〜大長編オリジナル日本史ファンタジー大河ドラマ小説〜

陰陽五行戦記

第一章 ◇平安編◇

第二十六話「降魔戦隊・比叡連者」





◇2月14日10時 竜宮◇


準備万端、気合十分、臨戦態勢。

朝食もたっぷり食べ、すっかり準備が整った一同はいよいよ自分たちの命運をかけ、将門との決戦へと出発しようとしていた。

が……。

「な、なんですってぇぇ!!」

悲鳴じみた美亜子の大声が竜宮に響き渡る…。

「…二度も同じことを言わせるな、将門は討たれた。東国に行く必要はもう無い」

仏頂面でそう言ったのはのちに不世出の天才陰陽師と呼ばれることになる安倍晴明、このとき19歳、である。

どう控えめに表現しても、まず類を見ないほどの美貌の持ち主なのだが、あいにくこの仏頂面以外に表情の選択肢を持っていないらしい。

で、その仏頂面のままふらりと竜宮に現れ、将門戦死の報を伝えたのであった。

「一つ聞いていいか。誰が…、どうやって…、あの将門を倒したというんだ?」

驚きのあまり固まっている美亜子、淳二、春樹、そして乙姫。

そして「まぁ」と言ったきり黙ったままの広奈。

なので、必然的に質問者は輪である。

晴明はわずらわしそうに、たったの一言で答えた。

「…“神鏑”だ」

「神鏑?」

「藤原秀郷が魔を払う神鏑を将門のこめかみに当てたのだ。これで魔王の力が失われ、将門はあっさりと討たれたというわけだ」

神鏑、と聞いて真っ先に反応したのが乙姫だった。

「神鏑って……、そっか、秀郷さん、まだ持ってたんだ…」

呆然と呟く乙姫を押しのけ、ようやく復活した美亜子がえらい剣幕で晴明に突っかかった。

「ちょ、ちょっと、そんなのって…、じゃあ将門ってもう死んだわけ? あたしまだ勝ってないのに? 冗談じゃないわ。あんた、何とかできないの? 陰陽師なんでしょ!」

言ってることが支離滅裂である。

しかし、無理も無い、美亜子にとって生まれて初めて敗北の屈辱を受けた相手がもう死んだというのだ。

それはつまり美亜子には永遠に復讐の機会が訪れないことを意味する。

ぶっちゃけ、勝ち逃げされたに等しい。

雪辱に燃えていた美亜子の炎は不完全燃焼を強いられてしまったのである。

しかし、その一方でまったく違う反応をしている人間もいる。

淳二と広奈はこの報告を素直に喜んでいた。

「いや〜、助かった。これであの化けもんと戦わなくて済んだぜ。くわばらくわばら…」

「ええ、皆さんが危ない目に遭うこともなくなりましたし、良かったですわね」

そう言いあい、にこにこ。

君子危うきに近寄らず、というわけである。

一方で、内心ショックを受けていたのは春樹と輪の両名である。

せっかく“強くなるんだ、将門に勝つんだ”と熱く決心したというのに、あっさり出鼻を挫かれた感が強いのが春樹。

(昨日の僕の決意って、…何?)といった心境である。

そして輪はといえば、せっかく神刀“毘沙門天”を手に入れ、将門を自分が倒す気満々だったのに、トンビに油揚げをさらわれた格好。

なかなか釈然としない気分をもてあましている。

で、その二人以上に怒りまくってるのが美亜子である。

行き場の無い闘争本能、怒り、悔しさに心中は大荒れである。

柳眉は逆立ち、唇を噛み締め、握った拳はプルプル震えている。

そんな美亜子を見た晴明は、これが頃合と思って、こう切り出した。

「代わり、といっては何だが、戦いの機会ならある。これを機に比叡山が動く。まずは大江山の酒呑童子を倒し、然る後に鞍馬山に停滞している魔王を調伏するそうだ。そこで、貴殿らには私の名代として比叡山に出向き、これらの戦いに参加してもらいたい」

