陰陽五行戦記
第一章 ◇平安編◇
|
その目論見は成功し、伸ばした右手が美亜子の左肩をがっしりと掴んだ。 互いに武器を持った状態では分が悪いと思った将門が組み討ちを意図したのである。 だが、美亜子もとっさに身体が反応していた。 本多流槍術には無手の技もある。 「せいっ!!」 柔道の一本背負い投げの要領で美亜子は将門の右腕を抱えて投げに行った。 しかし、完璧なタイミングで入ったはずが、将門はまるで根が生えているかのように持ち上がらなかった。 「くっ!?」 慌てて身体を回転させて正面に向き直ろうとした美亜子だったが、将門の左腕が美亜子を捕まえるほうが早かった。 美亜子は後ろから首筋を抱え込まれ、まるで万力のように締め上げられてしまった。 「獲った!」 美亜子の頭上から勝ち誇った将門の声が響く。 必死で堪える美亜子だったが、両者の腕力の差は歴然。 頭に血が上り、呼吸もろくに出来なくなった美亜子は最後の力を振り絞って叫んだ。 …否、叫ぼうにも首を絞められていたのでかすれるような呟きが漏れただけである。 『…メテオ』 美亜子にとって幸運なことに将門は聞き間違えた。 彼には「やめてよ」と聞こえた。 「やめろと言われてやめるものか」 将門は鼻で笑い飛ばした。 その瞬間。 ひゅ〜〜〜〜〜〜〜ごちっ!! 「ぬおっ!?」 上空から飛来した庭石ほどの大きさの金属の固まりが将門の頭頂部を直撃。 五行の金は五輪の空、そして八卦では天。 美亜子の新しい『五行妖術』は、天空から金属の固まりを飛来させるという“隕鉄落とし(メテオ)”であった。 それは一撃で兜を破壊するほどの衝撃を与え、それにより将門は一瞬朦朧状態に陥った。 美亜子を締め上げていた腕の力が緩む。 その隙を見逃さず、美亜子は渾身の力で将門の腕の中から抜け出すと、右手を懐に入れて“得物”を掴んだ。 そして振り向きざまに居合い抜きのような格好で将門の首筋に神速の斬撃を放つ。 『真空烈破斬!!!』
事態は120%緊迫そのものだった。 緊張、焦燥、諦め、絶望への抵抗、そして一縷の望み。 伊達春樹が九頭竜に飲み込まれた瞬間、輪、淳二、広奈の頭の中にはそんな感情が渦を巻いていた。 (なんとかしなくては…) 春樹を助ける方法を模索する輪。 「今助けてやる」 方法も分からぬままとにかく行動を開始した淳二。 「飲み込まれちゃったの?!」 事態に気付いて驚いている乙姫。 『…デンジャー・エレクトリック…』 ヲルスバンはまだまだ超必殺技の途中。 (首が少し膨らんでいる…まだ体内に入っていない) 春樹を飲み込んだ首は長さが20m近くある。 慌てずに九頭竜を観察していた広奈はわずかな膨らみを察知し、そこに春樹がいることに気付いていた。 完全に体内に到達するにはまだ少し時間的な余裕がある。 「乙姫さま、その首に巻き付いて締め上げて下さい。輪さん、首の根本を攻撃し、完全に凍らせて下さい。淳二さんは二人の援護を」 てきぱきと指示を出す。 その声はこの状況下では鶴の一声となって彼らの元に届いていた。 「分かった」 「おう!」 「うん」 そして自らは小さく呪を唱え始める。 すると九頭竜の前に伊達春樹が現れた。 それは幻覚は幻覚でも視覚のみならず全ての感覚を騙すことが出来る、陰陽道の奥義とも言える究極の幻覚だった。 そのため九頭竜はその存在を感知。 飲み込んだはずの敵が再び目の前に現れた格好。 当然気を取られた。 それをあざ笑うかのように伊達春樹は悠々と九頭竜の目の前を横切り、じりじりと後退していく。 九頭竜の頭がそれを追ってゆっくりと動く。 その隙に乙姫が九頭竜の首に巻き付いて締め上げた。 しかし、一般人がスチール缶を片手で握りつぶすことが出来ないように、乙姫の力では少々持て余している。 「うううう〜〜〜っ」 どれだけ力を入れても無理。 だが、春樹を助けるため、乙姫は頑張った。
常人には絶対不可能な程の跳躍を見せ、九頭竜の胴体の上に飛び乗ることに成功した。 登ってみると胴体の高さは4mほど。 幅は6mにもなろうかというほどである。 見ると九頭竜の胴体は延々と長く、尻尾はまだ50m先の湖の中から出ていなかった。 “九頭竜”という名ではあるが、手足はなく、実体は九頭大蛇といった方がしっくりくるだろう。 輪はその長さに一瞬驚いたものの、すぐにそこから首Dの根本、つまり乙姫の近くまで移動し、渾身の力で首に刀を突き刺した。 堅い鱗を貫き、刀身の半ばまでが首の根本に埋まった。 『凍れっ!』 血が噴き出すより先に、猛烈な冷気が付近の組織を徐々に凍らせていく。 食道を完全に凍らせれば体内に春樹が入ってしまうのを妨げることが出来る。 輪は広奈の意図を理解した。 あるいは首を完全に凍らせてしまえば、あとは脆くなった組織ごと首を切断し、春樹を助け出せるかもしれない。 「間に合ってくれ…」 全てを凍らせるには、しかし首は果てしなく太かった…。
