〜大長編オリジナル日本史ファンタジー大河ドラマ小説〜

陰陽五行戦記

第一章 ◇平安編◇

第八話「名探偵、困難?」




◇直江輪&本多美亜子&伊達春樹◇


今から1000年ほど前の京都。

当時平安京と呼ばれていた、その都の北西にそびえる愛宕山の奥深く、修験者が修行に使ったと思われる廃寺がぽつりと取り残されていた。

辛うじて寺と分かる建築様式だが、これを絢爛豪華とか、出来立てほやほやと表現したら嘘、大袈裟、紛らわしいと、公共広告機構に通報されるだろう。

要するに“寺”を原点にそれらの表現の正反対にベクトルをのばし、行き着いた先がこの建物の外観である。そして今輪達がいる場所がここ。

建物のちょうど中央、恐らく修験者が寝泊まりしていたであろう、囲炉裏を囲んだ部屋では火が絶やされることなく燃え続けており、高熱を発して眠り続けている伊達春樹の体温を保つのに一役買っている。

そして別室。

直江輪、本多美亜子、愛宕山を統べる大天狗の太郎坊、その配下で伊達春樹を見つけた鴉天狗二人。

この5人が寝ている春樹を放って置くわけにもいかず、むなしく時を浪費していた……。

というわけではなかった。

伊達春樹が遭遇したであろう殺人事件(?)について推理が繰り広げられていたのである。

当初、盛り上がっているのは美亜子一人であったが、それに乗せられる格好で輪も議論にのめり込みつつある。

「さ、輪、そのあんたの言うある可能性ってなんなの? 説明して」

美亜子の切れ長の瞳が輪を注視する。

それを受けて輪が少し頷く。

考えをまとめるためか、少し視線を泳がせてから口火を切った。

「さて、では俺の考えた可能性について説明しよう。ただし、これまでに入ってきた情報量はあまりにも少ない。その微少な手がかりを元に推理すること自体が無謀であるし、そもそも今寝ている春樹に証言を求めると仮説のほとんどは意味をなくすだろう。そのことをふまえた上でのある種の余興として、聞いて欲しい」

言ってから確認するように聞いている4人に視線を送る。

「要するに今から話すことは時間つぶしでしかないぞ、とそう言うことじゃな」

大仰に構えて聞いていた太郎坊が口元を少し上げた。

どうやら多少は楽しんでいるようだった。

それを受けて輪も頷いた。

「さて、ではこれまでに入った情報を少し整理しつつ話を進める。まず春樹が発見されたのは今から一時間ほど前のちょうど正午頃、ええと、午の刻と言えばいいのか」

うむ、と太郎坊が頷く。

「その午の刻に発見されたときの状況だが、春樹は『陰陽武道士』の姿で仰向けに倒れていた。そして春樹の倒れていたすぐ近く、距離にして7尺ほど、というから、7×30で2mくらいのところに女性の死体があった。その死体の様子は俺には分からないから、そこの…」

「小論坊(ころんぼう)です」

「阿蘭坊(あらんぼう)です」

二人の鴉天狗が名前を名乗った。

「では、コロンボさんと、アランポーさんに証言してもらいたい」

「あの、ちょっと違います。わしは小論坊でこっちが阿蘭坊です」

右側の多少太めの鴉天狗が輪の微妙な発音の違いを訂正する。

輪はそれには応えず促すように視線を向けた。

「ええと、わしらがその伊達様を見つけた場所はここから東南、平安京の向こう、鴨川にかかる五条大橋を超えた先、ちょうど鳥辺野のあたりでした」

鳥辺野とは化野と並ぶ当時の平安京の二大葬送地帯である。

常に死者を荼毘に付す煙が上り、そこらには人骨がごろごろ転がっているような場所である。

「鳥辺野のあたりと言ってももう少し都から離れた山の方です。上空にたくさんの鴉が集まっていたのですぐに分かりました。行ってみるとそこは一面血だらけでした。その匂いに惹かれたのか、山犬や鴉が集まっていて、その、死体を貪っていたわけです」

その状況を想像したのか美亜子が顔をゆがめた。

それに気づいていないのか、小論坊が話を進める。

「もちろん、倒れていた伊達様にもすぐに気が付きました。なんというか、ちょうど昨日話に聞いた通りの姿でした。鎧姿で、青い煙に包まれたような。そして鴉や犬は怖がっていたのか一切彼には近づこうとしていませんでした」

小論坊がここで一旦口を閉じた。

変わって阿蘭坊が切り出す。

「それで、その哀れな死体をそのままにもしておけず山犬を追い払い鴉も遠ざけました。そして二人で近くに穴を掘って埋葬しました」

のほほんと、のんびりしゃべる小論坊とくらべて阿蘭坊の方が早口でまくし立てるようで、好対照だった。

小論坊が言葉を継いだ。

「そこで、わしらは不思議なことに気が付いたんです。その、死体は大部分が食べられておりましたが、骨は残っております。その骨が綺麗に切断されておるのです。山犬の牙で噛み砕かれたのかとも思いましたが、明らかに違うのです。鋭い刃物で切ったのでなければこんな風にはなりません。よく見ると多くの骨にも切断のあとが見られました。わしらは二人して同じ考えをもちました。この人は切り刻まれて殺されたんです」

