〜大長編オリジナル日本史ファンタジー大河ドラマ小説〜

陰陽五行戦記

序章

◇現代編◇
第二話「戦いは唐突に」





今日の体育は6人制バレーボールだった。

早速コートでは3組と4組の試合が開始されることになった。

球技大会実行委員の真田淳二が島津先生と交渉し、球技大会の前哨戦という名目で今日のルールを決めてきた。

1試合6分×4試合、全員出場が原則、4試合の勝利数で競い差がつかなかったら代表メンバーを出して決戦という簡易ルール。

審判は島津先生が勤める。

6分の試合時間中得点の多いチームの勝ち。ちなみにラリーポイント制である。

早速作戦が練られた。

4組の男子はちょうど24人。よって一人の重複もなく4試合を戦わなければならない。

それに対して3組は20人と4人少ない。

従って4人までは2試合に出場できる。

輪、淳二、尚貴が中心となって考えたメンバーの割り振りはこうである。

一試合目:直江輪、真田淳二、大谷次生、島勝智、その他二人。

二試合目:割とスポーツが苦手な6人。

三試合目:明石雄大、直江輪、真田淳二、伊達春樹、その他二人。

四試合目:後藤聖治、島勝智、大谷次生、石田尚貴、その他二人。

2試合に出場するのは、先発出場の輪、淳二、次生、勝智の4人となった。

作戦としては2試合目を捨て1,3,4試合目で勝ち3勝1敗を狙うものである。

「…こういう布陣で行きます」

尚貴の言葉にクラス全員が頷いた。

作戦了承。

「ところで淳二、相手チームで警戒すべき選手は誰だ?」

輪が聞くと淳二はその謎知識を披露して見せた。

「まずは四天王の高坂、馬場、山県、内藤。こいつらを敵さんがどういう風に投入してくるかが問題だな。もし単独だったら間違いなくそいつにボールを集めて来る」

「4人が4試合にバラバラで来た場合ですね」

尚貴の言葉に淳二がにっこりと頷いた。

「これだったら一人をマークすればいいから勝つのは簡単。ただしこのほかにも横田、保科、小幡、それと秋山あたりが警戒の必要ありだな」

「あとは、向こうの出方次第だ。主力選手をいつ投入してくるかによってはこちらも厳しくなるぞ」

そう言った輪の不安は的中した。

一試合目、ほぼベストメンバー4人を投入した3組に対し、4組は主力選手が一人もいないチームをぶつけてきた。

試合開始とともに4組のサーブがいきなりあらぬ方向に飛んでいった。

「なぬ?」

コート上の淳二がボールを呆然と見送る。

ピ〜ッ。…アウト。1対0。

サーブ権が3組に移ってきた。

サーブを打つのは輪である。

輪は高々とボールを放り投げるとその後を追うようにしてダッシュし、ジャンプした。

「ジャンピングサーブ!?」

試合を観戦していた高坂が驚きの声を上げていた。

バシィッ!

