陰陽五行戦記
第一章 ◇平安編◇
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5人は魔王の取り出した鏡が発する閃光に包まれた。 網膜を焼き視力を奪うその光の中で、彼らを一瞬の浮遊感が襲った。 そして……。
う〜ん、きっと見間違いよね。最近疲れてるし…。
それにしてもお腹すいたな〜。
とっさに身を固くしたが、それも一瞬だった。 気が付くと輪は深い暗闇に包まれていた。 目が慣れるとそこは鬱蒼とした森の中らしい。時々フクロウらしき鳴き声が遠くから聞こえてくる。 そしてただそれだけ。あとは、静寂。 (…ここはどこだ?) さっきまで目の前にいた“魔王”は? 周りにいた他の5人は? 次々と輪の頭に疑問が浮かぶ。 それぞれの疑問を並列に処理しようとするが上手くいかず、解答は見つからなかった。 少々混乱気味の自分を落ち着かせるように大きく息を吐き出すと、事態の異常さが身に染みてきた。 (そう、つい一瞬前まで五稜郭で魔王と戦っていた。それが何故こんな暗い森の中にいるんだ?) 思わず髪を掻き上げようとしたら手甲が兜に当たり硬質の音が響いた。 かつて直江兼続が愛用し、今は400年の時を越えて輪に力を与えてくれる兜である。 「そうか、兜を付けていたのを忘れていた…」 この短い間で輪はすでにこの兜の力と完全に一体化していた。 そのためすでに鎧を着ているという感覚はなかったのである。 (意外と動揺しているな) だが、動揺している自分を客観的に見たことで多少は落ち着きを取り戻した。 まずはパニックに陥らなかっただけ、上出来と考えよう。 そして考え事をするときの癖で、輪は無意識に顎に手をあてていた。 「さて、こういうとき、まずどうする…」 冷静に自分の置かれた状況を整理すると、いくつかの可能性が考えられるようになった。 1:魔王の攻撃により自分は即死。そしてここは俗に言う“あの世”である。 2:ここは魔王の作り出した幻覚の世界である。 3:何らかの方法で別な場所へ移動させられた。 4:これは夢である。 ひとまず自分の5感が正常かどうかを確かめ腕をつねってみる。 (痛い) 夢ではないらしい。さらに5感も普通に働いている。触覚までごまかす幻覚ならともかく2番の可能性も低そうだ。 1番だとしても死に至るような攻撃を受けた感覚は全くなかった。 (とすると、どこか別な場所に転移させられたのか…) そう考えるとまた別の疑問が浮かんできた。 では、自分以外の5人はどうなったのだろうか。 大声を出して呼んでみれば反応があるだろうか。 しかし、ここがどこか分からない以上軽率な行為をするべきではない。 第一どんな危険があるかもしれない。 もしかしたら6人をバラバラにして各個に仕留める気か? その可能性に思い至り輪は更に辺りに注意を払う。 と、何かが近づいてくる。 足音がだんだん大きくなる。 敵か?! 「誰だ?」 気配を感じて刀を構えると、視線の先にはこちらに向かって歩いてくる美亜子の姿があった。 輪と同じく未だ闘気を放つ鎧姿のままである。 硬かった表情が輪を見て緩んだ。少しは安心したように見える。 「おっ、輪発見。他のみんなは?」 輪は無言で首を振る。 「そう。あ、それと、ここどこ?」 「それも分からない。……だが、敵の罠なのは間違いない」 青眼に構えたまま輪が答える。 「で? 何であたしに刀を向けてるの?」 声にちょっと苛立ちが混じった。 「もしこれが敵の罠であるなら…美亜子が本物でない可能性もある」 どちらかというとこれは自分に言い聞かせるように呟いた。 「は?」 そう、敵の罠かどうか、美亜子が本物かどうかを確認する必要がある。 では、どうするか…。 きょとんとしている美亜子に輪が唐突に質問を浴びせる。 「問題。『俺と美亜子の対戦成績は?』」 「38勝3敗」 美亜子が勝ち誇ったように即答する。 「いいや、4勝38敗だ」 「な〜に言ってんのよ。