『…レボリューション・ファンタスティック…』 ヲルスバンはまだまだまだ超必殺技の途中。
まだ無傷の首Fが乙姫を狙って攻撃を仕掛けようとしていたのである。 これの排除こそが淳二に与えられた責務である。 「おおおおおおっ!!」 気合いを入れて集中すると淳二の指先に炎が出現。 『くらいやがれ!!!』 そのまま腕を薙ぎ払うようにして淳二は炎を撃ち出した。 それは鎌首をもたげていた首Fの顔面に直撃。 鱗が黒こげになり、炎の熱のせいで一瞬センサーが盲目状態になる。 「これがほんとの九頭竜薙ってな」 ぼそっと呟くと、淳二も首Eの上を駆け上がり、輪の隣に移動した。 そして乙姫に声をかける。 「乙姫ちゃん、ここはオレに任せて一旦空中に」 「う、うん」 自分の攻撃がされほど効いていなかったことを分かっていたのだろう、乙姫は素直に巻き付きを解くと九頭竜から離れるべく上昇を開始。 しかし、その乙姫に対して首Fと首Bが左右から同時に攻撃を仕掛けるべく、鎌首をもたげていた。 基本的に蛇は咆哮をあげることはなく、それは九頭竜も同じ。 シュルシュルと不気味に舌が出し入れされ、その目は獲物を捉えて爛々と輝いた。 しかし、くねくねと上昇中の乙姫は気付いていない。 「輪っ!」 そっちは任せる、という意を込めた淳二からの呼びかけが届く。 淳二は首Fを迎撃する体勢。 となれば首Bは自分がなんとかするしかない。 だが、刀は九頭竜に刺さったまま。 徒手空拳で使えるのは“あれ”しかない。 迷っている時間はなかった。
しかも、兜が破壊されていたため将門の首筋は無防備。 そこへ、美亜子の得物の先から放たれた剣気が真空の刃となって直撃した。 「!!!!!?」 将門の悲鳴は聞こえなかった。 驚愕を浮かべた表情のまま、将門の頭部は胴と別れて空中高く舞い上がった。 勝利を確信し美亜子の口元が笑みを形作る。 その瞬間。 突然将門の胴体が消滅した。 慌てて美亜子が足下を見やると、そこには蜻蛉切に貫かれた人型の紙だけが残っていた。 首から上はない。 「…どういうこと?」 美亜子が呆然と呟く。 その目の前をひらひらと頭部の紙が舞い降りてきた。 左手を伸ばしてそれを掴むと紙には『破軍』と書いてある。 美亜子は右手に持っていたスリッパ(!)を再び懐にしまうと、蜻蛉切を拾い上げた。 穂先に貫かれたままの紙片を手に取る。 「…平将門?」 なにやら複雑な呪文やら文様が書かれていたが、確かに紙の中心には『平将門』の文字が見える。 「破軍…? そして平将門…?」 理解不能だった。 「広奈なら分かるかしら?」 振り返った美亜子は凄いものを目撃することになる。
淳二の最強の『五行妖術』が首Fの口の中を撃ち抜いた。 それで首Fの動きが止まる。 どうやら撃ち抜いた先、脳を直撃したようだ。 だが、淳二はすぐに乙姫に警告を発した。 「乙姫ちゃん後ろ!」 「えっ?」 くねくね上昇中だった乙姫が振り返った。 淳二も振り返り、広奈も、そして美亜子の視線も集中する。 今まさに鎌首をもたげて攻撃を仕掛けようとした首Bと乙姫の間に、輪が割って入った。 首Bの前に立ちはだかり、そして叫んだ。 「直江家直伝、愛と正義のぉぉっ!」 『ラァァァブラブ、ビィィィィィィムッ!!!』
輪の兜、愛の前立てが一際煌めいたかと思うと、そこから“愛”のビームが発射された。 じゅびぃぃぃぃぃぃぃぃ(効果音) それは堅いはずの九頭竜の鱗をあっさりと突き破り、それどころか頭部をそのまま吹き飛ばした。 乙姫は見た。 輪の“愛”が自分を守ってくれた光景を。 もう一生忘れない。
輪の愛がビームとなって九頭竜の首を粉砕する光景を。 そして当然爆笑。 将門を辛くも倒した安堵感もあっただろう、のたうち回って笑い転げた。 「あはははははははははは、ら、らぶらぶびーむ? あぁ〜、おっかしい〜、輪、最高!」
「らぶらぶびーむ、っておい…」 笑うのも忘れて淳二は絶句していた。
「…まぁ」 色々な意味で驚いた広奈は、ついヲルスバンの存在を失念してしまった。