小論坊の言葉に頷いていた阿蘭坊が補足する。

「更に御髪の量や、着ていた単衣から女性とは分かりましたがその着物もばらばらに切り裂かれ、御髪も短く分断されていました。それがなんとも気味が悪くてわしらは埋葬もそこそこに伊達様を運んできたのです。不思議なことにわしらが持ち上げた途端伊達様は今のお姿に戻ったのです。そのときはじめて気が付きましたが体が熱く熱があるようでした。わしらは慌ててここまで運んできました。あとは、皆さんご存じの通りです」

そこまで言うと鴉天狗二人は沈黙した。

自分の言うべきことは言ったぞ、という意思表示ともとれる。

それを受けて輪が腕を組んだ。

「という情報が今俺達に与えられた全てだ。殺害、ま、あえてその言葉を使うが、殺害現場の保存もなされていないし、推理する俺自身がその場を見てもいない。だが、結果を与えられたのならその過程を推測することはいくらでもできる」

そこで輪は言葉を切った。2秒間ほど目を閉じて沈黙すると改めて美亜子の方を向いた。

深い知性を湛えた輪の瞳が美亜子を見据えていた。

「この時代だ、死亡推定時刻を計る方法もない、現場は鴉や野犬によって保存されず、死体すら喰われ、白骨となってしまえば、鳥辺野という場所では目立たない。すなわち今の状況では殺人を犯すにしてもアリバイ工作など無意味。考えるべきはもっと他の所にある」

「はぁ、なるほど…」

美亜子が頷く。

「ふむ、それで?」

太郎坊も面白がっている。輪に続きを促した。

「先ほどの小論坊の話では現場は血の海だったとのことだ、となれば被害者は他の場所で殺されて鳥辺野に捨てられたのではなく、その場所で殺されたのだろう。どういう経緯で鳥辺野にその被害者が来た、あるいは連れてこられたのかはこの時点では分からない。だからそこは考えない。ただ、犯人が知りたいのであればその女性の身元を確認して、足取りを追うのが一番の近道だろう。問題は戸籍制度もしっかりしていないこの時代に、バラバラにされた死体から身元の割り出しが出来るかということにある」

「確かに、喰われてしまって顔も判別できない状態でした。あれじゃ誰かはわかりません」

阿蘭坊も補足した。

「ただし、死亡推定時刻、とまでは行かないが、被害者が殺害されたのはそれほど前ではない。時間が経っていれば野犬、鴉によって死体は食べ尽くされてしまう。そうで無いというなら殺害されたのは早ければ今日のうちかあるいは昨日中だろう」

「そうですね、わしもそのくらいだと思いました」

と、こっくり頷いて肯定したのは小論坊だった。

それをうけて、輪も次の思考へと移るべくゆっくりと右手を口元に当てた。

考え事をするときの彼の癖である。

「それから、数少ない情報源として骨が綺麗に切断されているという。この時代の刃物がどれほどの切れ味かは分からないが、科学捜査もできない以上、凶器がなんであるかは断定できない。だから凶器の面からの犯人の割り出しは難しい。むしろ、何故死体をバラバラに切り刻まなければいけなかったのか、そうすべき理由があったのか。そこに謎がある。考えるべき点はここだろう」

そこまで話すと輪は一旦沈黙した。

多少この場の人間にも考えをまとめる時間を与えたのだった。

そして一番先に発言したのは美亜子だった。

「犯人はきっとその人に恨みをもっていたのよ。それで、殺しただけじゃ飽きたらずに、そういうことに及んだんじゃないの? 骨が切られていたのはきっと斧か何かで死体をメチャメチャにしたからよ」

ふむふむと太郎坊が頷いた。

「なるほど。確かにありそうな話じゃ」

「どう?」

美亜子が自信たっぷりに輪に聞いた。

だが、輪は無言のまま口元を少し上げただけで、そのまま視線を二人の鴉天狗の方に向けた。

それを見て若干恐縮した様子で小論坊も意見を述べた。

「わしの考えはちょっと違います。死体を細かく分けたのは、おそらくは持ち運ぶため…。多人数で殺したあと死体を各自で分担してどこかに運ぶ予定だったのでは?」

何秒かの沈黙があった。

「いや、それはおかしい。じゃあ何故死体が現場に残っていたんだ? どこかに運んだという説と矛盾する」

真っ先に否定したのは阿蘭坊だった。

「わしも思いついだぞ。死体を破壊し尽くしたのは、殺された人間が誰かをわかりにくくするためじゃろう。それに血が辺りに飛び散ればその匂いに惹かれて野犬、狼、鴉が集まりやすくなる。これでますます誰か分からなくなってしまうじゃろう」

