陰陽五行戦記
第一章 ◇平安編◇
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と言うのも、“比叡レンジャー”は対戦相手をまったく指名しなかったからである。 「こちらは誰もおなごと戦いたくないからな。誰と戦うかはそちらで決めてくれていい」 要するに美亜子、広奈と戦いたがる人間がいないので、向こうで対戦相手を決めようとすると揉める。 だから、対戦カードは輪たちが好きに決めていい。そう宣言してきたのである。 向こうの示してきた順番は以下の通り。 第一試合、幻惑の布武 第二試合、蹴りの他圧 第三試合、豪腕の蛮那 第四試合、神速の施法 第五試合、不倒の叛徒 これを受け、輪たちは誰が誰と戦うか、ということを急遽考えていたのである。 「あたし、口髭の人指名」 真っ先に美亜子が手を挙げた。 「なんで?」 淳二が聞くと、意外な答えが返ってきた。 「あいつ、輪と淳二じゃ勝てないからよ」 「ありゃ…」 淳二はそれを聞いてぽりぽり頭を掻く。 輪は黙ったままだった。 「…そ、そうなの?」 恐る恐るといった感じで春樹が輪に聞く。 「美亜子が言うんだから、そうなんだろう」 結局誰も異議を唱えなかったので、第一試合は美亜子対布武で決定。 「じゃあ、オレとしては武器を持ったヤツとはやりたくないから、第二試合希望」 「正解」 淳二の言葉に美亜子も頷く。 「俺は、そうだな、あの一番でかい奴にしよう」 「それも正解」 美亜子はにやりと笑い、よくわかってるじゃん、と言う。 「あ、あの、僕は?」 そんな美亜子に春樹が問う。 「んー、よくわかんない。どっちでもいいんじゃない?」 「そ、そんな…」 なにやら突き放されたように感じ、春樹が絶句する。 「正確に言えば、多分広奈は誰とやっても勝つだろうし、あんたは誰にも勝てるわけ無い。だからどっちでもいいってこと」 「あ、あう…」
第一試合、本多美亜子VS幻惑の布武 第二試合、真田淳二VS蹴りの他圧 第三試合、直江輪VS豪腕の蛮那 第四試合、伊達春樹VS神速の施法 第五試合、武田広奈VS不倒の叛徒
「はいはい。お楽しみはこのあとの鬼退治に取っとくわ」 という会話のあと、美亜子は悠々と前に出た。 すでに煙でも出そうなほどに気合十分の布武が、美亜子を待ち構えている。 美亜子の得物は練習用の棍、布武は両手に細身の木刀を持ち、二刀流の構えである。 本来であれば布武は蝶剣と呼ばれる剣の使い手である。 今回は練習試合であるので殺傷能力の低い木刀に持ち替えたわけである。 さて、布武の戦い方の特徴は、その異名「幻惑の布武」からも察することが出来るように、そのトリッキーな動きと巧みな二刀流により、相手の防御をかいくぐることにある。 果たしてどんな戦いになるのか。
審判の良源の合図で試合開始。 「さぁ、いらっしゃい」 あえて美亜子が隙だらけの構えを見せる。 「いい度胸だッ!」 布武が一気に間合いを詰める。 「わが奥義を味わうがいい。喰らえ『幻惑の二蝶剣っ!』」 そして左右の手に持った細身の木刀が、まるで時間差攻撃のように微妙にタイミングをずらして美亜子を襲う。 ボクシングのワンツーのような突きである。 「速い…」 見ていた輪が息を呑む。 しかし、美亜子は落ち着いていた。 まず左手から繰り出された突きを素早くかわすと、次の右手での突きより先に棍を閃かせた。 ばきぃぃぃぃっ! 細身の木刀が美亜子の逆撃を受け、折れ飛んでしまった。 ひゅんひゅんひゅんひゅん。 「あぶねぇっ」 淳二の声も間に合わなかった。 「えっ?」 ごちっ。 