平成の世に生きてきた春樹には封建制と言う概念は、知識として知っていても実際には理解の範疇外なのだろう。 春樹の常識では人類皆平等である。さらに動物愛護の精神である。 1000年分のジェネレーションギャップ炸裂。ついでに種族間のギャップも炸裂。 異文化コミュニケーションって難しい…。 それに、いきなり従うと言われても、春樹の側から対価と言うべきなにも小十郎に与えていないのだ。 「えっと、小十郎。あんまりうまく言えないけど、僕は初めて小十郎と会った時、君が僕にだけ懐いてくれたのが本当に嬉しかったんだ。だから僕は友達が出来たみたいで、それでつい、ここまで一緒に連れてきてしまって。だけど、正直僕は君に対してそこまでの責任を持つことは怖いんだ。それに、僕はまだ君のことをあまりよく知らないし、それに君に対してなんにもしてあげられていないと思うし…」 さらに言い訳めいた言葉を続けようとした春樹だが、小十郎がそれをさえぎった。 「いえ、ご主人さまはボクに名前をつけてくださいました。ボクにはそれだけで十分です」 「そ、それだけで…?」 ただでさえ不幸続きで幼い頃に軽い人間不信だったこともある春樹である。 にわかに信じられないのも無理はない。 「それに、ご主人さまはボクの命を助けてくれました。あのとき平将門に踏み潰されたボクを治して下さったのはご主人さまです」 「えっ?」 ちなみに、春樹もまたその時は将門に斬られて瀕死の重傷を負い、気絶していたため、小十郎に言われてもまったく記憶になかったりする。 したがってさらに混乱した春樹は何とか妥協できる糸口を探そうとした。 挙句、 「じゃあ、主人とか従者とかそういうのじゃなくて“お友達”じゃだめかな…?」 と、実に春樹らしい提案をしたのであった。 まぁ、ある意味責任放棄と言うか、決断の後回しと言うか、問題の先送りと言うか。 便利な言葉だよ、“友達”って。
提案は0.5秒であっさり却下された。 「ご主人さまはご主人さまです。そんなのおそれ多いです。絶対にだめです」 結局そんな押し問答の挙句、春樹はようやく聞き出したのである。 「じゃあ、なにか小十郎に望みはないの? なにか僕がしてあげられることはないの?」 そこで、おずおずと口を開いた小十郎は、神話の続きとも言うべきこの国のもう一つの歴史を語り、もちろん春樹にとって実現不可能に近い、ある“お願い”をしていたのであった。 そこで聞いた内容は九頭竜の剣から流れ込んできた“思い”が春樹にもたらした知識とも合致した。 すなわち、それは神話の時代から続く“国つ神”と“まつろわぬ民”の物語…。 無論そのことは輪も、美亜子も、淳二も、そして広奈も知らない。
かつてそこは八百万の神と人間が共生する世界だった。 のちに“国つ神”と呼ばれることになる“土着のカミ”は各地の民に祀られ、民と民の間、国つ神と国つ神の間に争いはなく、皆が平和に暮らしていた。 だが、そんな時代にも異変が起こっていた。 後に大和朝廷と呼ばれ、この国を統一することになる“ヤマトの民”が徐々に力をつけていたのである。 彼らは鉄を作る技術と田畑を耕して糧を得るすべを持ち、国つ神を祀ることなく、人間が人間を支配する政治体制を布いた。 ヤマトの民は各地で“国つ神”を討伐し、あくまで人間が国を治めることを是とし、国つ神を“妖怪”、国つ神を信仰する民を“まつろわぬもの”と呼び、征服していったのだ。 彼らはたとえばスサノオの指揮のもと、出雲の国でヤマタノオロチを討伐したり、神武天皇の東征で葛城山の土蜘蛛を退治したり、ヤマトタケルを擁した東国征服の際には、芦ノ湖の九頭竜を封じるなど徐々に国つ神の力をそぎ、ゆっくりと時間をかけて勢力を広げていった。 