輪の打ったボールは凄いスピードで相手コートに突き刺さった。

4組のメンバー、一歩も動けず。

「ひゅ〜っ、さすが直江っ!」

大谷次生が歓声を上げた。

「どうだっ、去年の球技大会の時に練習した必殺のジャンピングサーブ」

そして何故か我がことのように自慢する淳二。

それでコート上の4組メンバーの戦意はいきなり崩壊していた。

その後も立て続けに輪のサービスエースが決まりまくり試合開始からの3分で9連続得点。

結局輪がサーブをミスしてボールをネットにぶつけるまで、4組のメンバーはボールに触ることすら出来なかった。

しかし、その試合の模様を見ている4組の他のメンバーには一切焦りの色は見えなかった。

まるで、これが予定通りであるかのように、平然と試合の模様を見守っている。

特に山県聡士が眼光鋭くコート上にいる輪達の動きを観察していた。

4組のサーブが今度は無事コート上に入り、次生がレシーブ、それを淳二がトスし勝智が強烈なスパイクを放つ。

それを山県はじーっと凝視している。

その様子に気付いた石田尚貴が慌ててコート上の6人に声をかけた。

「いけない。相手はこちらの動きを観察しています。手の内を読まれては厄介ですから、うまく誤魔化して下さい」

2試合に出場する4人がこっそり頷いた。

コート上の輪が小声で淳二に呟いた。

「しかし参ったな。相手は最弱メンバーをいきなり投入してきたらしい」

「だねぇ、手応え無さすぎだもんな」

結局輪達6人はそのまま圧勝した。

ただし、勝ったものの輪たちは釈然としない顔のままコートを後にした。

「勿体ないことをしました。このメンバーだったら相手の主力と試合させるべきなのに」

戻ってきた輪達を迎えたのは尚貴の渋い顔だった。

「こうなったらこっちも対抗して相手の主力に…」

淳二がそう言いながら相手チームの方を見ると、ちょうど四天王全員が一斉にジャージの上を脱ぎTシャツ姿になった。

「どうやら4組は主力を投入するようだぞ」

島勝智が尚貴に耳打ちした。

「よし、では作戦通り2チーム目行って下さい」

尚貴が待機していた6人を促した。

相手の最強チームにぶつけるこちらの最弱チームである。

どうせ一敗するなら被害を最小限にしようという策である。

しかし、立ち上がりジャージの上着を脱ぎ、まさにコートに出ていこうとしていた四天王はそのまま留まり、代わりにじっと座っていた全く別の6人がにわかに立ち上がってコートに並んだ。

「なんだと?」

「しまった、フェイクか」

3組はまんまと裏をかかれた格好になってしまった。

四天王が試合に出場するように見せかけ、それにあわせてこちらの最弱チームがコートに出た段階で、待機していた別チームを投入してきたのである。

主力を温存しつつこちらの最弱チーム相手にならなんとか勝てるだろう、というメンバーを集めた“そこそこチーム”をぶつけてきたのだ。

「くっくっく、まんまと引っかかりやがった」

いかにもこちらを小馬鹿にした哄笑を響かせる高坂鏡。

その隣にはしてやったりと笑みを浮かべる山県聡士。

普段なら“賢くて優しいお兄さん”という印象を与える聡士の顔は今はすっかり腹黒い策士の顔に変貌していた。

そんな聡士の指示のもと、四天王はよりによって一度脱いだジャージの上着をもう一度着直すパフォーマンスを展開していた。

これで明らかにこちらを騙したことをアピールしている。

「おにょれ〜」

地団駄を踏む淳二はじめ、悔しそうな3組メンバーだったが後の祭りである。

そしてコート上では熾烈な試合が展開されていた。

両チームとも主力となるような選手がいないので決め手に欠け、むしろ相手のサーブミスによる得点の方が多い始末。

3組チームは善戦したものの結局9対11で競り負けてしまった。

ここまでで1勝1敗。

そして三試合目、4組は高坂、内藤、横田、小幡の4選手を投入してきた。

当然残りの2人も戦力になるメンバーである。

この時点で四試合目のメンバーも確定した。馬場、山県、秋山、保科が温存されていたのである。

コートに立った段階でそれを把握して輪は苦い顔になった。

「しまったな、敵はここから2勝狙いらしい。この試合と次の試合を完全にとる気だぞ」

「だなっ、てことは、オレら一試合目にまとめて出たのは失敗だったなぁ」

先発メンバー4人のうち誰か一人でも二試合目に出ていたら結果は違っていただろう。

そんな二人の会話に明石雄大が割り込んだ。

「おれらが勝てば少なくとも引き分けになる。今は試合に集中しよう」

「ああ、そうだな」

「よしっ、一丁頑張ろうぜ」

淳二の檄に残り5人が応える。

「頑張らないと…」

一人春樹も気合い十分だった。

もともとこの戦いのきっかけは自分にある。春樹は彼なりに責任を感じてこの試合に全力を尽くそうとしているのだ。

ぴ〜っ。

早速試合開始の笛が鳴った。

4組ネット3組
内藤横田直江真田
曽根小幡伊達明石
萩原高坂大野渡辺


両チーム試合開始時の布陣は上図の通りである。

「うっしゃぁ、行くぜコラァ!」

雄叫びを上げて淳二もジャンピングサーブを放った。

バシィ!!

思いっきりジャンプし、最高到達点ピッタリで淳二が打ったボールは唸りを上げて飛び、見事に春樹の後頭部に激突した。

「はぅっ!?」

FC(フロント・センター)の位置にいた春樹は目から火花を出してそのまま膝をついた。

クリティカルヒット。

「のわぁ、すまんハル」

ピ〜ッ。…アウト。0対1。

サーブ権が4組に移り、ローテーションして高坂がサーバーになった。

「ジャンピングサーブを打てるのが自分だけだと思うなよ」

高坂は輪に向けて不敵に言うとボールを高々と上げて自らも美しいジャンピングサーブを放った。

「うわぁっ」

自分に向かって飛んでくる高速ボールにBL(バック・レフト)にいた渡辺君は思わず逃げ腰で腕を出した。

ぼごっ…。

中途半端に渡辺君の腕に当たったボールはそのまま大きく左側へと飛んでいった。

ピ〜ッ。…アウト。0対2。

「見たかっ」

ガッツポーズを決める高坂。

おおおおおーーッ!!