「はうっ」 勢い良く折れ飛んだ木刀の切れ端が観戦していた春樹の顔面に直撃。 ばたっ。 1ラウンド8秒。伊達春樹KO負け。 「おい、春樹、大丈夫か?」 「春樹さん、しっかりしてください」 輪たちの陣営、てんやわんや。 「なんだあれ、布武の奥義に割り込んだのか?」 施法が驚きの声を上げる。 「おいおい、あいつのあの攻撃は俺でもよけるので精一杯なんだぜ」 他圧も唖然。 「まぐれだ、まぐれ」 しかし、蛮那は平然とそう言いきった。 「格好いい…」 叛徒は惚れ惚れと見ている。 慌てて間合いを取った布武が、むしろ自分の身に起きたことに呆然。 が、すぐに気を取り直して、美亜子を睨みつける。 一方の美亜子も、余裕の表情。 例によってまぶしいものを見るように目を少し細め、口元にはかすかに笑みが浮かんでいる。 そして、布武の第二撃。 「でやぁっ」 突如半分に折れた右手の木刀を美亜子に投げつけた。 そして同時に突進。 折れた木刀を目くらましにして、その隙に攻撃を仕掛けようという構え。 が、美亜子の棍がまた閃いた。 かきーーん。 ごちっ 「ぐっ」 なんと、投げつけられた折れた木刀を美亜子が打ち返し、それが突進してきた布武の額に命中したのであった。 それで布武の突進も止まってしまう。 「なんと!」 ギャラリーがびっくり。 「甘いわ」 美亜子がにやりと笑ってちょっと唇をなめて見せる。 すっかり楽しんでいる様子。 「…どういう運動神経をしてたらあんな芸当が出来るんだよ」 さすがに淳二も呆れるしかない。 「化け物め」 輪も笑うしかない。 そして、そんな芸当を見せられた布武はといえば…。 「……やむを得ぬ」 カラン。 左手に持った木刀を捨てた。 そして、両手を抜き手に構え、改めて美亜子と対峙する。 「出た。蟷螂拳」 にやりと笑って施法が手を打つ。 どうやらこれが布武の本気モードらしい。 まるでカマキリのように布武の両手がゆらゆらと動く。 「ふふん、じゃああたしも」 すっと腰を落とし、棍を布武の正面にぴたりと合わせ、美亜子が構えなおす。 そして、布武の動きがぴたりと静止する。 背骨がS字型にしなり、瞬発力を溜め、いつでも前に出られる体勢だ。 一方の美亜子は隙の無い構えから、敵が1センチでも間合いに踏み込んだ瞬間に必殺の突きを放とうという姿勢である。 その目は値踏みをするように布武を見やり、口元は強敵を前にした高揚感からにやりとした笑みすら浮かべている。 そして相手の強さを見極めることが今回の目的、ということをしっかり守っている美亜子は、この時点でも自分からは仕掛けようとしない。 一方の布武も動かない。 いや、明らかに美亜子に対して攻めあぐねている…、というか攻める糸口すらつかめないでいた。 結果、二人はそのままぴくりとも動かない。 「…どうして動かないの?」 いつの間にか輪の隣に移動していた乙姫が、率直な疑問をぶつけた。 「動かないんじゃない、おそらく動けないんだ。何をしようとしても美亜子に先読みされていて、打つ手が無いんだろう」 冷静に輪が分析をすると、その隣にいた淳二も神妙に同意した。 「その証拠に布武さんのあの汗を見てみ。微妙に重心をずらしたりしただけでも美亜子ちゃんはそれにあわせて構えてる。というか、完全に美亜子ちゃんの気が相手を威圧してるんだ。敵さんは多分一歩でも前に出た瞬間に串刺しになる、そんなプレッシャーと戦ってるんじゃないかな?」 すでに美亜子の勝利を確信した淳二が、一応格闘家らしい解説を口にした。 (“ぷれっしゃあ”ってなに? 美亜子さんと戦ってるんじゃないの?) が、乙姫には通じてなかった。 一方の坊主陣営もこの異様な状態に首をかしげていた。 