陰陽五行戦記
第二章 ◇源平編◇
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いきなりだが九頭竜(春樹の体)は死にかけていた。 不用意に切った杉の木の下敷きになって。 当然ながらこの死にかけの体に宿る精神のほうも…。 (はぅぅ…。ああ、もう駄目…。小十郎…) 春樹の意識が遠のいたその瞬間。 「おおっ!?」 勝手に、その体が変身。 春樹の式神武戦具である伊達政宗公の黒漆塗五枚胴が現れ、その身に装着される。 三日月型の有名な前立ても眩しい。 そして変身すると超回復モードに突入。 たちまち瀕死の重傷も癒えて、無傷の状態に復活。 「ふははは、これはよい…」 悲しいかな、瀕死になると勝手に変身するのはこの式神武戦具の仕様なのです。 合掌。 傷が癒えた九頭竜はとりあえず、自分を押しつぶしている杉の木に左手を添えると、思いがけない言葉を発した。
(ええっ!?) 派手な破壊音を立てて、たちまち直径1mにもなろうという杉の木が粉砕された。 (そ、そんな僕の技を…) 「なるほどのう、声に出せばこのような力が…。くっくっく、なんでも試してみるものだ。ますます気に入ったぞ、便利な体じゃのう」 九頭竜は上機嫌で立ち上がった。 当然ながら、春樹の受けた衝撃は甚大だった。 自分でも扱いきれないほどの強大な力、陰陽武道士としての力さえも、この悪の権化(?)に勝手に使われてしまったら…。 そう、みんながピンチである。 いや、むしろ日本ピンチ。 春樹の力で日本がヤバイ。マジヤバイ。 (で、でも変身さえ解けば…) そうそれだ。春樹にはまだその奥の手があった。 が、そんな春樹の淡い期待を裏切るように、九頭竜は不意にマジモードに…。 「ほほぅ、戻ってまた死にかける気か? あれを見るがいい」 オロチの瞳となった右目と、人間の瞳のままの左目がそろって前方を見据える。 (あ、あれは…) 10m先も見通せないような濃霧。 しかし、そんな霧の向こうにシルエットとなって見えているのは…。 「くっくっく、なるほどのう。鞍馬の天狗どもか」 杉の木の枝の上に複数の、烏天狗(からすてんぐ)が…。 (天狗…? でも、鞍馬山の天狗は僕たちがほとんど倒したはずなのに…) 春樹がそう考えるのも無理は無いが、実のところすでにあれから249年経過しているのだ。 そりゃ、天狗の1匹や2匹ぐらい復活していたって…、3匹…、10匹…、あれ? 100匹くらいは居そうですよ? それも、いつの間にかすでに完全に包囲されている? (そ、そんなはず…) しかし、烏天狗たちは、遠巻きに様子を見るだけで攻撃を仕掛けてくる様子は無い。 むしろ恐る恐る九頭竜の様子を窺っているような気配。 「くっくっく、親玉はこいつか」 愉快そうにのどを鳴らし、余裕綽々の九頭竜。 やがて、霧の中から人型のシルエットがこちらに向かって歩いてきた。 白の直衣姿。…人間? (え? 晴明さん?) そう、ひと目その輪郭は安倍晴明。こんな林の中でも不思議とピシッとノリの効いた綺麗な直衣なのが妙に不自然に浮いて見える。 しかし、霧の中から現れたその姿をしっかり視認出来るようになると、強烈な違和感が…。 目に付くのは鬼の面。 そう、その晴明っぽい姿の男は鬼の面で顔を隠していたのだ。
(ええっ? 良源さん?) デザインは違うものの、とある理由から鬼の面をかぶっていた角法師がいましたな…。 比叡連者のボスにして、うっかり広奈様を殺しかけた降魔大師。 しかし、この人は良源でもないようです。 でもまぁ、晴明と良源を足して二で割ったような雰囲気だな、と言うのが春樹の第一印象だった。 要するにどっちに転んでもタダモノではなさそうだ、と。 「何者だ?」 九頭竜の問いかけに、鬼の面に隠れていない口元がニヤリと笑みを形作った。 それがまた、妙に不気味と言うか…。 「この【人払いの霧の結界】に侵入してくるとは、貴様こそ何者だ?」 声の感じからして、40歳かもっと上のおじさんらしい。 