そして…。 『アンビリーバブル・レーザー!!』 すでに存在を忘れられかけていたヲルスバンの超必殺技、「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー」、頭文字を取って通称“Wonderful”が照射された。 が、…外れた。 否、九頭竜が首を高く上げて避けたのだ。 そのため「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー、略して“Wonderful”」はそのまま直進し、結局首Dの中程に命中。 そこはちょうど“飲み込まれたもの”のせいで膨らんでいた。 その微妙な膨らみに命中した「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー、略して“Wonderful”」はその場で大爆発を起こした。 爆発の衝撃で九頭竜の堅い鱗越しに内部組織は大ダメージを受け、首自体も大きく跳ね上げられた。 恐るべき「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー、略して“Wonderful”」の威力。 輪のラブラブビームにも勝るとも劣らなかった。 しかも爆発する分、総合的にはこちらの破壊力の方が上かもしれない。 で、首が跳ね上げられたため、その拍子に飲み込み途中の異物はすんなり体内に入ってしまった。 一方、「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー、略して“Wonderful”」の爆風は四方八方に及び、爆発地点のすぐ近くにいた輪と淳二はその衝撃でそのまま九頭竜の胴体の上から吹き飛ばされた。 「…なっ?! …ぐはっ」 「うに゛ゅっ?! …ぐあ」 そのまま地面に叩きつけられた。 輪に至ってはラブラブビームを放ったあと、恐る恐る振り返ろうとしたところに爆風である。 淳二の失笑、ぐらいは覚悟していたがまさか大爆発が待っていようとは。 衝撃による怪我の痛み、猛烈な恥ずかしさと事態を飲み込めない狼狽が同時に襲ってきて、半ば混乱状態。 落下した地面でしばし呆然。 「痛ってぇ、ヲルスバンのあの技は爆発するんだっけ…、TVとおんなじでやんの…」 一方の淳二はそう独り言。 だが、のんびりしている暇がないことにはたと気付くと、慌てて立ち上がって広奈の元へ駆け寄った。 「広奈ちゃん、ハルの奴は?」 「…もう完全に飲み込まれてしまいました。急いで倒さなくては!」 「くそっ、こうなったら集中攻撃だぜ」 二人はうなずきあうと、そろって自分の持つ最大の威力の『五行妖術』を放った。 『表裏比興拳・六文銭気弾!!!』 『風・林・火・山!!』 二人の攻撃が九頭竜に炸裂。 しかし、ぼろぼろになりながらも九頭竜は恐るべき生命力でその動きをとめない。 それどころか、先ほど春樹を行動不能に追い込んだ毒液を広奈と淳二に向かって発射した。 「危ねぇ!」 「…!」 二人はしかし無事に避けきった。 だが、九頭竜はすぐに次の毒液を撃つそぶり。 「くそっ、こっちの方が厄介だぜ」 ムカデの時も毒の唾攻撃に苦戦した淳二が舌打ちする。 戦線は膠着しつつあった。
「輪さんっ、大丈夫? どこか痛いの?」 真上からかけられたその声に、輪は我に返った。 「大丈夫だ。それより…」 だが、それ以上言う前に乙姫は更に輪のそばまで降りてくると、左前脚をさしのべた。 以心伝心。 輪は乙姫の小指(?)に足をかけ両手で人差し指(?)に掴まる。 それを確認すると乙姫はひらひらと上昇した。 何故かこの時、乙姫は輪のしようとしていることを正確に理解していた。 「よし、ここで静止してくれ」 「はいっ」 輪は九頭竜の最後の首の根本を、俯角30°ほどで狙える位置につけた。 (春樹を助けるためだ。これは春樹を助けるためなんだ…) そう自分に言い聞かせて羞恥心と戦う。 (いやしかし、まさかあそこまで恥ずかしい技だとは思わなかったぞ。もうあれは二度と使うまい。封印だ、封印) せめぎ合う葛藤。 (だが、このままでは春樹はどうなる。今俺が出来ることはこれしかないんだ。覚悟を決めろ。一度使ったらあとは何度でも同じことだ) 輪の精神世界で繰り広げられた戦いは、辛うじて友情が勝利し羞恥心を見事に克服。 そして輪は再び叫んだ。 「直江家直伝、愛と正義のぉぉっ!」 『ラァァァブラブ、ビィィィィィィムッ!!!』