どうぢゃ? と太郎坊が鼻を高くする。…元々高いんだが。

「それが一番説得力がある意見だと思う」

ここで輪が口を開いた。

ただし、どうも煮え切らない表情のままだ。

「なんじゃ? 何か不満か?」

「いや、少々気になるんだが、証拠を隠滅するならもっといい方法がある。それに着物や髪も細かく切られていたというのが引っかかるんだ。死体の身元を隠したいなら着物を脱がせればいい。血が染み込んだ着物はそう簡単には切れないだろうし、あえてそれをするというなら大変な労力だ。だから、美亜子が言った怨恨説も有り得なくはないんだ」

それを聞いて美亜子の表情がぱっと輝いた。

「やっぱり?」

「ただ、どちらも決め手に欠ける」

「え、そうなの?」

「ああ、むしろもっと突発的で、こちらの想像の範疇を越えた非論理的な原因が存在するかもしれない」

そして再び輪は沈黙した。

再び指先を口元に据えて考え込んでいる。

「ねぇ輪。それはいいからさ、まだ謎が残ってるでしょ。ハルはこの事件にどういう関係があるのか、何か考えはないの?」

美亜子そう言うと輪の目をじっと見据えた。

「そういえばそうじゃの」

太郎坊も輪に注目する。

自分を見つめる4人の視線を受け、輪は薄く笑った。

「そうだな。…死体をバラバラにする目的として、怨恨か、もしくは証拠隠しの可能性が高いことは分かったと思う。それをまず覚えておいて欲しい。この話はここで一旦切っておく。さて、春樹とこの事件の関係だが、それを明らかにするためにここで考えなければならないのは、春樹がいつここに来たのかということだ」

「いつ?」

美亜子が鸚鵡返しに呟いた。

「そう、被害者が殺される前か殺されたあとか。そして加害者がいるときか、それともいないときか」

「そんなのわかるの?」

「ああ、それを考えたとき俺は春樹に何が起きたのか、大体想像はついた。ま、本人に聞いてみるのが一番早いが、これまでに入った情報と照らし合わせればほぼそれで間違いないだろう」

「………う〜ん、全然わかんないわ。説明求む」

黙って考えていた美亜子が降参した。

「春樹に関して分かっている情報は5つ」

輪は左手をグーの形にして前に出した。別にジャンケンをしたいわけではない。

1本ずつ指を開きながら説明していく。

「発見されたとき気絶していたということ。その時『陰陽武道士』の姿だったこと。現在熱を出して寝込んでいること。それから、春樹を寝かせるときに見つけたんだが、服の背中側にだけ血が付いていた。これは仰向けに倒れた時に付いたと思われる。これが4つ目。そして最後は特に外傷が見あたらないことだ」

輪の左手がパーの形になった。

「それは分かったけど…」

「気絶するとしたら原因は二つある。第三者の手によって気絶させられたか。春樹が勝手に気を失ったかのどちらかだ。ただし、春樹は『陰陽武道士』姿だった。この状態で誰かに気絶させられたとは考えにくい」

「ま、たしかに。変身すればいくらハルとはいえ、並みの相手には不覚はとらないはずだしね」

美亜子が頷く。

「そう、それに外傷もない。とすると春樹は勝手に気を失ったんだ。だから、殺害現場に居合わせて加害者に襲われたという仮定はとりにくい。そこまで考えて俺が導いた結論は一つ。春樹は俺達と同時にこの時代に飛ばされた。つまり昨日の夜だ。暗い森の中でたった一人。当然春樹の性格から考えて怖がって寝ることなど出来ないだろう。俺達の姿を捜して森の中を不眠で歩き回っていた。そして“運悪く”この死体のすぐ近くを通りかかってしまった。この時すでに殺害は終わっていて加害者はいない。バラバラにされた死体だけがそこにあっただろう。それを春樹は間近で見てしまった…。どうなる?」

「驚きのあまり卒倒したわけじゃな」

太郎坊が真っ先に答えた。

「つまり、これがこの事件の全貌だ。正解ではないが可能性は高いだろう」

思わず美亜子が立ち上がって叫んだ。

「ちょっと待ちなさいよ、そんなのありなの?」

「あくまで可能性の問題だ」

「じゃあ、この殺人事件の犯人は?」

「分からない。恐らく春樹に聞いても同じだ。犯人を見ていないんだからな」

「なにそれ、全然解決して無いじゃない」

輪も苦笑するしかなかった。

「仕方がない。犯人を見つけようにも情報が少なすぎるんだ」

「はぁ〜、なんか、気が抜けちゃったわ」

ペタンと美亜子が腰を下ろした。

「ま、だから余興だったのさ」

輪はそういうとゆっくりと腕を組んだ。

「いくつか補足しておくと、先ほど被害者がバラバラにされる理由を考えてもらった。結果はいくつかあったがどれにも春樹が絡む要因はない。そのことが、春樹は殺害現場にいなかったと考える理由にもなる。本当に偶然死体を見てしまっただけなんだ。そして気絶して仰向けにひっくり返った。乾いていない血が服に付いたのはこのとき。それに、この寒い中不眠で歩きまわっていたせいで疲労困憊していただろうし、屋外で長時間寝ていたのだから熱も出る。目を覚まさないのは単に昨日寝ていないせいだろう」