こんな状況でも、落ち着いた雰囲気のダンディな美声。 晴明も良源ももうちょっと若い声だった…。 (…誰だろ?) 九頭竜は分かりやすいくらいにふんぞり返って返答した。 「くっくっく、臭うな…。魔王の臭いがするのう。将門と同じ臭いじゃ。さてはやつらの残党か?」 「……」 その男は返答しなかった。 しかし、むしろ春樹のほうが動揺。 (ええっ、魔王の側の人? ってことは敵? やっぱり悪い奴?) ああ、でも、いまや自分の体は九頭竜のものだから、こっちはこっちで悪い奴な訳で。 え? あれ? どうなるの? どっちが悪い奴? 軽く錯乱中の春樹。しかし、当然ながら外からはその思考が分かるわけも無く…。 と、その男が口を開いた。 「その剣。神器並みの力を感じる。まさか、こんなものが…」 なんか独り言? 「まぁよい、汝が何者かは知らぬが、その臭いは我慢ならん。喰ろうてやるわ!!!!!」 ぶわっ! 一気に空気が緊張感を増した。 九頭竜、戦闘モードである。 春樹の五行妖術に超回復の体。そして杉の木を一撃で切り倒すほどのパワーと凶悪な剣。 史上最強の破壊兵器が、今まさに、牙を剥かんとしていた。 「ぐははははは!!!」
九頭竜(春樹の体)の背後から心臓を一突き。 そのまま刀の切っ先が九頭竜(春樹の体)の左胸から現われていた。 シャワーのように勢いよく吹き出す鮮血。 つまり貫通。串刺し。 つまり即死!? (…はうっ?)
「義盛殿か、余計な真似を」 背後から、たった今暗殺を成功させたとは思えないような、陽気なおっさんの声が聞こえてきた。 「あれ? 殺しちゃまずかった?」
「あ〜、さてだな、いささか…、かなり、相当、いと七面倒だが、魔王の話に関わることだから順に説明してやろう」 かなりだるそうに、泰成は手元の和紙にさらさらと天皇家の系図を書いていく。(数字は第何代目の天皇か即位の順番を表す)
「今回の話の主役はこの崇徳天皇だ。ちょっと前まで讃岐院なんて呼ばれていたが、今では昇格して“崇徳院”ってみんな呼ぶようになった。大雑把に言えばこいつが、魔王だ」 いきなり核心に切り込む。 「…あ、もう結論?」 話が早くていいわね、と美亜子は率直に思ったりする。難しい歴史の話は苦手だし。 「ああ、聞いたことがある。崇徳院と言えば、保元の乱に敗れて配流された上皇だったな…」 と、これは予備知識のある輪君。 「“保元の乱”ねぇ、後世ではそんな風に呼ばれてるのか。まぁ、いい。少し面倒な背景から説明してやるぞ〜」 泰成は語った。 「そもそも、この(72)白河天皇ってのが諸悪の根源でな、息子の(73)堀河天皇に位を譲って“白河上皇”となり、院政を始めたんだが、結構やりたい放題。“北面の武士”ってのを子飼いの傭兵として、その武力を背景に権力を維持していたわけだ。息子の堀河天皇が29歳で崩御した後も、孫の(74)鳥羽天皇を擁して権力をそのまま維持していた。で、最悪なのが、鳥羽天皇の中宮に、自分の愛人だった“待賢門院”を与えたこと。が、この人、実は白河上皇の子供を妊娠していたらしい。そこで生まれたのが(75)崇徳天皇。つまり、鳥羽天皇にしてみれば、この子は…?」 話を振られた美亜子が考える…。 この系図を見ながら計算すると…。 「おじいちゃんの子供だから、お父さんの兄弟なわけで、叔父さんってこと?」 「あ〜、正解だ。だから鳥羽天皇はこの皇子を“叔父子”と呼んで嫌った。でも、白河上皇は自分の子供だからかわいいよな。この子が5歳になったとき、鳥羽天皇をだまして退位させ、崇徳天皇を即位させた」 なかなかどろどろした血縁関係である…。 「まぁ、そんな経緯で天皇になったものの、白河上皇がいよいよ病没すると崇徳天皇は、一族から総スカンを食らった。崇徳天皇10歳のときだ。鳥羽上皇の院政が始まるや、早速崇徳天皇は退位させられて崇徳院になり、代わって3歳の(76)近衛天皇が即位した」 「…そんなころころ天皇が変わっていいの?」 と、これは美亜子の率直な感想。 