陰陽五行戦記
第一章 ◇平安編◇
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四神相応の地とは北に山地(玄武)、東に河川(青龍)、南に湖沼(朱雀)、西に大道(白虎)がある土地のことで、古来より都を定める基準となっている。 実際の平安京の地勢は北に洛北の峰、南に巨椋池、東には鴨川が流れ、西には古代最も重要な幹線であった山陽道が九州地方にまで延びている。 この完璧な四神相応の地勢のため、京都は1000年の長きにわたりこの国の首都足りえたのである。 だが、その大呪術都市である平安京にも弱点がある。 それが“鬼門”と呼ばれる東北の方向である。 “鬼門”とは俗に鬼が来る凶方といわれ、都から見るとちょうど比叡山や鞍馬山の方角である。 そのため、その都の鬼門を守るべく、唐から帰国した最澄が一大霊場として比叡山に延暦寺を築いたのである。 だが、現在その完璧な呪術的防御システムは魔王の侵略の前にさらされていた。 安倍晴明の屋敷は平安京の北東、内裏から見た“鬼門”に位置する。 つまり、安倍晴明の屋敷、そして晴明自身の霊力をもって内裏に鬼が侵入するのを防いでいることになる。 さらに、平安京全体の鬼門は比叡山延暦寺が固めている。 その延暦寺は現在比叡山中興の祖、と言われている名僧“元三大師良源”を中心とした、降魔部隊の力でなんとか魔王の侵入を阻んでいるのである。 この二カ所の防衛は完璧であったが、都から見たときに同じ鬼門の方向に位置する鞍馬寺が魔王の手に落ちている。 当然そこから魔王の手の者が都へと侵入、夜な夜な怪異を引き起こしているのである。
悲痛な面もちで晴明に聞く春樹。 …………………………。 すぐには答えず、たっぷりと10秒ほど沈黙してから晴明はゆっくりと口を開いた。 「戻れる見込みは…」 ………。 晴明は再びここで間をおいた。 輪、美亜子、淳二、広奈、春樹。5人は固唾を呑んで次の言葉を待っている。 そして、 「調べてみなければわからん」 がくっ。 5人は一斉に肩の力が抜けた。 身を乗り出して聞いていた淳二などはそのまま前のめりに転けている。 「だがむしろ母様が施したというその『陰陽武道士』にする術に興味がある。一人ずつでいい。実際にその『陰陽武道士』姿を見せてもらおう。戻れる可能性を考えてみるのはその後でいい」 そう言って5人を見やる晴明。魅力的なサンプルを手に入れた科学者の顔である。 「じゃあ、あたしから」 真っ先に立ち上がったのは美亜子。 「あう、先を越された」 と淳二。 何を競っているのか、悔しそうな面もちである。 美亜子はふふんとそれを鼻で笑うと早速右手を高々と突き上げた。 『天下無敵っ!』 瞬間、美亜子の身体は白い闘気に包まれ、高く突き上げた右手の中にはいつの間にか見事な槍が握られていた。 穂先にとまった蜻蛉が真っ二つに切れて落ちるという名槍“蜻蛉切”である。 そして白い闘気にゆらゆらと見え隠れする黒塗りの鎧。 右肩からは金色瑪瑙の六尺大数珠を下げ、青い袖無しの陣羽織を羽織った姿。 陣羽織も右胸のところには「丸に“立葵”」の家紋、そして背中には大きく「丸に“本”」の字紋があしらわれている。 そして何より、特徴的なのが、兜である。 黒毛五枚錣(しころ)鹿角脇立兜と呼ばれるそれは、脇立に大きな鹿の角をあしらい、前立てには角の生えた鬼面を付けた、いかにも戦国時代らしい勇壮なデザインである。 これまではじっくりとその姿を見たことがなかったのだが、よく見ると惚れ惚れするような勇ましい姿である。 兜の鹿角の長さも優に50pは越えているのでそれを全て身に纏った美亜子は一回りも二回りも大きく見える。
