〜大長編オリジナル日本史ファンタジー大河ドラマ小説〜

陰陽五行戦記

第一章 ◇平安編◇

第十五話「女陰陽師誕生!?」



◇真田淳二&伊達春樹◇


オレがなんとかハルの奴を泥から引きずり出した頃には、もうみんなが崖の上の方に集まってきていた。

輪と美亜子ちゃんがたいまつを掲げてこちらを覗き込んでいるのが見える。

とりあえず、オレはハルの口元に手をあててみたが、呼吸は止まっていない。

一応生きている…、でも身体中の骨とかバラバラかもしれないな。

迂闊に動かすとヤバイかも…。

そう思って更に観察したが、なにやらハルの顔が妙に安らかでまるで寝ているようにも見えなくもない。

……ひょっとして軽傷か?

オレはそう判断した。

「とりあえず、乙姫ちゃんの念力か、晴明さんの式神で運んでほしいんだけど〜」

上に向けて声をかけると晴明の式神が二体飛んできた。

身長2メートル以上、仏像の阿修羅とかみたいなごつごつした鎧を身につけ、凶悪な顔をした晴明の式神。

一体が軽々とハルの身体を抱えるとふわっと飛んで崖の上に戻っていった。

で、もう一体はオレを抱えると同じように飛んでいく。

これは楽ちんでいいなあ〜。…ん、てことは晴明はこうやって式神に運んでもらって朧車の先回りをしていたのか。

納得。

崖の上の方にはこれで全員そろっていた。

オレはひらりと式神の腕から飛び降り、みんなを安心させるために声をかけた。

「一応生きてるよ。なんかあんまり怪我してないかも。結構頑丈だね」

それを聞いて一番安心した表情を浮かべていたのは乙姫ちゃんだった。

全員の視線を集めたまま、いわゆるお姫様だっこの状態から式神が気絶したままのハルをゆっくりと地面に降ろした。

ぺた…。地面に背中をついた瞬間、ハルは唐突に目を開けた。

「あっ、気が付いた? よかった〜」

乙姫ちゃんの声には安堵の色が濃かった。

ハルは1秒ほど目をぱちぱちさせて自分の置かれた状況を確認し、自分を見つめるオレ達一人一人の顔をゆっくり見ると、最後に自分をだっこしていた式神の顔を凝視した。

これが魔王だ、といわれたら素直に納得しそうな凶悪なお顔が春樹の視界一杯に広がっていた。

当然それを間近で直視したハルは…。

「は、はぅぅぅぅぅぅ」

ぱたっ。

もう一度気絶し直したのは言うまでもない。

ま、無理もないか、春樹はここに着いたときに気絶していたから式神を見ていないもんな。


結局晴明が式神を消してからもう一度オレが活を入れてハルの意識は戻った。

「よっ、生きてるか〜?」

「大丈夫ですか、春樹さん。どこか痛いところはありませんか?」

オレと広奈ちゃんが聞くとハルはちょっと不思議そうな顔をして静かに起きあがった。

「ええと……、どこも…」

そう言いながらまず両手をわきわきと握ったり振ったり、それからおもむろに立ち上がって準備運動するように全身の動作確認。

「あれ? 全然どこも痛くない」

「嘘でしょ〜?」

驚きの声を上げたのは乙姫ちゃん。

うん、オレもその気持ちは分かるぞ。

ていうか乙姫ちゃんのあの必殺の激流攻撃を喰らって全身打撲を被ったオレとしては、あれで無傷なのは信じられないんだが…。

「え? でも、全然大丈夫だよ」

ぺしぺしと自分で鎧の各所を叩いて痛いところはないか、と調べていたハルだったが、本当に無傷らしい。

「そっか〜、良かったぁ。春樹さん凄く頑丈なんだね」

「きっと運が良かったんだよ」

にこにこ。

「…それはないと思う」

ハルの奴に限って“運がよい”なんてことは有り得ない。

オレの呟きを聞いて美亜子、輪が小さく頷いていた。

ま、ともかくオレには信じられなかったが、ハルはあの大惨事から無傷で生還したわけだ。

まずはめでたしめでたしだ。

ハルが無事だったのでオレ達の間に安堵の空気が流れていたけど、晴明の一言でそれは消え去ってしまった。

「怪我がなかったのであればすぐに撤退するぞ。愛宕山の天狗は全滅していた」

晴明の一言は氷の刃を一振りしたかのようにオレ達を凍り付かせた。

「…なんだって」

「うそでしょ?」

実際に愛宕山の天狗と会ったことがある輪と美亜子が、信じられないという表情のまま呆然と聞き返した。

「式神に探らせたが生きて動いている天狗は一匹もいなかった。少なくともこの愛宕山にはもういない」

「ええと、敵は?」

オレは輪や美亜子ちゃんと違ってその天狗とは会ったことがないからショックも小さかった。

だから割と平然とこういうことが聞ける。

で、晴明はというと天狗の全滅も計算のうち、みたいな表情のままである。

「すでに引き上げたあとらしい、鬼も、天狗もいない」

平然を装っているのか、本当に何も感じていないのか、判断が付かない。

結局…、これ以上ここにいても意味はない、ということで撤収と相成った。