「あ〜、まぁ、実権を握っていたのは院のほうだからな、昔の藤原家のように、幼帝を補佐するって名目でいいように権力を振るっていたのさ」 「…歴史は繰り返す、だな」 日本史マニアの輪君の一言。 「あ〜、どこまで話したっけ? あ、そうそう、(76)近衛天皇は19歳で若死にするんだが、ここで後継者争いが起こった。崇徳院は当然自分の息子の重仁親王を次の天皇に、と望んだわけだが、やっぱり嫌われ者だからな…。結局鳥羽上皇は崇徳院の弟である(77)後白河天皇を即位させた。あ、ちなみにこの人は例の“待賢門院”の産んだ子だが、今度はちゃんと鳥羽上皇の実子らしい」 「…ややこしいわね」 「兄の崇徳院は祖父の子、弟の後白河天皇は自分の実子。まぁ、どっちが可愛いかは言うまでもないってことだろ。で、この崇徳院と後白河天皇による兄弟げんかが保元の乱だ」 「話を兄弟げんかのレベルで語るのは微妙だが…、まぁ、概ねその通りなのがなんとも…」 輪君はやれやれと肩をすくめる。 歴史上、後継者争いってやつは、人々がもめる一番の原因である。 「鳥羽上皇が崩御した途端、戦いは始まった。崇徳院方には源為義、源頼賢、源為朝(鎮西八郎)、平忠正といった面々が味方。後白河天皇方には、源義朝、平清盛、源頼政、源義康といった面々がついた」 「あ、平清盛って聞いたことがある!」 ようやく美亜子も知っている名前が出てきた。 「ほう、相国はさすがに有名なんだな。まぁ、ともかく、勝ったのは後白河天皇のほう。そもそもは天皇家の兄弟げんかだが、源氏も平氏も、肉親同士が争った」 と、ここでまた泰成はさらさらと和紙に筆を走らせた。
「いや、こうして見ると、すごいメンバーだな…」 泰成が紙に書いているのを見ながら、輪が呟いた。 「なにが?」 美亜子が退屈そうだったので、輪はちょっと話を広げた。 「平貞盛を知っているだろう? あの将門に罵声を浴びせてた」 それはバッチリ覚えている。 「そうそう、いたわね。あいつを守るためにあたしらは将門と戦ったのよね。…その後のことはあんまり思い出したくないけど」 まー、ばっさり斬られたしね。 「そうだな。その貞盛の子孫が清盛だ」 「ふ〜ん」 美亜子はあんまり興味なさげ。 美亜子の反応がうすかったので、輪は再チャレンジ。 「じゃあ、この一条屋敷の向かいで武士団と戦ったことは覚えているか?」 「ああ、あんたが刀を折られてピンチだったときね。結局変身して戦ってた」 「…まぁ、そうだが、その俺が戦った相手が源満仲だが、その子孫がここに出てくる源氏全員」 「全員って…」 「全員だ。色々と枝分かれしているが、根元は満仲。だから俺があの時満仲をうっかり殺していたら…」 そう、その話を広奈としたことがあったな…。 輪君は回想モード。 源氏の始祖がいない日本史。どんな歴史になっていたのだろう…。 「へぇ〜、ま、どうでもいいけど」 あれ? 輪くん思わずずっこけ。 やっぱりこの手の話は美亜子よりは武田のほうが話しやすいなぁ…。 そんなことを思う輪である。 「あ〜、話を続けていいか?」 書き終えた泰成が再び語りモードに入ったので、輪も美亜子もおとなしく聞くことにした。 「え〜と、見ての通り、この戦いは源氏も平氏も身内同士での殺し合いだったわけだな。勝った源義朝は、自分の親父(為義)と弟(為朝)を殺し、平清盛は叔父(忠正)を殺したことになる。そんな骨肉の争いの末、源義朝と平清盛が台頭していく。あと、負けた崇徳院は讃岐に流された」 讃岐に流された後の崇徳院の話は、輪も多少記憶していた。 「そうか、そこで恨みの念を募らせて怨霊となるんだな…」 泰成は頷いた。 「讃岐に流された崇徳院は仏教に救いを求めた。そして五部大乗経(法華経・華厳経・涅槃経・大集経・大品般若経)の写本を何年もかけて必死に作った。で、完成した五つの写本を京の寺に収めてほしいと送ってきた。まぁ、反省とお詫びの証ってことで、これで許してくれという意図だろうな。しかし、後白河天皇は受け取らなかった。