陰陽五行戦記
第二章 ◇源平編◇
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そう、このドキッとするくらいに綺麗なお姉さんが乙姫ちゃんだってんだから驚くしかない。 そしてまだ涙で震える声で、乙姫ちゃんはこう言ったんだ。 「249年ぶりです。逢いたかった…」 最初何を言われたのか分からなかった。 えーと、249年ぶりって言った? …どういうこと? オレが現状把握に困っていると、 「では、乙姫様のそのお姿も?」 広奈ちゃんが会話を続行。 ってか、なんかオレが混乱している部分をあっさりクリアしてません? 乙姫ちゃんは照れたように微笑んで、こう返答した。 「うん、皆さんがいなくなってから249年。わたしもこうして大人になりました。さっきはごめんなさい。見苦しいところをお見せしました。なんかお二人の顔を見たら昔子供だったときの気持ちに戻っちゃったみたいで…」 大泣きしたことを言っているんだろう。そう言って微笑む乙姫ちゃんはやっぱり素敵な美人さんで。 しかし、249年経って大人になった乙姫ちゃん? 言われてみれば確かにあの乙姫ちゃんが成長すればこんな感じになるってのはわかる。 面影ありまくりだし。 しかし、つい数時間前まで小さな子供だった乙姫ちゃんがこんなに成長して背も高くなって現れたんだから、違和感だってありまくりだよな…。 そんなオレの考えを読んだのか、乙姫ちゃんは、独り言みたいにこう呟いた。 「わたしの記憶の中では淳二さんも広奈さんもわたしよりずっと背が高くて、ずっと大人に見えていたのに…」 えーと、いまや見た目にも乙姫ちゃんのほうが年上に見えます、はい。 「乙姫様、わたくしの感覚では魔王との戦いからまだ数時間しか経っていないのです。それが249年…。では、あのときの光はやはり時間を越えていたということなのですね」 って、広奈ちゃんはなんか納得顔なのだが。 で、時間を越えていたってか? えーと、えーと。 タイムスリップ? え? また? すでに一度経験していることとは言え、この現実にオレはまた唖然呆然。 「うん。249年前、魔王が滅んだと同時に皆さんの姿は消えてしまった…。晴明様の話だと次の魔王に引き寄せられてこの時代にまた現れるだろうって。そう、皆さんには強い魔の力と惹き合う呪いがかかっているから…」 で、その言葉通り、オレたちは時間を越えて、またここに出現したわけか。 しかし、次の魔王ってか? 「乙姫様、今はどんな世情ですか? ここ数年で大きな出来事は何かありましたか?」 あっさり現状を把握したらしく、広奈ちゃんがそんなことを聞いていたりする。 「うん、大きな出来事というと4年前に壇ノ浦で平家が滅びました。今は奥州に逃げた源義経さんと鎌倉の頼朝さんの間でまた戦いが起こりそうな感じです」 乙姫ちゃんは短くも的確な答えで今の時代を説明してくれました。 えーと、ということはもうすぐ鎌倉時代? 「それでは、次の魔王というのは?」 広奈ちゃんの質問に乙姫ちゃんは首を振った。 「それが、よく分からないの。今から10年以上も前、崇徳院という人の怨霊が都を騒がせたことはあったけど、晴明様の六代の孫の泰親様が調伏していたし…」 「魔王がいない?」 広奈ちゃんは首をかしげた。 でも、オレ的にはもっと重大なことを聞いておかないと。 「あのさ、乙姫ちゃん、ハルのやつ見なかった?」 その質問に乙姫ちゃんは意外そうな、そしてそう言えば、という感じで表情を変えた。 「ごめんなさい。見てません。…春樹さんいないの?」 逆に心配させることになってしまったような…。 「あー、その、オレも見ていないからどこで何しているか分からなかったもんで。ま、そのうち合流できるでしょ」 とりあえず、そうごまかしておく。 そしてさらに強烈に話題を変えておく。 「ところで、輪にはもう会ったの? まだ?」 たちまち、乙姫ちゃんは顔を真っ赤にしてもじもじし始めた。 