振り返るとラブラブビーム。 さらにはまるでそれにツッコミを入れるがごときタイミングで「ヲルスバン・オリエンタル・ノーブル・デンジャー・エレクトリック・レボリューション・ファンタスティック・アンビリーバブル・レーザー、略して“Wonderful”」が炸裂し、輪と淳二がものの見事に吹き飛ばされる始末。 高みの見物状態だった美亜子は笑いのツボを次々と刺激されて半ば悶絶状態。 なにしろ九頭竜は九本の首のうちすでに八本が倒され、残り一本に現在淳二と広奈が集中攻撃をかけている状態。 ヲルスバンと“春樹”は先ほどから戦況を傍観しているようだし、美亜子の目には楽勝ムードとしか映らない。 しかもとどめとばかりに輪が、今度は乙姫に掴まって空中からラブラブビームを放ったのだ。 「あははははははは、最高! 愛と友情のツープラトンだわ。あ〜、お腹痛〜」 輪のラブラブビームは九頭竜の首の根本を直撃したが、しかし致命傷にはならない。 痛みは感じているらしく九頭竜はのたうち回るのだが、あれだけ動ければまだまだ元気といえるだろう。 この最後の首のタフさは美亜子も目を見張るものがあった。 「…さてと、折角だから助太刀しようかしら」 笑いの衝動も収まった美亜子は、そう呟くとダッシュで“春樹”に近づいた。 「ほら、ハルってば、あんたも戦いなさいよ」 …返事がない。 それどころか振り向きもしなかった。 「ん? なに? 無視する気?」 正面に回り込んで顔を覗き込む。 しかし“春樹”はあさっての方向を向いたまま、美亜子と目をあわせようともしない。 「ちょっとあんた、大丈夫なの? ひょっとして立ったまま気絶してる?」
『表裏比興拳・六文銭気弾!!!』 『風・林・火・山!!』 『ラァァァブラブ、ビィィィィィィムッ!!!』 しかし九頭竜、首筋に二カ所“愛”の疵痕を残しながらも、まだまだ元気。
「あんた、そこまで無視するならこっちにも考えがあるわよ」 懐から伝家の宝刀を取り出すと右手を高々と振りかぶった。 しかし、そこまでしても相変わらず無反応の春樹。 「いいかげんに…」 美亜子は振り下ろそうとしたスリッパを途中で止めた。 背後に異様な気配を感じ取ったからである。 強烈な殺気が突如生まれ、美亜子の背筋が凍った。 何事かと慌てて振り返った美亜子の目に、物凄い光景が飛び込んできた。 九頭竜の様子が一変していたのである。 その身をよじるようにビクンビクンと痙攣を繰り返すと、突如九つの首が一斉に血を吐き出した。 それはあまりに凄惨な光景だった。 さすがの美亜子も思わず顔をしかめた。
自分達の攻撃が決して致命傷になっていなかったことはよく分かっている。 にもかかわらず九頭竜の突然の異変。 理解不能だった。 攻撃の手を休めて呆然と見守ると今度は九頭竜の胴体、堅いはずの鱗に何本もの亀裂が走った。 その数は猛烈な勢いで増え、すぐにそこから血が噴き出してきた。 あっという間に九頭竜が鮮血に染まる。 「どうなってやがる」 事態を理解できない苛立ちに、淳二がそう吐き捨てた。 「えっ? やったの?」 単純に輪達の勝利と思ったのは乙姫。 しかし、輪は口を真一文字に結んだまま、険しい表情を崩そうとしない。 「いや違う…」 とだけ答えて九頭竜の様子を慎重に観察する。 輪だけは上空から見たのでそれに気付いたのだが、九頭竜の身体が傷ついている箇所は胴体全てではなく、九本の首が生えている根元にほど近い部分だけ。 そこがどんどん切り刻まれていくのである。 それも“内部”から…。 「まさか…」 輪はある可能性に気付いた。
いや、時を同じくして全員が見た。 ついに九頭竜の胴体が首に近い部分で二つに分断されてしまったのだった。 ズゥゥゥン!! 支えを失い九つの首が轟音とともに倒れ、地面に横たわる。 その向こう。 すでにぼろぼろに崩壊していた首にほど近い部分から、まるで竜巻のようにして九頭竜の血が、肉片が飛び散った。 辺りの地面が、草が、真っ赤に染まっていく。 強烈な鉄の匂いが辺りに充満し、すでに常人なら気絶しかねない地獄絵図となっていた。 その凄惨な風景の中心に、やがて人影が見え隠れしてきた。 真っ赤に濡れた漆黒の鎧、前立ての三日月。 鮮血と消化液にまみれながら、九頭竜を内部から切り裂いていたのは、……伊達春樹だった。 「え? なんで…、あんたいつの間に……」 美亜子の目には、当然目の前にいた“春樹”が一瞬でそちらに移動したとしか映らなかった。 だが、振り向けばそこに“春樹”の姿。 「へっ?? ハルが二人いる……」 美亜子の手からスリッパがこぼれ落ちた。