そこまで言って輪は目を閉じた。

「う〜ん、悔しいけど納得しちゃったわ」

美亜子が肩をすくめた。

天狗三人も静かにしている。

輪の言った言葉を反芻して納得しているのだろう。

静かになってしまった4人を見て輪は更に追い打ちをかけた。

「ちなみに、春樹が犯人を見た可能性も無いことはない」

「え?そうなの?どんな?」

途端に元気になる美亜子。

天狗三人の視線も輪の方を向いた。

「まぁ、犯人が死体を切り刻んだ後の状態で春樹が通りかかったとする。当然犯人は死体の側にいるだろう。春樹が近づくと『陰陽武道士』姿を見た犯人は当然驚いて逃げ出す」

「あ、確かにあの格好はいきなり見たらびっくりするわね」

「ああ、あとは同じだ。逃げた犯人を追いかけようとしたか、あるいはこれも偶然か、死体の側に来てしまった春樹は驚いて気絶する。まぁ、どちらにせよ春樹が現場に来たのは殺害が終わった後なのは間違いないだろう。あとは、犯人がいるか、いないかの違いでしかない。これはあとで春樹に聞けば分かることだ」

「なるほど」

小論坊が重厚に頷いた。

「ま、話は大体これで終わりだ。…が、これは聞き流してくれて構わないんだが、一つ気になることがある」

「まだなんかあるの?」

美亜子の興味は尽きないらしい。

「まぁこういうことまで仮定すると何でもありになってしまうから敬遠したいんだが、被害者は人間に殺されたわけではないとしたら?」

「は?」

「昨日俺達が遭遇した蜘蛛の化け物、あんなのに殺されたとしたらどうだ?」

「あ! なるほど」

「ふ〜む、魔王の手の者かのう」

太郎坊が鴉天狗二人に問いかける。だが、二人とも首を傾げるだけだった。

「なぁ、美亜子。俺達がこの世界に飛ばされたのは魔王のせいだ。そして飛ばされてすぐに蜘蛛の化け物に遭遇した。これは魔王がわざわざそういう風に仕組んだとは考えられないか」

「あ、そっか。言われてみれば」

「俺は最初春樹がここの二人に運ばれてきたとき、俺達と同じように化け物に襲われたのかと思った。だが春樹は気絶して熱を出してはいるが、外傷は特になかった。だから、俺は春樹はそういう化け物とは遭遇していないという前提で話をしたんだ。ただ、春樹が遭遇したのはその化け物に殺された被害者だった、こう考えるとすっきりするんだ」

そう言って輪は口の端を上げた。

「いや、驚いた。大した知恵者じゃのう」

太郎坊が大仰に手を叩いた。

「実に面白い余興であったぞ」

「…人が一人死んでいる。露骨に楽しむのは少々不謹慎では」

さっくりと輪が釘を刺すと、太郎坊は黙った。

(ま、半ば面白がっていたのは俺も同じか。所詮自分の遭遇した事件でなければ野次馬根性が出る。TVの報道番組と同じことか)

と、ちょっと反省する輪である。

「と、いうことで“伊達春樹殺人事件”これにて解決」

おどけた調子で美亜子がそう言って笑う。

「ていうか、そのネーミングはなんだ?」

「ま、いいじゃない。他に適当な名称が思いつかなかったのよ」

ぺしぺし。

ごまかすように美亜子が輪の肩を叩く。

「やれやれ…。さて、俺は春樹の様子を見てくる」

そういって輪は立ち上がった。

「あ、あたしも」

美亜子も部屋を出ると太郎坊と鴉天狗が部屋に残った。

「驚いたわい」

太郎坊が嘆息する。

「全くですね」

と小論坊。

「これは鞍馬の魔王を倒すのに彼の知恵を…」

と阿蘭坊。

「ああ、十分活用できそうじゃ。だが、力無き知恵は意味をなさぬ。そのためにも今以上強くなってもらわねばなるまい」

輪はそこまで考えていたわけではなかったが、この一件で太郎坊が輪達に寄せる期待と信頼は一気に高まったのだった。



「あのさぁ輪、あたしちょっと思ったんだけど」

部屋を出たところで美亜子は輪の前に出て、顔を覗き込んできた。

「なんだ?」

「さっきの名探偵さんの推理だけど、あれって一言で言えば“ハルは死体見て卒倒した”ってことだけだよね」

「それがどうした?」

輪は素っ気ない。

「別に。よくもまぁそれだけの結論を言うために、あれだけしゃべってたなぁと思ってさ」

「どれほど複雑な問題でも解法さえ見つかってしまえば高校生にだって解ける。逆にどれほど簡単な問題でも記述の仕方によっては理解不能なものだ。今回の件はそのどちらだと思う?」

