〜大長編オリジナル日本史ファンタジー大河ドラマ小説〜

陰陽五行戦記

第一章 ◇平安編◇

第二十八話「千石万&比叡連者、大江山の死闘」



◇2月15日朝9時 大江山山麓◇


そこには完全武装の9人+1匹がいた。

伊達春樹と小十郎、真田淳二、本多美亜子、乙姫、そして豪腕の蛮那、蹴りの他圧、神速の施法、幻惑の布武、不倒の叛徒の“降魔戦隊比叡レンジャー”の合計9人+1匹である。

彼らに与えられた任務、それを説明する前にまず大江山にいる敵軍の戦力について解説しておこう。

丹波の国の大江山には酒呑童子という鬼を首領として、数百の鬼が集結していた。

彼らは山頂近くに『鉄の御所』と呼ばれる堅牢な砦を築き、そこを拠点として日夜悪事に勤しんでいる。

難攻不落の『鉄の御所』を攻め落とし、酒呑童子を討ち取るのが今回の任務である。

この任務の総責任者にして作戦立案者である、比叡山延暦寺の僧侶“良源”が取った作戦は以下の通り。

まず、比叡レンジャーと輪たち5人が大江山を正攻法で攻める。

そのまま鉄の御所を攻め落として酒呑童子を討ち取れれば問題ないが、いかんせん堅牢な砦である。

もし攻めあぐねている間に酒呑童子を取り逃がすことになったら元も子もない。

そこで、良源は独り、大江山の背後から直接鉄の御所に侵入し、酒呑童子を直接倒す、というシナリオである。

が、それを伝えられた広奈は、自分もついていくと強情に食い下がった。

陰陽師としての力があればこの潜入の成功率が上がる、だから連れて行け、と言い張って引かなかったのである。

結局良源が折れる形で広奈の同行が決定し、この二人だけにするのはいろいろな意味で危ない、という危機感を持った輪が、「神刀“毘沙門天”があれば酒呑童子を確実に倒せる。俺も同行する」と主張した。

そんなわけで、輪、広奈、良源の3人が潜入部隊。

それ以外の9人+1匹がいわば陽動作戦として大江山を正面から攻める、ということになったのである。

ちなみに乙姫はやっぱりというか、輪について行きたがったのだが、砦を攻めるときに乙姫の力が必要になる、との輪の説得にしぶしぶ同行を諦めていた。

さて、ここで困ったのが陽動部隊の指揮官の人事である。

日ごろリーダーシップを発揮する輪と広奈が抜けてしまったため、あとに残ったのは「猪突猛進暴走蜻蛉切娘」と「お気楽極楽アホ大将」そして「歩く不幸」となってしまった。

ちなみに比叡レンジャーはあの練習試合のあとで輪たち全員が変身して、その実力をデモンストレーションした結果、完全に意気消沈し、素直にその指揮下に入ると宣言している。

そんなわけで、この三人の中の誰かに決めなくてはならなかった。

そして輪と広奈が協議の結果、まだ常識的な判断をしてくれそうだ、という理由から晴れて伊達春樹が指揮官の役目をおおせつかっていた。

とりあえず、淳二と美亜子に異論はない。

美亜子の場合は「お前が指揮官になってもどうせ先頭きって猪突するだけだからな。部下が誰もついてこれない」という輪の一言に納得したためであり、淳二は美亜子ちゃんを制御できる自信がない、と始めから引いていたのである。

そんな経緯で作戦も決まり、昨日は比叡山を降りててくてく歩き、嵐山のあたりの小さな寺で一泊。

そして早朝、別働隊の3人が早々と出発した後に、陽動部隊も出撃。現在9人+1匹が大江山の山麓に来ていたのであった。

早速みんなを集めて春樹が作戦を伝える。

「じゃあ、えっと、これから大江山に登ります。作戦なんですが、とりあえずなるべく見つからないようにこっそりと行きましょう。それで、僕と本多さんが少し先行して偵察し、他の皆さんはそのあとをついてくる、という形にしたいんですけど…」