自然体に構え、涼しい顔で布武を見据えている少女に百戦錬磨の布武が威圧され、微動だにできないでいる。 すでに布武は汗びっしょり、その顔には焦燥の色が濃かった。 (布武が動けないほどに、あのおなごは強いというのか?) 4人にもようやく事態が呑み込めてきた。 そして、ついに痺れを切らした布武が動いた。 全身の筋肉を研ぎ澄まし、瞬発力をため、一気に爆発させる。 これまでの彼の戦いの中でも最大級の集中力で、一瞬で美亜子との間合いを詰めようと両手を自分の前で交差させたまま、彼は一直線に猛然と突っ込んだ。 いや、突っ込もうとした。 その瞬間! ごちっ。 「むっ…」(←輪) 「うにゅぅ」(←淳二) 「わっ…」(←春樹) 「まぁ…」(←広奈) 「え…?」(←乙姫) ギャラリーの見ている前で、美亜子の棍が目に見えないほどの速さで閃き、まさに動き出さんとした布武の額にぶち当たった。 「……!?」 …どすっ。 傍から見ている分には、布武がぴくっと動き、その瞬間に美亜子の棍がごちっ、そして布武がしりもち、である。 それがこの試合の決着であった。 脳震盪を起こしたのか、それとも敗戦のショックか、ぺたんと座ったまま、布武は茫然自失の体である。 「それまで」 良源が試合を止めた。 完全に布武の動きを読みきった美亜子の、後の先、つまり相手に先に攻撃させて、カウンター気味に自分の攻撃を当てる、という戦い方の究極の姿がそこにあった。 「…あたしの強さが分かるってことは、それだけでも相当の腕前だわ。ま、相手が悪かったと思って気にしないことね」 美亜子は布武にそういい残すと颯爽と背を向けた。 (はぁ〜っ、気持ちいい〜♪) 久しぶりに味わう勝利の味は格別だった。 すっかり美亜子の機嫌も直っていた。 相手に何もさせず、まずは一勝である。 完璧に美亜子の強さが相手を上回っての勝利であった。 これには“比叡レンジャー”もびっくり。 「どうなってるんだ?」 施法が首をかしげる。 「布武はたまにああやって相手の攻撃をまともに貰ってしまうからな。油断しやがって」 蛮那がそうはき捨てた。 「いや、あのおなご、強い。……それに格好良い」 そう言ったのは叛徒。 やがて、布武が戻ってきたが、無言のまま座った。 敗者は黙して語らず、という姿勢らしい。 それを見て他圧が立ち上がる。 「俺は、油断はしない」 気合十分。 一方の美亜子、まず淳二に声をかける。 他圧を指し示すと珍しく真剣な顔でこう言った。 「いい、淳二、念のため言っとくけど、あいつ、相当に強いわ。まともにやったら…、あんた、負けるわよ」 「うにゅぅ、やっぱり?」 ぽりぽりと淳二が頭を掻く。 「おい、淳二、大丈夫か? 勝てる見込みはあるのか?」 さすがに変身しなければ、厳しいと見た輪が声をかける。 なにせ、相手の他圧は190センチ近い恵まれた体の持ち主である。 手足も長い。 一方の淳二は168センチ。 単純に考えるとリーチの差、それにパワーの面で圧倒的に他圧が有利である。 「ん〜、大丈夫、こっちには秘策があるから」 にへら、と笑って淳二はそう言い切った。 「ふぅん。見せてもらうわよ」 美亜子はにやりと笑うとどっかと座った。 「気をつけろよ」 「まぁ、見てなって」 「…そうか」 それでも心配そうな輪に背を向けて、淳二は前に出た。 「お手柔らかに頼むぜ〜」 「否、手加減はせぬ!」 「あ、そう…、いやはやまいったなこりゃ」 気合十分の他圧に淳二は少々困惑気味の表情で向かい合った。 淳二はしっかりと拳を作り、空手スタイルの構えである。