呪詛がこめられているに違いない、と疑って送り返した」 「うわー、それはひどいわね」 美亜子が思わず顔をしかめた。生まれたときから疎まれて、戦に負けて、反省の証も呪詛とされて送り返される。 なるほど、これは相当の恨みだろう。 「そう、ひどい。少なくとも崇徳院は誠心誠意写本を作っていたんだろう。これできっと許される、都に帰れるという希望を持っていたはずだ。だが、それもあえなく潰えた。結果、崇徳院は完全に絶望した。期待が大きかった分絶望も深かった。で、何をしたかというと、自分の舌を噛み切った。そしてせっかく書いた五つの写本に自分の血でこう書いたんだ」
「で、その崇徳院が魔王になった、と?」 ようやく最初の結論に戻ってきた。輪君がそう確認すると、泰成は首を振った。 「あ〜、実はそれが厳密に言えばよく分からんのだな。天狗になった崇徳院は親父の泰親が調伏したはずなんだ。まぁ、その話を語りだすと長くなるし、面倒なのでやめておくが、結論から言えば、そのときも五つの写本は見つからなかった…」 そこまでの情報を聞いて、輪は思いついた。 「つまり、怨念はその五つの写本に込められていたわけだから、写本が怨霊となった。それが魔王ということか?」 「あ〜、鋭いな、泰茂兄貴もそう睨んだらしく、五つの写本の行方をあれこれ調べていたんだ。だが、さっきも話したが兄貴は去年殺された。おそらくは、その写本の持ち主に…」 「ふ〜ん、じゃあ五つの写本の持ち主があたしらの敵ってこと?」 ようやく話が見えてきた。 結局美亜子にしてみれば、誰が敵で誰が味方なのかがわかれば十分なのである。 「あ〜、そう考えれば早いんだが、そもそも何人が写本を持っているかは分からん。一人で全部持っているか、それとも持ち主は五人いるか…。だが、写本を持っている可能性が高いのは源義経だろう」 ここでまた話が繋がってきた。 源義経の名を聞いて、輪と美亜子が思わず身を乗り出した。 「あ〜、義経の話をする前に、平清盛と源義朝の争いについて触れておこう。これは後世でなんと呼ばれている? “平治の乱”とか?」 ネーミングの法則はそのまんま。ゆえに正解だった。 輪が頷くと泰成は話を続けた。 「保元の乱で勝った源義朝と平清盛はその後どんどん出世して行った。特に清盛のほうが出世が早かった。そこでまたもめた。詳細は省くが、保元の乱の3年後、今度は源義朝と平清盛が戦ったんだ。それが平治の乱ってことだな。で、清盛が勝って義朝が負けた。当然義朝は死んだんだが実は遺児がいた。何人かいたがとりあえず、二人だけに絞って話をしよう。一人は頼朝で、もう一人は当時乳飲み子だった牛若丸」 「あ、牛若丸って知ってる。それが義経よね」 さすが有名人。美亜子でも知っている話だ。 「まぁ、本来なら二人とも処刑されていたところなのだが、清盛は助けた。頼朝が助かったのは清盛の継母・池禅尼のおかげだった。早世した自分の子に頼朝が似ているからと助命を願って清盛は断れなかった。で、殺す代わりに伊豆に流した。一方の牛若丸が助かったのは母の常盤御前が美人だったから」 「なにそれ?」 そこは美亜子の突っ込みどころだったらしい。音速で割り込んだ。 まぁ、母が美人で助かるってのも変な話であるが…。 「あ〜、それな。もともと常盤御前って都では有名な美女でな、近衛天皇の中宮九条院の雑仕女だったんだが、その採用試験ってのが傑作でな。都の美女千人を集め、百人に選抜し、その百名の中からさらに十名を選んだ。最後、その十名の中で一番の美女だったってことで、採用が決まった人なんだな〜」 「ミスコンの優勝者ってこと?」 相変わらず美亜子の表現は現代風だが、概ね正しい。 輪君が頷いてみせたので、さらに泰成は話を続けた。 「なので後に源義朝の側室になったときも、清盛はうらやましかったんじゃないか? 結局義朝が死んだあと、今度は自分の側室にしてしまったんだな。牛若丸の助命を条件に」 「うわ〜、やな奴…」 率直な美亜子の感想である。 