「美亜子ちゃんとハルが?」

「はい。多分この中で一番敵を先に見つけられるのが本多さんだと思うんです」

「そうね」

「確かに、美亜子ちゃんってニュータイプだし」

二人が賛同する。

「だから、本多さんに敵を見つけてもらって、僕が射撃して倒す。そうやって見張りに気付かれないように鉄の御所に近づく、そういう狙いです」

「へぇ、やる気出してるわねぇ」

と美亜子。

「なんか、ハルが頼もしく見えてきたぞ」

もしかしてハルのヤツってある程度責任ある立場に追い込まれると本領を発揮するタイプかも、と淳二は思う。

そして、それを裏付けるように春樹が説明を続けた。

「僕たちは一応陽動部隊ですけど、でも出来れば相手がしっかり守りを固める前に、その鉄の御所を攻めたいと思います。そのためにも隠密行動で行きたいと思います。よろしくお願いします」

「委細承知した。すべて指揮官殿にお任せいたす。我々は鉄の御所を攻める時まで体力を温存しておくとしよう」

比叡レンジャーを代表して、布武がそう応じた。

こうして、陽動部隊は美亜子を先頭に大江山へと一歩を踏み出していった。


◇2月15日9時 潜入部隊◇


輪、広奈、良源の3人はその頃まだ大江山へは到着していない。

敵に見つからないように、念のため大きく大江山を迂回している途中だった。

陽動部隊が嵐山からまっすぐに大江山へと向かったのに対し、潜入部隊はいったん愛宕山の山麓を通って大江山の北側を抜け、丹波の国、今の兵庫県へと入り、陽動部隊とはまったく正反対から大江山を登るという作戦である。