そして試合開始と同時に他圧が前に出た。 「ほぉあぁぁぁっ!」 特徴的な雄たけびを上げて他圧の右足が空を切り裂いた。 いきなりの右ハイキックである。 (やべっ!) 淳二は辛うじて身体をそらし必殺の蹴りをかわすことに成功した。 しかし、他圧の蹴りの凄まじさは、かわしたあとに淳二をさらに驚かせる。 ぶわっ! 蹴りが通り過ぎたあと、淳二はまるで頬をビンタされたような衝撃を感じた。 (ふ、風圧だけで痛ぇ) 慌てて淳二がバックステップし、距離を取る。 他圧はまるでリズムを取るように軽やかにステップを踏んでいる。 その特徴的な動き、淳二には見覚えがあった。 (少林寺クンフー! 中国武術を使うのかよっ!) 「ふっ、唐の国から伝わった詠春拳。見たことも聞いたことも無かろう」 自信満々の他圧がそう言って淳二を挑発する。 気合の入った他圧の口元は顎に力が入っているのか、下唇が突き出てアヒル状態である。 「…いや、見たことも聞いたこともあるけど」 そう言った淳二が構えを変えた。 腰を落とし、左足を前に出し、握っていた拳をやわらかく開いた。 そしてその口が…、 「ちゃーーーーーん、ちゃちゃ♪」 おなじみのメロディを奏でる。 「………おいおい」 輪が脱力する。 某リーさん主演の超有名クンフー映画のテーマ曲だった。 「ほあぁぁっ!!」 奇声を上げノリノリの淳二。 が、意外にも他圧に与えた衝撃は甚大だった。 「な、なぜ…詠春拳を知っている?」 「いや、これジークンドーだけど」 「………」 理解不能の現象に他圧が黙る。 「いくぜぇ」 そして淳二が一気にラッシュをかける。 「あたぁっ! あたたたたたたたたたたたっ!!」 左右のワンツーパンチ、ローキック、また左右のワンツースリーフォーパンチ、ローキック。 バシバシバシバシ…。 淳二の攻撃を他圧が何とか払いのけているが、しかし何度かクリーンヒットもある。 「非力非力。効いてねぇ」 そう言ってのけたのは蛮那だったが、実際淳二の攻撃は当たってはいるもののKOを奪えるほどには効いていない。 先ほどの美亜子VS布武戦の逆で、今度は他圧が淳二の攻撃を受けて見せているようだった。 そして、他圧が動いた。 淳二の両肩をつかみ、押さえつけると、必殺の膝蹴りを繰り出した。 身長差もあり、その膝蹴りは余裕で淳二の顔面まで届く。 慌てて両手を使って払いのけるが、第二撃がすぐさま飛んでくる。 今度は両腕でガードしたが、それでも一瞬淳二の体が浮く。 とんでもない破壊力である。 「やばい。離れろ淳二!」 輪が叫ぶ。 が、他圧は力もある。 淳二が離れようとしてもまったく振りほどけない。 「無駄だ。他圧の膝地獄からは抜けられん」 勝利を確信した蛮那。 「あの体格では無理だな」 これは施法。 しかし、淳二はこの状況を切り抜けるタイミングを冷静に図っていた。 そして3撃目の右膝が飛んできた瞬間、それに合わせて右フックを内太腿に叩き込む。 「ぬっ!?」 一瞬他圧の動きが止まった瞬間。 「うにょあっ!」 淳二の体が沈み込む。 バランスを失った他圧が淳二を押しつぶすように倒れこんでくる。 淳二は他圧の両腕をロックし、右足を他圧の腹に当てるとそのまま投げ飛ばした。 「巴投げ!」 驚く輪の声と、他圧が背中から道場の板の間にえらい勢いで叩き付けられたのは同時だった。 「ぐはっ」 あの体勢ではほとんど受身も取れなかっただろう。 衝撃に他圧の息が止まる。 が、痛いのは淳二も同じ。 「ってぇ…。畳じゃないからな」 顔をゆがめつつ、素早く起き上がると他圧から離れた。 「ふぅ、冷や冷やさせるわね…」 ちょっと息をつく美亜子。 「よかったぁ」 心配そうに見ていた乙姫も、ほっと一安心。 