「行くわ」

待ってましたとばかりに0.1秒で美亜子がきっぱりと参加を表明した。

あまりの食いつきのよさに、釣り糸をたらした晴明もびっくりである。

「おい、美亜……」

止めようとした輪だったが、今の美亜子の心中を慮り、それはあきらめることにした。

ひと暴れさせない限り、美亜子の機嫌は絶対によくならないだろうことを、輪は身をもって知っていた。

「やれやれ、どうせ止めても聞かないだろうし、行くか…」

と、自動的に参加決定。

「僕も…、行きます」

いつも意思決定するのが最後の春樹も、珍しく早々と参加を決めた。

それだけ今の春樹は“強くなりたい”、という決意が固いともいえる。

二人で平和を喜び合っていた淳二と広奈は、こっちで早々と戦の話になっているのを見て、いささか困惑気味だった。

しかし…。

「ま、オレとしてもついて行かない訳にはいかないにょ」

妙な口癖が抜けないまま、淳二も同行。

「わたくしも、参りますわ」

もちろん広奈もついて行くし、

「わ、わたしも行く」

と、乙姫を含めていつもの6人、今度の目的地は比叡山である。

あっさりと思惑通りに話が進んで、晴明は内心にんまりである。

しかし、そんなことはおくびにも出さず、無愛想にうなずいた。

「分かった。式神に送らせよう。延暦寺に着いたら良源殿を訪ねてこれを渡してくれ、言伝をしたためておいた」

と、懐から手紙を取り出し、近くにいた広奈に渡した。

「はい、良源さまですね。承りましたわ」

「では、あとは任せたぞ。……私は、帰って寝る」



◇2月14日11時 比叡山延暦寺◇


一行は式神に乗って上空から延暦寺へと近づいた。

深山幽谷の参道や寺院群を下に見ながら飛行を続け、かつて伝教大師最澄の開いた延暦寺根本中堂の境内に降り立った。

峻厳なる気韻に包まれた堂内は王城鎮護の要に相応しく、身の引き締まるほどの凛とした空気が張り詰めており、かすかに聞こえてくる読経の音がそれに拍車をかけているようだ。

まさに霊山としての威容漂う場所である。

「…すごいところだな」

思わず輪がそう漏らすと、彼らの背後、つまり根本中堂の正門あたりからそれに答える声があった。

「よくぞ参られた。…晴明殿はおられぬのか?」

涼しげなよく通る男性の声だった。

一行が慌てて振り返るとそこには法衣姿のまだ30代ほどの若い僧が立っていた。

(まったく気配を感じなかった…)

美亜子がそう驚き、ついでその顔を見てまた驚いた。

その隣では広奈がもっと驚いていた。

「まぁ、なんて…」

口に出来たのはそこまでで、あとは胸の前で手を合わせぽ〜っとしている。

その僧侶、よく見ると晴明にも勝るとも劣らないほどの美形であった。

しかも、まだ若い晴明と違って適度な渋味と酸いも甘いも噛み分けたような風格が漂っており、無条件に命を預けられるような、そんなカリスマを発散していた。

涼しげな切れ長の目元、高い鼻、凛々しい口元、鋭角なあご。

そして特に目を引くのが長い眉。

(坊主のくせにあの顔は反則だぜ、おい…)

淳二などはむしろ呆れてしまう。

そんななか、とりあえず輪が前に出てちょっと頭を下げた。

「俺たちは安倍晴明の名代でここに来た者だ。手紙を預かっている。良源という人に会いたいのだが」

そう言いつつも、輪を始め、全員が分かっていた。

間違いなくこの男が良源だろう、ということを。

それくらいにこの男は言い知れぬ“法力”を放っていたのである。

そして案の定、彼は柔らかな笑みを浮かべ、こう言った。

「拙僧が良源だ。以後お見知りおきを。そなたらは延暦寺へ来るのは、これが……」

言葉の途中、良源の目がその時初めてまっすぐに広奈の姿を捉えた。

そのまま5秒ほど広奈を見つめる。

(なんだ?)

話の途中なのに存在を無視された輪が良源の視線の先を見やった。

そこには、ぽ〜っとした表情で良源をじっと見つめ返していた広奈がいた。

二人の間に流れる空気に、ただならぬものを感じたのは特に淳二と春樹だった。

(た、武田さんのこんな顔、初めて見るよ…)

春樹が愕然とする。

淳二にとってもそれは同じ。

(おいおい、まさかあの広奈ちゃんが、こ、この坊主にササニシキ…、じゃない、ひとめぼれってことか? マジかよ…)

良源をじっと見つめる広奈の表情は、特に春樹や淳二にとってショックなことに、恋する乙女のそれであった。

「…これは、なんと美しい」

!!

