陰陽五行戦記
第一章 ◇平安編◇
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それに合わせて幅85mの朱雀大路には様々な人間が十人十色の目的であふれ出してきた。 今朝採ったばかりの野菜を売るもの。牛車に乗って大内裏に向かう貴族。商人、物乞い、盗賊、警備の検非違使、貴族の護衛をする武士、僧侶、神官…。 そんな雑多な人の群の中でちょっと人目を引く一団があった。 一様に若い5人の男女と1人の子供。しかも、全員が上質の服を身に纏い、やんごとなき身分の子弟がお忍びで通りを歩いているような印象を与えている。 通りを歩く一般人の皆さんの羨望を浴びながら、しかしその6人は真剣な顔で何事かを話し合いながら進んでいく。 「……ってわけでさ、なんとかお化けムカデを退治して、後は一晩怪我を治すのに温泉に浸かってだ。んで、今朝方出発して、さっき羅城門に着いたんだ。そしたらなんか、人相の悪い7人組に襲われちゃってあの始末さ」 淳二側の説明がとりあえず終わった。 そう、6人は通りを歩きながらこれまで自分たちが体験したことを話し合い、情報交換をしている最中だったのである。 ちなみに先ほどけちょんけちょんにした盗賊は後々面倒なのでそのまま羅城門前に放置してきている。 今頃検非違使に捕まっていることだろう。 「で、その“神鏑”ってさ、もう無いわけ? 温存しておけば他にも使えたんじゃないの?」 と、これは美亜子だ。 「ごめんなさい、あれで最後なの」 乙姫が答える。 「…それに、わたくしたち3人ではあの戦いはぎりぎり、なんとか勝てたようなものでしたわ。神鏑を残す余力は、とても」 こちらは広奈。まずTVでもお目にかかれないような正真正銘のたおやかな美少女である。こうして見るとあのムカデの突進を1人で封じたようにはとても見えない。 「そっか、あたしらが加勢していれば違ったんだろうけどね」 美亜子が同意を求めるように輪を見やった。 「それは今更言っても仕方がないな」 輪が肩をすくめる。 「だが、“神鏑”に限らず、乙姫の持つ道具は使い方さえ間違わなければかなりの力になってくれそうだ。もしかしたらこの先何らかの形で道具を使わせてもらうことになるかもしれないが…、いいだろうか?」 そう言って輪が“なぜか”自分の隣を歩いている乙姫の顔を見やる。 「は、はいぃぃ。それはもう、よ、よろこんで、ですっ」 「そうか、ありがとう」 「い、いえいえ、こちらこそ、です。えへへへ…」 顔を真っ赤にしてもじもじと笑う乙姫。 非常に分かり易いその態度に、しかし輪はいまいち気が付いていない。 「それじゃぁさ、今度はあたしらの側の話をしないとね」 そう言って美亜子が輪の肩をぺしぺしたたく。 「輪の口から話してよ」 「ん? そうか?」 「そうよ」 面倒だから代わって、という表情の美亜子である。 「わかった、じゃあ、簡潔に…」 少し間をおいて話す内容を一瞬で整理する輪。そしてゆっくりと自分たちに起こった出来事を話し始めた。 土蜘蛛との戦い、愛宕山の天狗の長“太郎坊”、そして春樹を発見したこと、言いにくそうにしている春樹に代わって彼に起きた出来事も説明し、今朝愛宕山を出発して羅城門の前までたどり着いたこと、順を追って話していく。 輪の説明が進むうち、一行は朱雀大路の北端近くまで歩いていた。 「平安京はわたしが案内しますっ」 と張り切る乙姫の先導で話を続けつつも一行は安倍晴明の屋敷へと歩みを進める。 羅城門を抜け、そのまま朱雀大路をまっすぐ進むと、正面には大内裏の正門である朱雀門が見えてくる。 この奥には朱雀天皇や皇族、そして貴族や女官達など歴史に名を残すような有名人達が生活し、政務を執っているのだ。 平安時代において、政治の中心はこの大内裏なのである。 当然その大内裏の入り口であるこの朱雀門には警護の武士達が常にひしめいている。 何しろ今は平安京に怪異が続出し、東国の平将門、瀬戸内の藤原純友の乱のまっただ中なのだ。 特に“海賊”藤原純友の手勢が大阪湾から川を遡って都まで押し寄せ、夜な夜な強奪を繰り返すなど、当然治安も悪化しており、その分警護の武士の数も増えている、という状態である。 武士の需要が増えるに従って武士の地位が上がっていく。そしてこの時代を下ること200年。1156年の保元の乱、1159年の平治の乱において、ついに武士の台頭がきわまり、太政大臣にまで上り詰めた平清盛のもと『平家にあらずば人にあらず』とすら言われる“平家の時代”へと変わっていく。 