帰りの道中、晴明から更に詳しい説明があったんだけど、オレはもう疲れていたせいか、あまり頭に入ってこなかった。

一応分かったことを簡単に整理すると、天狗とか鬼とかそういういわゆる“妖怪”は死んだら身体が消滅するから死体は残らないそうだ。

言われてみれば、オレらが倒した大ムカデも消えちゃったし、不思議だけどこれは事実。

だから、本当に全滅したかどうか、まだ決まったわけじゃないんだそうだ。

なにしろ死体が残らないって事は、本当に死んだのか、今からじゃ確かめようがないんだから。

てなわけで、一応は一縷の望みも残っているということ。

そしてもちろん、襲撃した側の鬼も本当に天狗に勝って引き上げたのか、逆に全滅したのか、調べようがないんだ。

その辺は、多分明日以降また調べなきゃならないみたいだ。

ともかく、オレ達はくたくたに疲れて山を下り、今度は安全運転の朧車に乗って晴明屋敷に帰った。

屋敷では摩訶那ちゃんの用意していた食事をお腹一杯食べ、用意されていたお風呂に入ってそのまま倒れるように就寝。

とにかく、長い一日だったな……。



◇翌日◇


5人の中で最も早くに目覚めたのは武田広奈だった。

身体に染みついた規則正しい生活リズムは、定刻に広奈の目をきちんと覚ましてくれる。

女性用にと摩訶那が用意した部屋では、まだ美亜子と乙姫が眠ったままだ。

実は美亜子は広奈より先に目覚めてはいたのだが、身体に感じる疲労がまだ取れていなかったので二度寝を実行中だった。

広奈は静かに布団を抜け出すと、用意されていた着物に着替え、部屋を出た。

その手には『超入門 すぐに使える陰陽道 理論と実践』という題名の本が握られている。

部屋を出て少し歩くと広奈は廊下の拭き掃除をしていた摩訶那を見つけた。

その摩訶那も広奈に気が付いたようで、にっこり笑ってその手を休めた。

「おはようございます、広奈さん。お早いお目覚めですね」

広奈も優雅に微笑んで挨拶を返す。

「おはようございます、摩訶那さん。晴明さまはもう起きていらっしゃいますかしら?」

「はい〜、今日は珍しく早起きさんでした。お会いになるんでしたら案内します〜」

「ええ、お願いします」

そうして広奈は摩訶那の案内で晴明の部屋の前までやって来た。

途中男性陣3人が寝ている部屋の前を通ったが、全員まだ寝ているらしい。

「晴明さま〜、広奈さんがお見えですぅ〜」

すぐに簾越しに晴明の声が聞こえてきた。

「分かった、入っていいぞ」

「広奈さんどうぞ。それではウチはお食事の支度をしていますんで〜」

ぺこりとお辞儀すると、摩訶那はそのまま屋敷の奥の方へ戻っていった。

「ありがとうございました、摩訶那さん」

広奈は摩訶那にお礼を言い、すでに堂に入ったような淀みない所作で晴明の部屋の簾をあげた。

「失礼いたします」

礼儀正しく広奈が晴明の部屋へと入っていく。見れば晴明はなにやら難しい顔をして読書中だった。

広奈の姿を認めると、晴明は読んでいた本を置き、単刀直入に切り出した。

「どうやらすべて読んだようだな。それで、…決心は付いたのか?」

「はい、そうすることで、現状を変えることが出来るのでしたら」

「危険は承知の上だな?」

「………」

無言のまま広奈はしっかりと頷いた。

「分かった。では、早速始めるぞ。まずは付喪神との融合体になってくれ」

「『陰陽武道士』…のことですか?」

「ああ、そうだ。霊力が高ければ少しは危険が減るかもしれないからな」

「…はい」


◇数刻後◇


少々疲れた顔で晴明はふらりと部屋を出ると、摩訶那を呼びつけた。

「はい〜、何か御用ですかぁ?」

にこにこと摩訶那が聞くと、晴明は一言。

「全員を集めてくれ。面倒だが、説明しておかねばうるさいだろう。至急だ、寝ているならば起こせ」


すでに起きて着替えていた輪と美亜子、まだ寝ていたため寝間着姿の淳二と春樹、そして乙姫。

何事かと怪訝そうな彼らを前にして、晴明が口火を切った。

「集まってもらったのは他でもない、少々貴殿らに説明しておかねばならないことがある」

「それは? 広奈がいないことと関係あるの?」

柳眉を寄せて美亜子が聞き返すと晴明は小さく頷き、淡々と話し始めた。

「武田広奈には先ほど『求聞持聡明法』を私が独自に改良した秘術を施した。術の余韻で今は気を失っている状態だ」

「ぐもんじそうめいほう? それってなに? なんか危ない術なの?」

淳二が心配そうに尋ねた。いつの間にか眠そうだった顔が真剣なものに変わっている。

「記憶力を極限まで高め、天才を生み出すことが出来る密教の秘術、それが『求聞持聡明法』だ。私はそれを改良し、同時に精神容量を増大させ、さらに陰陽道の知識を記憶に刷り込むようにしたのだ。上手くいけば目覚めたときには、武田広奈は陰陽師としての能力を持つことが出来るだろう」