あー、なんかその辺のリアクションは前と全然変わってないなぁ。 「えっと、まだ、です…。輪さんと美亜子さんはたぶん一条屋敷、ですよね?」 何で知ってるんだろうと思いつつ、オレは黙って頷いた。 「どうしよう、輪さん、わたしの今の姿を見たら、驚くかな…、わたしだってわかるかな…」 不安そうな表情で、そう言う乙姫ちゃん。 そんなことを言っても、絶対に会いたいはずだろ。 オレは悪戯っぽく催促。 「え? じゃあ、行かない? オレたちはこれから輪と美亜子ちゃんと合流すべく、そこに行くつもりだったけどさ」 「ふえ…」 なんか、ちょっと間の抜けた声を上げて乙姫ちゃんはオレの目をじっと見た。 行かないわけないよな〜。 「えっと、あの…」 しばし躊躇し、やがて覚悟を決めた。 「行きますっ!」 乙姫ちゃんは力いっぱい答えた。 「はい、そうしましょう」 それに広奈ちゃんが優しく答える。 さ、またこの3人で一条屋敷に向かうんだ。 ん〜、なんかしばらく前にも似たようなシチュエーションがあったような…。
あっと、歴史談義に夢中になっていた輪と泰成に冷や水を浴びせるように美亜子が一言。 ついに飽きてきたようです。 「あ〜、あんたらの姿をこの時代の人間にあんまり見られるわけにはいかんのだな〜」 やんわりと泰成は美亜子の外出を制止する。 「むー、じゃあもうちょっと面白い話をしてくれない?」 わさわさと豊かなボリュームの髪をいじりつつ、美亜子は輪に向かってそう言ったわけで。 「ふむ、美亜子でも興味がありそうな話か…」 輪はしばし考え、泰成にこんな風に話を振った。 すなわち、 「いま、この時代で最強の戦闘力を持った武将は誰だ? 世間の評判で構わない、それを教えて欲しい」 なるほど、その手で来ましたか! 「強いやつってか〜?」 泰成はしばし考え込みます。 で、美亜子はと言うとバッチリ食いつきました。 泰成の回答を興味津々で待っております。 さすが輪、美亜子の興味の方向を良く分かっていらっしゃる。 「あ〜、そうだな〜」 泰成は指を折りながら語りだしました。 「まず外せないのは源義経だろうな。源氏伝来の退魔の太刀『膝丸』と三条宗近作の名刀『今剣』を左右の手に持って、京八流の剣術で舞踊のように戦ったと言うぜ。義経が通り過ぎるところ平家の武者たちの血煙が桜のように舞い散ったとか…」
「ふ〜ん、義経って二刀流なんだ」 その情報に美亜子は反応していた。 「こっちの間合いに入られる前に突きを入れられるかどうかが勝負ね」 勝手に戦闘シミュレーションを脳内で始めたらしい。 「義経の刀、退魔の太刀『膝丸』と言ったか?」 輪が反応したのはそこ。 「あ〜、なんか有名らしいが、義経は『薄緑』と改名して使っていたみたいだな。で、知っているのか?」 輪は曖昧に頷いた。 「まぁ、知っていると言うか、源満仲と戦ったとき確かその刀でこちらの刀を折られた。で、最後その刀を奪って使ったこともあるぞ。そう、安倍晴明と初めて共闘したときだ。退魔の太刀の力で相手を斬らずに無力化したからな、よく印象に残っている」 鬼女紅葉に操られた源経基と源満仲の親子とその配下、多田の庄の武士団との戦闘での一幕である。 「あ〜、晴明じいさんとねぇ…。それはそれは…」 今更ながら時間を越えてきたこの愛の人の戦歴に内心驚く泰成であった。 「で、他には? 強いやつ」 美亜子が催促してきたので泰成はもう一本指を曲げて第二の最強候補の名前を挙げた。 「そうだな〜。平家で最強と言えば、能登守平教経だろう。王城一の強弓精兵と称えられた弓の使い手だ。もちろん備前友成の太刀を手に白兵戦でも散々暴れまわってるぞ」