『撫で斬り!!!』 それは初めて聞く、まるで地獄の底から響いてくるような春樹の声。 その声と同時に春樹を取り巻くように猛烈なつむじ風が吹き荒れ、その風が真空の刃となって春樹の近くにあるもの総てを切り裂いていた。 それはまるで血の竜巻だった。 堅いはずの鱗を易々と切り裂き、大黒柱のような骨すらもあっさり両断されていく。 『撫で斬り!!!』 『撫で斬り!!!』 『撫で斬り!!!』 叫ぶたびに血の暴風が巻き起こる。 それはやがて九頭竜の心臓に到達し、一際激しく血の雨を降らせる。 広奈が、淳二が、輪と乙姫もあまりにも壮絶な光景に言葉を失った。 だが、彼らと比べても、段違いに大きな衝撃を受けていたのは美亜子だった。 「……ウソでしょ」 その口からは掠れたような呟きがこぼれるのみ。 無論、美亜子が受けた衝撃は“春樹が二人いる”という珍事によるものであった。 しかも片方は残酷無比、破壊力抜群の見たこともない『五行妖術』を駆使してあっさりと九頭竜を屠る始末。 「なにがどうなってんの???????」
何度か巨大な胴体を痙攣させると、やがて動かなくなった。 すでに胴体と両断されてしまった九つの首も、ぴくりとも動かない。 敵の息の根を止めたことを確かめた瞬間、春樹はぱったりと血の海に倒れ込んだ。 それと同時に、九頭竜の巨大な身体が、徐々に崩壊し始めていた。 否、消滅と言った方が正しいかもしれない。 膨大な質量を誇ったはずの身体が塵と化し、その塵も風にサラサラと運ばれ消えていく。 血塗れだった春樹も九頭竜の消滅によってその血が消え、元の鎧の色に戻った。 「ムカデの時と同じか…」 その様子を見た淳二が呟く。 だが、その声には自分の力不足を悔やむ色が混じっていた。 「乙姫っ、春樹のところへ」 「は、はい」 輪の声にそれまで呆然としていた乙姫が我に返る。 そして春樹のそばまで寄ると、輪が飛び降りやすいように高度を下げた。 輪は飛び降りると、うつぶせに倒れていた春樹を抱き起こした。 相変わらずぐったりしたままの春樹の顔を覗き込む。 「なっ?!」 その顔を見た瞬間、輪は思わず驚愕の声を上げていた。 大やけどを負った人間の顔、あるいは強酸を浴びた顔面というのはこうなるのだろうか。 ともかく輪が見た春樹の顔はただれ、皮がはがれて所々肉が露出していた。 特に目の回りの損傷が激しい。 毒が浸透したためか、どす黒く変色している。 「早く治療を…、武田!」 輪に呼ばれるまでもなく、広奈は春樹に駆け寄ってきていた。 春樹が恐らく酷い怪我を負っていることは先刻承知である。 だが、それでも春樹の顔を目にした広奈は、右手を口に当てて悲鳴を飲み込んだ。 「大丈夫か?」 輪に声をかけられて広奈は気丈にも頷くと、春樹の怪我の様子をじっくり観察し始めた。 「治療、出来るのか?」 輪からの心配そうな問いかけに、広奈はきっぱりと答えた。 「はい、陰陽道には治癒の術もありますから…」 だが、そう言いながら傷口を凝視していた広奈はある違和感に気付いた。 同時に輪も気付く。 「これはまさか…。気のせい…じゃないな」 「…ええ。傷が塞がっていく?」 先ほどまであれほど酷かった春樹の顔が、徐々にだったが元に戻っていた。 ただれていた皮膚は再生し、露出した肉の上に新しい皮膚が作られていく。 「ウソだろ…」 信じられない現象を目にした輪が絶句する。 赤く焼けただれた皮膚の上に肌色のペンキで色を塗り直すように、春樹の顔が修復されていく。 全てが元に戻るのに二分とかからなかった。 広奈が準備していた陰陽道の治癒の術はもはや必要なかった。 輪は唖然としたまま言葉もない。 このような超回復が自分にも起きるものかと省みてみるが、先ほどのヲルスバンの超必殺技を受けたときの打撲はまだ鈍い痛みを残している。 軽傷ではあるが、まだ痛むところを考えると、春樹のような回復力が自分にはあるとは思えなかった。 「…このような回復力は、春樹だけが持っているのだろうか?」 半信半疑のまま広奈に問いかけてみる。 同じことを考えていたのか、広奈ははっとして顔を上げた。 そして賛同の意を示すようにゆっくりと頷いた。 「陰陽道で“木”は季節でいえば春。再生と誕生、生命力の象徴です。この回復力が春樹さんだけの特殊な力だとしたら、それは五行の木であるがゆえ、と言うことかもしれません。あるいは別の理由があるのかもしれませんが、わたくしには……」 そこで言葉を濁した。 「どちらにせよ、春樹にはとんでもない回復力があることが、これではっきりした…」 そう言いつつ、輪の脳細胞はぐるぐると回転した。 そして徐々にではあるが、思考がクリアになっていく。 これまで春樹がどんな危機からも無傷で生還していたように見えたが、それは大いなる錯覚だったらしい。 春樹はやはり重傷を負っていたのだ。 そしてそれが瞬時に治癒していたため、自分達の目には無傷と映っていたのだ…。 500m上空からの落下、愛宕山での乙姫の水撃、そして鵺との戦いの時も。 その瞬間、輪の頭の中で何かが一瞬のうちに繋がった。 「そうか、やはりそう言うことだったのか!」 輪は無意識のうちにそう呟いていた。 