だが、それはまだ後の話。 実際に輪達がいる940年は藤原氏の最盛期を迎える藤原道長もまだ誕生していない年である。 “平安時代”と呼ばれるように、雅な貴族社会が隆盛している時代なのだ。 輪達は緑色の瓦に朱塗りの円柱、大陸風の建築様式の朱雀門前で右に曲がり、大内裏を左手に見ながら歩いてゆく。 右手には五位以上の官位の子弟を対象とした官吏養成期間である大学寮の建物。 200mほど歩くと今度は右手には有名な離宮である神泉苑と雨乞いの儀式が行われたというその池が見えてきた。 そして左手には美福門。 この門をくぐって300mほど歩き左手の建物が陰陽寮である。 今の輪達にはあまり関係がないが、そこでは安倍晴明の師匠である賀茂忠行(かものただゆき)のもと、平将門に対する怨敵調伏の儀式の真っ最中であった。 その美福門の前を通り過ぎ、さらに大内裏を左手に見ながら200mほど歩くと大内裏の区画が終わりである。 ちょうど大内裏の南東の端となる。 この角を左に曲がりまっすぐ歩く。 今度は大内裏を左手に見ながら北へ向かうわけである。 郁芳門、待賢門、陽明門、そして上東門。 大内裏の北東の端近くの上東門のところで右に曲がる。 するとこの通りが土御門大路である。 この通りをしばらく歩くと堀川にかかる小さな橋、一条戻り橋がある。 その橋に通りかかったときのこと。 輪達一行はすでに説明を終えて、今度は疑問をぶつけ合って情報を整理している最中。 ふっ、と突然広奈が立ち止まった。 「んにゃ? どうしたの広奈ちゃん??」 淳二の問いかけにも応えず広奈は橋を渡った先に佇んでいる美女を睨み据えている。 常にない広奈の迫力のある姿。 それまで話に夢中だった輪や美亜子もその足を止めて広奈の視線の先を見やった。 するとその美女はこちらの視線に気づいたのか、慌てたように雑踏に紛れて立ち去ってしまった。 「…ふぅ」 広奈がようやく肩の力を抜く。 「なに? どうしたの?」 美亜子が尋ねると広奈は少し硬い表情のままで応えた。 「鬼ですわ」 「鬼??」 「ええ、人間の女性に化けていましたが、あれは鬼です。何の目的でここにいたのかは分かりませんが、都の中にもああやって入り込んでいるんですね」 広奈の発言は一同に緊張感を持たせた。 「都の中にまで魔王の手が伸びているのか…。乙姫、安倍晴明の屋敷は近くなのか?」 突然輪に話を振られて乙姫はやっぱり慌てた。 「え? あ、はいっ、この橋を渡ったらすぐそこです」 それを聞いて輪が得心したように頷く。 「…なるほど、監視をしているのか。ここから安倍晴明を」 ぽんっ。淳二が手を打った。 「そっか、安倍晴明を鬼が監視しているんだ、じゃあきっとあのムカデも乙姫ちゃんを監視してたんだよ」 「ええ、そうですわね。魔王が後ろから手を引いているのでしょう」 広奈が同意する。 「ふ〜ん、魔王の奴もいろいろと暗躍してるのね」 肩をすくめたのは美亜子だ。 「じゃあ、あのでかい蜘蛛もきっと太郎坊たちを監視してたんじゃない?」 どんどんと話が繋がっていく。 「愛宕山の天狗、竜宮の乙姫、そして安倍晴明…。魔王にしてみれば敵対されれば厄介な存在だ。考えてみれば監視しているというのも当然だな」 輪の言葉に全員が頷く。 「とにかく今はまず安倍晴明の家に急ごう。他にも鬼が監視している可能性だってある」 一同が足を早めていよいよ安倍晴明の屋敷前へとたどり着いたときである。 そこで彼らが見たものとは…。
塀で囲まれたそれなりに大きな屋敷、その門の前で割烹着のような服を着た14歳くらいの少女が通りに水をまいていた。 「ふにゅ〜♪ ふにゅ〜♪」 なにやら鼻歌らしきものを歌ってゴキゲンにひしゃくを振り回している。 春の陽光に水がきらきらと光り、とっても平和な風景。 緊迫した心境のまま、慌ててここまで来た輪達は一瞬唖然として言葉を失った。 と… 「はにゅほにゅ〜♪ …あっ!?」 その少女の手からひしゃくがすっぽ抜けた。 ひゅ〜〜〜〜。 それは水をきらきらとまき散らしながら宙を舞い、 …ごち。 「痛い…」 見事に春樹の顔面を直撃した。 「ふにゅ〜、ごめんなさいですぅ〜」 その少女が慌てて門を出てこちらに走り寄って… がつん! 「もきゅ!?」 “何もない空間”にぶつかってひっくり返った。 まるで透明なガラスに正面衝突したようである。 ??????? 輪達は言葉もない。 「痛たたたた…」 鼻の頭を押さえながら少女が起きあがった。 