時間的な制限があるため潜入部隊はかなりの強行軍で山道を進んでいた。

先頭を行く良源は一切後ろを振り向かず、黙々と早歩き。

やがて広奈が遅れ始めた。

無理もない。歩きにくい袿(うちき)姿のままであるし、もともと広奈は体力的にも普通の女の子である。

美亜子のような化け物(失礼)と違い、今回のような強行軍には無理があった。

それでも必死で歩き、足のまめが潰れたら陰陽道で治療しなんとかついてきたのである。

だが、そろそろ溜まってきた疲労も限界だった。

思うように足が動かない。

やがて広奈の視界から良源の姿が消えてしまった。

張り詰めていた気が緩んでしまったのか、それがきっかけになり、広奈は一歩も進めなくなってしまった。

「…大丈夫か」

輪が駆け寄ってくる。

「ごめんなさい。ちょっと疲れてしまいました…」

そう言って広奈は目を伏せた。

その姿、薄幸の佳人度200%である。

美少女がせつなげに俯いていたら、やっぱり手を差し伸べてしまうのが男の宿命である。

で、輪もその例外ではない。

広奈に背を向けてしゃがんだ。

「輪さん?」

「早く。体力が回復するまでおぶってやるから」

日ごろから鍛えているので輪はまだまだ元気だった。

「すいません…」

そして広奈は素直に輪の背中に身体を預けた。

「しっかり掴まっていてくれ」

すっくと立ち上がった輪は、良源の姿を追って急いで歩き始めた。

「つらくないか?」

輪は広奈の足のことを聞いたつもりだったが、広奈は輪が予想だにしていなかった返答をした。

「人を好きになるって、こんなに苦しいことだと思いませんでした…」

「(なっ…)」

輪が言葉に詰まる。

「初めてだったんです、わたくし…。でも、いけませんよね、良源様はこの時代の方ですし、それに僧侶ですから…」

確かに広奈の言うとおりだ、と輪は思う。

相手は1000年前の人間で、しかも女色を固く戒めている比叡山の僧侶だ。

広奈の恋は成就するはずもない。

だが、それが何だというのだろう。人を好きになることは理屈ではないのだ。

それが分かっても、それが分かっているからこそ、輪はこう言った。

「そうだな、諦めたほうがいい。それが賢明だ。…今ならまだ傷は浅くて済む」

広奈は賢い娘だ、多分そんなことは分かっているのだろう。

だが、それでも抑えきれない思いが広奈をこんな行動に駆り立てたのだ。

「ごめんなさい。わたくしのわがままのせいで、輪さんにも迷惑をかけてしまって…」

「いいさ、武田は…、良源の役に立ちたかったのだろう?」

朴念仁の輪にしては珍しく、広奈の気持ちを汲み取っている。

「うまく言えないが、好きになった相手のために何かしてやりたい、役に立ちたいと思うのは、その、自然なことだと思う。だから気にするな」

「輪さん…」

ぴと。

密着度が上がったことを輪の背中が感じ取っていた。

どきどきどきどき。

心拍数が上がっているのは広奈を背負って早歩きしているせいだけではない。

「と、とにかく急いで追いつこう」

それ以上何も言えず、輪は黙々と足を速めた。

しばらく歩いていると前方に良源の姿が見えてきた。

どうやら二人が来るのを待っていたらしかったが、こちらの姿を認めると「大丈夫か?」とも「遅いぞ」とも言わず、無言のまま再び歩き出した。

多分それが良源のメッセージなのだろう。

結局大江山の裏手に到着するまで良源は広奈と輪から一定の距離を保ったまま、独りで歩き続けた。


◇2月15日9時30分 大江山山中◇


確かに美亜子の索敵能力はずば抜けていた。

遥か100mは先にいる鬼、おそらくは見張りか、巡回をしていると思しきその鬼の気配を感じ取っているのである。

もちろん視覚では捉えられない。

うっそうとした山中の林である。

だが、春樹は美亜子の報告を信じることにした。

手で合図してあとに続く淳二、乙姫、そして比叡レンジャーをいったんストップさせ、美亜子と二人でその気配のするほうへと慎重に進んでいく。

木々の陰に隠れつつ、身を低くしてゆっくりと…。

もちろん変身済みなので、火縄銃を抱えつつの行動である。

その姿、まるでゲリラ戦を展開する特殊部隊のような春樹の振る舞いが、妙に堂に入っているのだ。

銃の持ち方、身の隠し方、足音を立てない歩き方。

なんでだろ? と思うが美亜子には分からなかった。

一方の春樹も慎重に行動しつつ、内心ではどこか高揚感を感じている自分を不思議な感慨で眺めている。

このシチュエーション、実は何度も経験済みであった。

友達には秘密にしていたが、春樹はエアガンの収集が趣味である。

だが、実はそれだけではないのだ。

春樹と同じ下宿、ひとつ年上の先輩である片倉真理の趣味はサバイバルゲームだった。

つまり、エアガンを使っての擬似戦闘ゲームである。

1年生のとき、真理にほとんど無理やり誘われ、借り物のエアーコッキングライフル片手にゲームに参加した春樹は、いきなり撃墜王となって真理を大いに驚かせた。

単に撃たれるのが怖いからこっそり隠れつつ狙撃していただけだったのだが…。

「お前最高にセンスいいよ!!」

あのときの真理の喜び方を春樹は今でもはっきり覚えている。

なんのとりえもない、平凡な人間だと思っていた自分があんなふうに人から褒められたのは初めてだった。

それがたとえ春樹が毛嫌いする“戦争”ごっこであっても…。

『これはゲームだから』と、そう思えばよかった。

丈夫な迷彩服を着て、顔全体を覆うゴーグル。

使う弾は土に還元するバイオBB弾だから自然を汚す心配はない。

至近距離から撃たれなければ、当たってもまず怪我をすることもない。

お互いにルールの取り決めがあり、あくまでレジャーとして“戦争”するのだ。

たとえ腕っ節が弱くても、あるいは真理のような女の子でもこのゲームでは不利にはならない。

春樹だって男の子だ。

強くなりたいという願望がある。

だが、だからといって格闘技をやりたいとは思えなかった春樹にとってこのゲーム、いやサバイバルゲームというスポーツは“強い自分”になれる唯一の時間だったのだ。

ある種の逃避でしかないかもしれない。

だが、それがために春樹は夢中になっていた。

お金がなく連射可能な電動ガンを買えなかった春樹は必然的に[エアーコッキング]、つまりスライドまたはレバーを手で引いてピストンを後退させ、BB弾を一発ずつ発射する方式の値段の安いライフルを購入した。 だが、春樹はそんな装備でも高価な電動ガンを持った敵を相手にほとんど負け無しだった。