あの時はあたしが遅刻したからって無理矢理不戦敗にしたんでしょ」 (本物だな) 「大体それ以外の3敗だって綾瀬が見に来てたからあんたに花を持たせようと思って“ワザと”手を抜いてあげたんじゃないの、それを…」 これ以上その話をされても困る。本物と確認したからには他にやることがある。 輪は刀を納めると美亜子の方に歩み寄った。 「それはともかく、他のみんなを捜す方が先だ」 「って、なに? 話を逸らす気?」 「いや、もう美亜子本人だと分かったからその話はよそう」 ……。 一瞬黙った美亜子だがすぐに表情を一変させた。 眼は本気なのに口の端だけが微妙に笑みを形作っている。 「……なんだ?」 いぶかしげに輪が聞く。こういう顔をしたときの美亜子はどうせろくでもないことを考えているに決まっている。 「じゃあ、あたしもあんたが本物かどうか確かめさせて貰うわ」 (…やっぱり) 「答えなきゃ偽物ね」 「おい」 狼狽する輪をますます面白そうに見て美亜子が決定的な質問を口にした。 「綾瀬とはどこまで進んだ?」 「何もしてねぇ!!」 「偽物ね」 きっぱりと断言。そして蜻蛉切を構える。 「ちょっと待てい」 「正直に答えなさい。あ、偽物だから答えられないのかぁ」 「おまえ、いい加減に…」 「偽物相手に聞く耳は持たぬ!! 百八式『真空烈破ざ… 「わかった、キス止まりだ(…小学生のときの話だが)」 ぴた。 「ふっふっふ、そっかぁ、もうキスは済ませたか、うんうん」 蜻蛉切を寸止めして、いかにも満足そうな笑みを浮かべる美亜子。 「……なんてこと言わせるんだ、馬鹿野郎」 輪は思わず視線を逸らした。 「いやいや、青春だねぇ“本物の”輪くん」 教訓:口は災いの元、無用に人を疑うべからず、女人に恋話。
輪も色々と仮説を立てたが美亜子の一言で考えを中断することになった。 「ここがどこかなんて、ちょっと考えたぐらいじゃどうせ分からないんだから。それよりも他のみんなの無事を確認するのが先でしょ」 言われてみれば全くの正論である。 輪も素直に納得して森の中を歩き始めた。 一方そのころ。
心配そうに聞いたのは武田広奈。 いつもと違って俯き気味だが、暗闇にうっすらと翳る美貌は神秘的ですらある。 「え? あ、うん、あいつらに限って…って、ハルはともかく、3人はまず無事だろうさ」 一瞬広奈に見とれてしまったがとりあえず楽観的に答えたのは真田淳二。 こういう事態にも関わらず、気が付いたら暗い森の中に広奈と2人っきり、さらに心細くなった広奈が自分の腕を掴んで離さないという状況が彼をご機嫌にさせていた。 「しっかし、ここはどこなんだろうなぁ?」 「わたくし、こんな不思議なところには来たことがありません」 周りを不安げに見渡して広奈が表情を曇らせる。 「え? 何か不思議なの?」 同じようにきょろきょろと辺りを見回すが、淳二の目には暗い森の風景が広がるのみ。何の不思議もなかった。 「淳二さんには見えないんですか? ほら、あちこちに小人とか、精霊とか、…小さな鬼もいますわ」 「はい?」 広奈は自分には見えないものが見えるらしい。 今度は淳二が不安がる番であった。 「ここは人間の手が及ばないような古い森なのでしょう。あるいは…」 「あ、あるいは?」 「ここはおとぎの国なのでは」 「おとぎの国? ってことは…、あの、どういうこと?」 混乱する淳二。 「わたくしたちの住む世界とは、違う場所だと思います。つまり……」
…伊達春樹は孤独だった。 おいおいハル君、こんな何が出てくるかも分からない森の中で大声を出したら危ないよ〜。
最近ちっとも食事できないし、そろそろこの場所ともお別れかしら。
でもここって結構気に入ってたのよ。水は綺麗だし、ちょっと小高いから景色も素敵だし♪
あ〜あ、いつか素敵な旦那様が現れたらここに住みたいと思っていたけど、夢からちょっと離れちゃうわね。
でもでも、今のあたしにはまずご飯。はぁ、これが現実の厳しさってやつよね。
うちでじっとしているよりはやっぱり外に行こうっと。
もしかしたら素敵な方と巡り会えたりするかもしれないし…って、もうあたしったら、えへ☆