とこれは摩訶那。 「わぁぁ、素敵な脱皮」 こちらは乙姫の感想である。 一方の晴明は目を細めてその姿を見やっていたが、ふむふむと頷くとこう言った。 「なるほど、凄まじいまでの“金”の気だな。確かに強い」 「“ゴンの気”ってなに?」 美亜子が聞く。 「そうだな、それは5人全員の『陰陽武道士』姿を見てから説明しよう」 晴明はそう言って勿体ぶった。 「…あ、そ。で? もういいの?」 と、肩をすくめた美亜子。 「ああ、次だ」 小さく頷く晴明。なにやら考え中らしい。 「じゃ、オレ」 今度は淳二が立ち上がった。 『てくまくまやこん♪てくまくまやこん♪』 スパコーーン! 「真・面・目・に・や・れ」 美亜子の目が据わっている。 しかも戦士姿のままなので白い闘気が倍増。 はっきり言って物凄く怖い。 「…残念なり」 落ち込むくらいならやらなければいいのに…。 だが、それをあえてやるのが淳二の淳二たる所以である。 「ほえぇぇぇ」 その様子を唖然としてみている摩訶那。 気を取り直してもう一度。 『真田・日本一ぃ!!』 ぶわっ。 淳二の全身から真っ赤な闘気が吹き出した。 そして赤糸縅(あかいとおどし)の鎧に背中に大きく六文銭の家紋をあしらった真っ赤な陣羽織。 その鎧も籠手の手甲に六文銭を打ち、また草摺(くさずり・鎧の下に垂れて大腿部を守る部分)と佩楯(はいだて・草摺と臑当(すねあて)の隙間を守る両太股の上あたりの部分)には金箔押で六文銭が光っている。 そしてその兜は「赤塗頭形兜鹿角脇立日輪前立」(あかぬりずなりかぶとしかつのわきだてにちりんのまえだて)という長ったらしい名前のものである。 脇立は美亜子と同じく鹿の角。ただし、美亜子のほうは作り物の巨大な角だがこちらは本物の鹿の角。 そして前立は金色に輝く日輪である。 闘気から鎧、兜、陣羽織にいたるまで緋色一色。 これが淳二の『陰陽武道士』姿である。 「ふにゅ〜、こちらも格好いいですぅ」 と感嘆しているのが摩訶那。 すでに何度か見たことがある乙姫はにこにこと見守り、晴明は無表情のまま観察している。 「ふむ、こちらは“火”の気だな。なるほど、となると残りの3人も…。わざわざ5人にしたことにも意味はあったのか」 輪達には意味不明の独り言を呟きつつ晴明は残りの3人を見やった。 「…次」 無表情にそう言って促す。 「俺が…」 今度は輪が立ち上がった。 『愛だっ!』
漆黒の闘気に包まれた輪。そしてまず目に付くのが金箔押の「愛」の一字の前立の兜だろう。 しかもよく見るとその“愛”の一字の後ろには雲を象った前立が付いており、雲の上に金色の巨大な“愛”が浮かんでいるようにも見えるデザインである。 鎧の方も、金の胸板に色々縅、それ以外は黒一色の装い。黒縁で白の陣羽織の背中にも大きく“愛”の一字。 陣羽織も正面側の左胸の上には直江家の家紋である「三つ盛亀甲花菱」があしらわれている。 見れば見るほど、はっきり言ってこれは着る人間を選ぶ具足である。 戦国時代を通してもこれほど特徴的な鎧兜は類を見ない。 そして幸いにも眉目秀麗で長身の輪が着ると、かなりの見栄えである。 が…。 「あ、愛?? ………ぷっ、ぷぷっ、うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、あーっはっはっは、晴明さま晴明さま、“愛?”“愛!?”“愛!!”ですよっ、うわ、凄っ、けらけらけら」 べしべし。 床まで叩いてのたうち回る摩訶那。 