連射ができないということは一撃必殺で敵を倒す必要がある。

そのために敵に気付かれずにストーキングつまり「隠密接敵」し、スナイパーよろしく離れた場所から狙撃するのだ。

こうして春樹は武器の不利を技術と戦術で補うことを覚えていく。

やがて春樹は、一念発起した。

ためたお金で買ったのは連射可能な電動ガンではなく、ほぼ同じ値段だった[エアーコッキング]方式の高精度なスナイパーライフルだった。

春樹はあくまで命中精度にこだわったのであった。

以後春樹のメインウェポンはマルゼンのAPS-2 スナイパーバージョンというモデルとなり、これを手にした春樹はまさに水を得た魚だった。

さらにエアーハンドガン「ベレッタM92F ミリタリーモデル」をサイドアーム、つまり「予備の武器」として携帯するのが春樹のスタイルとなった。

接近戦では西部劇よろしく抜き撃ちでハンドガンを使うのだ。

ともあれ春樹にサイドアームを抜かせるほどの相手はいなかった。

それほどまでに春樹の射撃の技量は群を抜いていた。

やがて春樹は真理と二人で『FANG GUNNERS』というチーム名を名乗り、大きなイベントなどにも参加し、かなりの好成績を収めるなどしたが、当然そのことは友達には秘密だった。

そしてそんな自分を戒めるために、春樹はますます、意図的に“本物の”戦争を嫌った。

人を殺すこと、傷つけることを嫌悪した。

そうやってバランスを取ってきたのだ。

だからこそ、これまでは戦いの前に無意識のうちに足が震え、思うように動けないでいた。

誰かを傷つけることが最大級のタブーだったからこそ、戦闘に恐怖していた。

だが、今、春樹は本当の殺傷能力を持つ武器を手にし、“自発的に”相手を殺すために行動している。

これは擬似戦闘ゲームではなく、本物の戦闘だった。

それでも、春樹はその負け無しを誇った狙撃の技術を実戦においても活用していた。


「…戦争は、いけないことだよ」

不意に春樹の脳裏に、いつかの明智瑠華との会話がよみがえってきた。

「戦争は良くないよ。人が、たくさん死ぬから」

「だから僕は昔の人みたいに戦えない。…人を殺せない。絶対に」


(僕は…、嘘つきだ)

春樹の心の中に、罪の意識が大きくのしかかる。

だが、そんな内心とは裏腹に春樹の目は冷静に鬼を、こちらにまだ気付いていない凶悪な姿をした“敵”の姿を捉えていた。

(僕は…、強くなりたかった)

そして静かに火縄銃を構える。

(僕は…、みんなを守れるようになりたかった)

冷静に狙いをつける。

(みんなを守るために、敵を殺さなければいけないなら…)

引き金に手をやる。

(僕は…)

ゆっくりと人差し指に力を入れる。

(僕は…、それを…)

青く輝く闘気が銃口に集まる。

(恐れたりしない!)

かちっ。

引き金を引くと同時に銃口から蒼い軌跡を描いて弾丸が飛んだ。

最期の瞬間、自分の身に何が起きたのか認識できたとは思えない。

その鬼は音もなく崩れ落ち、やがてその身体は消滅していった。

なんだかんだいっても春樹の射撃の腕前のすごさは、実のところこれまでの戦いの中でも文句なしの実績を誇っている。

ゲームでは百発百中を誇った腕前は、実戦でもいささかの違いもなく発揮されているのだ。

そしてこれまでの戦いでは実戦ゆえの恐怖から足がすくんで動けないことに悩まされてきたが、徐々にそれが解消しつつあった。

段々本来の、つまりゲームのときと同等の実力が発揮できるようになっていたのだった。

(慣れていくのかな、こうして…)

かすかに心が痛む。

(ごめんなさい、明智さん。僕は…、やっぱり嘘つきです)

「…お見事」

そんな春樹の思考に割り込んでくるように、背後から声がかけられた。

振り返ると美亜子の笑顔があった。

「もし外したらあたしが突入するつもりで構えてたけど、必要なかったわね」

「…うん、ありがとう」

気負うでもなく、引け目を感じることもなく、ごく自然に春樹は礼を言った。

美亜子はこくりと頷くと、笑顔のまま春樹にこう言った。

「次もその調子で頼むわね。頼りにしてるわよ。隊長さん♪」

「えっ」

その言葉に、春樹は身震いするような感動を覚えた。

初めて美亜子が自分を対等に見てくれた、そんな気がしたのだ。

「頑張るよ」

春樹は心からそう言った。

(良かったですね。今のご主人さま、とっても素敵です)