頃合いと見て輪は美亜子との相談を再開した。 “何も分からない”という状況を彼は極端に嫌がるのだ。 「そういえば、ここに飛ばされる前に“魔王”が何かやったよな。見ていたか?」 辺りを見渡していた美亜子もそろそろ捜すのに疲れてきたらしい、話に乗ってきた。 「え? なに? そういえば鏡を手に持ってたわね。それが光って……気が付いたらここにいた」 それに輪も頷く。 「そうだ、鏡だ。俺の気のせいでなければあの鏡の中に吸い込まれるような感じがした。一瞬だったが」 「言われてみれば……。じゃあここは鏡の中? なに? あたし達鏡の中に閉じこめられたって事?」 矢継ぎ早に質問を口にする美亜子。驚きを隠せない様子だ。 「その可能性は十分にある。…そう、例えば西遊記で金角銀角が瓢箪を持っていただろう」 ぽんと手を打つ美亜子。 「あ、それ知ってる。名前を呼んで、答えると吸い込まれちゃうあれでしょ?」 「その手の道具かもしれない。とすると、この場合どうやって脱出するか…」 腕を組んで輪はすっかり熟考モードである。 「う〜ん、だれかが鏡を割ってくれれば出られるかも。もしくはこの世界のどこかに同じような鏡があって、そこが出口になっているとか…」 それを聞いて輪も納得の表情を浮かべる。 「そう考えると脱出の可能性もあるな」 「でしょ」 得意げな美亜子。こういうときの癖で耳にかかった髪を後ろに掻き上げた。 「別な考えとして、魔王はあの鏡を何らかの媒体にして俺達をどこかへ転移させたのかもしれない」 「なに? あ、それって“どこでもドア”ってわけ?」 「そう、だからここがどこなのかがはっきりすれば…、例えばここは日本のどこかの山の中かもしれない。人家の灯りを見つけるか、道路でもあれば」 「そうね、みんなを捜すついでに人がいないかどうかも確かめた方がいいってわけね」 「もしここが日本のどこかだとすると、今はあまり動き回らない方がいいかもしれない。夜の山を闇雲に歩くよりも朝がくるのを待ってから動いた方がいい。遭難の危険もある」 (はぁ?)と露骨に不満そうな顔をする美亜子。 「別に真っ暗で何も見えないって訳じゃないんだから、もう少し捜した方がよくない?」 いわれてみれば、変身している状態だとこの暗さでも不自由なく辺りが見える。さらに何となく感覚が研ぎ澄まされているようだ。 「なら後少しだけ。だがこんな路もないような森を歩き回ると体力を消耗するぞ」 「う〜ん、じゃあ、どこか休めそうな所をついでに捜しましょ。後は朝までそこで休むと」 「よし、それで行くか」
やっぱりそうだわ、しかもぉ、1、2、3……たくさん♪
あたしったらひょっとして超ラッキ〜?
真っ先に気が付いたのは美亜子である。視線を前方に固定したまま小声で呟いた。 「輪、気を付けて何か来るわ」 「ああ」 美亜子の危険感知能力はそれこそ野生動物以上である。淳二辺りに言わせると“ほとんどニュータイプ”らしい。 それを知っている輪も短く答えて刀を抜いた。 暗闇に目を凝らすと遠くで何か動物らしき群が動いているのがうっすらと知覚された。 しかもだんだんと近づいてくる。 「これは、野犬の群か?」 遠目にもその大きさやシルエットから犬らしいことがはっきりと分かった。捨てられて犬が野生化したのだろう、そう輪は考えた。 (やれやれ、これだから飼い主のモラルが問われるんだ、全く) 心中そう呟いて輪は刀を青眼に構えた。可哀想だが襲ってくるなら自分の身を守るために手荒いことをすることになりそうだ。 「…蜻蛉切」 美亜子が呟くとどこからともなく手の中に槍が現れた。 「さぁ、来るなら来なさいっ。返り討ちにしてやるわ!」 いきなり彼女を取り巻く闘気が増大した。美亜子はすっかりやる気だ。 戦いを前にして目は爛々と輝き口元にはかすかに笑みが浮かんでいる。 本人は気づいていないだろうが、こういうときの美亜子は活力に満ちていて一番美しく見える。 (やれやれ、すっかり楽しんでやがる) 輪は嘆息して前に向き直った。