“独自に改良”という言葉に輪は聞き覚えがあった。

そう、確かなんとか法を独自に改良した術で自分たちはこの世界に召還されたのだ。

それを思い出すと輪は急に不安に襲われた。

なにしろ晴明が独自に改良した術は失敗の可能性があるということを自ら体験しているのだ。

「危険はないのか?」

身を乗り出すようにして輪は聞いていた。

当然口には出していないがその顔にはまた失敗しないだろうな、と書いてあった。

晴明もそれを感じ取ったのか、ちょっとむっとして返答した。

「……術そのものは成功した。ただし、術を施された武田広奈の精神が急激な術の効果に耐えきれなかった場合、もう二度と目覚めることなく、そのまま精神が崩壊してしまう可能性もある」

「…崩壊って、そんな危険なことをどうして?!」

晴明につかみかからんばかりに怒りをあらわにしたのは美亜子だった。

「本人がそれを望んだからだ」

きっぱりと晴明が断言した。

「…広奈ちゃんが?」

呆然と淳二が呟き、輪も(一体何故?)と俯いて考えていた。

「自分が陰陽道を使えるようになることで、この状況を変えたいそうだ。…もとの世界に戻る方法を見つけるためにも陰陽道を知りたい、と」

「……そんな」

春樹が泣きそうな顔で絶句していたが、晴明は冷たくそれを一瞥すると更に話を再開させた。

「もう一度言うが、これは本人が望んだことだ。そしておそらくは貴殿らに心配をかけまいとして誰にも知られぬうちに術をかけることを選んだのだろう」

それを聞いて全員が沈黙した。

広奈自身が選んだことでもあるし、なにより今となってはどうしようもない。

ただ彼女が目覚めるのを待つしかできないのだ。

悄然とした空気が漂い、重苦しい沈黙に包まれた場をなんとかしようと考えたかどうかは分からないが、晴明はしばらくしてからフォローを入れていた。

「言っておくが、これは分の悪い賭ではない。武田広奈は陰陽師としての素質は相当に高い。さらに、急に陰陽道の体系を詰め込む危険を避けるためにあらかじめ陰陽道の入門書を渡して予備知識を持たせておいてある。短期間だったが手を尽くして術を施しているのだからな」