飛騨の国の両面宿儺、宇和島の牛鬼、石見の濡れ女、摂津の鵺や土蜘蛛、赤城山の大ムカデ、そして常陸の夜刀神…。 これらの国つ神はヤマトの民との争いに敗れ、“カミ”としてのチカラと自らを祀る民を失ったのだった…。 まさに、神々の時代から、人間の歴史へと時代が移っていったのだ。 その中で、ヤマトの民と戦うのを良しとせず身を隠したり、逆に進んで味方した国つ神もいた。 たとえばそれは琵琶湖の底の竜宮に隠れた龍神であったり、善天狗と呼ばれる天狗の一派、ヤマトの民を導いた八咫烏など。 もちろんそれらは少数派であり、ほとんどの国つ神はヤマトの民の征服の影で、その力と祀る民を失ってひっそりと姿を消したり、鬼や天狗、魑魅魍魎の類へとその身をやつすことになる。
もちろん、魔王の力の源となったのは菅原道真、あるいは早良親王らの怨霊であるが、そこにまつろわぬものの怨念、妖怪として退治された“国つ神”の怨念も加わっている。 したがって、平将門や藤原純友ら魔王の力を借りることで反乱を起こした勢力に、妖怪軍団が力を貸していたことに何の不思議もないのである。 怨霊は朝廷を恨み、まつろわぬものはヤマトの民を恨む。 ヤマトの民=朝廷である以上、怨霊とまつろわぬもの、平将門と東国の国つ神の目的は一致しているのである。 すなわち、平将門、藤原純友の乱は、歴史上では朝廷への反乱であるが、神話上では彼らに力を貸したまつろわぬ民、そしてかつて征服された国つ神たちとヤマトの民の最後の戦いでもあったのだ。 そしてその中で、春樹たち5人は最後の抵抗を見せた国つ神たちを片っ端から討伐したことになるのだ。 春樹たちが関与したゆえ、その戦いは歴史には決して残らない。 小十郎が主とあがめる九頭竜ですら春樹の前に膝を屈した。 もともと平将門が魔王の力で九頭竜をよみがえらせたため、九頭竜の眷属たる夜刀神の一族も自動的に将門に従っていたのである。 ところがその九頭竜が春樹に倒されたことで夜刀神は迷った。 このまま将門に従うべきか、九頭竜の剣を手に入れた春樹に従うべきか…。 そして結局九頭竜の剣を手にした春樹に小十郎を差し出し、夜刀神の一族は一旦将門の陣営を抜け、中立の立場をとることにしたのである。
「ご主人さま、どうかボクたちを導いてください。ボクたちは人間との共生を願っています。将門はボクたちを戦力として利用したかっただけ。共生する気も多分なかったんです。だから、どうか将門を倒した後はご主人さまが将門に代わって東国を支配し、ボクたちと人間が昔のように仲良く暮らせる世の中にしてください」
自分が将門に代わって東国を支配する、なんてことはとても約束できないけど、でも将門の打倒は春樹にとっても絶対に成し遂げるべき目的となっていた。 だからこそ、将門を倒すことを交換条件として、春樹は小十郎と主従の契りを結ぶことにしたのである。 だが、結局将門は春樹たちではなく藤原秀郷と平貞盛らによって打倒され、春樹たちはその後東国に赴くことはなかった。 にもかかわらず、その後で続く戦いの中でも小十郎は春樹のそばを離れることはなかったし、忠実に春樹の身を守ってきた。 だが春樹はそんな小十郎に対し、ずっと回答を後回しにしたまま魔王との決戦まで時を過ごしてきたのである。 与えられるだけで、小十郎に恩を返すことはなにも出来ないまま…。