目を凝らせば野犬の群はすでに数を確認できる距離だ。全部で8頭いる。 (見慣れない種類の犬だな、脅かせば逃げてくれるだろうか) 群の先頭を走っていた犬はすでに二人から10メートルの距離まで到達した。 和犬かと思ったが一回り大きい、しかもその全身から発散されるのは決して人間と相容れない野生! 「犬じゃない!?」 気づいたときにはすでに群は指呼の距離にいた。 (もしかして狼?) 美亜子が蜻蛉切を構える。その間合いに入った瞬間どんな素早い獣であろうと串刺しになるだろう。 だが先頭を走っていた群のボスとおぼしき一頭はぎりぎり美亜子の間合いを外れてその横をすり抜けた。 「逃げた?!」 美亜子が舌打ちする。 目標を美亜子から輪に変えたのだろう、その姿が輪の目前に迫った。 (くっ) 輪は刀を上段に振りかぶった。こちらに突進してくる勢いを利用してカウンター気味に斬りつけようという体勢である。 (殺したくはないが仕方ない、許せよ!) だが、その先頭の一頭は襲いかかる素振りも見せずにそのまま方向転換し輪の横をも走り去ってしまった。 ?? 後に続く群も同じように二人を避けて走り去っていく。 輪は首を傾げた。 美亜子の顔にも“どういうこと?”と書いてある。 結局8頭の狼(?)は二人をまるっきり無視して通り過ぎてしまった。それも全速力で。 呆然とそれを見送っていた輪だったがある可能性を思いついてしまった。 「なぁ、美亜子、あれってひょっとしてニホンオオカミじゃないか?」 言いながら自分の言葉に知的興奮を覚えていく。これはセンセーションだ! 「え? 犬じゃなくて? あ、でもニホンオオカミって絶滅したんじゃないの?」 「いや、でも前に剥製の写真を見たけど、ちょうどあんな感じだったぞ。これは……大発見かも!」 自分で自分の言葉に驚くようにして輪は顔を上げた。 「ほんとに? え、じゃあ絶滅してなかったって事?」 美亜子も思わず輪と顔を見合わせた。 「そうだったんだ、しまった早く気が付けば捕まえておくこともできたのに…」 「それを早く言いなさいよ」 二人を後悔が襲った。だが、ニホンオオカミに気を取られて二人とも重大なことを見落としていた。 あの狼の様子は何かから逃げていたのではないか? 狼8頭掛かりでも相手にならないくらい恐ろしい何かから…。
仕方ないわ、もう少し捜してみましょう。もしかしたらあたしの大好物が見つかるかもしれないし…。
さ、今度は見つからないようにこっそりと…
気配を感じて振り返った美亜子の目が驚愕に見開かれた。 なにやらびっくりしている美亜子を見て輪も振り返った。 (★♂f@х窮巡∽〒!?) 輪はパニックに襲われた。 悲鳴こそ上げなかったが、思わず開いた口からはとっさになんの言葉も出ない。 振り返った輪の眼が捉えたのは信じがたい光景だった。 そこにいたのは蜘蛛である。ただし並みの蜘蛛ではない。大きさが尋常ではないのだ! 8本の脚は長いものだと4メートル以上、胴体の大きさも牛ほどもある。 グロテスクで凶悪な頭部には長く伸びた牙が見え、口の大きさは人喰い鮫もびっくりである。 恐らく脚を伸ばすと学校の教室に入りきらないだろう。 それが輪と美亜子のわずか十数メートル先にいた。 「なっ、なんの冗談だ、この化け物」 一瞬呆然としたのは不覚だったが、輪はすぐに戦闘態勢に入った。 ちなみに美亜子は輪よりも一瞬早く蜻蛉切を構えている。 (まったく、次から次へと、いったいどうなってやがる) 心中そう毒づいた輪が美亜子に不安をぶつける。 「おい、美亜子……これに勝てるか?」 思わず聞いてみた輪だったが、質問する相手を間違えている。何しろ美亜子なのだ。 「はァン? 余裕でしょこんなの。さっきの魔王のほうが10000倍は強いわ」 そう言う美亜子の口元には薄笑いが浮かんでいる。先ほどと違いその眼は細く鋭くなっていた。 それが美亜子の“本気の”戦闘態勢であることを輪は知っている。 (流石と言うかなんと言うか、恐ろしい女だ) だがそれで輪も逆に落ち着いた。 