「両方。そうやって大仰な物言いをして煙に巻こうって魂胆ね」

美亜子が嘆息する。

「単純なことでもさも重大な謎であるかのようにしゃべっただけだ。TVの探偵ドラマっぽかっただろ?」

「あんた報道の仕事に向いてるんじゃないの?」

それを聞いて輪が苦笑する。

「せめて刑事に向いていると言って欲しいところだな」

と、春樹のいる部屋の木戸の前で輪の足が止まった。

「……ところで美亜子、ちょっとまじめな話をしたいんだがな」

「ん? なに」

「この件に関して、あまり春樹に状況を聞き出すのは酷じゃないか? 死体の側で倒れていたってことは、春樹にとっては思い出したくない状況にあったかもしれない。ここは、そっとしておいてやるべきだと思うんだが」

「でも、せめてさっきの推理が正解かどうかくらいは知りたいわ。あたしたちは所詮現場を見てもいないんだし、直接事件に遭遇した現場の話は聞きたい」

「それが、春樹には辛いんじゃないか、と言ってるんだ。何があったのかは、さっきの推理でいいだろ、色々と好奇心旺盛なのはいいが、少しは春樹の気持ちも汲んでやったらどうだ」

それを聞いて美亜子の柳眉が逆立った。

「そんなことは関係ないわ。事件は現場で起きてんのよ! 推理じゃ収まらないの。あたしにだって現場の状況を聞く権利があるわ」

それを見て輪はため息を吐き出した。

あきらめを全身で表して苦笑する。

「相変わらず強情な奴だ」

「ふん、強情はお互い様でしょう」

そう言って美亜子は少し笑うと、木戸を開けた。

囲炉裏の側、布団などという上等なものはなかったので、筵(むしろ)を重ねた上に横になり、輪のジャケットと美亜子のGジャンをかけられた状態で、春樹はまだ眠ったままだった。