春樹の心に、小十郎のテレパスが響いた。

(小十郎…。ありがとう)

少しずつ、春樹は変わっていた。

少しずつ、実戦に、“敵”を殺すことに慣れていく。

少しずつ、春樹の心の中に棲む“独眼竜”が目覚めつつあった。

人は、誰でも環境の変化に応じて変わっていく。

春樹にとってもそれは同じ。

それが良いことなのか、あるいは悪いことなのか、まだ、誰も知らない…。


◇2月15日10時 大江山山中◇


こうして、すでに2回、美亜子は相手に先んじて鬼を発見し、気付かれないように接近した春樹の射撃で倒してしまうことに成功していた。

だが、3度目に美亜子が感じ取った気配は二匹の鬼の存在であった。

一匹だけならば春樹の射撃で何とかできるが、二匹まとめて一瞬で倒すのは難しい。

さらに春樹を悩ませたのが美亜子の一言だった。

「ハル、多分だけどこの先にいる二匹、かなり強いわよ」

「う〜ん、じゃあ、真田君を呼んで僕たち3人で行こう。いっせいに襲いかかれば何とかなるんじゃないかな」

「そうね」

美亜子は頷くと、後ろで待機していた7人を手招きした。

そして全員が集結し、作戦を説明しようとしたところで、美亜子が異変を感じ取った。

「ん! 隠れて。こっちに来るわ」

「えっ、えっ?」

狼狽する乙姫を淳二が抱き上げて慌てて隠れる。

美亜子と春樹も同じ木の陰に、そして比叡レンジャーも思い思いに身を隠した。

息を殺してそのときを待つ。

やがてヒグマほどの巨体を揺すりつつ、黒い筋肉の塊が二つ、山道を降りてきた。

「腹が減ったなぁ、暴武」

「また比叡の坊主でも食いに行くか、殺風」

「そうだな。あれは絶品だったからなぁ。脂肪の少ない肉はうまい」

「「ぐはははははは、はははははははは、はーっはっはっはぁ」」

その巨体に相応しい、どすの利いた低い声。

「「「「「(この声は!)」」」」」

比叡レンジャーの五人がそろって反応する。

そしてこっそりとその姿をのぞき見た。

黒い体、らんらんと輝く目、二本の捻じ曲がった角、突き出た牙、そして盛り上がる筋肉。

「「「「「(間違いない)」」」」」

確信した。

かつて何人もの仲間がこの巨大筋肉だるま×2に殺され、食われていたのだ。

“完璧の奉須”も“喧嘩屋浴泥”も、こいつらのせいで…。

五人の中で理性がはじけ飛んだ。

敵討ちの機会を目の前にして、おめおめ隠れているなど“漢”じゃねぇ!

真っ先に飛び出したのは蛮那だった。

ほぼ同時に他の4人も。

「暴武ッ! 殺風ッ! てめぇらに殺された仲間の恨み、俺様が思い知らせてやるッ!」

仁王立ちした蛮那が斬馬刀の切っ先を突きつけた。

「此処で遭ったが百年目…」

蝶剣を抜き放ち、布武が構える。

「奉須と浴泥の仇」

他圧がゆっくりと間合いを詰める。

「地獄へ送ってやるぜ」

三節棍を構え、施法が獰猛な笑みを浮かべる。

「…倒す」

叛徒も怒りに燃えていた。

(な、なんだか分からんが、やる気満々だぜ、あいつら)

戦況を見守る淳二。

その横では心配そうな乙姫。

一方、春樹は飛び出そうとした美亜子を必死で止めていた。

「ちょっと待ってください。もう少し様子を…」

「ああ、もう、邪魔しないでよ」

そこに暴武と殺風の重低音ボイスが割り込んできた。

「何者だ、うぬら」

「どこぞの僧兵か?」

施法が応える。

「我らは良源様直属、比叡山延暦寺が誇る秘密降魔部隊!」

斬馬刀を振り上げ蛮那がまず名乗り出る。

「豪腕の蛮那!」

左右のパンチからハイキックを見せ、他圧が続く。

「蹴りの他圧!」

三節棍をものすごい速さでまわしてから施法が叫ぶ。

「神速の施法!」

布武が蝶剣を両腕に持ち、ひゅんひゅん振ってから突如かかと落しを見せる。

「幻惑の布武!」

手に持った鉄杖をドンと地面に刺し、威風堂々叛徒が最後に名乗った。

「不倒の叛徒!」

そして。

「「「「「五人そろって、降魔戦隊・比叡連者!!!!」」」」」

なぜか息もぴったりだった。

(おおーっ)