「あ〜、そう言われればその通りなんだろうが…、しかし、義経にしてみれば許せないことだったんだろう。清盛は父の仇でもあり、母を奪った憎い男ってことにもなる。結局幼い牛若丸は常盤御前とは引き離されて鞍馬山に入れられたわけだからな」 しかし、この先の歴史を見ると、このとき助命した頼朝と義経によって平氏が滅ぼされるわけだから、因果応報と言えなくも無い。 この辺の話は輪にとっては既知の情報だった。かつて学んだ通りのストーリーが展開されているわけで、そこらへんは自分の知っている歴史の話だ。 まずは、安心しながら聞いている輪である。 「で、さっきの写本の話だ。崇徳院が天狗になって、行方不明になったのは牛若丸が5歳か6歳くらいのときになる。そのときに鞍馬山にて牛若丸に写本が渡った……、可能性がある。義経と言えば常人離れした俊敏さと、跳躍力、そして京八流の剣術で有名だが、それも写本の力かもしれん…」 それが泰成の推論。 「なるほど、俺の知る限り、伝説では、義経は鞍馬山で天狗に剣術を教わったとか、鬼一法眼から“六韜”という兵法書を授かったとか…そんな話が伝わっている。写本の話とも似ているな…」 と、これは輪君情報。 「は? 鬼一法眼ってか?」 そこに泰成が反応した。 「なんだ? 聞き覚えでも?」 「いや、それ親父の泰親や泰茂兄貴が公務以外で動くときに使ってた偽名…。そうか、何だかなぁ、時間が経つと色々とごちゃごちゃ混じるんだな…」 やれやれと嘆息する泰成。 しかし、どこまでが伝説で、どこまでが事実なのか、なんだか頭が混乱してきた輪である。 「…ま、どうでもいいけど」 そして結局あんまり聞いていない美亜子である。 (ていうか、やっぱり泰成のあの無精ひげと髪の毛、何とかして欲しいわね。なんかイライラするわ) そっちのほうが美亜子には重要事項らしい…。 「あ〜、それじゃ、もう少し義経の話を続けようか」 「そうだな。義経が如何にして平家を滅ぼしたか、詳しいことを教えて欲しい」 いつの間にか、この二人は相通じるものがあったらしい。 嬉々として歴史談義が続きそうな気配である。 やっぱり歴史の生き証人からその当時の話を聞くってのは、歴史好きの夢なんでしょうな。
(ああもう、ちょっとその辺散歩してきていいかしらね) 美亜子の退屈は続く。
正真正銘の美女だった。 年は…、20歳くらいかもうちょっと上だろ。 大陸的な彫りの深い顔立ちのとにかくすげー美人さん。 身長は広奈ちゃんよりも高そうだな。美亜子ちゃんよりは低いようだし、163センチと見た。 お胸も結構ある。 その人が、どこかで見たような白くてヒラヒラの、十二単チックなお姫様的衣装に身を包んで、俺たちのすぐ後ろに立っていた。 ていうか、いつの間にそこに? 足音とか全然聞こえなかったけど…。 そして、やっぱり見れば見るほど、この人のお顔もオレの記憶に引っかかるような、引っかからないような…。 そう、あの髪を左右両方で結んでツインテールっちゅうか、ツインお団子にしているヘアスタイルとかね。
突如その美人さんがぶわっ、と目に涙を浮かべたではないか! 「えっ、あの、なな、なんですかっ!?」 思わず動揺するオレ。 だが、その人はオレの動揺にも構わず、そのまま子供のように泣き出してしまった。 「えーん、ほんとに淳二さんと広奈さんだ〜。わぁぁぁん」 オレより年上の美女がわんわん泣く姿に、とにかく度肝を抜かれっぱなし。 しかし、この人の声、そしてお顔。やっぱりどこかで…。 「まぁ…、まさか乙姫様では?」 オレの後ろで広奈ちゃんの驚きの声が上がった。 そうそう、それだ広奈ちゃん! 「って、なに〜〜っ!?」
しかし、なんかいきなり第二の謎の男に暗殺されてますが、大丈夫? そして淳二と広奈の前に現れた美女の正体は、なんと乙姫!? 退屈しまくる美亜子をよそに、輪と泰成の歴史談義はまだまだ続く!
「陰陽師は闇に笑う」
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