「あの〜、ごめんなさい。それ、こっちまで持ってきてくれますかぁ〜」 そう言って照れ笑いを浮かべている。 意外にも真っ先に動いたのは春樹だった。 足下に落ちたひしゃくを拾うと、少女の側まで行って何事もなかったように手渡した。 「はいどうぞ」 「ありがとうございますぅ〜」 にこにこ。 その笑顔につれれるように春樹もにこっと笑って聞く。 「ここは安倍晴明さんのお屋敷ですか?」 「はいそうですぅ〜。……あ」 何かに気づいて少女は姿勢を正した。 「ひょっとして、お客様ですか〜?」 「そうですけど」 「はにゅ〜、ごめんなさい、晴明さまはただいまおねむ…じゃなかったお休みになってます〜」 「そうですか」 春樹はちょっと困ったような顔をした後、振り返った。 「寝てるんだって、どうしよう」 ぴくっ。 それで呪縛が解けたかのように固まっていた輪達は復活した。 「やれやれ」 さて、どうしたものか、と呟く輪に広奈が耳打ちした。 「輪さん、あの子人間じゃありません」 「なんだって?」 春樹の近くに行こうとしていた一同、それで急停止。 こちらを見ている春樹は怪訝な表情だ。 だが、5人はそれには構わずにこそこそ話。 「それ、どういうこと? あの子、敵なの? ていうか人間じゃないなら何者?」 「邪気は感じませんでしたが、その正体まではわたくしにもよく分かりません」 美亜子の問いかけにも広奈は首を振った。 「ですが、今のところ危険はないと思います」 広奈の言に淳二がこくこく頷いている。 「そりゃそうだ、見た感じ全然安全そうだもん」 一同の視線が再び少女に注がれる。 にこっ。 人畜無害な笑みを返された。 広奈や乙姫に比べるとそれほど美人ではないにしろ、ほんわかと人を安心させる容貌の少女だ。 淳二の言うように見た目で判断するなら完璧安全。JISマーク付きである。 一同は気を取り直して少女の元へと歩み寄った。 ぞろぞろと近寄ってきた5人を見て少女が問いかける。 「みなさま、お客様なんですか?」 「そうそう、ところで君名前は? 晴明さんの妹さん?」 真っ先に答えたのは淳二だった。 「ふにゅ? ウチは“一条摩訶那”ですぅ」 「まかなちゃん? いい名前だねべっ!」 スパコーーン! 「余計なこと聞いてるんじゃない」 美亜子の容赦のないツッコミが淳二の口を封じた。 「寝てるんなら起こしてくれる? 結構重要な用件なんだけど」 それを聞いて摩訶那の表情が曇った。 「ふにゅぅ、じゃあ…みなさまの官位を聞いてもいいですかぁ? 晴明さまからは『尋ねてきたのが殿上人以外だったら起こすな』って言われてるんです〜」 「なにそれ? 相手の身分によって態度を変えようって訳?」 美亜子が不満を口にする。 ちなみに殿上人とは昇殿、つまり清涼殿の殿上の間にのぼることを許された、“五位以上の官位を持つ人”か“六位の蔵人”のことである。 「そうか、官位か…」 そう言って沈黙した輪が4人の顔を見渡した。 「ま、なんとかも方便って言うし、いいんじゃないの?」 淳二が輪を焚き付けた。 「重要な用件だし、それもやむを得ないか」 頷くとまずは輪から口火を切った。 「直江山城守(やましろのかみ)だ」 「武田大膳大夫(たいぜんだいぶ)ですわ」 「真田左衛門佐(さえもんのすけ)だぜ」 「本多中務大輔(なかつかさたいふ)よ」 「伊達陸奥守(むつのかみ)…、あ、違った。従三位権中納言にもなってる」 「はにゃ〜〜、権中納言様ですかぁ。すぐに起こしてきます〜〜」 とてとてとて。 摩訶那は慌てて屋敷の中に入っていった。 ??? 一人不思議そうな表情を浮かべて乙姫が5人を見上げている。 「皆さん官位をもってたの?」 「400年前のだけどね」 美亜子が苦笑する。 「嘘も方便ってやつさ」 淳二も悪戯っ子の表情で笑う。 屋敷からは摩訶那の声が聞こえている。 「晴明さま、お客様ですぅ、中納言さまですよ〜、起きてくださぁ〜い」 ……。起きないらしい。 「起きてください〜!」 摩訶那の声がだんだん高く、大きくなっていく。 「起きなさ〜い!!」 駄目らしい。 「むきぃぃぃーー」 輪達は唖然として屋敷を見守っている。 そして…。 「起きろコラぁ!!!」 ぐわしゃーーん! いい音が響いた。 だが、やっぱり起きないらしい。 「まだ寝るかぁぁぁ!!!」 こんな中で寝ていられるというのは、ある意味凄い。 一つの才能だろう。 そしてついに摩訶那はキレたらしい。
「うおりゃぁぁぁぁ、神技!『畳返しぃぃ!!!!』」
ドカーーーーーン!!!!