一行を凍りつかせる一言が良源の口から漏れた。

そして硬直する輪たちの間を縫ってすたすたと広奈に接近。

「ちょ、お、おい・・・」

狼狽する輪の横を素通りし、良源はふわりと広奈の腰を抱くと、その顔を間近で見詰めながら、日頃読経で鍛えた美声でこう囁いた。

「ささ、余人を交えずぜひ二人だけで話をしようではないか。至高の真実は、常に仏の御心と共にあり、至高の愛は拙僧と共にある。拙僧が絶対の慈愛でそなたに極楽を見せてしんぜよう」

「…はい」

あっさりと心を奪われた様子で広奈がうなずく。

「はいじゃないだろっ!!!!」

輪が慌てて突っ込むが、きっぱりと無視された。

「お、おい…」

開いた口がふさがらない輪。

「んなっ・・・」

そして絶句する淳二。

あっけに取られる一同など眼中にない様子で、良源は広奈を抱きかかえるとすたすたと本堂に向かって歩いていく。

「あ、ちょ、ちょっと…待ってください」

慌てて春樹が止めようとし、それがきっかけとなって一同良源を追いかけた。

「おい、武田。なにしてるんだっ! ここに来た目的を忘れるな! おいっ!!」

輪が怒鳴っても広奈は聞いちゃいない。

夢見るような表情で自分をお姫様抱っこした良源の顔を見つめるだけである。

「くっ、こうなったら仕方ない。おい、美亜子、力ずくでも止めるぞ」

「わ、分かったわ」

流石の美亜子も狼狽を隠せなかったが、それでもすたすたと良源の背後につくと肩をつかもうと手を伸ばした。

「ちょっと、あんた、とまっ…!?」

ばちぃっ、と良源の肩に届く前に美亜子の手が弾かれてしまった。

「…オン・キリキリ」

よく見ると良源は何やら真言を唱えている。

そして同じく止めようとした輪もあっけなく弾かれてしまい、良源に触る事が出来ない。

「くっ、なんなの一体?」

「よくわからんが、多分真言密教…。くそっ、これじゃ手が出せない」

「なんとかなんないの?」

「こっちが聞きたいくらいだ」

悔しがる輪と美亜子。

「え、え、えと?」

未だ事態を把握できない乙姫がおろおろ。

「た、武田さん、どうしたの? おおーい」

むなしく広奈に呼びかけつづける春樹。

「う〜む、さすが広奈ちゃん。何をするにしても集中力は半端じゃねぇや。すっかりあっちの世界に行っちゃってるし…」

半ばあきれつつ、実は広奈の事を一番良く理解していたのは淳二だった。

一方渦中の人、武田広奈であるが、すっかり良源の声に聞き惚れていた。

(なんて素敵なお声。パヴァロッティやドミンゴよりも…)

と、広奈にとっては世界三大テノールよりもこちらの方が感動的だったらしい。

実際、真言密教においては声は言霊であり、歴史上でも良源はその真言密教の屈指の使い手である。

彼の言霊の一つ一つがまさに広奈にとって恋の呪であった…。

というわけで、ラブラブバリアー(?)によって守られた二人は、周りの干渉など全く意に介せず、どんどん歩いていってしまう。

「なんなんだ、この坊主は!!」

まるで花嫁を奪われた父親のように、ほとんど怒り心頭の輪がそう吐き捨てた瞬間。

「良源さまーっ!」

「お呼びでございますかーっ!」

と、野太い声で呼びかけつつ、正門をくぐって屈強な5人の僧兵がのしのし歩いてきた。

でかい。

平均しても185センチ、100キロはあるだろう、巨漢が5人。

そして、彼ら5人は輪達の姿を見、ついで良源の姿を見、そして良源がお姫様抱っこしている広奈を確認した。

で、いっせいにパニックに陥った。

「お、おなごだっ!」

「なんで、こんなところに」

「それより、まずいぞっ!」

「そ、そうだ良源様をお止めしろぉぉぉっ!!」

どどどどどどどどどどーーーーっ!!!!!