淳二が心の中で大拍手を送る。

が、当の暴武と殺風はあっけにとられ、やがて哄笑を轟かせた。

「がっはっはっは」

「めしが向こうから来おったか」

ぐるりと5人を睥睨し、余裕綽々、筋肉だるまが拳を構えた。

それが戦闘開始の合図だった。

「ぐははははははは」

「がっはっはっはっは」

哄笑を轟かせつつ、暴武は施法に、殺風は布武に突進していった。

「ふんがぁぁっ!!」

丸太のような腕が施法に迫る。

じゃきっと三節棍を構え、施法はその鎖の部分で拳を受け止めた。

が、はっきり言って暴武のパワーは桁外れだった。

ガードした格好のまま、体重111キロの施法が3mは吹っ飛んだ。

「がふっ」

そのまま木に叩き付けられ、施法は崩れ落ちた。

(なんてパワーだ)

あっけに取られたのはその様子を見ていた淳二だけではない、その場にいる全員が驚愕している。

そして殺風も布武にラッシュ。

豪腕がうなりをあげて布武に襲い掛かる。

比叡レンジャー随一のガードテクニックを誇る布武ですら、その突進を防ぐ術はなかった。

そのパワーの前には技術は意味を失う。

あっという間に間合いを詰められ、ガードした腕は弾き飛ばされる。

そして胸元を掴まれた。

殺風は軽々と布武を持ち上げると、背後に迫っていた他圧に投げつけた。

「ぬぅあぁぁっ!!」

まるでぬいぐるみか何かのように布武の身体が宙を舞い、したたかに他圧と激突。

二人して山道を転がり落ちていく。

これで残るは叛徒と蛮那のみ。

(こいつはいけねぇ)

淳二が飛び出した。

が、蛮那がその淳二を一喝。

「手出し無用だっ! 俺達が倒す」

「えっ?」

慌てて淳二がストップ。

「そうだ、黙って見てやがれ」

止まった淳二を見て、蛮那が目で頷いた。

と、それが隙になった。

暴武がすかさず突進し、斬馬刀を振るう間もなく、蛮那までもが吹き飛ばされてしまう。

「言わんこっちゃない」

淳二の見たところ、あの黒鬼はホントに強い。

下手すると将門の式神レベルである。

いくら彼らが強くても生身の人間に勝てる相手ではない。

もはや立っているのは叛徒一人。

悪いけど、助太刀させてもらうぜ。

淳二が殺風めがけて炎を打ち出そうとした瞬間、何かがあたりの空気を切り裂いた。

そして…、

スパコーーーン!!