それとは対照的なのが…。 「あ、愛?? ………な、なんて素敵。はぁぁぁ〜、“愛”“愛”“愛”、なんて素晴らしい言葉…。かっこいいです…」 乙女チックポーズを決めて輪を凝視したまま惚けている乙姫。 一方の晴明も一瞬だが「ぷっ」と吹き出して表情が崩れた。 だが、すぐに仏頂面に戻る。 (俺だって…好きでこの格好になったわけではないのに…) ちょっと情けなくなった輪である。 気にするな輪くん。愛のために戦うんだ! ……。 ま、それはいいとして。 「なるほど、今度は“水”か。だとすると残るは…」 またぶつぶつと考え事を続けている晴明。 「…次だ」 広奈がまず立ち上がった。 「はい、…あ、春樹さん先にどうぞ」 が、そう言って春樹の手を引いた。 まだ自発的に春樹が戦士姿に変身できないことを気にしていたらしい。 「…は、はい。がんばります」 そう言ってすっくと立ち上がった春樹。 目を閉じて必死の形相で集中する。 そして何故か右目を閉じたまま左目を見開いた。 『独・眼・竜!』 変身…した。 「おっ?」 「ん?」 「へぇ」 「まぁ」 4人が一斉に驚きの声を上げた。 一回で成功したのだ。 成長の跡が見られる。 立ち上る青い闘気。実戦向けの剛健な作りながら“伊達者”らしく、意匠を凝らしたデザインの鎧姿。 雪下胴とも呼ばれる特徴的な胴の黒漆塗五枚胴具足と、伊達政宗のトレードマークとも言える金箔押三日月型の前立の鉄地黒漆塗六十二間筋兜である。 紫羅紗の陣羽織にも背面に大きく「竹に雀」の伊達家紋をあしらう。 「凄い凄い。これは格好いいですね〜〜〜」 ぱちぱち。 思わず拍手する摩訶那。 なんだか、すっかり何かのショーを見ているようである。 「ふむ、これが“木”か。となると最後は…」 そう言って広奈に視線を送る。 こく、小さく頷き広奈も集中。 『御旗、楯無、御照覧あれ』 ゆらゆらと吹き上る金色のオーラ。 他の4人と比べても明らかに様式の異なる古風な鎧。
甲斐の武田氏の重宝として伝わる、新羅三郎義光の鎧、小桜韋縅大鎧、通称“楯無”の鎧である。 金箔をふんだんに使った鎧と同じく金色に輝く鍬形の兜。 広奈の美貌と相まって輝くばかりの美しさである。 「はにゃ〜〜、綺麗ですねぇ〜」 摩訶那はうっとりとそれを見つめている。 「“土”だな。なるほど、面白い。母様もよくもこれだけの逸材を見つけたものだ」 晴明が嘆息する。 「ささ、もういいでしょ。さっき言ってた“ゴン”だか、中山だかわかんないけど、用語の説明しなさいよ」 退屈そうにしていた美亜子が口火を切った。 律儀にも最後まで終わるのを待っていたらしい。 晴明は無表情に頷いて説明を始めた。 「『陰陽五行説』という考え方を知っているか?」 ふるふる。 全員が首を振った。 「詳しく言っても理解できないだろうから簡潔に説明するが、万物には必ず陰と陽、相反する二つの状態がある。能動的・攻撃的・昂進的状態に傾いているものが“陽”、受動的・防衛的・沈静的状態に傾いているものを“陰”と呼ぶ。そしてその陰陽に、五行、つまり「木・火・土・金・水」の五つで森羅万象を範疇化する概念を取り入れたものが『陰陽五行説』だ」 ………。 約半分はこの段階でリタイア。 輪と広奈はなんとか理解しているような顔をしている。 ……。 ふぅ、とため息をついて晴明は言葉を選んだ。 「簡単に言うとありとあらゆるものは「木・火・土・金・水」の五つで分類できる。そしてこれは希有なことに貴殿ら5人のもつ“気”は完全にこの五行に配当されているのだ」 そして5人を順に指さしていく。 「伊達春樹は木」 「真田淳二は火」 「武田広奈は土」 「本多美亜子は金」 「直江輪は水」 指を指し終えると、また説明を再開。 「五行思想は空間、時間、それに数多ある現象を表記する概念としても用いられる。まずはこれを見ろ」 そう言って晴明はなにやら紙にさらさらと書き始めた。