地響きを上げ、まるでバッファローかアメフトの選手のように彼らは良源めがけて突入していった。

(な、なんなんだこいつらは…)

輪達が度肝を抜かれていると、彼らはむなしく良源を守るラブラブバリアー(?)に弾き飛ばされていく。

(あー、飛ばされとるのう)

すっかり傍観者に成り下がった淳二がその妙な修羅場を無表情のまま見物。

「駄目だ。埒があかん。おい施法、あれもってこい!」

一番派手に吹っ飛ばされた、一番身体のでかい僧兵が、一番俊敏そうな色黒の僧兵に何やら命じた。

「了解(りょうげっ)」

で、彼は慌てて正門を駆け下り、消えていく。

一方当事者の二人はと言えばお互いの顔を見詰め合ったまま何やら語り合っていた。

もちろん周りで起きている出来事には一切反応していない。

どちらも恐るべき集中力の持ち主と言える。というか天才って呼ばれてる人種って得てしてこんなもんである。

そんなわけで、“人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落ち”る前に、輪達及び謎の僧兵4人はすっかり憔悴しきってしまい、ゆっくりと歩いていく二人をただ呆然と見守るのみとなっていた。

そんな時、ようやく施法が息を切らせつつ正門を駆け上がってきた。

「おおーい…、あとはっ…、任せたっ…」

息も絶え絶えに施法は手に持っていた、何やら面らしきものを駆け寄った口髭の僧兵の一人に渡した。

「よしっ、これがあれば…」

口髭の僧兵がそれを持って良源の正面に駆け足で移動した。

そしておもむろに面を持って構えると、ぺこりと良源に頭を下げる。

「ご無礼っ!」

ついで裂帛の気合と共に面を良源めがけて突き出した。

「とあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


かぽっ。


ラブラブバリアー(?)を突き破ったらしく、良源の顔に面がはめられた。

「あら? 良源さま?」

広奈がようやく外部の出来事に反応。

「……………………………………………はっ!?」

そして良源はしばしの沈黙の後に、夢から覚めたような振る舞いを始めた。

で、慌てて広奈を降ろし、素早く離れるとこう詫びた。

「ご無礼、平にご容赦願いたい。長年女を断って修行していたせいか美女を見るとついこうなってしまうのだ。だがこの面があれば煩悩を捨て去る事が出来るゆえ、ご安心めされい」