「な、何ゆえ〜」

「邪魔するんじゃないわ。あいつら、まだ死んでない」

美亜子だった。

その背後には心配そうな顔で比叡レンジャーを見つめる春樹。

しかし、美亜子は左手で春樹の火縄銃の銃身をしっかり掴んでいた。

どうやら春樹と美亜子の関係がいつの間にか逆転していたらしい。

今度は美亜子が春樹を止めている。

「なんと、まだいたのか」

「丁度いい、まとめて器に乗るがいい。残らず食ってやる」

「「はーっはっはっはっは」」

「むか」

美亜子の表情が変わる。

だが、そこに叛徒の声が飛ぶ。

「手を出すな」

こんな状況になっても、まだ比叡レンジャーはあきらめてはいなかった。

その証拠に、ゆっくりと施法が、布武が、起き上がってくるではないか。

あきらめずに立ち上がる仲間たちを誇らしげに見やり、叛徒は目の前の暴武にこう言い放った。

「…汝は知るだろう、我ら天台密教僧の真の力を、御仏の加護を」

どん、と叛徒が鉄杖を地面に突き刺した。

そして、よく通る声で叫ぶ。

「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前!」

九字の真言を唱えつつその手がすばやく印を作り、最後に被甲護身の印を結ぶ。

「来い。不倒の叛徒、決して悪しき力には膝を折るまい」

「ひ弱な人間がっ」

暴力的に顔をゆがませ、暴武が叛徒に向かう。

そして岩のような拳を力任せに叛徒に叩きつける。

一発、二発、三発…。

だが、叛徒はまったく揺らがない。

ノーガードで暴武のパンチを真っ向から受け、逆に重さ5キロはあろうかという鉄杖を何度も暴武に叩きつける。

ごすっ、がすっ、どすっ、ばきっ。

痛そうな音が何発も響き渡る。

だが、両者ともまったく引こうとはしない。

見かねた殺風が助太刀しようとするが、その前にいつの間にか復活していた布武と施法が立ちはだかる。

二人ともその口は真言を唱え続けていた。

「自分で念仏を唱えるか」

殺風、二人に向かって突進。

だが、さっきとは勝手が違った。

「速いっ」

見ていた淳二が舌を巻く。

布武も施法も一瞬で身をかわしていた。

しかも、離れ際に三節棍で一撃、布武は蝶剣で二撃、きっちりお見舞いしている。

「ぐおっ」

スピードが、テクニックがパワーを上回った瞬間であった。

昨日の試合のときとは比較にならない。

もはや殺風は二人に指一本触れることが出来なかった。

前後左右、自在に動き回り、つかず離れずの距離からトリッキーな攻撃が殺風を代わる代わる襲う。

「舞梅乱仏苦っ!」

施法が高らかに叫ぶと、殺風の目の前で大きくジャンプ。

「なにっ!?」

とっさにそのスピードについていけない殺風。

その頭上に、上空から振り下ろされた三節棍が襲う。

ごちっ!

もろに直撃。

思わず目から火花を出してよろめく殺風。

施法は容赦なく次の攻撃を繰り出した。

着地と同時に体を回転させ、裏拳のような格好で、三節棍を繰り出した。

その動きに惑わされ、殺風はなすすべもなく二撃目もまともに喰らった。

「がはっ」

形勢は完全に逆転した。

「喝ーーっ!!」

布武が気合いを叩きつけると、その迫力に一瞬殺風の動きが止まる。

その隙に布武の右足が高く上がり、そのままかかと落しを繰り出す。

先ほど三節棍を喰らったのと同じ場所に今度はかかと落しが直撃。

二人の連続攻撃に、殺風もKO寸前。

そして静かに真言を唱えつつ、ゆっくりと他圧が殺風の背後に回っていた…。

一方の暴武も叛徒の恐るべきタフネスさに押され気味であった。

すでに殴り疲れ、というべき状態で、息が上がっている。

さらに、執拗に左脇腹を鉄杖で殴られ続けたため左のパンチが威力を失っていた。

「なんで、倒れねぇんだ…」

息も絶え絶えに右拳を振り上げた瞬間、いきなり叛徒が横に飛びずさった。

「…??」

思わずその姿を目で追いかける暴武。

それが生死を分けた。

「往生しやがれっっっっ!!!!!!!!」

最期の瞬間。

暴武の目が捉えたのは真っ向から振り下ろされる蛮那の斬馬刀だった。

一撃必殺。

とっさにガードした暴武の右腕を斬り飛ばし、脳天から胸の辺りまで斬馬刀が暴武の身体に喰い込んだ。

致命傷。即死である。

暴武の身体はゆっくりと崩壊し、やがて消えていった。

「仇はとったぜ」

そう言うと蛮那は布武と施法の助太刀に向かおうとした。

だが、その必要はないように見えた。

すでに殺風は全身血まみれだった。

だが、恐るべきタフさでその動きを止めない。

「くそっ、こいつらちょろちょろと」

なおも拳を振るい続ける殺風の背後に長身の影。

「…おい」

殺風が振り返ると他圧の姿。

下唇を突き出し、不敵に笑っている。

今戦っているすばしっこい二人の前に、まずはこいつから血祭りにあげてやる。

すかさずターゲットを変更。殺風が突進する。

向かってくる殺風に、他圧は渾身の力でローキックを放つ。

「ほあぁぁぁっ!!!」

バシーーーン!!!