額には美亜子のハンカチが濡らしてかけてある。

枕元に置いた桶には井戸から汲んできた水を入れてあったが、だいぶぬるくなっていた。

「美亜子はもう少し薪を切ってくれ、俺は水を冷やす」

そう言って輪は桶を抱えて部屋を出た。

「りょ〜かい、20カイリ」

謎な言葉を残し美亜子も部屋を出て裏手にまわった。

冗談を言ったのもちょっとぎすぎすしていた輪の心情を多少は気にしていたのだろうか。

美亜子が短気で意地っ張りで喧嘩っ早く、そのくせ輪の機嫌に敏感なことは昔から変わらない。

それが分かっているので、輪も特に気にせずに庭に降りた。

そして…。

『愛だっ!』

変身した輪が静かに桶の水に手をかざす。

『氷結』

すると桶の水が一瞬で冷えて、表面に氷が張ってしまった。

「しまった、冷やしすぎた」

実は輪の内心は冷えていたのだろうか。

それは誰にも分からない。

一方裏庭では。

『天下無敵っ!』

こちらも変身した美亜子が薪をひょいっと自分の真上に放り投げた。

落ちて来る薪めがけて蜻蛉切を閃かせる。

「弐式『獅交殺!』

すると薪が4つに割れて落ちてきた。

2回の突きをほとんど同時に放ったのである。

90度の扇形に切られた薪が4つ出来た。

その穂先に止まった蜻蛉が真っ二つに切れて落ちるとまで言われた名槍『蜻蛉切』の切れ味と人間離れした美亜子の腕のなせる業である。

そして更に美亜子は気を充実させた。

再び薪を放り投げる。

「参式『哮天殺!』

今度は60度の扇形が6個。

三度の突きを同時に放ったのだ。

そして更に薪を投げ。

「四式『星辰殺!』

45度の扇形8個である。

言うまでもないが今度は4回。

さらに今度は割れた薪を放り投げそれすら細かく切っていく。

趣味は修行と言い切るストイックな美亜子である。

どんな些細なことであれ、自らを鍛える機会は見逃さない。

すでに当初の目的は忘れ去られた。

あまりの遅さに様子を見に来た輪に止められるまで、あとはひたすら薪が細かくなるだけであった。



美亜子が春樹の額のハンカチを取り替えたときだった。

「う…、冷たい」

うっすらと春樹が目を開けた。

「本多さん?」

「あら、起きちゃった。やっぱり冷やしすぎだわ」

責めるような目で輪を見る美亜子だったが、その口元は笑っている。

「やれやれ。加減を知らないのはおまえだって変わらないだろう」

囲炉裏ではもはや鉛筆ほどの細さになった薪がめらめら燃えている。

細い分良く燃える。もうちょっと火力が強ければめらみめらみ燃えていると表現してもいい。

「気分はどう? 生きてる?」

春樹は顔を動かさず目線だけで辺りの様子を見て、それから弱々しく返事をした。

「う…ん、頭が痛い。ここは?」

「ここは京都の近く、愛宕山の寺の中だ」

輪が答える。ただし、最重要項目はあえて伏せてある。

「愛宕山? …どうして京都に?」

言いながら春樹は起きあがろうとした。

「あ、いいから寝てなさい。……どうせ状況を説明されたら卒倒するんだから」

大まじめな顔のまま美亜子がそう言って春樹の頭を押さえた。



それから輪と美亜子がなるべく春樹を驚かせないように気を使いながら今の彼らが置かれた状況について説明した。

だが、春樹は二人の予想に反して卒倒することもなく、取り乱しもせず、静かに聞いている。

熱のせいで朦朧としているのか、とも思われたが、時々頷いたり「うん…」とか「そう…」など弱々しく相槌を入れる所を見るとそういうわけでもないようだ。

ただ、輪と美亜子の話を聞いているのだけれども、心ここにあらず。

輪はその様子に春樹が底知れぬ虚無を抱えているような、そんな気がした。

乾いた砂漠に水をまいているような感覚を感じて背筋が寒くなった。



一通り状況を説明し終わったが、相変わらず、むしろ気味が悪いほどに反応の少ない春樹。

「今のところ俺が理解しているのはこの程度だ。……大丈夫か春樹?」

あまりにも春樹のリアクションが少なかったのでつい輪はそう聞いた。

「もとの世界に帰る方法は?」

唐突に、そして一番聞かれたくなかった質問が飛び出した。

「……まだ、分からない。ひとまずは淳二と武田、明智の3人を見つけだしてからだ。葛の葉姫ならこの状況を打破する方法が分かるかもしれないからな」

「そっか…。学校のみんな、今頃心配してるかな…」

春樹のつぶやいた一言に輪と美亜子の動きが止まった。

もちろんそれは2人とも思っていたことである。

特に輪には誰よりも彼のことを心配してくれる幼なじみがいる。

会えるものなら今すぐにでも会いたい。

だが、それを言っては辛くなることが分かっているだけに、あえてその部分には触れずに善後策だけを考えるようにしてきたのだ。

「ね、ハル、今のあたし達は“余計な心配する暇があったら無事に帰る方法を捜す”のが優先よ」

後悔していても始まらない、後悔はしない、そのかわり、今どうすればいいかを常に模索し続ける。

直情径行型であるが故に本多美亜子という人間は常に前向きなのだ。

「…うん。そうだね」

春樹も美亜子の言葉に頷いた。

もちろんその表情は冴えないままだったが、なにしろここで更に弱音を吐くと美亜子のスリッパが飛んでくる。

「って、輪、何ぼーっとしてんの?」

先ほどから物憂げに動きを止めていた輪を美亜子がきつい目でにらみつけた。

「…………………………いや、別に」

たっぷり3秒ほど沈黙してから輪は覇気のない返事をした。

「ど〜せ、綾瀬のことでも考えてたんでしょ」

ぴくっ。

輪の眉が微妙に動いた。

(なんで分かったんだろ)

と、その顔に書いてある。

「あんたまで分かり易い顔してどぉすんのよ」

「ん、ああ、そうだな」

気のない返事をして、輪はため息をついた。

「喝!!」

スパコーーーン!!