それを聞いた輪は、だが、全く別のことを聞いた。

「いつ目覚めるかは分かるのか?」

輪の問いかけには答えずしばらく晴明は沈黙していたが、唐突に口を開いた。

「……試してみたいことがある、私の部屋まで来てもらおう」

それだけ言ってすぐに晴明は立ち上がると部屋から出ていってしまった。

後に残された4人は顔を見合わせると仕方ない、といった表情で晴明に続いた。

そしてそれを見ていた乙姫が輪の元に駆け寄った。

「あの、輪さん…、大丈夫なのかな?」

一体何に対して大丈夫なのかと聞いたのか、乙姫は自分でも分からなかった。

ただ、衝動的にそう聞かずにはいられなかったのだ。

おそらくこの場を支配していた漠然とした不安感を人一倍敏感に感じ取り、ナーバスになっていたのだろう。

そして輪はじっと自分を上目遣いで見つめる乙姫に、不思議な既視感を感じつつ自分の不安を押し殺すようにして微笑んだ。

「大丈夫だ」

そう言ってぽんぽんと乙姫の頭に手をやる。

それは輪がよく綾瀬を安心させるためにする動作だった。

乙姫がこっくりと頷くのを見て、輪は小さく笑うと先に行った3人のあとに続いて歩き出した。

「………輪さん」

乙女チックポーズのまましばらく固まっていた乙姫だったが、はたと気付くと慌てて4人の後を追った。

そこで一体何が行われるのか、乙姫自身見届けたいと思っていたのだ。

部屋の前まで来ると晴明は振り返り、4人にこう言った。

「まず全員付喪神…、いや、そちらの言葉で言うならば『陰陽武道士』に変身をしてもらおう」

「なんで?」

美亜子が聞く。

「五行説の話は覚えているな。貴殿らを五行相生の理に当てはめて円陣を組んでもらう。上手くいけば武田広奈の霊力を一時的に高めることが出来るかもしれん」



部屋の前で4人に説明をし終えると晴明は簾をあげた。

晴明に先導されて部屋に入った4人はすでに変身を終えている。

そして彼らが見たものは、結跏趺坐を組み、俯いたまま意識を失っている広奈の姿だった。

ただし、普通の姿ではなく、すでに変身して“楯無”の鎧を纏った状態だった。

その表情は苦しげで、荒い呼吸をするごとに顔から汗がしたたり落ちている。

「武田さん!」

「広奈!」

駆け寄ろうとした春樹と美亜子は晴明によって制されてしまった。

「まだ触るな。結跏趺坐を崩すと余計危険だ」

輪は延ばした手を悄然と引っ込めた二人の肩をぽんと叩くと晴明に向かって言った。

「具体的な指示を頼む」

そして晴明の指示によって4人が配置された。

まず広奈の左に美亜子、そこから時計回りに輪、春樹、淳二と円を描くように並び、淳二は広奈の右に位置する。

これで木、火、土、金、水の順となった。

木は火を生じ、燃えたものは土となり、土は固まり金(鉱物)となり、金は冷えて水を生じ、水は木を育てる。

森羅万象を司るこの流れこそが、五行相生である。

晴明は今この流れをこの5人で再現しようとしているのだった。

「では、まず手を繋げ。武田広奈には肩に手をおけばよい。そして自分の右の相手から力を受けて、左の相手に力を伝えるように霊気を循環させろ」

半信半疑のまま4人は晴明の指示に従った。

輪も初めは何も変化を感じなかったのだが、だんだんと美亜子の左手と繋いでいる右手が熱くなり、体内に力が流れ込んでくる様子を感じ取れるようになってきた。

そして、今度はそれを左手から春樹に送り込むように強くイメージする。

4人がそうやって力を循環させるコツを掴むまでそれほど時間はかからなかった。

連鎖反応を起こすように循環する力が増え、それとともに加速度的にこの5人を取り巻く霊力は増大していった。

「…想像以上だ」

螺旋状に渦を巻くように5人の霊力が高まっていく様を、晴明は驚きとともに凝視していた。

それはいつの間にか晴明の隣に移動していた乙姫にとっても同じだった。

龍神の目を通しても、彼ら5人の纏う闘気が増しているのが分かる。

高まった霊力の渦は風となって部屋をめぐり、簾をはためかせた。

「みんなすごい…」

乙姫の呟きもその音にかき消された。

いつの間にか広奈の手が伸びて、肩におかれた淳二と美亜子の手を握り返していた。

すると更に霊気の巡りが加速し、程なくピークを迎えた。

高まりすぎた霊力が5人の許容範囲を超えようとしたその時、広奈がその目を開いた。

それを確認すると、まるで打ち合わせしていたかのように全員が同時に手を離した。

もはや嵐のようになっていた部屋の風が止み、天高く吹き出していた5人の闘気も元に戻った。

そしてゆっくりと広奈が立ち上がる。

その目には今まで以上の知性が満ち、彼女を取り巻く黄金の闘気の輝きもいっそう増しているようだった。

「気分はどうだ?」

半ば成功を確信しつつ晴明が聞く。

「とても爽快です」

広奈が悠然と微笑んだ。

「みなさんから頂いた力のお陰ですわ」

「よっしゃあ!」

淳二が快哉を叫ぶ。

「良かった…」

春樹も安堵のため息をもらした。

ほっとした空気に包まれた4人の間を縫って晴明が広奈に近寄り、人型に切り抜いた紙を渡した。

その紙にはなにやら複雑な呪が書いてある。

「これが何か分かるな?」

「はい」

「使えるか?」

「やってみますわ」

何事かと他の4人が注目する中、広奈はなにやら延々と口の中で小さく呪を唱え続け、右手で空中に何か印を描いている。

ただし、物凄い集中力がそこで発揮されていることがまわりにも伝わるため、誰一人口を開こうとはしなかった。

永劫とも思われる緊迫した時間は、実際には数分だったのだろうか、最後に広奈は『式神召喚・急急如律令』と叫び、右手で延々と描いていたその印の中に紙を投じた。

すると、その紙は一瞬の後には消え、そこには代わりになにやら奇妙な格好をした人型のものが立っていた。

鈍く銀色に輝くメタルスーツ。

それはTVによくある変身超人ものの王道を、時速350キロで突っ走っているような格好だった。

狐につままれたように固まってしまった一同の中で、しかし淳二だけはぽんと手を打つと驚嘆の声を上げた。

「地球警備ヲルスバン?」

淳二の声に美亜子が早速疑問を挟む。

「…何それ?」

「え? 知らないの? 毎週日曜の朝にやってる人気番組『地球警備ヲルスバン』だよ。主人公『留守守』(るすまもる)が地球を守るためにヲルスバンに変身して“宇宙空き巣”と戦う変身超人シリーズ。これはどこからどう見てもヲルスバンじゃないか〜」

熱弁を振るう淳二。

「淳二さん、分かって下さいましたか」

ちょっと嬉しそうな広奈。

「当たり前だぜ広奈ちゃん!」

見つめ合い、うなずき合う二人。

なにやら妙な連帯感を醸し出している二人を呆然と見つめつつ美亜子が呟いた。

「淳二のやつはともかく、なんで広奈がそんなことを知ってるのかしら」

「あ、それ僕も思っちゃいました…」

春樹が賛同する。

「毎週見ているのかしら」

「……さぁ? 想像したくないです」

この二人はそろって首を傾げている。

そしてただ一人ここまで無言でいた輪が、ようやく口を開いた。

「で、結局のところコレはなんだ?」

「だからヲルスバ…」

「あんたは黙ってなさい」

真っ先に答えようとした淳二に、早速美亜子から突っ込みが入った。

それをちらりと見てから広奈は答えた。

「式神を作ってみたんですけど、わたくしなりにアレンジを加えてみました」

(アレンジって…、変身超人に似せるのがアレンジなのか)