謎はすべて解けた。 その時、輪の手にやわらかな何かが触れた。 慌てて輪が思考の海から浮上してくると、広奈が輪の手の上に自分の手をそっと重ね、真剣な顔で輪の顔を見つめていたのである。 目と目が合う。 広奈は躊躇無く輪の顔に自分の顔を近づけてきた。 愁いを帯びた目が、蠱惑的な薄い唇が、輪との距離をつめる。 (…☆〒括刀I?) 輪は自分の頬が上気するのを感じた。 「輪さん…」 広奈の吐息が頬にかかり、輪は座ったまま背筋をびしっと伸ばし、カチコチに固まった。 心拍数が増加し、のどがカラカラに渇く、何か言おうとするが言葉が出てこない。 輪が狼狽の極みに達しようとした瞬間。 「そのことはくれぐれも春樹さんには内密に…」 広奈が輪だけに聞こえるように耳元で囁いた。
広奈は何事もなかったかのように輪から離れ、軽く首をかしげて典雅に微笑んだ。 要するに広奈も事件の真相を、鵺に襲われたとき、春樹に何が起きたのかを理解したのだ。 真相を話せば春樹が傷つくかもしれない、そう思って輪に忠告したのだった。 他の誰にも聞こえないように、顔を近づけて。 その様子を乙姫はしっかりと見て、ばっちり誤解を深めていた。 「やっぱり広奈さんも……」 乙姫の頭の中では四角関係が成立しつつあった。
慌てて振り返ると、しかし将門の姿はなく、ヲルスバンと“春樹”の間に立ちつくす美亜子の姿を発見した。 心なしか美亜子は唖然とした表情のまま固まっているように見える。 輪と広奈が倒れている春樹の元に駆け寄るのを見届けた淳二は、美亜子のことが心配になったのでそちらに行くことにした。 「美亜子ちゃん、将門は??」 無味乾燥の答えが返ってきた。 「倒したわ」 それを誇るでもなく、喜ぶでもなく、淡々と事実を述べただけ、といった感があった。 「さすが!」 「……」 賞賛の声にも返事がない。 淳二は内心首を傾げた。 どうも美亜子の様子が変だ。 「どうしたの?」 「あのさ、ハルが二人いる、なんてのはあたしの気のせいだよね………………」 淳二はしっかり見ていた。 広奈がこの春樹の幻覚を作り出す様子を。 そして美亜子の狼狽の原因に思い当たると、不意におかしさがこみ上げてきた。 「美亜子ちゃん、これは広奈ちゃんが作った幻覚…」 そこまで言ってあとは笑ってしまう。 「幻覚…??」 淳二は初めて見た。 ぱちぱちと目を開き、きょとんとした美亜子を。 その無防備な表情を。 (ヤバイ、可愛い…) 戦いが終わったヤングメンはそろって青春していた…。
少し遅れてそう返事をした輪は、狼狽を悟られぬようにと慌てて立ち上がった。 「か、刀はどこに行ったかな……」 あたふたとその場を離れる。 「おかしな輪さん」 あとに残った広奈がくすくす笑う。 と、輪が振り返った。 「そうだ、春樹の傷だが、武田が治癒した、と言うことにしておこう。本人やあそこの二人にはそう伝えた方がいいだろう」 そう言って目で美亜子と淳二を指し示した。 広奈はしばらく考えていたが、やがて静かに頷いた。 「もし、春樹さんがまたこのことを覚えていなかった場合は、それがいいと思います」 「ああ」 そして輪は先ほど言ったように自分の刀を探して歩いていった。 広奈も、それから思い出したかのように春樹の幻覚を消した。 ヲルスバンもこの段階で『任務完了』である。 今回の戦闘の戦果:九頭竜の首C撃破、首Dに軽傷、直江輪に軽傷、真田淳二に軽傷、伊達春樹に重傷。 多少味方を巻き込んだものの、まずまずの活躍である。 そのころ、ちょっと離れたところでは乙姫が頬を膨らませていた。 といっても龍の姿をしているので外見上怒っているのかはよく分からないのだが。 ともかく、少々乙姫は拗ね気味だった。 「あ〜あ、もっと頑張らないと、輪さんきっと振り向いてくれないなぁ…」 そう呟いてため息。 ふしゅぅぅぅぅぅぅ!! 龍だけに盛大なため息が漏れた。 一方輪の探している刀はすぐに見つかった。 九頭竜が消滅したあと、そのまま落下し、地面に刺さっていたのである。 それを引き抜いた輪は、すぐ近くに見慣れない刀が鞘に収まったまま落ちているのを見つけた。 「…なんだ?」 自分の刀を鞘に収めると、近づいていってその刀を拾い上げた。 「変わったデザインだな…、まるで…」 しげしげと見やる。 鞘は蛇の胴体をあしらっており、刀の鍔は蛇の頭が八つ、45°ずつの間隔で鎌首をもたげているデザイン。 そして柄は一際大きな蛇の首。 どこか恐ろしく、しかし美しくも感じる。 「そう、まるで九頭竜…」 輪の手が吸い寄せられるように柄を掴み、しかし、抜刀は叶わなかった。 刀が鞘から抜けないのである。 「…むっ!」 力を込めてもぴくりとも動かない。 輪は首を傾げると、振り向いて、美亜子と淳二を呼んだ。