思わずお互いを見やった5人である。 生まれた季節、そして闘気の色、好きな味や、春樹に至っては名前すらこの表の通りだった。 「そして『五行相生』という考え方がある。すなわち“木から火が生じ、火から土が生じ、土から金が生じ、金から水が生じ、水から木が生じる”。これは五行の循環を表している。逆に五行の対立を表すのが『五行相克』であり、“木は土に克(か)ち、土は水に克ち、水は火に克ち、火は金に克ち、金は木に克つ”。貴殿らの場合こうなる」
「なるほど、俺だったら“火”の敵と戦えば有利になるが、“土”の敵とは相性が悪い、ということか」 輪の発言に晴明も頷く。 「分かってきたようだな、この『五行相生』と『五行相克』の考えは覚えておいて損はない」 それを聞いて五人がまじまじと晴明の書いた紙を凝視する。 「とにかく、さすが私の母様、見事に計算して『陰陽武道士』を作ったものだ、貴殿らは使い方によってはその実力以上の力を発揮できる可能性を秘めた五人なのだ。故に一人も欠けることなく常に五人が協力するとよいだろう」 そう言って晴明はにわか五行説講座を終えた。 「“五人そろって”って……まるで戦隊ものじゃないの」 ぼそっと美亜子が呟く。 「あははは、いいねえ、美亜子ちゃん。オレ達五人で“五行戦隊センゴクマン”だな」 自分で言って自分で爆笑する淳二。 「どうでもいいが、そのひどいネーミングは取り消せ」 輪が憮然と淳二を睨んだ。 「悪かったよ“センゴクブラック”」 「…誰だそれは」 「いやいや、となるとリーダーは正義の赤ってことでオレ様に決まりじゃないか」 「美亜子、こいつを止めろ」 「そうね、センゴクホワイトって語呂悪いしね。白センゴクの方が良いと思わない?」 「ぐあ」 がつん、またまた輪が額に手をやって“愛”の金属音を響かせた。 「一人も欠けることなく…。五人で一つ…か」 それを後目に、嬉しそうに春樹が独り言を言っていた。 「晴明さま、千石部落とか千石飽和糸とかってなんのことでしょうか?」 「しらん」 こちらは摩訶那と晴明。 周りの喧噪をよそに、晴明は今度は魔王の施した未知の方術の解析を頭の中で行っていた。 実際、晴明自身これほど複雑で難解な方術を見たことがなかった。 「解析には数日かかりそうだな…」 そして全く台詞がなかった乙姫はと言うと… 「………(はあと)」(←機種依存記号につきひらがなで表記) 先ほどから輪を見つめたまま固まっていた。 そして盛り上がる二人。 「やっぱり、合体技とか欲しいと思わない?」 すっかりその気になっている美亜子である。 「そうそう、全員の武器が合体したり、んで、最後には“センゴクロボ”が出てくるとか」 「なんてお約束」 あははははははは。 二人して大笑いするのを輪は呆然と見ていた。 「なぁ武田。あそこの馬鹿二人をどうにかしてくれ」 ついに広奈にまで助けを求める始末。 広奈はにっこり笑って切り返した。 「気にしたら負けですよ。…センゴクブラックさん」 「ぐあっ」 “土 克 水”、水の輪は土の広奈には勝てないというお話。 ちゃんちゃん♪
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陰陽五行戦記おまけ劇場「五行戦隊センゴクマン!」