……………。

……………。

……………。

……………。

沈黙があたりを支配した。

「えと、それってつまりどういうこと?」

と、淳二。

それに答えたのは僧兵五人。

まるで練習をしてたんじゃないか、ってくらいに息のあった返答。

「良源様は美女を見ると見境無く口説いてしまうのだ」

「何せあのお顔だからな。昔から言い寄ってくるおなごは星の数ほど…」

「修行の妨げになるからと、おなごの前に出るときには必ずあの面をつけるようになったのだが…」

「おかげで言い寄ってくるおなごはいなくなったものの…」

「その反動か、面を外すと途端にとんでもない好色に…」

「「「「「はぁ〜っ…」」」」」

五人そろってため息。

「た、大変、だね…」

表情の選択に苦心しつつ、とりあえず同情モードで春樹が応じる。

「…それって僧侶失格じゃねぇの?」

呆れ顔の淳二、小声で呟く。

「……最低」

それを聞いた美亜子が良源を白眼視。

「…やれやれ」

そして輪はいつものセリフと共にため息。

「え、えと…?」

やっぱりよく分かっていない乙姫。

そんな妙な空気にずけずけと割り込んできたのは、一番体の大きな僧兵であった。

「ところで良源様、誰です、こいつら?」

「晴明殿の名代だ。名は…、そういえばまだ聞いていなかったな」

そう答えた良源が輪たちのほうに向き直る。

「直江輪、だ」

「本多美亜子よ」

「オレは、真田淳二」

「武田広奈ですわ」

「あの、伊達春樹です」

「わたし、乙姫」

自己紹介終了。

「で、あんたたちは? 良源の部下か何か?」

美亜子の疑問に五人は待ってましたとばかりに反応した。

「よくぞ聞いてくれたっ」

色黒の俊敏そうな僧兵がにやりと笑って答えた。

「我らは良源様直属、比叡山延暦寺が誇る秘密降魔部隊!」

「秘密…?」

「降魔部隊?」

淳二と美亜子が顔を見合わせていると、やおら五人が横に並び出した。

そして…。

一番大きな僧兵が巨大な槍を振り上げまず名乗り出る。

「豪腕の蛮那!」

シャドウボクシングのように左右のパンチからハイキックを見せ、長身の僧兵が続く。

「蹴りの他圧!」

腰に下げていた三節棍を取り出し、ものすごい速さでまわしてから色黒の僧兵が叫ぶ。

「神速の施法!」

口髭の僧兵が細身の剣を両腕に持ち、ひゅんひゅん振ってから突如かかと落しを見せる。

「幻惑の布武!」

手に持った鉄杖をドンと地面に刺し、威風堂々力士のような体格の僧兵が最後に名乗った。

「不倒の叛徒!」

(決まった!)

(よし、息もぴったりだ)

(過去最高の出来だな)

(修行の成果が出た)

(どうだ、格好良いだろう)

実に満足げに五人がポーズを決めたまま爽やかに笑う。

嫌な爽やかさだった…。

……………。

……………。

……………。

……………。

ふたたび沈黙があたりを支配した。

(比叡山の僧侶ってのは、こんなのばっかか?)

輪が内心呆れている。

呆気にとられやっぱり固まっているのは春樹と乙姫。

(まぁ、………素敵)

なぜか広奈はこの奇行を高く評価しており、

「あはははははははっ、最高!」

美亜子は大笑い。

「…………そこで終わったら駄目じゃん」

淳二は腕組みしてなにやら思索していたが、やがてこう進言した。

「あのさ、部隊に名前は無いの? やっぱああいう風に名乗ったら、最後には全員で『五人そろって、降魔戦隊・比叡レンジャー!』とか言わないと締まらないじゃん」

なぜか身振りまでつけて淳二がそう言うと、五人の顔に明らかに動揺が走った。

「五人そろって…?」

「比叡連者。比叡に連なる者か…」

「なるほど!」

「五人そろって比叡連者か…」

「…格好良い」

大の男五人が、なぜか感動していた。

淳二の一言は彼らに多大なるカルチャーショックを与えたらしい。

そしてこの日から、彼ら五人は自らを『降魔戦隊・比叡連者』と呼称する事になる。

ついでに言えば、存在が秘密なのにこうも大っぴらに名を名乗るのもどうかと思うが、そこに突っ込むものは今回はいなかった。


それはさておき良源が話に割り込んできた。

「ところで、晴明殿から預かったという書状を見せてもらえるか」

「あっ…」

ようやく広奈はそこで自分が書状を預かっていたことと、それをまだ渡していなかったことを思い出した。

そして懐から書状を取り出すと恐る恐る、と言った感じで良源に近づく。

「あの、これです…」

どこか、良源との距離感を探るように、広奈が慎重に書状を差し出した。

「拝見しよう」

さっ、とまったく温度を感じない様子で良源はそれを受け取る。

そこにはさっきまで熱く愛を語っていた彼の面影はまったく無かった。

その顔を覆った面のように、良源は冷え切っていた…。

「…………………………………」

良源を見つめる広奈の顔が見る見る強張っていく。

そして、悲しげに良源から目を逸らした。

面のせいで表情は読み取れないが、黙って書状を読んでいる良源。

やがて、読み終わると輪たちのほうに向き直る。

「晴明殿からの書状の内容だが…」

それを聞いた全員が、良源の次の言葉に注目する。

全員の耳目を一身に集めたことを確認した良源が、話を続ける。

「今回の作戦の戦力として、そなたらを自由に使ってくれ、とのことだ。ただし、決して人目につかぬように、と」

(その内容に間違いは無いか?)と良源が目で輪に聞いてきた。

こく、と輪がうなずくと良源はさらに続ける。

「それともうひとつ、そなたらの身に魔王の呪いがかかっている。どんな呪いなのか、もしわかるならば教えてやってくれ、と」

「呪い…」

すっかり忘れていたが、確かに晴明は以前そんな事を言っていた。

「そういえば、そんなこと…」

見る見る春樹の顔が蒼白に…。

「で? 分かるの、あんた?」

剛毅にもそう聞き返したのは美亜子だった。

「ふむ…」

と、良源はしばし輪たちをじろじろと見ていたが、やがて小さく頷き、話し出した。

「呪いがかかっている、と言われなければ気付かなかったかも知れん」

「分かったの?」

もう一度美亜子が聞く。

「分かった。いや、正確に言えば、おそらく拙僧で無ければ分からないだろう。そなたらは強い魔の力に惹かれているのだ。自覚しないうちに妖怪、怨霊の元へと導かれている。と、同時にそなたらも魔を惹きつけている。思い当たる節は無いか?」