あまりにも突飛な現状に、一同呆気にとられている。

それはある意味“広奈が式神を使いこなしている”という驚きを別方向に逸らすという意味では成功を収めていた。

「…………よく分からんが、術は成功したようだな」

結果オーライな晴明は満足げであった。

そして一瞬遅れて輪が現状を別な角度から把握した。

「驚いたな、本当に陰陽道を使えるようになるとは…」

「そういえばそうだ」

「凄いわ」

「……(こくこく)」

一斉に他の3人も気付いた。

それも、ただ使うだけでなく、すでにアレンジを加えるなどの高等な技術を駆使している。

その事実を4人はしっかりと受け止めていた。

今ここにいる広奈は昨日までの彼女ではない。

『陰陽武道士』でありながら、さらに『陰陽師』としても高い能力を持った広奈に変わっていたのだ。

…そして今度は美亜子の興味がある方向へ行くのは当然のことだった。

つまり、その力を確かめてみたい、と。

「あのさ、広奈、これって本当に強いの?」

そう聞いている美亜子の目は(こいつと戦ってみたい)という意思表示をするように爛々と輝いていた。

「いえ、残念ながら姿を似せているだけですので、TVほど強くないと思いますわ」

「そっか、…動かすことは出来るんでしょ?」

「はい。……ええと、こうかしら?」

広奈がなにやら集中すると、ヲルスバンは突然目の前にいた春樹に向かってパンチを繰り出した。

『ヲルスパーンチ!!!』

「えっ?」

突然の事態に驚く間もなく、春樹の顔面に右ストレート(ヲルスパンチ)がぶち当たっていた。

ごちっ!!

「はうっ!!」

春樹はそのまま衝撃で吹き飛ばされた。

「おおすげぇー、ちゃんと喋ってる」

変な関心をしている淳二。

「ごめんなさい! 間違えました。春樹さん…大丈夫ですか??」

慌てて広奈が式神を消して、春樹に駆け寄る。

しかし当人は至って平気。不思議そうな顔をしているだけである。

「…あれ? 痛くない」

「すいません春樹さん、ちょっと動かすつもりが間違えてしまって…」

ぺこぺこ謝る広奈と大丈夫だから気にしないで、と春樹。

その様子に輪と美亜子が顔を見合わせていた。

ただし、二人が注目しているのは先ほどの春樹が殴られたシーンであった。

「見た?」

「ああ、瞬間的に春樹の闘気が集まって、まるでバリアーのようにしてパンチを防いでいた」

……。

無言のまま頷く二人。

美亜子の頭の中ではすでに式神の強さのことは吹き飛んでいた。

春樹に起こった現象のほうがよっぽどセンセーショナルだったのだ。

なにしろこの二人は『陰陽武道士』に変身した状態で攻撃を受けた瞬間を、初めて至近距離から見たのである。

(どうやら、この闘気には身を守るバリアーのような働きがあるらしいな。もしかして俺達の防御力は見た目以上に高いのかもしれない。なにしろあの土蜘蛛の攻撃にもびくともしなかったからな)

と、輪が思考していると、美亜子は早速行動に移していた。

「ちょっと淳二」

「うにゅ?」

振り向いた淳二の顔面にいきなりパンチ。

「おあっ! …な、何すんだよ〜」

「痛かった?」

「痛いに…、って、あれ、痛くねぇや」

自分の顔を不思議そうに触る淳二。

「輪、見たでしょ?」

「ああ、間違いない。しかし、気のせいか、さっきまでよりも闘気の密度が濃い気がするが…」

(だからこそ、ここまではっきりと見えたのかもしれないが)