「おのれ、小細工を」 立ち上がった他圧は怒りに燃えていた。 そんな他圧の姿と、今のところの戦況を分析して、淳二が得た答えはひとつ。 (やべぇ、美亜子ちゃんの言ったとおり打撃で勝負しても勝てねぇな) 淳二の頭脳がすばやく勝利の方程式をひねり出す。 打撃で勝てなければ、別な戦い方がある。 「いいぜ、かかってきやがれ」 今度は防御しやすいように両手を高く上げ、やわらかく構えた淳二がそう言い返す。 みたび淳二は構えを変えたわけである。 「あぁぁぁっ!」 甲高い雄たけびと共に他圧の猛烈なラッシュが淳二を襲う。 左右のワンツーから右ハイキック。 しかし、先ほどのような鋭さがない。 淳二は何とかその攻撃を凌ぎきった。 そして前蹴りを放っていったん距離をとる。 「…あいつ、さっきので腰をやったわね」 「ああ。足も打ったな。スピードが落ちている」 ギャラリーの美亜子と輪が冷静に分析。 「ほあぁぁぁっ!!!」 他圧が淳二の顔面向かって突きを放った。 しかし、切れ味が鈍い。 淳二は落ち着いて体を開いてその手を払い、そしてそのまま袖をつかむと左足をすばやく払った。 ちょうど柔道で言うところの出足払いの格好である。 さすがにそれで倒れはしなかったが一瞬他圧はバランスを崩した。 だが、淳二にはそれで十分である。 すばやく他圧の右腕を掴み直し、その腕にぶら下がるようにして身体をひねった。 「腕返しかっ!」 柔道にも結構詳しい輪が驚嘆の声を上げる。 そう、ここに来て淳二の言っていた秘策が明らかになった。 それは柔道の関節技であった。 長い年月をかけて練り上げられた柔道の関節技の数々。 当然千年前の人間は存在も、対処法もわからないだろうというのが淳二の作戦であったのだ。 いかに恵まれた肉体の持ち主であろうと、効果的に関節を極められればなすすべなく投げられてしまう。 右腕をロックされ、他圧は受身も取れないまま一回転。 再び、したたかに床にたたきつけられた。 そして、他圧を投げた淳二は右手を持ったまま素早く逆十字固めに入る。 「なっ、ぐあぁっ」 初めて喰らうであろう関節技の痛みに他圧が思わず悲鳴を漏らす。 完全に極まってしまえばもはや絶対に外すことは叶わない。 「おらっ、参ったしやがれ」 ぎりぎりぎり…。 「くっ、ま、参った…」 勝負有り。 「それまでっ」 良源の美声が試合終了を告げる。 「やったぁ〜」 ハラハラしながら観戦していた乙姫がぴょんぴょん跳ねて喜びを爆発させる。 息を切らした淳二が、戻ってきた。 「せ、背中がいてぇ…」 そう言って苦笑する。 「危なかったな」 輪が声をかけると、淳二は珍しく真顔になって答えた。 「うん、強かったよ。勝てたのは運が良かった」 そして美亜子の隣にどっかと座り込んだ。 「なんで最初から関節技を出さなかったの?」 美亜子が聞いてきた。 「いや、ほら、ブルース・リーファンとしては血が騒いじゃってさ」 「…ばか」 一方、対する比叡レンジャー陣営はまたまたの敗戦にショックを隠しきれない。 「無手で他圧に勝てるのは俺だけだと思っていたが…」 と、言ったのは蟷螂拳使いの布武である。 「最後のあれ、なんだったんだぁ?」 施法が首をかしげる。 そして叛徒がぼそっと漏らした。 「…格好良い」 で、やっぱりと言うかめらめら燃えている男が約一名。 「おなごに負け、あんな小さな相手にも負けるとは、二人とも恥を知りやがれ。この俺様が真の強さ、って物を見せてやるぜ」 そう豪語して前に出たのは盛り上がる筋肉も誇らしげなマッチョマン、豪腕の蛮那である。 その蛮那、相手の中では最も身体が大きい。 