恐る恐る、だがきっぱりと小十郎の願いを断る形で、春樹はそう告げた。 小十郎から落胆の色は見えなかった。 (知っていました。ご主人さまはなによりもいくさがお嫌いなのを。ボクはずっとご主人さまが戦う姿を見てきました。そして分かったことがあるんです。決めたことがあるんです) それはなに? 聞いた春樹は、多分彼自身の人生において初めての言葉をもらうことになる。 多分彼の命がある限り、思い出に刻み込まれるような言葉。 小十郎はゆっくりと言葉を選びながら心をこめて大切に語った。 (ボクはご主人さまが好きです。優しいところも、強いところも、弱いところも、みんなのことを一番に考えていることも。だからボクはずっとおそばにいます。一族の使命とか、そんなんじゃなくて、ボク自身の気持ちです。ご主人さまの力になりたいです。お仕えして、尽くしてあげたいです) 春樹は身が打ち震えるような感動を抑え切れなかった。 ありのままの自分を真正面から肯定してくれて、好きと言ってくれる。 それを言葉にして伝えてくれる存在。
それは“ありがとう”という言葉だけでは足りないくらいの色々な気持ちが言わせた一言だった。 小十郎に対して抱いていた、後ろめたさのような気持ちは消えていた。 自分の存在そのものが、小十郎にとって生きる理由足りえる。 春樹は、いつの間にかそれだけの信頼を受けていたのだ。 ならば、共に戦える。 むしろ最後の戦いに連れて行かないことは小十郎に対し、その気持ちを踏みにじる行為、これ以上ない罰になるだろう。 こうして春樹と小十郎はその絆を確かめ合い、地上へと降り立つことになる。 それがどんな意味を持つのか、今の春樹はまだ知らない。
「おはようございます、乙姫さま。色々大変だったと思いますけど、朝ごはんの支度が出来ていますから、どうか召し上がってくださいですぅ」 いつもと変わらない人畜無害な微笑を浮かべ、そう出迎えてくれたのは一条摩訶那だった。 たとえ魔王との決戦が間近に迫った状況であろうとも、掃除洗濯、炊事にお客様のもてなしという自分の責務をきっちりこなす姿が眩しい。 「あ、ありがとうございます…」 そんな摩訶那の心遣いは少しだけ乙姫の心を慰めた。 と、乙姫はそこで、もう一人意外な人物の出迎えを受けることになる。 「あっ、晴明さん? 起きていたんですか?」 直衣姿の貴公子然とした安倍晴明がその整いすぎるくらいに整った顔で屋敷から出てくると、乙姫の問いかけにも無言で頷いた。 広奈や淳二から、晴明は朝早く屋敷に戻るとすぐに寝床に着いたと聞いていた乙姫は正直驚きを禁じえなかった。 と同時に、もう一つ希望を見出した。 そうだ、晴明さんがいるならすぐに輪さんの目を覚まさせてくれるに違いない! そんな乙姫の意を酌んだのか、晴明は若干眠そうな目を向けると十二神将にこう指示した。 「その二人を奥の部屋に運べ」 とたんに乙姫の顔がぱっと明るくなった。 だが、晴明は厳かに告げた。 「乙姫、私がいいと言うまで奥の部屋に入ってはならぬ。摩訶那と共に鞍馬の様子を見ていてくれ」 「えっ…?」 このとき、乙姫は奇妙な違和感を感じていたが、それを深刻にとらえることはなかった。
そして、まるで輪と美亜子がここに来ることを最初から知っていたような…。
なにより彼らが危機に陥ったら、すぐに助けに行く立場である。 ここは素直に晴明の言いつけに従うことにした。 すなわち、偵察用式神“小摩訶那”が送ってくる映像を摩訶那と共に見守る役目である。 そして、一条屋敷の奥の部屋、かつて広奈に対し陰陽師の知識を伝授する秘術が執り行われたその部屋に輪と美亜子が運ばれていくのを見送ることになる。 「輪さん…」 早く目を覚まして、そして魔王を倒したら一緒に平安京の見物に行きましょうね…。 約束がかなえられるように。 心からの祈りをこめて。
それが、この時代で輪を見た、最後だった。
当然過ぎるほど当然に、晴明は輪の身に起きるであろう藤原純友軍団との戦いや、その後の展開までもが“視えて”いた。 にもかかわらず、その未来予知に積極的に関与することはしなかった。 それはすべて、今このときのためである。 すなわち、