「痛っ」

「しっかりしなさいっ!!」

とうとう輪の後頭部に伝家の宝刀(スリッパ)が飛んだ。

ちなみに「痛っ」と言ったのは春樹である。

痛いのは輪です。春樹は全然痛くありません。

「ふぅ、雑念が払われたな。もう大丈夫。復活した」

元の輪が帰ってきたらしい。

「それより、春樹、今度はおまえに何が起こったのか教えて欲しい」

その言葉を聞いた春樹の顔がにわかにかき曇る。

「死ぬかと思ったんだ…、化け物に襲われて…」

「化け物?」

思わず輪と美亜子が顔を見合わせる。

「でも、僕は生きていてあの女の人が…、あんなことになっていて……。もう、何がなんだか…」

「ちょ、ちょっと待って。あんたさ、単にバラバラ死体を見つけて卒倒したんじゃないの?」

慌てて美亜子が春樹の言葉を遮った。

「…?」

不思議そうな顔をして春樹が首を横に振った。

「化け物に襲われたんだ、僕とその女の人は。…殺されるかと思った。でも殺されていたのは女の人だけで、化け物はいなくて…」

「そんな馬鹿な。ではこれまでの仮説はすべて成り立たなくなるぞ」

「どうなってんの??」

輪も美亜子も春樹の言葉に衝撃を隠せない。

「ねぇ、ハル。辛いかもしれないけど、最初から順番に説明してくれない?」

美亜子の頼みに、春樹はゆっくり頷くと、静かに話し始めた。

さっきは春樹の気持ちを慮るように美亜子に言った輪もこの状況では、好奇心が上回ってしまったらしい。

生真面目な顔のまま春樹の言葉を待っている。

「気が付いたら暗い森の中にいたんだ。しばらくみんなを捜したけれど誰もいなくて、それで、寒かったし、しばらくじっとしていた。でも、怖くてまた歩き出したんだ」

輪は春樹の一言一句聞き逃すまいと静かに耳を傾けている。

「それで?」

美亜子が先を促す。

「うん、しばらく歩いていたらなんか木の間に明かりが見えたんだ。それで、慌てて行ってみたら女の人が焚き火にあたっていた」

「てことはもちろんその人生きてたのね」

「そうだよ。だから、僕はここがどこなのか教えてもらおうと近づいていったんだ。あ、もちろんこの姿でね」

そう言って自分の服を示す。

「でも、その女の人は、僕を見て怖がって逃げちゃったんだ。どうしてかは分からないけど、多分見慣れない服を着ていたからだと思う。だけど、僕もその時動転してたし、とにかく追いかけてその人の前に回り込んだ。そしたらその人胸を押さえてうずくまってしまって」

春樹はそこで一旦言葉をとめた。

ゆっくりとそのときの状況を思い出すように小さくうなずくと、また話し始めた。

「それで、僕は大丈夫ですかって声をかけたんだけど、そしたらその人、僕に「お逃げください」って言ったんだ」

「お逃げください? なんで逃げてる方が逃げろ、なんて言うの?」

と、美亜子。

「うん、僕も不思議に思ったんだけどその後すぐ、その人の後ろに化け物がいるのに気が付いて…」

「その化け物はどんな姿だったんだ? 蜘蛛か?」

これまで黙っていた輪も初めて質問をぶつける。

「ううん。なんか、変なんだ、いろんな動物を寄せ集めたみたいな、大きさは多分ヒグマくらいだったと思う。尻尾が蛇だったのと、顔が猿みたいだったのは覚えてるけど」

「想像付かないわ。誰か…、あ、太郎坊に聞けば分かるかしら」

「そう言えば、隣の部屋にいたな。呼んでくるか」

「太郎坊ってさっきの話の天狗?」

「そう、彼に聞けば何か知ってるかもしれないわ。ちょっと待ってて」

そして、美亜子が太郎坊と鴉天狗2人を連れてきて、春樹はもう一度説明する羽目になってしまった。

ちなみに、これは後で輪と美亜子が意外に思うのだが、春樹は天狗3人の姿を見てもそれほど取り乱さなかった。

普通の人間なら天狗の姿を見たら仰天するだろう。

多分春樹の感情のどこかに防御フィルタがかかってしまっていたんだろう、とは、しばらくしてから輪が美亜子に話した憶測である。



「鵺(ぬえ)じゃな」

話を聞いた太郎坊ははっきりと言い切った。

「ぬえ?」

こういうとき真っ先に聞き返すのが美亜子である。

「そうじゃ、頭が猿、胴体は狸、手足は虎、尻尾のかわりに毒蛇という、奇怪な姿の怪物じゃ。鳴き声は鳥の虎鶫(トラツグミ)ものとよく似ているらしい」

「そうです、今言われたとおりの姿でした。それに鳴き声も」

と、春樹が頷いた。

「では、間違いあるまい。ここ最近都でも出没したという話もある。何でもどこぞの貴族の屋敷の人間が皆殺しにされたのはこの鵺の仕業とか」

「その鵺が、女性のすぐ後ろにいたんだな」

そう言って輪が春樹に先を促す。

「うん。僕が驚いて動けないでいると鵺は僕の後ろの方へまわってきて、それから襲いかかってきたんだ」

「で、倒したの?」

美亜子の質問に春樹はふるふると首を振った。

「僕は怖くて全然動けなかった。あちこち噛みつかれた。痛かったことは覚えてるし、死ぬかと思ったんだ。血がいっぱい出たし。でもその後は何も覚えてない…。気が付いたら鵺はいなくなっていて、女の人がすぐ後ろで死んでいたんだ。血だらけで、バラバラ…。怖いし、血の匂いが気持ち悪くて気が遠くなって…。あとはずっと気を失ったまま。目が覚めたら本多さんと直江君がいた」