将門ほどではないが190センチ、120キロはあろうかという恵まれすぎた肉体の持ち主であった。 鍛え抜かれたその身体はまさに人間筋肉山脈。 ほとんど歩くレギュレーション違反である。 「ふん、恐れおののけ、萎縮しろ、とっとと尻尾を巻いて逃げやがれ」 マシンガンのように罵声を浴びせつつ、対戦相手である輪を睨み据えている。 「…あれで、延暦寺の僧侶か」 呆れたように輪が呟く。 と…、 くぃっくぃっくぃっくぃっくぃっくぃっ。 すごい勢いで輪の袖が引かれていた。 「なんだ、乙姫?」 「り、輪さん、大丈夫? 相手おっきいよ。強そうだよ…」 むしろ蛮那の威圧に乙姫のほうが怖がっている。 とはいえ、戦うのは輪である。 「…そうだな。だが心配するな」 わしゃわしゃと乙姫の頭を撫でてやると、輪は背を向けた。 「大丈夫よ、乙姫。あたしほどじゃないけど、輪だって強いのよ」 その美亜子のお墨付きに、誰よりも輪自身が力づけられる。 なにせ、美亜子の相手の強さを見抜く眼力は、一級品である。 それに、輪にとっては美亜子と散々戦った経験が貴重な財産であった。 美亜子より弱い相手にならそう負けない自信がある。 そして世の中に美亜子より強い相手なんてまずいないのだ。 「ふん、勢いあまって殺しちまっても文句は言うなよ。俺様は手加減出来ないタチなんでな」 物凄い殺気をぷんぷん振りまき、蛮那が仁王立ちしていた。 が、あいにく怒り狂った将門と戦った経験のある輪にとって、蛮那の殺気では萎縮するほどではない。 「やれやれ。手加減するのも技量のうちだぞ」 いつもの口癖を言い、輪は蛮那と対峙した。 輪の得物は木刀、そして蛮那のそれは丸太のような巨大な棍である。 本来の蛮那の得物は騎馬武者を馬ごと両断するという、斬馬刀である。 美亜子の蜻蛉切をさらに巨大にしたような武器である。 が、さすがにそんなものを持ち出すわけにはいかないので、丸太で代用しているというわけである。 その、10キロ近い重量がありそうな丸太を蛮那は軽々と振り回している。 躍動する筋肉、ふてぶてしい表情、確かに並の人間なら回れ右して逃げたくなる迫力である。 が、輪は昼食を誘うように軽く言ってのけた。 「始めよう…」 そして皆をあっと言わせる構えを取った。 「居合いをする気?」 腕組みして戦況を見ている美亜子。 「あ、なるほど、オレと同じ作戦か」 淳二が天性のセンスで輪の意図を読み取った。 確かにこの時代、居合道も無いし、こんな戦い方も前代未聞だろう。
良源の声で試合開始。 「どういうつもりだ。小僧」 迫力満点、蛮那がすごむ。 が、輪は涼しい顔で言い返した。 「いいから打ってこい」 「んの、ヤローッ!」
「むっ!!」 輪の木刀が唸りを上げ、針の穴を通すような正確さでしたたかに蛮那の右手を打っていた。 「ぐおっ!?」 居合い抜きの最大のメリットは、刀を自分の身体で隠し、相手にこちらの間合いをつかませないことにある。 それが分からない蛮那はあっさりと輪の先制攻撃を許してしまったわけである。 右手が破壊され、左手一本で重い棍を支えざるを得なくなってしまった蛮那に、輪がさらに追い討ちをかける。 「…はっっ!」 床が音を立てるほど強く踏み込んで、上段から面を打つ構え。 「くそッ」 慌てて蛮那がバックステップで振り下ろされた輪の木刀をかわそうとする。 が、輪の攻撃はフェイントだった。 振り下ろされた木刀がぴたっと静止し、そのまま輪は蛮那の顔面めがけ、神速の突きを放った。 「月雲!?」 観戦していた美亜子が舌を巻く。 斬ると見せかけて突く、高等技術である。 「わぁっ」 とっさに蛮那は後ろに倒れこんで、その突きをかわす。 