辺り一帯にも轟き渡るような物凄い音を立てて屋敷全体が震撼した。 そしてそのまま静寂が訪れた。 ………。 五分後。 「お待たせしましたぁ。晴明さまがお目覚めになりましたので、どうぞお入りくださいませ〜」 何事もなかったかのように、にこにこと摩訶那が現れて一同を屋敷へと案内した。 竜宮城とは比べるべくもないが、それなりに豪華な調度品が置いてある板張りの部屋へ輪達が通された。 上座には二枚だけ畳が敷いてあり、そこに白の直衣姿の貴公子が端座していた。 先ほどまで摩訶那と死闘(?)を繰り広げていた面影はない。 まるで女性のように整った顔立ち。切れ長の目が部屋に入ってきた輪達を訝しげに見据えている。 「あっ…」 「い?」 「うっ」 「ええっ?」 「おっ?」 5人の口から一斉に驚きの声が漏れた。 そして…。 「明智?」 「瑠華?」 図らずも唱和していた。 言われた本人は怪訝そうな顔で眉をひそめただけである。 そう、安倍晴明の顔は5人の良く知る明智瑠華とうり二つであった。 色白で整いすぎた超美形の顔立ち。 だが、瑠華と比べてもすこし年は上だろう。 恐らく19か20歳くらい。 そしてなにより安倍晴明の口から紡がれたのは、間違いなく良く通る男性の声であった。 「私に何の用だ?」 顔と声のギャップに一同の動きが一瞬止まる。 その間隙を縫って最初に発言したのは乙姫だった。 「晴明さん、お久しぶりです」 そう言ってちゃちゃっと居住まいを正してぺこりとお辞儀をする。 「………乙姫か?」 「はいっ」 「息災だったか? ここに来ることが出来たということは大ムカデの調伏は上手くいったようだな」 「…?」 首を傾げる乙姫。 「うにゅ? それはどういうこと?」 慌てて淳二が聞く。 「……誰だ?」 冷ややかに晴明が5人を見やっていた。 「わたしの恩人なんですっ」 冷たい視線にさらされた5人をフォローするように乙姫が力一杯断言した。 「皆さんわたしを助けてくれたんです。特に淳二さんと広奈さんはわたしと一緒にムカデを退治してくれて…」 「退治? まさか…」 晴明の顔に初めて驚きの表情が浮かんだ。 「おかしい、ムカデは異界へと送り込んだ筈だ。術が失敗したのか?」 “異界”という言葉に広奈が反応した。 「ムカデを異界へと送り込む術をかけたのですか? それはいつですか?」 思考を中断されて晴明は不機嫌な顔になったが、質問した広奈の顔を見た瞬間、表情が緩んだ。機嫌を直したらしい。 「二日前。今日が如月(2月)12日だから10日の夜だ」 二日前というと…。 輪達がここに飛ばされたのも二日前である。 タイムスケジュールを考えてみよう。
………。 ちょうど輪達がここに来た時刻と一致していた。 恐る恐る淳二が聞く。 「あのさ、そのムカデにかけた術、具体的にはどういうもんなの?」 晴明はその質問には一拍間をおいてからゆっくり答えた。 「白衣観音法を私が独自に改良したものだ。強制的に異界への扉を開き、どんなに恐ろしい化け物でも一瞬で消し去る術だ。最近都を騒がしていた鵺、土蜘蛛、そして大ムカデを調伏するべく執り行った」 「鵺?」 「土蜘蛛?」 春樹と美亜子が思わず鸚鵡返しに呟く。 「だが、鵺も、土蜘蛛も、ムカデも何事もなく存在していたぞ」 輪がそう言うとますます晴明は怪訝な顔になった。 「それはおかしい、術は確かに発動した」 ………。 「では、もし、もしもですが、開いた異界への扉から、逆に何かが出現したという可能性は?」 広奈が晴明に質問を突きつけた。 「…そうか、そういうことか」 輪は広奈の言わんとしていることを理解し、嘆息した。 「当然その場合は術は失敗だ。それどころか私は異界から得体の知れない何かを召還してしまうことになるな」 淡々と晴明が言う。 そしてこの瞬間、輪達5人は自分の身に何が起きたのかを正確に把握した。 「ところで、貴殿らは一体誰なんだ? 名前くらい名乗ったらどうだ」 その晴明の発言に、美亜子が怒りを込めて低い声で答えた。 「あたしたちはね…、あんたが召還した『得体の知れない何か』よ」 こくりこくこくこくりこく。 美亜子の発言に4人が頷く。 「……どういうことだ?」 身を乗り出して晴明が質問してきた。 「詳しく教えてくれ」