今の自分には常人を遙かに凌駕する“強さ”がある。それがどれほどのものかこの戦いで見極めてみたい。 そんな輪の思惑を知ってか知らずか巨大蜘蛛はじわじわと二人との距離を詰める。 「…………(すっご〜い、超らっき〜♪こんなにすぐ大好物が見つかるなんて〜☆)」←くもさん(雌、そろそろ恋人がほしいお年頃)の心の声。(ちなみに現代語訳) どうやら獲物を認識したようだ。 蜻蛉切を大きく振りかぶって美亜子が合図を送る。 「行くわよ、輪」 「ああ」 輪も刀を構えてそれに応える。 「でやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!百八式『真空烈破斬!!!』」 凄まじい速さで振り下ろされた蜻蛉切の切っ先から剣気が巨大なカマイタチとなって生じた。 それが蜘蛛に向かって一直線に飛んでいく。 「………!(キャッ、なに?あぶないじゃないのぉ)」 が、蜘蛛はその巨大な体からは想像もつかないような速さで足を縮めた。 カマイタチは一瞬前まで蜘蛛の胴体があった場所をむなしく通過した。 「ちっ、やるじゃないの!」 そのまま飛び去ったカマイタチは蜘蛛の後ろの木々を切り飛ばした。 一撃をよけた蜘蛛はそのまま美亜子に向かって前脚を振り下ろした。 「…………(ごはん〜♪ごはん〜☆)」 「甘い」 素早くバックステップして美亜子は易々とかわす。 そして頭部に向かって蜻蛉切を突きだそうとしたが、届かない。 「駄目だわ、リーチが違う」 仮に間合いに踏み込んでも長い前脚に掴まってしまうだろう。 一瞬美亜子は迷った。その間にも蜘蛛の前脚が獲物を捕まえようと伸びてくる。 「…………(逃がさないんだからぁ☆)」 美亜子は辛うじて後ろに飛びのいた。 すかっ。 「……?(すか?)」 蜘蛛の前脚がそのまま空をきる。 「美亜子、まずは前脚を破壊するんだ!」 後ろからそれを見ていた輪が素早くそう判断し蜘蛛に突進する。 気合いを込めて突き出された刀の切っ先が白く輝き、そのまま前脚に突き刺さった。 ざくっ! 「……?(ざく?)」 「凍れっ!」 傷口から広がった強烈な冷気によって前脚の動きが徐々に鈍くなっていく。 「………!(つめたいわぁぁぁぁ!?)」 これが輪の持つ『五行妖術』。美亜子が“剣気”による真空波を、淳二が炎を使いこなすように輪は冷気で相手を攻撃できる。 「美亜子、右の脚だ!」 刀を突き立てたまま輪が叫ぶ。 「分かってるわ!」 一歩後退して間合いを取り直し、そこから神速の突きを右脚に叩き込む。 ぐさっ。 「……?(ぐさ?)」 『覇ぁぁぁぁっ!!!』 気合いを込めると切っ先から不可視の衝撃が生じ、右脚は根本近くからちぎれ飛んだ。 「……!!!(わきゃぁぁぁ!! アタシの脚脚脚脚脚ぃぃぃ!!)」 蜘蛛ちゃんぴんち。 結果彼女(?)は暴れ出した。半ば凍ってしまった左脚を薙ぎ払うように振り回し二人に対して攻撃を仕掛ける。 輪は素早く刀を引き抜きしゃがんでかわしたが、美亜子はとっさにはよけきれず蜻蛉切で受け止めた。 「しまっ…」 だが、力が全然違う。とっさに自分から後ろに飛んで衝撃を吸収したが、美亜子は受け止めた格好のまま吹き飛ばされた。 「ぐっ」 そのまま数メートル先の木に激突する。衝撃で一瞬呼吸が出来なくなる。 だが、蜘蛛も無傷ではなかった。元々凍りかけていた左脚に衝撃を与えてしまったのだ。 当然。 ぽきっ。 「……?(ぽき?)」 哀れ左脚も折れてしまった。 「……!!!(ひぎぃぃぃぃ!! 前脚がぁぁ!?)」 蜘蛛ちゃんだぶるぴんち。 じたばたじたばた。 前脚を失い残り6本の脚を動かすが、そもそもその6本は前方にいる獲物を捕まえるようには出来ていない。 「……(こうなったら…)」 そう、蜘蛛には脚が無くてもお尻がある。お尻からは糸を発射できるのだ! 蜘蛛は怒りの糸攻撃をかけるべく胴体を大きく折り曲げお尻の先端を美亜子に向けて発射態勢に入った。 「……!!(喰らえ『超必殺糸吹雪・地・獄・乱・舞!!』)」 だが、美亜子の方が一瞬早く立ち直っていた。 