今この時間を確保するためにこそ、魔王討伐の口実で色々と動いて見せたのである。 夜のうちに結界を作り、早朝戻ってくることも、すべてこの時間のため。
安倍晴明にとって、そして日本の歴史においてもこの時間の有り無しで運命が大きく変わる。 卓越した予知能力により、晴明にはそこまで“視えて”いたのである。 つまり、輪と美亜子を、『陰陽武道士』と『式神武戦具』の呪術的メカニズムを解析することで、歴史を変えるほどの何かを晴明が得るということ。 それが何かは晴明にもまだ分からない。 身体能力を強化する真言、400年の星霜を重ねてきた鎧の付喪神としての戦闘力、律令に干渉し『五行妖術』を繰り出すための方法、それらを一つにまとめ、かつ生きた人間に対し、魂レベルで融合させる呪術。 余人はいざ知らず、安倍晴明の知を持ってすれば、すべてを解き明かすことは不可能ではなかった。 それに、『式神武戦具』は晴明の母である葛の葉姫が1千年の時を費やして到達した陰陽道の究極。 息子である晴明が、その技術の進化をトレースする。 “なにか”が起きないはずがなかった。 晴明が“なにも”見出せないはずはなかった。 誰にも知られないうちに、歴史が少しずつ変わっていく…。 歴史の流れの大きな分岐点にいながら、このときの輪は、なにも知らず、なにも出来ず。悲しいほど無力だった。
北の鞍馬山の山頂に“金”、西の貴船神社に“水”、東の龍脈に“土”、西南の神木に“木”の祭壇があり、東南に位置する由岐神社の“火”の五行で魔王を封じる五行相克の結界を形作っているのである。
その由岐神社の祭壇の前に、真田淳二、武田広奈、伊達春樹と小十郎が姿を見せたのは、2月16日の早朝であった。 安倍晴明が五行相克の結界を張ることを立案したのは、時間にすれば昨日の昼になる。 それからまだ24時間経っていないというのに、一夜にして状況は激変、戦力は激減していた。 まず藤原純友の軍勢を一人で食い止めた輪が戦線離脱、美亜子もまた輪の介抱で疲れきってしまい、淳二と広奈が示し合わせて強制的に休ませている。 さらに、晴明は自宅で休息中(ということになっている)、乙姫も晴明の一条屋敷で待機中である。 そんな状況であるので、晴明がいなくなったあとも引き続き祭壇を守っていた“比叡連者”の一人、幻惑の布武は若干の戸惑いを隠せないでいた。 「本当に、3人だけで魔王討伐に行かれるのですか?」 百戦錬磨の武人である布武だが、さすがに輪と美亜子の不在は大きな不安材料だった。 だが淳二も広奈も、そして春樹も決意は固い。 祭壇の守りと天秤にかけた布武は、自分も同行しようか、と申し出るのだが、広奈はきっぱりと断った。 「いえ、足手まといになります」と…。 だが、布武にもそれは薄々分かっていたこと。 むしろはっきり言われたことで、3人の決意のほどがしっかり伝わったらしい。 深々と頭を下げ、「よろしく頼みます」と一言だけ。 そんな布武に見送られつつ、3人は由岐神社から結界の中、九十九折の参道へと入っていった。 もっとも、結界と言っても実はまだ発動しておらず、特に中に入ってもなんら変化はない。 しいて言えば鞍馬山に踏み込んだ3人の緊張感が高まったくらいである。 淳二も春樹もそして広奈も、この期に及んで口数は多くなかった。 彼らの心の中で、最終決戦の幕はすでに開いていたのだから…。