自分たちが1000年後の未来から来たこと。 葛の葉が明智瑠華を介して自分たちを『陰陽武道士』にしたこと。 五稜郭で魔王と戦い、鏡に吸い込まれたこと。 気が付いたらこの時代にいたこと。 土蜘蛛、ムカデ、鵺に襲われたこと。 太郎坊、乙姫と出会い、5人が再会してからここに来たこと。 輪や広奈が交互に説明するのを晴明は真剣な顔でじっと聞いている。 そして説明を聞き終えて一言。 「そうか、母様が…。なるほど、貴殿らが普通の人間とは違う、奇妙な力を持っているように見えたのはそのせいか」 「ふにゅ? ウチの同類さんですか?」 突然そう聞いてきたのはお茶を運んできた摩訶那であった。 「いや、違う。彼らはおまえのような純粋な“付喪神”ではない。言うなれば付喪神と人間の融合体だ」 「ほえ〜、そうなんですか〜」 感心しながらもマイペースでお茶を置いていく摩訶那。 「付喪神? ということは、やはり、摩訶那さんは人間ではないのですね」 広奈が確認するように晴明に聞いた。 「そうだ、摩訶那はもともとこの屋敷の付喪神だ。それを私が式神として使役している」 「式神…ですか」 「ん? やはり、と言ったな。摩訶那の正体を見破ったのか?」 晴明の言に広奈はさも当然という顔で頷く。 「“見鬼の力”か陰陽師の素質があるかもしれんな」 「わたくしが?」 「ああ、修行すれば私ほどでないにせよそれなりに有能な陰陽師に…」 晴明はそこで口をつぐんだ。 話が逸れ始めていたことに気が付いたらしい。 「…いや、それはともかく。貴殿らの身に何が起きたのかは分かった。だが幾つか気になることがある」 そう言って晴明は鋭い目で5人を見据えた。 「貴殿らの時代の魔王の行った術は鏡を媒体とした異界への強制送致だ。だが、それだけではない。更に別の効果を持つ術を複合したものだったはずだ。その証拠にまだ貴殿らには魔王の施した術の余韻が残っている。言い換えれば未だに貴殿らは魔王の呪いを受けた状態だ」 “呪い”と言う言葉を聞いて思わず自分たちの身体をまじまじと見てしまう5人だった。 「見て分かるようなものではない。それに私も初めて見るものだ。どういう効果なのかはまだ分からない」 不安を煽る晴明の言葉に5人は沈黙してしまった。 それを知ってか知らずか、晴明は淡々と説明を続けていく。 「だが、おそらくはそのもうひとつの術の影響のせいで、異界へと飛ばされた際に私の術と干渉し、結果としてここに召還されたのだろう」 ふむふむ、と一人自分の言葉に頷く晴明。 「貴殿らはある意味幸運だったのだぞ。異界に飛ばされたはずが、私の術のおかげで1000年前とはいえ現世に残れたのだ。感謝こそされても恨まれる筋合いはどこにもないのだ」 言い終えて晴明は腕を組んだまま胸を反らした。 反論があるなら言ってみろ、という意思表示にもとれる。 「…あの、お話はよく分かりました。それで、僕たちが元の世界に戻る方法はあるんですか?」 悲痛なくらい真剣に春樹が聞いた。 確かにそれはここにいる5人全員の共通の思いだろう。 …………………………。 たっぷりと10秒ほど沈黙してから晴明はゆっくりと口を開いた。 「戻れる見込みは…」
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| 一条屋敷の朝 |
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