「百八式『真空烈破斬!!!』」 美亜子の『五行妖術』は今まさに糸を吐こうとしていたお尻を直撃した。 すぱっ。 「……?(すぱ?)」 無惨にもお尻は先端部分がさっくりと切り飛ばされていた。 「……!!!(のおぉぉぉ!! アタシのお尻がぁぁぁ!?)」 蜘蛛ちゃんとりぷるぴんち。 それを見て輪が頭部に向かって突進し攻撃を仕掛けた。 上段に構えた刀を振り下ろす。 だが蜘蛛もしぶとかった。 「……(見えるわ!)」 超反応で素早く後ろにかわした。 輪の刀が一瞬遅れて蜘蛛の頭部をかすめる。 接近戦をしたために逆に輪は蜘蛛の攻撃の射程に入ってしまった。 輪の方を向き直った蜘蛛の巨大な顎が迫る。 もはやこれが蜘蛛の最後の攻撃方法となってしまった。 「………!(もうゆるさないんだからぁぁぁぁ!)」 開いた口には鋭い牙がずらりと並び人間なら一口でかみ砕いてしまいそうである。 だが、前脚が無いためか攻撃にスピードがない。 とっさに屈んだ輪の頭上を蜘蛛の頭部がむなしく通り過ぎた。 「……?(あらっ?)」 ちょうど蜘蛛の下に潜り込んだ形になった輪は、むしろこれを好機と捉えて刀を構えなおす。 そして勢いを付けて膝を伸ばし、渾身の力で刀を突き上げた。 「貫けぇぇぇ!!!」 顎の下の柔らかい部分に刀が根本まで突き刺さった。 ぶすっ。 「……?(ぶすっ?)」 輪はそのまま傷口をぐりぐり抉り、気合いとともに冷気を送り込んだ。 「…………!!!(いたっ!痛いわ!!!超痛い!!!!!!!)」 蜘蛛はなんとか輪を引き離そうと首を振るが、輪は根性で刀を突き立てたままだ。 吹き出すはずの体液は刀から放出された強烈な冷気のために凍ってしまっている。 「…………!!(もう、痛いんだって、離してぇ!!)」 2度3度と蜘蛛は頭を振って輪を地面に叩きつけたが、それでも輪は刀を離さない。 「美亜子!!」 「よくやった輪、後は…」 蜘蛛の動きが止まったその瞬間を見逃さず、美亜子の神速の突きが凍結した頭部に炸裂した。 ぐっさり。 「………!!!!!(あきゃぁぁぁぁ!!!!)」 蜻蛉切の鋭利な穂先が蜘蛛の頭部を易々と貫いた。 美亜子はそのまま気合いを込める。 『覇ぁぁぁぁっ!!!』 「………!!!!!!!!(あっ、時が見える…(?))」 先端から生じた不可視の衝撃が凍って脆くなった頭部を吹き飛ばした。 それきり蜘蛛はぴくりとも動かなくなった。 そしてその身体は徐々に塵になり、やがて風に吹かれて消えてしまった。 まるで最初から存在しなかったかのように…。 呆然とそれを見つめる輪。 「…消えた、どういうことだ?」 「さぁね? でもまぁ意外と苦戦したわね」 そう言って美亜子は実にさわやかに笑顔を見せた。 「むしろあんな化け物を倒せたほうが俺は驚きだ。……ところで身体は大丈夫か?」 一応聞いてみる。相当強く木に叩きつけられていたはずだ、下手をすれば骨が折れているかもしれない。 「え? 全然平気。せいぜい痣になったくらいかな。それよりあんたは? 怪我しなかった?」 美亜子にしては珍しく、こっちの身体のことを心配している。それだけ機嫌がいいのだろう。 「いや、大丈夫だ、流石にこの鎧は頑丈だな」 そう応えながらも、輪は自分の振るった力に今更ながら驚きを隠しえない。 (それにしても、あんな化け物も倒せるのか……しかも怪我らしい怪我もしていない) だが輪の思考も美亜子の何気ない一言であっさり吹き飛ばされた。 「ところで輪、普通さ、日本の山の中にあんな化け物がいると思う?」 …………………。 「じゃあ、いったいここはどこなんだぁ??」
きっぱりと断言する広奈。 「異世界? っていうと、バイストンウェルとかラ・ギアス、セフィーロ?」 …………………。
これからどんな運命が待ち受けているのか、そして結局今回登場しなかった瑠華となつめはどうなった? 不完全燃焼気味に次回に続く。
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