そう思った輪自身、自分の体が妙に軽いような気がしてきた。

「なぁ、みんな、自分の身体になにか変化はないか?」

輪の言葉に少々考え込む一同。

最初に口を開いたのは淳二だった。

「まぁ、言われてみれば、妙に体が軽い気がする、よっと」

そう言って淳二は(自分的には)軽くジャンプをしてみた。

と…、淳二の身体は本人も予想しなかったスピードで跳び上がり、そして当然の結果として天井に激突した。

ごちっ。

「にゅむっ」

「あう」

悲鳴を上げたのは淳二と摩訶那だった。

「はにゅぅ〜、痛いですぅ」

そう言って自分の背中をさすっている。

「えっ? あ、ごめん…、って、なにゆえ?」

反射的に謝ってから淳二が気付いた、別に摩訶那にぶち当たったわけではないぞ、と。

そこにすかさず晴明から説明が入る。

「前にも言ったが、摩訶那はこの屋敷の付喪神だ。屋敷が傷つけば摩訶那も傷つく」

「そうなんですぅ。乱暴しないで下さい〜」

「そういえば、そうだっけ。なんかあんまり普通だから人間だと思ってたけど、違うんだもんな。…ごめん摩訶那ちゃん」

そして許してちょのポーズ。

「はい、今度は気を付けて下さいね」

にっこり笑って許してあげますの表情。

無事仲直りでめでたしめでたし……。

「ぢゃなくてだ、おかしいって、オレちょっとジャンプしただけなのにあんなびょ〜んって、で、ごちっだもの」

「淳二、日本語が乱れているぞ。…って、それはともかく、もしかしたら俺達にもさっきの“五行相生”の影響があるのかもしれない」

そこまで言うと、輪は晴明に向き直った。

「それで、模擬戦闘をやってみたいのだが…」



◇そんなわけで模擬戦闘◇


晴明屋敷の庭、建物に被害が出ないようにと晴明が張った防御結界の中、美亜子と淳二が激闘を繰り広げていた。

といってもお互いに手加減はしているので怪我をしない程度の“激闘”である。

ただし、美亜子の槍術、淳二の古武術はこれまで以上に磨きがかかり、より高レベルな接近戦が繰り広げられている。

そして一旦離れると、これまでは接近戦でしか使えなかった淳二の炎、そして美亜子の剣気が飛び道具として使われている。

槍の先から剣気による不可視の衝撃が淳二を襲い、それをかわした淳二がお返しに右腕から炎を撃ち出す…。

まるで格闘ゲームかサイキックアクションの世界である。

その、明らかにパワーアップした戦いの模様を春樹はハラハラと、そして晴明と摩訶那は半ば面白がって見物していた。

そして乙姫はというと先ほどから落ち着かない様子で輪の方をちらちらと見ている。

というのも戦いの様子を一応眺めつつも、輪と広奈が何事か話し合っていたのだった。

(やだなぁ、広奈さんみたいな綺麗な人が輪さんを好きだったら、わたし、かなわないかも)

だが、乙姫の心配は杞憂だった。

この時輪と広奈が話していた内容は、甘い恋の話とは全くかけ離れたものであったのだから。


「で、結局式神を使ったりする方法はどういう理屈のものなんだ?」

“何も分からない”という状況を極端に嫌がる輪の癖で、早速広奈に質問攻撃を仕掛けていたのだった。

一方の広奈は、晴明の秘術のお陰で陰陽道に関する一通りの知識をすでに身に付けている。

それを彼女自身の持っていた現代の知識と組み合わせて、輪に説明しているのだった。

「そうですわね…、順を追って説明しますけれども、まずは輪さん、そこにある石を持ち上げてみて下さいますか」

と広奈が庭先の小石を指さした。

輪は庭に降りていって小石を手にとって広奈に見せた。

「これで良いのか?」

「はい、輪さんは今、石を持ち上げようと思ってから、自分の体を動かして石の側まで行き、自分の手で拾い上げました。わたくしたちが通常生きている“律令”の中では、こうするのが普通、と考えられています。石の方が輪さんに向かって動く事は有り得ない…と」

「律令、とは?」

「普遍的な世界を司っている決まり事です。いわゆる物理法則もこれに当てはまります。ですから輪さんが石を持ち上げたいと思ったとしても、そうするには自分の体を使うしかありません。ですが、陰陽道や真言密教の術では“言葉”によってこの律令に干渉し、律令の仕組みそのものを自分に都合良く変えることによって、通常では有り得ない現象を引き起こしているのです」

そう言って広奈は何事か呪を呟き、軽く手を動かした。

すると輪の持っていた石が勝手に浮かび上がり、広奈の広げた手の上まで空中を飛んで移動した。

「…凄いな」

輪が驚いていると広奈はにっこり笑った。

「今わたくしがやって見せたのは、初歩的な術です。本来石が宙に浮くことはあり得ません。それが律令で決められていることです。ですが、今わたくしはその律令に干渉しました。基本的に陰陽道の術では最後に『急急如律令』と言います。“急急として律令の如くせよ”という意味です。この“言葉”こそが律令に干渉するためのコマンドワードなんです」

「律令の如くせよ、か。なるほど…」

「ところで輪さんはコンピュータの知識はお持ちですか?」

突然広奈が論点を変えてきた。

「一応基本的なことなら…」

「では、コンピュータを例にとって説明しますが、律令とは言うなればウィンドウズなどのOS、つまり基本ソフトウェアに当たります。そのOSに従ってこの世界のありとあらゆる現象が起こっているのです。これはOSに対して個々のプログラムを想像して下さい。今わたくしはOSを通してそのプログラムの基本部分をちょっと書き換えたのです。そうすれば本来宙に浮かない石も、わたくしに向かって飛んでくるように出来るのですわ」

「なるほど、なんとなくわかる気がする」

輪が得心しているので広奈は更に続けた。

「そこで“式神”ですが、これには大まかに二種類あって、ひとつは本来無生物である紙などをまるで生きているように動かす術の事です。例えばこの紙を鳥に変える場合、原理としては“紙”プログラムを強制的に“鳥”プログラムに書き換えて律令に干渉させるのです。そうすればこの紙は律令の上では“鳥”として振る舞います」

そう言いながら広奈が持っていた紙を宙に放つと、それは鳩に変化して飛び去っていった。

「…まるで手品だな」

唖然とする輪を広奈はにこりと見やる。そうして輪が理解してから進めるようになにげに間を取っているのだ。

輪の表情が先を促すものに変わったので、広奈は説明を再開させた。

「…もうひとつは護法神的な式神で、それはある意味生き物であり、術者の求めに応じて“本来この世界には存在しないもの”が現れて使役されます。晴明さまの十二神将やわたくしが先ほど使役して見せた“ヲルスバン”がこれに当たります」