静かに、しかし徐々に輪たちに衝撃が走る。

これまで自分たちに起こった、常識的に考えればありえない体験の数々。

土蜘蛛、大ムカデ、鵺、天狗、九頭竜、夜刀神…。

遭遇したこれらの妖怪と自分たちが実は惹きあっていた。

だから、こんな短期間に、立て続けにこれだけ……。

じわじわと実感を伴って輪たちの中に良源の言葉が浸透していた。

「そう、言い換えればそなたらは次々と強い力を持った悪しきモノたちと遭遇し続ける“運命”を背負っている。…恐らく、これはそういう呪いだ。現に、こうして拙僧と真っ先に出逢ったのだからな」

ここで、良源の言った最後の言葉、その意味を輪たちが知るのはもう少し先になる。

それよりも、輪たちにとって、呪いの内容のほうが重要だった。

「…それですべて合点がいく」

輪がショックを受けた顔のまま、しかし、事実は事実として受け止めていた。

「だからあの時魔王は“余興”と言ったのですね。異界へとわたくしたちを飛ばし、そこで次々と魔物と戦わせるつもりだったのですわ。そのためにこの呪いをかけた…」

広奈の言葉に淳二がうなずく。

「悪趣味な野郎だぜ、ったく。要するに、ヤツのやったことって、血をぶっかけてからサメのいる海にオレたちを落っことしたようなもん、ってわけだな」

「あ、なるほど…」

淳二のたとえに春樹が納得の表情を浮かべ、しかし納得した結果、その顔は悲しげにゆがんだ。

要するに次から次へとジョーズが襲ってくることが容易に想像できたからである。

この先の未来に明るい材料が見出せない。

世の中には知らないほうが幸せなことがある。

「はン、上等じゃないの。そんなの、片っ端から倒していくだけよ」

対照的に、美亜子はめらめら燃えていた。

「あまり気に病むな。これを払うのは容易ではないが、この戦いが終わったら拙僧が何とかしてやる。まずは大江山の鬼どもを倒すことに協力してくれ」

その良源の言葉は暗闇に射す一筋の光となって5人に届いた。

「分かった」(←輪)

「了解よ」(←美亜子)

「いいぜ」(←淳二)

「わたくしにお任せくださいませ」(←気合が入っている広奈)

「頑張ります」(←春樹)

そして話を聞いていたもうひとり。

「あ、あの、よくわかんないけどわたしも…」(←乙姫)

かくして輪たちは戦いに向け、思いがけずにモチベーションが高まることになった。

この辺、実に巧みな良源の人心掌握術であった。

しかし、ここで僧兵五人がいちゃもんをつけてきた。

「あいや、お待ちくだされ。こやつらも戦うというのですか?」

「話を聞けば、まるで疫病神ではござらぬか」

「しかも、おなごに子供までいる」

「大江山に行ったとて、これでは足手まとい」

「戦いは我々にこそお任せくだされ」

息のあった様子で五人が良源に詰め寄る。

「…そなたらには分からぬか?」

突き放したような、冷たい声が良源の口から発せられた。

そして、(何がですか?)と五人が聞き返す前に、啖呵を切ったのが約一名。

「ちょっとあんたたち、誰が足手まといですって?」

当然、美亜子だった。

(いかん、今の美亜子に“足手まとい”は禁句だ…)

輪が少々焦る。

「言っておくけどね、あたしはあんたらよりは強いわ。足手まといは…」

びしっと美亜子は五人に指を突きつけた。

「あんたらのほうよ」

五人が一斉に色めき立つ。

「「「「「なにをっ!」」」」」

たちまち美亜子の目の前に筋肉の壁が出来た。

対する美亜子は腰に手を当て、倣岸不遜な態度のまま仁王立ち。

屈強な五人に囲まれて、それでも平然と睨み返している。

「いいだろう。ひとつ手あわせをしてみるか?」

良源からの鶴の一声であった。


かくして急遽場所を道場へ移し、練習試合(?)が執り行われることになった。

審判は良源。試合規則だが、相手を殺しかねない攻撃は禁止。刃のついた武器も禁止。

あとは何でもあり。いわゆるヴァーリトゥード(しかも武器有り)である。

当初は勝ち抜き戦だったが「それでは、誰が出ても五人抜きで終わってしまう」という比叡レンジャーと「それじゃ美亜子が五人抜きして終わってしまうだろう」という輪たちの意見により、総当りとなった。