いい音が響いた。

がくっ、とたった一発で殺風のヒザが崩れる。

「ローキック一発であの突進を止めやがった…」

信じられないものを見たような顔で、淳二が呟く。

そして他圧はひるむ殺風の顔面めがけ、怒りの左ストレート。

「ぐえっ」

殺風の牙が折れ飛んだ。

「あたぁぁぁぁぁっ!!!!」

とどめは必殺の右ハイキック。

殺風は両目が飛び出すほどの衝撃をその側頭部にたたきつけられ、白目を剥いて倒れた。

ずぅぅぅぅん。

「俺の上段回し蹴りは、無敵だっ!」

他圧の誇らしげな勝ちどきの声。

「すっげぇ…」

淳二が目をみはる。

明らかに自分と戦ったときの数倍の威力だった。

そして…

「くぅぅぅぅッ、よくやったぁっ!!!」

美亜子も興奮していた。

手近にあった春樹の肩をべしべし叩いて喜びをあらわにする。

「あうあう…」

容赦ない攻撃(?)に春樹が顔をしかめるが、美亜子はお構い無しだった。

「やった、やった〜」

乙姫がぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しさを爆発させている。

心配して見ていた分、勝利の喜びも倍増という感じ。

「勝ったな…」

「ああ」

布武と施法ががっしり握手。

「大丈夫か? よく堪えたな」

蛮那がすでにぼろぼろの叛徒の肩を抱いてねぎらう。

「なんの、かすり傷さ」

にやりと叛徒が笑う。

「奉須、浴泥、見てるか? 仇はとったぞ」

実は人一倍感激屋の他圧、言いながら目が潤んでいた。

今は亡き友の姿が脳裏に浮かんでいたのだろう。

「さ、隊長さん」

美亜子が春樹を促し、5人の傍まで移動する。

乙姫と淳二も近づき、倒れたままの殺風を取り囲むような格好。

「で、こいつをどうするの? 隊長さん。とどめさしていい?」

「えっ? あ、う〜ん…」

春樹の悪い癖が出た。

こんなのに情をかけてどうするんだ、と周りのみんなが思ったが、春樹はためらった。

それが、最悪の結果を呼ぶ。

突如、殺風の目がぱちっと開くと、その口から絶叫が迸った。

「敵襲〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

「くっ」

とっさに美亜子が蜻蛉切を一閃。

殺風はあっさり消滅。

しかし、

「敵襲〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

「敵襲〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

「敵襲〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」

その声はたっぷり三度は木霊してあたりの山々に響き渡ってしまった。

「…やばいな」

「…まずいわね」

淳二と美亜子が顔を見合わせる。

「「「「「……………」」」」」

五人も押し黙る。

勝利の喜びもつかの間、とんでもない大失態をやらかしてしまった。

「……す、すいません」

意気消沈。力なく春樹が詫びるがもう遅い。


やがて、大江山山頂、鉄の御所から一本の狼煙(のろし)が上がった。

それは、春樹たち陽動部隊や、すでに登山中だった輪たち別働隊には見えなかったが、はるか北方、鞍馬山からはよく見えていた…。


果たして彼らの運命は?

次回を待て!!



あとがき春樹


ども、本日生誕25周年を迎えた作者です。(ぱちぱちぱち)

偶然にも広奈も同じ誕生日ですが、いつまでたっても彼女は16歳のままです。

なぜなら広奈様だからです(謎)

さて、最近巷をにぎわせている春樹主役説がこのお話でかなり信憑性を帯びてしまいました(笑)

いつの間にか設定が増えてるし、なにやらリーダーになっちゃったし、そして相変わらずの不幸っぷり(笑)

おーい、輪君、頑張らないと本気で主役の座が危ないよぉ〜。

というわけで、このお話とつじつまを合わせるために、春樹のキャラクターシートや設定資料をちょこっと改変しました。

…こうしてどんどん裏主役の座が固まっていくのですね(笑)

では、これからも春樹の成長を温かく見守ってくださいませ。

それと、現在執筆中のセンゴクマンの新作のヒントがこのお話にあります。

どうぞご存分に想像してお待ちくださいませ。


2002年10月28日、誕生日の夜に。


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