『写真部のエース』


「春子さん、春子さん」

音楽室の掃除が終わり、部屋を出たところで春子は声をかけられた。

声の主は、クラスメイトの真田淳子さん。

「淳子さん。教室のお掃除はもうお済みですか?」

「ええ、だから行き違いにならないよう、早足で来たのよでございますわ」

この変な語尾が淳子さんの個性的なところ。

「ふにゅ、それじゃ掃除日誌はウチが職員室に返しておきますですぅ」

そう言って微笑むクラスメイトの一条摩訶那さん。

「あ、じゃあ、お願いします。どうもありがとう摩訶那さん」

「いえいえ、どうしたしましてですぅ。では、春子さん、淳子さん、ごきげんようですぅ」

ぺこりと頭を下げて、摩訶那さんは去っていった。

「あっ、ごきげんよう、摩訶那さん」

「ごきげんよう、摩訶那さん。また明日〜♪」

と、春子と淳子さんがそろってお別れの挨拶。

そして淳子さんは春子さんを手招き。

「何か御用ですか?」

「私が写真部、アニメ研、ゲーム同好会、センゴクマン愛好会に所属しているのはご存知でござそうろうますわね」

「はい、知ってます」

そして淳子が手に持ってるものといえば…。

「授業中以外カメラを手放さないって本当なんですね」

シャッターチャンスを絶対に逃すわけにはいかないから、常にカメラは携帯するのが淳子さんのポリシー。

そして、麗しき女子高生たちの、その青春の1コマ1コマを大切にカメラに収めるのだ。

なんといっても綺麗な女の子が大好きな淳子さんだ。同じ女に生まれた幸せをかみ締めつつ、日々シャッターチャンスを狙っている。

「私は自分の写真を発表する前に、必ず本人の同意を得ていますのよのよ。それはもう、こんな風に」

淳子さんは春子の目の前に、写真を突きつけ、ひらひら。

そこには、激しく転んだ挙句、顔面を強打し、意識朦朧としている春子と、たまたま通りがかって、それを介抱してくださる瑠華さまのお姿が写っていた。

「ちなみにタイトルは、『不幸』」

たちまち春子は飛びついた。

「こ、これ頂戴」

「そう来ると思いましてなのよ。…私は知っている、あなたがひそかに瑠華様にあこがれている事を。認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを。う〜ん、ビバ倒置法。進呈してもかまいませんけど、二つばかし条件がありおりはべりいまそかりましてござそうろうございますわ」

何事かと注目する春子に、淳子さんは指を折りつつ、こう言った。

「その1、学園祭の写真部展示コーナーにでかでかとパネルで飾らせること」

「じ、淳子さん、ご冗談でしょう?」

「ご冗談なものですか。条件その2、センゴク・キネンシス・アン・ブトゥンに許可をもらってくること」

二つ目の条件に、春子は目を丸くした。

「瑠華さまに? 淳子さん自分で交渉すれば…」

「いくら淳子さんとはいえ、白楊会の幹部たちはいろんな意味で恐ろしい…。ついでに人気投票でも負けている…。だから私では交渉は無理」

「そんなの、私にももっと無理よ」

「どうして? 瑠華さまは下級生がすっ転んでいようと、財布を無くしていようと、車に轢かれていようと、それに関わるような方ではないはずよ」

「そんなに冷酷じゃないはずです…」

しかし、春子の呟きはあっさり無視された。

「それが今朝に限って、御自ら春子さんの手をとって介抱された。これは快挙よ。奇跡よ。万が一にもありえないとんでもないことよ」

「…何もそこまで言わなくても」

「というわけで、そんな春子さんの言うことなら、きっと瑠華さまだって聞いてくださるに違いなくって? さぁ、戦国の館にれっつらゴーでございますわぁぁぁぁぁ!」

そして淳子さんは春子の手を強引に掴むと、そのままずるずると引きずって駆け出した。

「ちょ、ちょっと待って淳子さん、淳子さん?? あーーーれーーー」

ずるずるずるずる…

こうして春子は、白楊会のお歴々が集う禁断の場所、戦国の館へと連行されるのであった。

これが、彼女の不幸の始まりとは、まだ誰も知らない。


続く。



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