「…よく分からないが、召還獣みたいなものか?」

「ええ、概念としてはそれに近いですわ。ただし、厳密に言うなれば術者の想像の世界から召還されます」

「…想像? つまり、あれは広奈が想像した代物をそのまま呼び出しているというわけか」

「はい、ですから出来るだけリアルな対象の方が式神にしやすかったのです。なにしろ、なるべく“強いもの”を呼び出そうとしましたから」

「広奈の想像の中ではあれが強かった、ということか」

「…はい」

少々照れたように広奈は俯いた。

「想像したものを呼び出せるのなら、……例えば巨大怪獣やそれこそジェット戦闘機なんかも式神として使役できるのか?」

輪の問いかけに広奈は一瞬はっと驚いたような表情を浮かべたが、すぐに思考を終えたのかにっこりと笑った。

「呼び出せると言っても、律令に干渉する術ですから限界があります。コンピュータのメモリを想像して欲しいのですが、プログラムに干渉した場合、本来のプログラムを実行したときに使用されるはずだったメモリ領域を術者が肩代わりしなければなりません。ですから干渉している間、術者は精神領域を干渉のために使い続けなければなりません。ですからいくら干渉できると言っても、術者の精神容量を超えるほどの大規模な干渉は不可能です」

「それじゃあ、巨大怪獣を使役しようとすると…」

「ええ、それだけメモリの容量を取られますから術者への負担も増えますし、結局その精神容量を超える式神は動かすことが出来ません。 普通の人間ならば“自分自身”と言うプログラムを動かすだけでメモリを一杯に使うため、そこに空き容量はありません。陰陽道などの素質のある人間は、その容量が常人よりも大きいのです。ですから自分自身をコントロールしつつ同時に律令に干渉する作業が出来る…。例えば先ほどわたくしが“ヲルスバン”を召還しましたが、その場合わたくしのメモリの何割かが“ヲルスバン”をコントロールするために使われているのです」

「なるほど、では、メモリの領域に余裕があればヲルスバン以外にも武田の想像から式神を召還できるというわけだな」

「基本的にはその通りなのですが、実はこの護法神的な式神はさきほど“ある意味生き物”と言ったとおり、半自律型の式神なのです。ですから術者が式神の動き全てをコントロールする事は事実上不可能なのです。そこで、わたくしの場合、ヲルスバンの基本的な動作などはほとんどルーチン化して負担を減らし、この律令下での存在のみを干渉すれば良い、という状態に細工してあります。つまり、わたくしの書き換え可能メモリの一部をヲルスバン専用のROM、つまり読みとり専用、書き換え不可能な状態にしているために、もうヲルスバン以外の式神は召還できないんです…」

「…………」

輪は難しい顔をしたまま固まってしまっていた。

「……あの、少しわかりにくかったかもしれませんけど」

「ちょっと待ってくれ」

さらに説明しようとした広奈を輪は遮った。

「要するに今現在武田のメモリはヲルスバン専用になっているから、他のものには書き換え不可能、というわけだな」

「ええ、仰るとおりですわ」

「そうか…」

(つまり、武田の頭の中にはヲルスバンが常駐しているわけか…。それはちょっと嫌だな。もうすこし、ましなものはなかったのか?)

輪の思考が脱線しかけたが、広奈の説明が更に続いたので、輪は思考の列車を本線に戻した。

「また、一度にたくさんのプログラム、つまり式神を何体も同時に動かす場合、より大きいメモリ容量が必要です。ですから総じて陰陽師としての力量はどれだけ大きなメモリを持っているかに左右されます」

「そうか、では、無制限に呼び出す式神を増やすこともできないというわけか」

「ええ、その通りですわ。ですからわたくしはヲルスバンだけで限界ぎりぎりですが、晴明さまは文字通り12体の神将を使役できます。術者としての力量は晴明さまの方が遙かに上ですわ」

「単純計算で12倍か」

「ええ。晴明さまが歴史に名を残す陰陽師である所以ですわね」

そう呟くと広奈はそこで一息ついて話をまとめた。

「大まかな説明は以上で終わりですわ」

ご静聴ありがとうございました、といった感じに広奈がぺこりとお辞儀をする。

輪もそれを受けて少し自分の中で与えられた情報を整理してみた。

そして何度か小さく頷くと、広奈に向き直った。

「お陰で概念は理解できた。“律令に干渉”というのがキーワードだな。……とすると、今やってるように淳二が手から炎を出しているのも…」

「はい、あれも律令に干渉しているよい例ですわね。本来手から炎が吹き出すなどあり得ませんから」

「となれば、俺達は全員何らかの形で律令に干渉しているというわけだ。まさしく人知を越えた力だな」

そう言いながら輪は苦笑して肩をすくめてみせる。

「はい、何しろわたくしたち『陰陽武道士』は全員初めから五行に応じて律令に逆らえるようにプログラムされていますから」

広奈の何気ない一言は、しかし今まで輪が悩んでいたある疑問の明確な回答だった。

「ですから、輪さんは水や冷気を自由に操れるようにと、初めからそう決められているんですわ」

「なるほど、葛の葉姫が施した術というのはそう言うことだったのか」

それで、輪は合点がいった。

そのまま思考モードに突入する。

(それで、必殺技を出すためにはコマンドワード、つまり決めゼリフが必要と言っていたのか…)

陰陽師が律令に干渉するために“言葉”を使うように、輪達5人も律令に最も強く干渉する『五行妖術』を使うためには“言葉”が必要となるのである。

そして、輪は思い出していた。そう、葛の葉姫が夢に出てきたとき、なんと言っていた?