「屋島の戦いで義経の郎党佐藤継信を射殺し、壇ノ浦でも最後まで義経を追い掛け回していたわけだからな。こいつ相手には義経も逃げ回っていたわけで、その意味でも武勇最強は教経かもしれないなぁ」 「へぇ、そんなすごいのがいたんだ」 美亜子はこの人の名前は知らなかったらしい。 「で、そいつは今どこに居るの?」 素朴な美亜子の疑問には輪が答えた。 「ああ、教経なら結局その壇ノ浦で戦死している。だからどこかで戦うようなことにはならんだろ」 と輪が補足する。 「なんだ、じゃあ他には?」 「そうだなぁ〜、やっぱり武蔵坊弁慶? 義経の忠実な腹心で怪力無双の大男。三条宗近作の大薙刀『岩融蝉丸』(いわとおしせみまる)を手に平家の武者たちをばったばったと斬ったとか。比叡山の何とかという秘密降魔部隊出身だって噂もある」
「なにそれ、比叡連者のこと?」 美亜子が挙げたのは、かつて一緒に大江山に攻め込んだときの戦友たちの名前だったのだが…、 「ああ、なんかそんなだったような…。真言密教の秘術と武術を両方使いこなす部隊なんだよな」 「…マジかよ」 そのふざけたネーミングでまだ残ってたのか…。 輪は呆れると同時に、ちょっと恐ろしくなった。 かつての自分たちの行いが、微妙にこの時代にも影響を及ぼしているからだ…。 「ふぅ〜ん、あの5人より強いのかしらね?」 美亜子にそう振られて輪は首をかしげた。 「どうなんだろうな…。実際俺はあんまりあの連中の戦いぶりを見ていなかったからな…」 「あ、そっか。あんたは広奈と別行動だったもんね」 そう、そして摩訶那大爆笑のお空でラブラブビーム事件となるわけだ。 「じゃあ、他には?」 泰成は四本目の指を曲げた。 「あ〜、そうだな、巴御前なんてどうだ?」
「…本当に強かったのか?」 と美亜子より先に輪が聞いていた。 木曽義仲の愛妾にして女武者の巴御前は何かと伝説の多い人物なのだが…。 「あ〜、どうも本当に強かったみたいだな。義仲も1000人規模の部隊の指揮を任せているし、備中の水島で義仲軍と能登守教経の軍が戦ったときも、その教経と堂々一騎打ちで互角にやりあったとか」 これは輪も知らない話だった。 「そんなことがあったのか…」 「義経の軍が敗走する義仲を追いかけたときも、巴御前一人に阻まれてかなり苦戦していたらしいからな。よっぽど強かったんだろう」 「そっか、この人は生きているの?」 当然槍術、なぎなたといった武術をマスターしている美亜子にとって、この人の名前は知らないはずがなかった。 興味の方向は実際に会えるのかどうかという点にあったが…。 「ん〜、なんか行方不明で生死不明らしい。義仲が戦死して以来どこにも目撃情報がないから自害したんじゃないかとか、琵琶湖にて入水したんじゃないかとか言われている」 「そうなんだ。残念…」 その辺りからもその後の巴御前には色々と伝説が多いのだ。 と、そこで何か思い出したらしい、泰成は5本目の小指を曲げた。 「あ、そうそう、大事なのを忘れていた。畠山重忠な。『坂東武士の鑑』と称される鎌倉最強の男。こいつが巴御前と一騎打ちして勝ったらしいんだよな。例の敗走する義仲を義経軍が追いかけていたときの話らしいから、勝ったというか戦ったけど逃げられた、ってのが正しいかもしれんが」 これまた輪の知らないエピソードだった。 「あとは…、弓に特化すれば那須与一とか、もう死んだけど義仲の部下の今井兼平とか樋口兼光も強かったぞ。あ〜? この二人って巴御前の兄だったったかな?」 泰成が首を傾げる間もなく。 「そうだ。今井兼平、樋口兼光、巴御前は兄弟だ。父は中原兼遠、母が木曽義仲の乳母だったので、義仲は乳母兄弟ということになる」 と、自信たっぷりに輪が補足。 「はぁ、あいかわらず変な知識だけはあるわね…」 美亜子が呆れる。 「ちなみに、樋口兼光の子孫が樋口兼続、のちの直江兼続だ」 さらに輪が補足。直江兼続といえば、もはや説明は不要だろう。 「ふ〜ん、元祖愛の人ね…」 あんまり興味なさそうに美亜子が応じる。 「…まあいい、続けてくれ」 いささかがっかりした輪が泰成を促すが…、 「ん〜、もうあんまり思いつかないが…、あ、もう捕まってさらし首になったけど義経の郎党の伊勢三郎も強かったらしいな。伊賀出身の忍びで暗殺術も使いこなし、木曽義仲に致命傷を負わせたのはこいつだったという話もあるくらいで。戦場以外では最強かもな〜。知らない間に背後からぐさり、ってな」