「おおっ、マトリックス避けっ」 淳二が手を打った。 だが、仰向けに倒れてしまっては、もはや蛮那は死に体である。 「こんなもので、どうだ?」 倒れた蛮那に切っ先を突きつけ、輪が良源にそう声をかける。 「…それまで」 これにて試合終了となった。 (か、かっこいい) と、乙女チックポーズのまま固まっている乙姫。 心配していた分、この輪の勇姿にまたまた惚れ直した格好。 「省エネ作戦ね。あいつのパワーにまともに付き合ったらてこずったかもしれないから、うまい作戦だわ」 美亜子のお墨付き第二弾。 が、収まらないのは負けた側である。 「くっ、こんな、不意をつかれただけだ。まだ勝負はついてねぇ」 悔しがる蛮那だったが、そこに良源の冷ややかな声が飛んだ。 「蛮那、負けは負けだ。黙れ」 「ぎ、御意………」 痛めた右手を押さえ、悄然と背を向ける蛮那。 「ふぅ」 やれやれ、といつものセリフとともに輪が戻ってきた。 これにて3勝目である。 「さて、次は俺の番だな」 俊敏そうな、色黒の僧兵、施法である。 三節棍をひゅんひゅん振り回して気合十分。 こちらは春樹の番。 「おい、春樹、やっぱり棄権しろ。お前、格闘技やったことないだろう」 が、輪が止めていた。 「そうよ、危ないからやめときなさい。あの武器、防御するの大変なんだから」 美亜子も同意。 が、春樹は毅然と言った。 「大丈夫、僕一人じゃないから」 その春樹の視線の先、腰につけたままの九頭竜の剣に巻きついた小十郎が自分の存在をアピールするように、ちろちろしている。 「大丈夫なのか…?」 半信半疑の輪だったが、春樹の決意が固そうなので、とりあえず送り出すことにした。 「武田、万一に備えて治療の用意を…」 あくまで心配性の輪が、広奈にそう言ったが、その広奈は余裕の表情であった。 「大丈夫ですよ、輪さん」 そう言って微笑む。 「……大丈夫か、本当に」 輪の見つめる先、明らかにへっぴり腰で申し訳程度に木刀を構える春樹の姿。 対戦相手の施法はその姿にちょっと疑念を抱いたが、しかし真剣な表情で三節棍を構えた。 「どういうつもりかは知らんが、もう負けられないのでね。本気でやらせてもらうぜ」 そう言って獰猛な笑みを浮かべる。 何度も書いたとおり、施法の武器は三節棍である。 有名な武器、ヌンチャクをさらにもう一個連結したような独特の武器。 その利点はとにかく防御が難しいことにある。 どう考えても素人がよけたり、武器で受けたりするのは不可能。 また、布武や蛮那の得物と違い三節棍にはもともと刃がついていないので、練習用の三節棍、というものは存在せず、つまり、今持っているのは普段施法が愛用している三節棍そのものである。 木刀や、棍を使っていた布武や蛮那は多少の戦闘力の低下を余儀なくされたが、施法は100%の戦闘力、というか殺傷能力を発揮できる状態なのである。 それに、“神速の施法”の呼び名通り、施法の動きは俊敏そのもの。 あるいは“比叡レンジャー”の中で、輪や美亜子が戦った場合、最も苦戦する相手はこの施法かもしれない。 よりによってそんなのが相手。 危うし春樹。
そして試合開始。 (小十郎、お願いっ!) (はいっご主人さま) ぽっ、っと小十郎の角が光る。 (動かないで!) 小十郎の目がしっかりと施法の目を見つめる。 そして…。 「がっ…」 今まさに攻撃しようとした格好のまま、施法が固まっていた。 そこへ…。 「えいっ」 ぽかっ。 「へっ?」 ギャラリーが間の抜けた声を漏らす。 春樹の木刀が施法の頭を軽く叩いていた。 (も、もういいですか?) と、春樹の目が良源に訴える。 「…それまで」 試合終了。 「な、なんかよくわからんが、すげぇな、おい!」 「…どういうことだ?」 「やるじゃん、ハル」 三者三様の声に迎えられ、春樹が凱旋。 「ふぅ、怖かった」 そう言ったものの春樹の顔は満足そうだった。 一方、もはや“比叡レンジャー”はうめき声すらあがらなかった。