湿った地面の匂いと、木漏れ日に照らされた風景は平穏そのもの。 これから魔王との最終決戦に挑むようにはとても思えない。 だが、どこから敵が現れるか分からない。 隊列の先頭を歩く淳二は油断なくあたりに気を配っているし、広奈は先ほどから式神である“ヲルスバン”を召還して、3人の前方上空を偵察飛行させ敵の姿を探らせていた。 ここに至っては春樹もサバゲーで培ったスキルを存分に発揮し、凄腕スナイパーらしく火縄銃を抱えて隙を見せずに進軍している。 さらに広奈様のすぐ上では晴明が3人に預けた偵察用式神である“小摩訶那”が蝶々のようにヒラヒラ舞っている。 だが、九十九折参道を抜け、鞍馬寺に到達しても、さらにそこから足場の悪い木の根道に足を踏み入れても、不気味なほどになにも起こらなかった。
淳二が嘆息し、一行の足が止まる。 地面にむき出しになった木の根が縦横無尽に走り、ひたすら歩きにくいポイントである。 気をつけて歩かないと、木の根っこに足を取られて転んでしまいそうだ。 と同時に、ここで襲撃されたらかなり戦いにくいだろう…。 特に整備された道などもなく、進軍スピードはどうしたって落ちそうである。 距離にすれば1キロほど続くこの道を前にして、 「…静かだね」 あたりを見渡していた春樹が、独り言のように呟く。 「これがサバゲーだったら、アンブッシュにうってつけの地形かな…」 「ほえ? 何だって?」 耳慣れない単語を呟いた春樹に淳二が聞き返すのだが、 「ここからは、僕が先頭を行くよ。二人は少し距離をおいて、ついてきてくれる?」 妙に自信ありげな春樹の発言に、淳二は黙った。ちょっと意表をつかれたわけで。 「春樹さんがそうおっしゃるなら、お任せします。気をつけてくださいね」 と、広奈様はあっさり春樹に先陣をゆだねるご様子。 「はい」 広奈様直属のナイトのように実直に答える春樹。 「え、えーと…」 間に立った淳二が、いまいちリアクションに困っているうちに、春樹はまるでサバゲーの試合でそうするように、身を低くし、隙のない構えで火縄銃を構えつつ、慎重に前進していく。 まさにスナイパー春樹、本気モードの警戒態勢だ。 なんとなく、立場がない淳二…。 春樹にいいところを持っていかれたようで、ちょっとだけ不満? なので、広奈様に静々と手を差し出した。 「広奈ちゃん、転ばないように気をつけて。お手をどうぞ」 エスコート役を買って出る作戦のようだ。 ついでに手を繋いで役得? 「いえ、戦場でそのようなお気遣いは無用ですわ」 …などと無下に断られるかと思いきや、広奈様は優雅に微笑まれるとしっかりと淳二の手を握り返した。 なんだか妙に堂に入った態度である。 来日したハリウッドのイケメン映画俳優にエスコートされる、どっかのゴージャス姉妹のようなオーラまで出ていたり。 これには淳二も内心大喜びである。 と同時に、春樹に思わせぶりに視線をやることも忘れない。 当然、これまでの経験上、広奈ちゃんとおてて繋いじゃった日には、春樹が困ったような羨ましがるような顔で、こっちを見るであろう事は想像に難くない。
「うん、転びやすいから、足元に気をつけてね」 と、平然とコメントを返すのみ。 あっさりと視線を前に向けて、進軍を再開した。 (なに? この扱い) むしろ淳二が拍子抜けである。淳二と手を繋いでいる広奈様を見ても、眉一つ動かさなかった。 いつものハルじゃねぇ…。 淳二が一瞬絶句するのを、広奈が見逃すはずもなく。 春樹をからかおうとした淳二の意図すら見抜いて、確信犯的に手を繋いだ広奈であったので、彼女自身も多少は驚いたのである。 と同時に、先ほどから感じていた違和感の正体に自らも得心がいった。 「…春樹さんに振られてしまったかしら」 思いがけない一言。 広奈ちゃんからこんな言葉が出るなんて珍しい。っていうか初めてじゃなかろうか? 淳二が目をぱちくりさせて広奈の顔を見返すと、 「冗談ですわ」 にっこりと微笑むお姫様の図。 なんだか、それを見ているとオレのほうがどきどきしてきたぞ…。 