春樹の体に深々と刺さった刀身を抜くと、その男、義盛と呼ばれた壮年の男はニヤリと笑って見せた。 九頭竜にも全くその気配を感じさせないまま、背後を取り、必殺の一撃を打ち込んだ手腕。 並みの技ではなかった。 「興味の沸く相手ではあったのだが、死んだのではやむを得ぬ」 鬼面の男も若干の落胆を見せつつそう応じていた。 その二人の会話の後、ゆっくりと春樹の体は崩れ落ちた。 膝が力なく折れ、そのまま前傾姿勢のままぱったりとうつ伏せに倒れた。 胸から吹き出す血が地面に広がり、あたりに鉄の臭いが充満する。 「ま、誰だか知らんが成仏してくれや。この伊勢三郎さまの手にかかったことをあの世で自慢するこった」
そう、その男、伊勢三郎義盛は死に逝く春樹にそう声をかけたのだった。 一方の鬼面の男、そんな義盛の様子には興味なさげ。 「その手に持っている剣は捨て置けん。神器並みの力を感じるが…」 と、倒れた春樹に近づこうとした瞬間。 春樹の全身から青色の闘気が吹き出した。 「なっ!?」 「なんじゃこりゃ…」 唖然とする二人。 異変に気付いたのは両者ほぼ同時だった。 「これは、いかん! 離れろ!」 鬼面の男は義盛に警告すると同時に、自身も距離を取り、なにやら口の中で呪文を唱えだした。 「バカな…。刀身には毒も塗ってあったのに、化け物か…」 呆然としつつも、むしろ鬼面の男の警告より前に、義盛は距離をとっていた。 恐るべき勘の鋭さ。 そして、さっきまでの九頭竜の声とはまた違う絶叫がこの濃霧の結界の中に響いた。
乙姫ちゃんの何気ない一言。 しかし、あれ? 空を飛ぶってことは龍になるってこと? 「まさか、脱皮ですかっ?」 思わずそう聞いたオレに、乙姫ちゃんは大人の余裕の笑みで、 「違うよ。わたしだって大人になって色々な力が使えるようになってるんだよ。この姿のままでも飛べるし、ちゃんと人に見られないように、雲を呼んだり、人払いの術をかけたり出来るよ」 「そ、そっか、すげー」 オレは素直に感動。 というか、この山を下って、一条屋敷まで徒歩で帰るのと比べると、なんと楽なことか! 同じことを考えたのか、広奈ちゃんも「助かりましたわ〜(はあと)」ってな微笑を浮かべている。 「それじゃ、行くよ〜」 乙姫ちゃんがそう言うと、ふわっとオレたちの体が浮いた。 これは、例の乙姫ちゃん念力か。 たちまち鞍馬山の杉の木の高さを越え、さらに山の頂上近くの高さに…。 そしてオレたちの周囲を霧というか、雲が取り巻いて…。 これって孫悟空の筋斗雲みたいじゃん。 周りの雲の流れと同じくらいのスピードで、ゆらゆら〜。 ああ、こうして目立たないようにするわけね。 上空500mくらいだろうか。 今朝晴明さんの十二神将に運んでもらった空路を逆行する感じだな。 あ、今朝って言ったけど、オレたち以外の時間の流れだとこれが249年前になるんだよな。 朝は肌寒いくらいだったけど、しかし、今って明らかに気温が25度を超えてるよな…。 「あの〜、乙姫ちゃん、今って季節はもう夏?」 そう、かねてよりの疑問だったのがこれ、たしか前は2月だったんだよな。 あ、旧暦での2月だから、今の4月くらいだっけ? 「う〜んと、確か閏4月30日だよ。だからもうすぐ梅雨の時期かな」 あ、なるほど、やっぱりちょっと季節も進んでいたんだ。 「249年と3ヶ月ほどの時間跳躍ですわね」 と広奈ちゃん。 さらに頭の中でなにやら計算するような表情を浮かべ、 「今はおそらく1189年。鎌倉幕府が始まる直前。そして平安時代の末期ということになります」 そっか、西暦で何年かを計算していたわけね。 「いい国作ろう鎌倉幕府の3年前ね」 「ええ」 と、そこに乙姫ちゃんが会話に加わった。 「ね、都の様子とかやっぱり昔と違うでしょ?」 おっと言われてみれば確かに。 