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轟々と音を立て、炎が燃え上がる。 学園祭で使ったさまざま燃えるごみがグランドの真ん中のキャンプファイアで燃やされ、生徒たちはそれを囲んで、オクラホマミキサーを踊っていた。 「終わっちゃった…」 ぼんやりと、そんな光景を見ながら、伊達春子は寂しそうに呟いた。 そりゃー、瑠華さまには、強引に妹にされそうになったり、周りの皆さんには冷やかされたり、結局歌舞伎『葛の葉子別れ』にも“木B”の役で出演したりと、2週間色々あったのだ。 しかし、そんな忙しくも波乱に満ちた日々はこれでおしまい。 平凡で目立たない生徒に、また逆戻り。 結局瑠華さまは葛の葉姫の役を見事に演じきったし、もう賭けもすんだのだから春子を妹にするとは言わないだろう。 明日からは、また平和で、穏やかで、そしてちょっと不幸な日々が戻ってくる…。 楽しそうに踊る生徒たちを眺めながら、春子はつい本音がポロリ…。 「ダンスか…、瑠華さまと一緒に踊ってみたかったな…」 あのフォークダンスの輪の中に、瑠華さまと一緒に加わって、ほんの少しの時間だけでも2人で踊れたら…。 そうだ。どっかの小説では、ここで憧れのお姉さまと2人っきりでダンスを踊り、しかもロザリオをもらってハッピーエンドなのだ。 そんな展開があったっていいじゃないか。少しだけなら夢を見たっていいじゃないか。 と、突然春子の背後からすっと手が伸びてきて、ぽむ、と肩を叩く。 「…捜したぞ」 「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!??」 やっぱり春子は飛び上がらんばかりにびっくりした。 「なんて声を出すのだ…。まるで九頭竜にでも襲われたようではないか」 呆れたような瑠華さまのお声。 しかし、今まさに、頭の中でもやもやと想像していたその相手がいきなり現れたのだ。驚かないほうがおかしい。 「おっ、音も気配もなく背後から肩を叩かれたら、誰だって悲鳴を上げます、瑠華さま」 どっかで聞いたようなやり取りの後、春子はドキドキを押さえつけ、次の瑠華さまの言葉を待った。 確かに瑠華さまは「捜したぞ」と言ったのだから、自分に用事があるはずなのだ。 (まさか、ダンスのお誘い?) 「………」 「………」 沈黙。 「…………」 「…………」 さらに沈黙。 春子は困惑していた。 ここは自分から話を振ったほうがいいのかもしれない…。 とりあえず、当たり障りのない話題。 「あ、あの、舞台成功おめでとうございます。瑠華さまの葛の葉姫役、素敵でした」 「…そうか」 「…………」 「…………」 やっぱり沈黙。 (はぅぅ〜、何で黙るんですかぁ〜) 春子、心の中で滝の涙。 「………」 「………」 沈黙。 (うぅぅぅ、この空気、耐え切れそうにないです〜) 溺れるものは藁にもすがる。 というか、この場合の藁は、さっきまでぼんやりと考えていたあのことだった。 春子は、思い切って言い出してみた。 「あ、あの、瑠華さま。その…、ダンス…」 「ダンスがどうした?」 正面から無表情にそう返されて春子は言葉に詰まった。 「えっと、わっ、私、ダンスを…」 と、そのとき、さっきまでオクラホマミキサーを演奏していた、雑多な音楽系クラブの皆さんが、今度は別の曲に移っていた。
春子さんの血の気が一気に引く。 軽音楽部が軽快にイントロを奏でる中、なぜか特設のステージ上ではマイクを持った紅戦国さま(片倉真理さま)が「あたしのステージで踊ってお行きあそばせ!」とシャウト。 (なっ、何なんですかこの展開は〜〜) 春子さん、すでに顔面蒼白。 「むっ、お姉さま」 瑠華さま、ステージ上の紅戦国さまに気付くと、続いて春子さんをキッと見つめて、有無を言わせぬ口調でこうおっしゃった。 「そうか、踊ってくれるのだな」 「へっ?」 「うむ。お姉さまが歌うのだ、私からも頼む。ぜひ踊ってくれ」 「えぇぇぇぇぇっ!?」
「な、なんかこれいろんな意味で違いませんかぁぁぁぁ??」 という、悲しい叫びを残し、春子はステージに上がった。 手ぬぐいで頬被りし、かごをかぶっての登場である。 しかも、両耳に引っ掛けた紐に五円玉をつけ、それで鼻をつぶして豚鼻にしている。 まさに道化の王道。 そんな春子は、ステージに上がってしまった段階で、すっかりヤケクソ状態。 無我夢中で安来節(どじょうすくい)を踊り出した。 『sabage Emotion』のリズムに乗せて、どじょうすくいを踊る女子高生…。 「あは!」 真っ先に吹きだしたのは他でもない、ステージ上で歌っていたはずの紅戦国さま。 その一声で皆のたがが外れてしまい、後夜祭会場は爆笑の渦に包まれた。 「あははははは! なにあれ、最高!」 爆笑する白戦国さま(本多美亜子さま)。 そして、その傍らにいた黄戦国のつぼみ直江輪子さまはあることに気付いて愕然とした。 「なっ、…明智が、笑っている?」 ステージ上で腹がよじれるほど笑っていた紅戦国さまも目の端に映った瑠華さまの様子を見て、笑いが止まるほどに驚いた。 ステージの裏手…。 「イヒ」 この不思議な音の発生源は…。 「いひひひひひひひひひひひひひひひひ」 瑠華さまだった。 お笑いになっている。 それも、とびきり奇怪な笑い声を上げて。 「いひゃ〜ひゃっひゃっひゃっひゃ」 すでに瑠華さまの半径25mからは誰もいなくなっている。 「いいぞ春子、お前は最高だ。豚の真似をしろ」 狂乱した瑠華さまの素敵な応援(?)が飛ぶ。 「ぶ、ぶーぶー」 「イ〜ヒッヒ、素晴らしいぞ春子。豚は死ね!」 瑠華さまの理解不明のノリツッコミ。 (は、はうぅぅぅ…) このあまりの仕打ちに『狂王女ルカ』というありがたくないあだ名が付いたとかつかないとか…。 「…! 思い出したぞ」 突如輪子さまが叫ばれた。 何事かと皆が注目する中、輪子さまは滔々と語りだした。 「4月、新入生が大挙して明智の元に押し寄せ、妹にしてくれと懇願したことがあった。そのとき明智はこう言っていた。『私を笑わせることが出来たものを妹にする』と。そして、そのときは誰一人として明智の眉一本動かすことが出来なかった。…だが、あの伊達春子、見事明智を笑わせることが出来たわけだ。偉業というべきだな…」 「ということは、春子は勝負に勝ったわけ?」 白戦国さまの問いに輪子さまはきっぱりと答えた。 「ああ、つまりこの瞬間、春子は明智の妹決定だ」 <あらえっさっさ〜> ステージ上、泣きながら踊り続ける春子に皆の視線が集まる。 そしてあまりの滑稽さに吹き出しては目をそむける。 本人の知らないうちに、春子は瑠華さまのプティスールとなることが決定したのである。 「いひゃ〜はっはっはー」 奇声を上げて笑い続ける瑠華を、もはや誰も正視できない。 否、一人だけいた。 「まぁ…」 春子が紅戦国のつぼみの妹(センゴク・キネンシス・アン・ブゥトン プティ・スール)になった夜。 月と、広奈さまだけが二人を見ていた。
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