ちなみに、この試合には双方の似たような思惑が秘められている。

まず、輪たちの側としては、どうやらこの“比叡レンジャー”が共闘するらしいので、その実力を見たいという思惑。

もし弱ければ遠慮なく戦力外通告を突きつけるつもりである。

対する“比叡レンジャー”にしても、自分たちの実力を見せ付け、輪たちに戦力外通告を突きつけるつもりであった。

つまり、この試合には双方の思惑が合致しているのである。

どちらが勝つにせよ……。

その試合会場となる道場には練習用にとさまざまな武器がそろっており、まずは試合に使う武器選びである。

「俺はこれにしよう」

手に馴染む感覚、重さ、輪は何本かある木刀の中から普段練習で使っていたのとよく似た木刀を見つけ、それを選んだ。

「あたしはこれにしたわ」

美亜子が選んだのは長さ3mほどの棍だった。

で、淳二は基本的に武器は使わないので、今回も無手。

陰陽道を使う広奈も当然武器は要らない。

それは火縄銃がメインウェポンである春樹も同じだったのだが、彼はおもむろに木刀を選んでいた。

「おい春樹、お前、戦う気か?」

輪が慌てる。

「…うん」

「えっ…?」

さすがに淳二も驚いた。

「あの、大丈夫。いざとなったら変身するし…」

「そうか」

そう言われれば輪も頷くしかない。

「気をつけろよ、ハル」

ぺしぺしと淳二が春樹の肩を叩く。

(…勢いあまってあの技を出さなければいいが)

心配性の輪が、今度は別の心配。

と、その輪の脇に近づく小さな影。

くいっくいっくいっくいっ。

輪の服が引かれていた。

「あの、輪さん、わたしは?」

乙姫だった。

もしかすると自分も戦うのだろうか、という心配でちょっと浮かない顔。

「それはまずいっしょ。この道場を壊しかねないぜ」

さすがに乙姫のあの激流攻撃の威力と、そのひどい精度を知っている淳二が反対。

「そうだな…。良源に言っておくか」

とりあえず、輪が良源の元に乙姫を連れて行った。

「どうした?」

無機質な面越しに良源の目が乙姫を見据えている。

「この子は試合に出したくはないのだが」

良源はあっさりと頷いた。

「確かに、あの五人が束になったとて、龍神に勝てるとは思わないな。そうしてくれ」

「えっ」

乙姫びっくり。

「…乙姫の正体に気付いていたのか?」

輪も少々びっくり。

「そなたらの秘めたる力も、見えている」

「………」

もっと驚いた。

輪の言葉が止まる。

「だが、あの五人はそれが分からぬ。ひとつ胸を貸してやってくれ」

五人には聞こえないように良源が輪に告げた。

それを受けて、輪が頷く。

ちょっと息を吐くと、戦いの決意表明。

「とりあえず、俺たちはこのまま戦うつもりだ。本気でやったら…」

一息ついて輪が良源に告げる。

「…殺しかねない」


◇次回予告!!◇



降魔戦隊比叡レンジャーVS五行戦隊センゴクマンの夢の対決が迫る!

1ラウンド8秒。伊達春樹KO負け。

意外な決着!

「まぐれだ、まぐれ」

「…どうして動かないの?」

緊迫する真剣勝負!

「ちゃーーーーーん、ちゃちゃ♪」

「…格好良い」

そして調子に乗る淳二!

「大丈夫よ、乙姫。あたしほどじゃないけど、輪だって強いのよ」

「やれやれ。手加減するのも技量のうちだぞ」

輪の戦いぶりは?

(も、もういいですか?)

「御免なさい」

春樹は、そして広奈はどう切り抜けるのか!

本格格闘技巨編(←いつの間に?)『陰陽五行戦記第二十七話』

『激闘!千石万ばあさす比叡連者』

お楽しみにッ!!


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