「ん? ……春樹、だがおまえの身体には全く傷が残っていなかったぞ。本当に襲われたのか?」

当然の疑問を輪が挟んだ。

「うん、それは僕も不思議に思ってた。確かに大怪我していた筈なんだけど。助からないと思ったし。でも、いつの間にか傷は消えていて」

………。

全員言葉がない。

当初の仮定は全て崩れてしまった。

皆新しい情報を元に推理を組み立てようとしていたのだが、その表情は芳しくない。

なにしろ、春樹自身の言葉を信じるならばいくつも説明のしようがない矛盾点が出てくるのだ。

そして真っ先にギブアップしたのは美亜子だった。頭を抱えて嘆息する。

「駄目だわ。全然わかんない。ねぇハル、他に何か覚えてないの?」

「ごめん、これ以上は…」

と、今度は輪がゆっくりと喋り始めた。

「じゃあ、これまでに分かった情報を整理してみる」

そういって全員を見渡す。

考え込んでいた天狗3人も輪に注目する。

「まず、春樹は暗い山道を彷徨っていた。まだ夜は明ける前だな?」

「うん。多分ここに来てから4〜5時間くらい」

「ちょうどあたし達が太郎坊と話をしていた頃合いね」

それに頷くと輪は続けた。

「そして焚き火の明かりを見つけて近寄ってみると、女性が一人いた。話しかけようとすると女性は春樹の姿を見て怖がって逃げた、と、春樹は思った」

ここで輪は一旦言葉を止めた。

「“と、思った”って?」

美亜子が質問する。

「いや、俺はこのとき春樹のすぐ後ろに鵺がいたんじゃないかと思った。女性が逃げたのは春樹からじゃない、鵺からだ」

「あ、なるほど!」

ポン、と美亜子が手を打った。

春樹も神妙に回想している。

「う〜ん、分からない。僕は全然気が付いていなかったけど、後ろに鵺がいなかったとは言い切れないし」

それに頷くと輪は更に推理を進めた。

「さて、鵺はゆっくりと2人に近づいている。春樹は女性に追いつくが、その女性は春樹に構っている場合ではない。鵺から逃げるのが先決だ。だから春樹に警告したんだ“お逃げください”と」

「そう…か、そうだったのかもしれない」

春樹が呆然と呟いていた。

事件に遭遇した本人が納得しているのだ。いわんや他の4人においておや、である。

「ただし、この先は俺にも説明が付かない。春樹は鵺に襲われたはずが、気が付いたら自分は無傷、女性は惨殺されている。しかも鵺の姿はない。そうだな?」

こくり。

「そうです」

「不思議な点がいくつもある。まず、春樹は襲われた、と言っているが実際は傷一つない。そして女性を惨殺したのが鵺だとして一体どこに消えたのか。それに女性が惨殺されているのに、春樹だけが何故無事だったのか? 」

そこで、言葉を切ると輪は今度は先ほどから黙ったままの大天狗に話を振った。

「太郎坊、鵺はなにか不思議な力を持っているという話はないか? 何でもいいが鵺についてなにか分かっていることはないのか?」

「そうじゃな…」

しばし顎に手をあてて思案すると、太郎坊は大仰に頷いた。

「ふむ、思い出したぞ。鵺は黒雲を呼びそれに乗って空を飛ぶ力がある。それゆえ雷を使役できるそうじゃ」

「他には何かないか?」

「はて、わしの知っているのはこれだけじゃ」

それを来てわずかに輪の表情が曇る。

「そうか、俺は鵺が春樹に白昼夢を見せたのだと思ったんだが」

「白昼夢とはなんだ?」

今度は太郎坊が聞き返す。

「これこそ、俺の勝手な想像なんだが、春樹は鵺に襲われたと思っているが、それは幻覚だったんじゃないか? 鵺は春樹に幻覚を見せてさも襲われたように錯覚させ、その間に女性のみを襲って殺した。バラバラに切り刻んだ後で春樹の幻覚をといて自分はどこかに逃げ去った」

「あ、だから、春樹に傷一つなかったのね」

「…そうなのかなぁ。本当に痛かったし、幻覚や白昼夢だとは思えないんだけど」

「駄目か。そもそも鵺にそんな力があるのかどうかも分からない。この仮定は没だな。……だとすると、春樹は大怪我をしたが、傷が何らかの理由ですぐに完治した、と考えるしかない。ただ、その場合はなぜ鵺は春樹に止めを刺さずにいなくなったのか、謎のままだ。どちらにせよすでに常識的な境界条件はこの問題には存在しない。まともな推理は無駄か…」

「なんか、何でもありね、こうなってくると」

「ああ、正直お手上げだ。俺も誰かに答えを教えて欲しいくらいだ」

輪が肩をすくめる。

「ふぅ…もう無理かな。“伊達春樹殺人事件”迷宮入りね」

「あの、僕生きてますけど…」



こうして彼らが体験した不思議な事件は解決不能のまま幕を閉じた。

ただし、ここで注釈を入れなければなるまい。

実は直江輪の心中ではある結論が導かれていた。

それこそが、この怪事件を解く唯一の解答ともいえた。

だが、それを輪が他人に漏らすことはついになかった。

それはなぜか?

そして輪の考えた結論とは何か。

ぜひ読者諸兄にも考えていただきたい。

ヒントは、あくまでも輪の視点で推理すること。

そしてなぜ輪はその考えを誰にも言わなかったのか、その理由を考えること。



それでは、第九話でお会いしましょう。




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