(折角だからすっごい必殺技も作ってあげちゃうぞよ☆)

(ちゃんと呪を唱えないと発動しないゆえ注意いたせ。えっとぉ技の名前は何がいいかのう…)


「そうか、確かに初めから決められていたんだったな…」

(だからといって、絶対に使いたくはないがな。あんなセリフ叫べるわけがない…)

苦笑して何度も頷いてから、おもむろに輪がなにやら集中すると、不意に輪の目の前、何もなかった空中に突然水が出現した。

「これも律令に逆らえるように、あらかじめ決められていたのか」

見る見る間に水は増えていき、そして輪が思うままにその形を自由に変えている。

そして“水で出来た透明な人間”といった姿をとった。

「今日突然使えるようになったのにまるで違和感がないのも、そう決められているからか…」

そして輪が指を鳴らすとそれはあっさりと消滅した。

「プログラムされたとおりに能力が現れる…。まるで、俺達は葛の葉が召還した式神じゃないか」

「…ええ、ですから晴明さまが言うように、わたくしたちは付喪神と人間の融合体。半神半人なんですわ」

葛の葉も瑠華も、俺たちの力の源を『式神武戦具』と呼んでいた。

そしてその『式神武戦具』の元となったのは400年以上前の鎧兜の付喪神。

名は体をあらわす。それは最初から分かっていたはずのこと。

「……そうだな。そう言うことだったな」

それっきり輪は沈黙した。

例によって自分の思考の海へと沈降していたのだった。

それを見て広奈は柔らかく微笑むと小さな声で呟いた。

「全ては魔王を倒すため…」


そんな会話があったお陰で理論的に武装された二人は、もはや美亜子と淳二が繰り出した新しい『五行妖術』にもさほど驚きはしなかった。

特に輪などは、むしろ率先して他の3人に潜在能力を使うコツを伝授していたのである。

自分の頭で能力を使う理屈を理解した以上、それを実地訓練に反映させるのは輪のセンスでは容易なことだった。

お陰で5人は5人とも短時間のうちに、それぞれ新しい力を使いこなせるようになったのである。

そして輪は直感的に理解していた。

五行相生の効果はパワーアップではなく、自分たちが力を引き出すために必要な“慣れ”の時間を短縮してくれたのだろうと。



◇さらに数刻後◇


この一連の模擬戦闘の結果として明らかになったことは、おおよそ以下の通りである。

直接戦闘系の3人、輪、美亜子、淳二は明らかに筋力が増しており、戦闘での破壊力が段違いだった。

春樹は霊気銃の連射が出来るようになり、その攻撃力をさらに増していた。

それだけではない、広奈以外の4人がそれぞれ5行に応じた新しい力を得ていたのである。

木の春樹は風と植物を、火の淳二は炎と光を、金の美亜子は金属と剣気を、水の輪は水と冷気を使う新しい『五行妖術』を会得していたのだった。

つまり、使えるように決められていながらこれまで使いきれていなかった霊力を、潜在能力ぎりぎりまで引き出すことが出来るようになっていたのだ。

新たに陰陽道を使えるようになった広奈と、潜在能力を開花させた他の4人。

晴明のアイディアは思いもよらぬ効果を発揮し、明らかに彼らの戦力が底上げされたのだった。

そして、広奈が陰陽道と律令のなんたるかを知ったことにより、戦闘力のみならず知識の面でも彼らは1歩も2歩も先に進むことが出来たのであった。


しかし喜んでいられたのもつかの間だった。

一息ついて摩訶那の作った昼食を食べていた時のことである。

突然晴明がその表情を凍らせると、一同を前にしてこう言った。

「いま、東国に向かわせていた式神から報告が入った。どうやら今日中にも将門と藤原秀郷の軍勢が戦を始めそうだ」

「えっ? 秀郷さんが?」

驚きの声を上げたのは意外にも乙姫だった。

だが、晴明はそれには構わず、更に言葉を続けた。

「討伐軍の軍勢はおよそ4000。だが戦となれば恐らく将門の前に鎧袖一触、あっけなく全滅するだろう」

それを聞いた乙姫は思わず立ち上がって叫んでいた。

「助けに行かなくちゃ!!」



いよいよ平将門登場! そして陰陽師となった広奈と式神“ヲルスバン”の実力は? 

次回を待て。




あとがき春樹

ようやく今回の話で舞台設定(特に輪たちが使いこなす妖術の理論的背景)の説明が出来ました。
何しろ第一話から延々と説明を先延ばしにして引っ張ってきましたからね。
なんか、肩の荷が下りた感じです。(久しぶりに葛の葉姫も出てきたし)
それと、今回唐突に登場した『地球警備ヲルスバン』は以前とりあえず氏の妖魔夜行PCとして私とA.A.O.氏、DIOS氏の3人でわいわい設定を言い合ってノリだけで作ったキャラです。
ですから、まぁ、キャラの著作権(?)はこの4人のもの、ということで…。(だからといって特にどうなるわけでもないけど)
この場を借りてヲルスバンの誕生に関与した3人に感謝したいとおもいます。ありがとね!


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