いつの間にか都の周囲も開けていて、いわゆる洛外にも街並みが…。 ま、上空からの視認だから細かいところまでは良く分からないけどね。 「あの辺りが六波羅ですか?」 広奈ちゃんが指差すのはちょうど都の南東方向。 「うん、何年か前にはあのあたりに平家の皆さんが住んでたんだけどね」 その平家は壇ノ浦で滅亡、だったっけ。 しかしなんだな、249年で色々なことがあったんだろうな。 ちょうどこのスピードなら一条屋敷まで1時間近くかかりそうだ。 せっかくだし、乙姫ちゃんの身の上話でも聞いてみようか。 「あのさ、乙姫ちゃん、この249年間を乙姫ちゃんはどんな風に過ごしてきたの?」 オレの質問に乙姫ちゃんはちょっと意表を突かれた様な表情を見せた後、何かを思い出すようにしばし視線を上空に…。 「う〜ん、そうだね〜。色々なことがあったんだよ」 そして遠い記憶を紐解くように乙姫ちゃんは語りだした。
空気が震え、衝撃音が轟く。 春樹の周囲の杉の木がまとめて数本、一瞬のうちに切り刻まれた。 その木に止まっていた天狗が慌てて上空に逃げ惑う。
防御結界に当たって春樹の巻き起こすカマイタチが耳障りな破砕音を立てる。 だが、春樹の攻撃は律令を強制的に変化させるこの術を破ることは出来ない。 かつて広奈が魔王の雷撃を完璧に防ぎきったように。 しかし、一方で鬼面の男も結界から出ることも出来ず、春樹の撫で斬りを何度も受ける羽目になった。
その表情は当然ながら鬼面に隠れて見ることは出来ないが、口元は不気味に笑みを浮かべていた。 「これは、想像以上だ。まさかこんな化け物がもう一体いたとは…」 誰にも聞こえないような声で、そう呟いている。 その春樹、当然ながらすごいスピードで胸の傷口がふさがっているが、それもまた興味津々といった面持ちで鬼面の男が観察している。 「ちょ、おーい、海尊さんよ、大丈夫なのか〜」 いつの間にか春樹から30m以上も離れた場所に逃げていた伊勢三郎がそう声をかけてきた。 その瞬間、春樹が反応。 そう、そもそも致命傷を負わせた敵はこいつな訳で…。 「…!」 一瞬で春樹の左手に霊気銃が出現。 ズドォン! 「うぉっ!?」 とっさに避けた三郎の頭上を青い軌跡を描いて霊気の弾丸が通過。 右手に九頭竜の剣を持っているので、左手一本での片手撃ちである。 「あ、危ねっ…、うわっ!?」 ズドォン! ズドォン! 連射。 容赦なく連射。 射撃の反動だってあるのに、左手だけで連射。 「ちょ、おわっ!?」 慌てて近くの杉の木の陰に逃げ込む三郎。 ズドォン! ズドォン! 三郎の隠れた杉の木に容赦なく打ち込まれる霊気の弾丸。 しかし、破壊力の面ではやはり撫で斬りには及ばない。 10発ほど命中させたところでようやく幹が粉砕され、杉の木が倒れるが…。 「相変わらず逃げ足の速い男だ」 防御結界の中で鬼面の男、そう、伊勢三郎に“海尊”と呼ばれた男が皮肉っぽい口調で呟いた。 そう、伊勢三郎の姿はそこになかった。 そして、気がつけば春樹の胸の傷は完治。 伊勢三郎が去ったことを把握したのか、霊気銃がどこかへ消え去り、春樹の体が一瞬ぐらついた。 と、 「な、なんだったのだ、今のは…」 声色が変わっていた。 「む、先ほどまでの猛烈な木気から金気に…」 海尊の目にはオーラが変わった事も捉えられていた。 どうやら九頭竜の意識にチェンジしたらしい。 (……) しかも春樹の意識がない。 「まぁよい…。これで余計な邪魔もなくなったのう」 再び、九頭竜と海尊が対峙する。 その海尊の口元が大きくゆがんだ。 笑っている…。
果たして勝つのはどっちだ!? 意識を失った春樹の運命やいかに? 淳二と広奈が聞いた乙姫249年の身の上話。 歴史の生き証人だけが知る源平合戦の真実とは!? そして一条屋敷の輪と泰成は美亜子を退屈させない歴史談義が可能なのか!?
「文治5年の昼下がり」
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