『代役騒動』



「さぁ、瑠華、約束は約束だ。プティ・スールを作れなかったのだから、学園祭ではきっちりと主役をやってもらうよ」

春子に『ごめんなさい』されていささかショックを隠しきれない瑠華さまに対して、紅戦国さま(片倉真理さま)はとどめとばかりにそう切り出した。

事情を少し説明しなければならない。

2週間後に迫った学園祭にて、白楊会は歌舞伎(!)を上演することになっていた。

題目は『葛の葉子別れ』。和泉の国信太の森の白狐『葛の葉姫』が安倍保名と繰り広げるラブロマンスである。

その主役に瑠華さまが抜擢されたのだが、直前になって相手の安倍保名役を演じるのが黄戦国のつぼみ直江輪子さまではなく、実は花陰陽寮高校の生徒会長だったことが発覚。

瑠華さまは台本読みの段階から、すっかり保名役を輪子様だと思い込んでいたらしい。

何しろ輪子様といえばミスターポプラに輝く学園一ボーイッシュなお方。

制服を袴のように着こなし、傍目には美少年にしか見えないのだから。

「私は最初から代役と聞いていたぞ。まぁ、あえてその事を明智に伝えはしなかったが、それというのも、マキャベリの言葉を借りれば『どんな事業でも、実行の機が熟すまで秘匿できなかったものは成功しない』。つまり、事を成功に導く為のこれは(以後省略)」(輪子さま談)

強烈な男嫌いゆえに、あくまで出演拒否を主張する瑠華さまに対し、3人の戦国さまは「プティ・スール一人作れない人間には拒否権を認めない」と反論。

結果、瑠華さまは淳子さんに引きずられて戦国の館に来ていた春子を目に留め、そのまま強引に義姉妹の契りを結ぼうとした、というわけ。


そんなわけで、紅戦国さまに「主役をやってもらうよ」と言われたところで、やっぱり瑠華さまは嫌がった。

「お姉さま方も意地が悪い。それは横暴というものだ」

瑠華さまはすっかりご機嫌斜め。完璧に拗ねてしまっていた。

そうして、なんとなく場の雰囲気が悪くなってしまったことに、よせばいいのに春子は責任を感じてしまい、何とかフォローを試みた。

「あの、どうしても瑠華さまが嫌とおっしゃっているわけですから、ここは花陰陽寮高校に頼んで、役を降りていただくことは出来ませんか? そして輪子さまに保名役をやっていただくというのは」

「あいにくですけど、それは出来ませんの。もう衣装だって用意してしまいましたし、先方には台本を渡して練習していただいていますから」

やんわりとそうおっしゃったのは黄戦国さま(武田広奈さま)。この学園の生徒にとって永遠の憧れで、もはや生き神様マリア様といわれているほどのお方。

可憐で、清楚で、理知的で、あらゆる芸術に通じ、礼儀正しく、どんな所作でも常にお美しい。とにかくこの学園の生徒の理想像、いろんな意味でスーパーお嬢様なのだ。

「とはいえ、瑠華がそこまで嫌がるのを強制するのも心苦しいわね」

そう言って微苦笑を浮かべたのは白戦国さま(本多美亜子さま)。

槍の達人で学園最強。そしてエキゾチックでゴージャスなお顔と、ライオンの鬣のようなセミロングの御髪。豪放磊落なご気性。後輩に対しても気さくなため、1年の間では一番人気の先輩だ。

その白戦国さまは、続けてこう提案した。

「そこで、瑠華に納得してもらうため、勝負の形をとるのはどう? 学園祭前日までに春子を妹に出来れば瑠華の勝ち。そのときは瑠華の代わりとして、春子に『葛の葉姫』役をやってもらう」

「えっ???」

(どうして私が? 何で歌舞伎を? 無理無理無理無理…)

絶句する春子には構わず、白戦国さまは愉快そうにお続けになった。

「もし、春子を妹に出来なければ、瑠華の負け。罰ゲームとして学園祭ではしっかりと主役を演じてもらう。どう? この勝負、受ける?」

うわさには聞いていたが、白戦国さまはとにかく“勝負”と名がつくものがお好き。

何でもかんでも勝負にしてしまうご気性は、なるほど、本当だったのだ。

「うむ、受けよう」

またもや、どきっぱりと瑠華さまは断言された。

「あ、あの、私の立場は??」

すっかり存在を無視されている春子が、何とか抵抗しようとするが…。

「要するにおまえは瑠華の妹になるのを拒否し続ければいいんだ。簡単だろ?」

と、紅戦国さま。

「ま、せいぜい楽しませて頂戴。あたしはきっちり見物させてもらうから」

と、白戦国さま。

「面白そうですわね。お二人とも、頑張ってください」

と、黄戦国さま。

(そんな…)

もはや孤立無援。絶望的な状況に戦々恐々の春子に対し、瑠華さまはまたもきっぱりと宣言された。

「覚えておけ。私は必ずお前を妹にしてみせる。……どんな手を使ってもだ」

「はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

嗚呼、春子ちゃんってば不幸。


続く



続きを読む 戻る