相撲取りのような体格がいかにもタフそうな、不倒の叛徒VSたおやかな美少女、武田広奈。 勝負は一方的だった。 『ヲルスバーン・ナッコォォォォォォォォッ!!!』 「ぐはぁぁぁぁぁっ」 ごろごろごろ、ぽて。 不倒のはずの叛徒が軽く3回転ほど地面を転がり、そのまま動かなくなった。 「それまで」 『わっはっはっは。正義は勝つ!』 腰に手を当て高笑いするヲルスバン。 「御免なさい」 広奈がぺこりと頭を下げる。 そう、試合開始と同時に広奈がヲルスバンを召喚し、あとはヲルスバンが叛徒をボコボコにしたのだった。 これで、五戦全勝。 比叡レンジャーは当初の元気をすっかりなくし、どんよりどよどよすっかり暗い雰囲気で落ち込んでいた。 しかし、全敗したとはいえ相手が悪かっただけであり、比叡レンジャーの実力は相当のレベルにあることは分かった。 これならば実戦でも十分戦力になってくれるだろう。 それが輪たち5人の共通の認識であり、これにより、今後センゴクマンと比叡レンジャー夢の競演が実現することとなる。 その戦いぶりはいかに?
「いいさ、武田は…、良源の役に立ちたかったのだろう?」 広奈の恋の行方は? そしてそのとき輪は? 「へぇ、やる気出してるわねぇ」 「なんか、ハルが頼もしく見えてきたぞ」 (慣れていくのかな、こうして…) 春樹の身に何が? そして知られざる春樹のある一面が明らかに。 さらに、敵地へと乗り込んだ比叡レンジャーの前に現れし、筋肉隆々の黒鬼が二人。その名も“暴武”と“殺風”。 因縁の敵を目の前にして5人の闘志が真っ赤に燃える!! 「暴武ッ! 殺風ッ! てめぇらに殺された仲間の恨み、俺様が思い知らせてやるッ!」 ついに比叡レンジャーに最大の見せ場が!? 戦隊ヒーローアクション(←いつの間に?)『陰陽五行戦記第二十八話』 『千石万あんど比叡連者、大江山の死闘』 お楽しみにっ!
今回の話のUPを遅らせたのも、これをゲットしていろいろ作業をしたあとで公開したかったからです。 ただ、一言だけ言わせてください。 ただでさえ貧乏生活を送っているところに何なんだこの値段設定は!? 4500円ってなに?(怒) …まぁ、それでも買っちゃう私(爆) というのも、リプレイ(赤い大地を駆ける疾風)を読んで投げ技が強力になってるじゃん、と思ったからです。 これは淳二のためにもキャラクターシートを改造してやらねば、と考えたわけです。 親心というか兄心です。 というわけで、淳二は完訳版Verに生まれ変わっています。 具体的にはキックLvが下がり、いろいろと投げ技が強力になりました。 特に捨て身投げが強い。 人間時でも3D+1のダメージはほとんど殺人技の呼び名が相応しい。 (本当はアイアンスフィア世界限定の格闘動作っぽいのでよい子は真似しないように(笑)) てなわけで、このバランスだと最強キャラは美亜子でなく淳二かもしれません。 組み付いてしまえば相手に何もさせずに投げて、両腕折れます。 今回の話の内容も投げ技の強さを強調してみました。 他圧ファンの某嬢、ごめん(笑) 次回は活躍するから。 それと、読者の皆様、12月のK−1GP決勝。絶対に見逃さないように。
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