その剣を見た広奈の言葉。 「あれでしょ、草薙の剣。要するにこいつもオロチの仲間だから、退治されたら剣が残ったってわけだ」 そしてこれは淳二の分析。 「だが、誰も抜けないと言うのが解せないが…。まさかエクスカリバーでもあるまいし」 不満げな輪。 美亜子も、淳二も、そして広奈もこの刀を鞘から抜くことが出来なかった。 「じゃ、あとはハルが起きたらやらせてみればいいでしょ。それより、これを見て」 そう言って美亜子が4人に見せたのはさきほどの人型の紙である。 切り離された頭部に『破軍』、そして胴体にはなにやら複雑な呪や模様が書いてあり、中心には『平将門』の文字が読みとれる。 「将門を倒したと思ったらこの紙に変わっちゃったのよ。なんなのか分かる?」 「これは…護法神、つまり将門を模して作られた式神ですわ。将門ではありません」 「なんだと?」 輪の顔色が変わる。 折角将門を倒して目的を達成したとばかり思っていたのだが、現状は甘くないようだった。 その紙をしげしげと手に取っていた広奈だったが、だんだんと表情が険しくなっていった。 ゆっくりと顔を上げると全員の顔を見渡し、トーンを少し落として話し始めた。 「これは陰陽道の中でも北斗七星に対する“属星信仰”を取り入れた、かなり強力な護法神を作り出す技術です」 そして手に持っていた形代を見せる。 「『破軍(はぐん)』というのは陰陽道で言う北斗七星のうちの一星です。他に『貧狼(たんろう)』『巨門(きょもん)』『禄存(ろくそん)』『文曲(ぶんきょく)』『廉貞(れんてい)』『武曲(ぶきょく)』の六星があります。つまり、残り六人“将門”がいる可能性が…」 「マジでか…」 絶句する淳二。 輪と美亜子もそろって衝撃を受けていた。 あれだけの強さを誇った相手が単なる式神で、恐らくそれより強いであろう本物が別にいるということになる。 「作戦の練り直しが必要だ……」 輪が頭を抱えた。 広奈の言うとおりだとすると、将門にはあと6人の影武者がいると言うことになる。 それも、一人一人がとんでもなく強い…。 果たしてこの状況で本物の将門を倒すことが出来るのだろうか。 最悪の場合“7人の将門”と同時に戦うことになるかもしれない。 途轍もない作戦の困難さが予想された。 輪の表情がどんどん暗くなる。 それを見て広奈が控えめに申し出た。 「もしかすると、この残された“形代”を使えば残りの式神の位置が割り出せるかもしれません。試してみますね」 その広奈の一言に輪は顔を上げた。 幾分表情に安堵の色が見え隠れ。 「式神の位置を特定できればひとまず作戦の立てようが出てくるな。よろしく頼む」 「はい。…あの、それで少し時間がかかりますし、集中したいので、皆さんは春樹さんを」 広奈に促されて三人がこっくりと頷く。 相変わらず気絶したままの春樹を目覚めさせ、事情を説明しておく必要がある。 「わかったわ、がんばって!」 美亜子が広奈の肩を軽く叩き、春樹の方へ向かった。 「頼むぜ広奈ちゃん」 淳二もそれに続き、輪も広奈と目を合わせると小さく頷き、春樹の元へ。 三人が離れると広奈は呪を唱え始めた。 形代を地面に置き、その前で両手を複雑に交差させ、不可思議な術に没頭していく。
その一方で…。
振り向くと“ろくでもないことを考えているときの顔”で美亜子がにじり寄ってきた。 しかも、んふふふふ〜♪ とその口からは笑いが漏れている。 「いや〜、さっきのあれはあたしびっくりしちゃったわ〜」 そう言ってぺしぺしと輪の肩を叩く。 輪は瞬時に迎撃体勢に移った。 「そう、俺も驚いたぞ、よくも一人で、いくら式神とはいえ将門を倒したものだな。淳二もそう思うだろう」 「へっ?」 切り返されて美亜子が一瞬言葉に詰まる。 「んにゅ? まぁ、そうだねぇ〜」 で、淳二が会話に加わってきた。 「一体どうやって倒したんだ? 俺も淳二も九頭竜の方にかかりっきりだったから、よく見ていなかったんだ、なぁ淳二」 「そうそう、将門ってどれくらいのもんだったの? オレとか輪でも倒せる??」 結局美亜子はまんまと輪の策にはまった。 「え? ま、そうね、非常識なくらい堅くて攻撃がなかなか通らないのよ。鉄のかたまりを攻撃しているみたいな感じ。あんた達だったら苦戦は必至ね。しかも胴体に大穴開けてやったのに血が出ないし、その上そのまま組み付きに来るし…」 と、美亜子は輪の目論見通り、当初の話を忘れて将門との戦いのことを自慢げに話し続けた。 あとは適当に相づちをうったり質問を投げかける。 (よしよし、“あの件”には絶対に触れさせてたまるものか) ふ〜やれやれと輪が内心汗を拭う。 「…というわけで、首を飛ばしてやったらさすがに紙切れに戻ったってわけ」 「スリッパで?」 「そうよ」 自信満々に美亜子が胸を反らす。 「なんつ〜、非常識な…」 淳二は絶句。 (まぁ、美亜子だし、有り得ない話じゃないが、相変わらずでたらめな強さだな) 一方の輪は淳二ほどは驚かない。 一応付き合いが長い分、その手の話には免疫が出来ている。 …と、ふと美亜子が我に返った。 「あ…、それはいいとして、輪〜♪ さっきの…」 「そう、さっきの春樹のあの状態は尋常じゃなかったな。『五行妖術』の破壊力も桁違いだったし。しかも『撫で斬り』と叫んでいただろう。この『撫で斬り』という言葉、どうも聞き覚えがあるような気がしていたんだが、さっき思い出した。戦国時代、あれは確か天正13年だから、伊達政宗にとって家督を継いで間もなくのことだ。芦名氏の傘下に入り政宗に背いた大内定綱の城を攻めた政宗は、城内の人間、800人あまりを一人残らず惨殺させたことがある。将兵だけでなく女子供や、馬や牛などありとあらゆる生き物が殺された。この虐殺が『撫で斬り』と称されるんだが、この一件で奥州の大名は震え上がり、以来政宗は独眼竜と呼ばれ、奥州を席巻することになる。俺にはなんだか春樹が『撫で斬り』という技を使うことが恐ろしく感じるな。政宗は幼い頃はそれこそコンプレックスの固まりで気の弱い少年だったそうだが、成長するにつれてどんどんふてぶてしく、派手好みになって行くからな。太閤の時代になっても領土欲だけは人一倍だ。度し難いとはこのことだな。お陰で直江兼続にとって、生涯の頭痛の種だ。関ヶ原の時など政宗がいたお陰で家康の軍勢を追撃できなかったからな。ま、政宗はともかく、せめて春樹はそうなって欲しくないな。そう思うだろう美亜子」 輪は一気にまくし立てると、最後にいきなり美亜子に話を振った。 「へっ? あ、聞いてなかった」 「そうか、ならいいが、ともかく春樹を起こさなくてはな」 そう言ってすたすたと美亜子に背を向けて歩き出した。 (やれやれ、うまく誤魔化したか…) 再び内心で汗を拭う。 しかし… 「らぶらぶびーむ(笑)」 「ぐあっ」 美亜子の方が一枚上手だった。 慌てて輪は振り返ると猛然と抗議する。 「いいかっ、その話は忘れろ。二度と口にするな」 「やだ」 「やだじゃないっ」 「やだ」 「おい」 滅多にないことだが輪が本気で怒声を上げた。 しかし、輪が逆上すればするほど美亜子を面白がらせるだけである。 「何を恥ずかしがってるの? 素晴らしい技じゃないの〜♪ あんないいものを持っていたならもっと使いなさい。ね〜淳二♪」 「そうそう、乙姫ちゃんを守るために放たれた“らぶらぶびーむ”。う〜ん、愛だねぇ〜。幸せ掴めと轟き叫んでたもんなぁ〜」 淳二までが面白がって同調する。 そして二人して爆笑。 「くっ…………、やっぱり使うんじゃなかった…」 怒りと羞恥に震えながら輪がぼそりと呟く。 「そんな! 何を言ってんのよ。あたしはあの技を褒めてんのよ! それにこれからもあんな強敵は一杯出て来るんだから。技の出し惜しみなんてして欲しくないわ。あんたの力だけが頼りなんだから」 一応まじめな顔をして言っているが、輪は長年の経験から美亜子が自分をからかって遊んでいるだけだということをよく分かっていた。 要するに面白いからもっと使え、と言いたいらしい。 「嫌だ、二度と使わん」 「ええ〜、あたしが危機に陥っても??」 「使わん」 「あ、酷い、乙姫は助けたのにあたしは助けないの??」 「当然だ」 「…ロリコン」 「なにっ」 「ふんだ、所詮輪は年下の可愛い子しか助けないのね。このロリロリ大王」 「くっ、言うに事欠いて…」 「なによ〜、事実じゃないの」 ぽむっ。 それを聞いて淳二が手を打った。 「なるほど、クラスの女子どもを騒がせていた“直江輪モ〜ホ〜疑惑”は解消された!」 そしてしみじみと呟く。 「まさかロリコンだったとは…」 謎はすべて解けたぜ、って超納得顔で輪のことを見る。 「納得するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 輪の絶叫が響き渡った。
こっそりあとがき。 今回の十八話はかなりの力作です!
・・・いや、単に長かっただけ、とも言いますが(笑)
首@〜C、E〜H
体力75 敏捷力12 知力4 生命力14 首D
体力130 敏捷力13 知力5 生命力16 胴体
体力1000 敏捷力10 知力− 生命力16
おまけ考察。 |