色恋沙汰からは超越していたように見える広奈ちゃんから、その手の話題が出てくるなんて。 握ったままの手といい、妙な雰囲気といい、木の根道の静けさといい、なんだかここが学校の体育館裏みたいになってきた。 ついでに今はラスボス戦前…。 しばし無言で手を繋いだまま木の根道を進んだ淳二だったが、思い切って聞いてみた。 …春樹には聞こえないような声で。 「あ、あのさ広奈ちゃん。参考までにぶっちゃけ聞いちゃうけど、オレらの中で誰が一番好きだったりするの??」 (うわっ、言っちゃったよオレ、聞いちゃったよオレ…) 魔王との決戦前のこんなときになんだが、淳二は今なし崩し的に青春のど真ん中にいます。
「正直にお答えしますと、恋愛の対象としてお三方を見たことはなかったかもしれません…」
なんとなく予想はついていたとは言え、こうもはっきりと言葉にされてしまうとショックは大きい。 まぁ、ハルも輪も同じく恋愛の対象外ってことで、多少は救われるけどさ…。
ふむふむ、広奈ちゃんもそれは気付いていたってわけか。 そして美亜子のライバルになって輪を奪い合うほどに、輪のことは好きじゃない、と言いたいわけね。 「春樹さんは、わたくしに対する好意と言うか、憧れの気持ちを持っていらっしゃることは感じていましたが、ここに来て春樹さんの中で気持ちに変化があったように見えます…」 「それが、さっきの振られちゃった発言?」 広奈ちゃんはそれに頷くと、 「一言で言えば、わたくしに対する“恋心”を感じられなくなってしまったので…」 それが本当だとすると、それはそれで驚きなのだが…。 「マジ?」 「わたくしの勘が正しければですが…」 なにやら状況が変わってきたぞ…。 「淳二さんは、わたくしよりも美亜子さんのことがお好きかと思っていましたけど」 ぐはっ…。 「…えーと、気付かれちゃってたわけ?」 「もちろんですわ。ですが、その気持ちももう…」 はー、すごいねぇ広奈ちゃん。占い師か恋愛悩み相談カウンセラー並みの洞察力じゃん。 だからオレも素直に白状することにした。 「まー、その、結局は美亜子ちゃんの気持ちが分かってしまった時点でね…」 やれやれ、ここまでぶっちゃけトークになるとはねぇ。 「ふふっ、それにしても、こんな状況でこんなお話をすることになるとは思いませんでしたわ」 なんだか愉快そうに広奈ちゃんがくすくすと笑い声をもらす。 「まったく、ここまでぶっちゃけてしまうとは…。オレもやぶへびだったかなぁ」 オレが自嘲気味に笑ってしまうと、広奈ちゃんは思いがけない言葉を繋いできた。 「人の縁って、不思議なものですね。お気づきですよね、淳二さん。結果として今、わたくしたちの間には大きな障害がないんですよ?」 「…ふぇ?」 思わず気の抜けた声が出てしまった。 まさか、まさか、広奈ちゃんからこんな話題を振ってくるなんて! そりゃ、輪と美亜子ちゃんがくっついて、春樹がなんか知らんが広奈ちゃんをあきらめて(?)いるんなら…。 オレと広奈ちゃんでカップル成立? 「…そんな可能性もあるってことですわ」 先走りすぎたオレの考えを察したのか、広奈ちゃんがやんわりと釘を刺す。 「あ、やっぱりそうだよね…」 木の根道、手を繋いだまま、オレたちの会話は続く。 「わたくし思うのですけど、恋愛って、本人同士に恋愛感情が生まれることがスタートになるのではなく、周りの環境や友人関係の変化が交際を始めるきっかけになることのほうが多いのではないでしょうか。現に、今わたくしの手を握っているのは淳二さんですし…」 「えーと、つまり…?」
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