やけに盛り上がる4組ギャラリー。

「まだまだ大丈夫だ。落ち着いていこう」

コート上では輪がそうメンバーに声をかけていた。

そして再び高坂のジャンピングサーブ。

低い弾道を描いて飛んで来たそのボールを今度は左寄りに守っていた明石がなんとかレシーブする。

しかし、ボールの勢いに負け、セッターの春樹まで飛ばなかった。

「まかせろっ」

それをとっさに淳二がトスし、輪の頭上までボールを上げた。

「打て直江っ」

明石の檄に輪は飛んだ。

「…!!」

しかし、輪の前に内藤と横田、ブロックが2枚。

ビシ、バシッ、ドゴッ。

「はう」

いい音が三回響いた。

輪がスパイクを放った音、それを内藤がブロックした音、跳ね返ったボールがセッター春樹の顔面を直撃した音である。

ピ〜ッ。0対3。

「大丈夫か春樹?」

「ら、らいじょうぶ」

鼻を押さえつつ春樹が頷く。

しかし輪のスパイクを2枚ブロックとはいえ見事に止めて見せた4組の力はなかなか侮れない。

「みんな頑張って」

セッターなのでネットぎりぎりの位置に立ち、相手チームに背を向ける格好の春樹がそう言って5人を見渡した。

「おう」

「今度は決めてやる」

3組の士気も上がってきた。

「もとはといえばあいつが…」

4組コートではその目に暗い炎を燃やし、高坂が春樹を睨み据えていた。

そして三度目の高坂のサーブ。

「喰らえ」

ドゴッ。

「はぐぅ」

高坂の強烈なジャンピングサーブは狙い過たず見事に春樹の後頭部にヒットしていた。

ピ〜ッ、1対3。

「奴め、はじめから狙ってたな」

輪はちょっと怒ってきた。

「い、痛い」

春樹はちょっと怖がってきた。

「おしっ、輪のサーブだ。これで追いつくぞ」

さくさくローテーションして場所を移った淳二が味方に檄を飛ばす。

(狙い目はバックレフトの曽根とバックセンター萩原の間だな)

輪はそう目星をつけるとジャンピングサーブを放った。

そしてボールはきっちり狙い通りの場所へ落ちた。

びしっ。

しかし、いつの間にかその位置、つまり曽根と萩原の中間辺りまで下がっていた内藤が見事にレシーブを上げていた。

(こちらの狙いを読んだ!?)

輪が舌打ちしてバックライトの位置に戻る。

内藤の上げたボールを横田がトスし、それをすぐに小幡がスパイク。

3組前衛渡辺と大野のブロックは間に合わずボールはコート中央に落下した。

いわゆるAクイックが見事に決まった。

うおぉぉぉぉぉ!

再び湧く4組ギャラリー。

ピ〜ッ、1対4。

期待していた輪のサーブは一回で終わってしまった。

サーブ権が4組に移る。

小幡のオーバーハンドサーブがコート中央、ちょうどセッター大野のすぐ後ろにすとんと落ちた。

ピ〜ッ、1対5。

「いいところに落とすじゃないの」

今度はちょっと上がり目の位置に移動した淳二。

再び小幡のサーブ。

しかし、狙いがはずれたのか明石の正面。

そのまま明石がオーバーハンドでトス。

ボールは春樹の上まで飛んだ。

「よし、打て春樹」

後ろから輪に声をかけられ春樹は飛んだ。

かすっ。

しかし、タイミングが合わず春樹は指先だけでボールを打ってしまった。

勢いの全くないスパイクはしかしうまくブロックの上を抜け、相手チームのコートに…。

ぼすっ。

…は落ちず萩原にレシーブされてしまった。

そして上がったボールを内藤がそのままスパイク。

春樹が必死でブロックしたが、その手に当たってアウト。

ピ〜ッ、1対6。

「まずい傾向ですね…」

試合を眺めていた尚貴が小声で傍らの島勝智に話しかけていた。

「4組のほうが明らかにモチベーションが高い。ここらでなんとかしないと逃げ切られる」

勝智の声にも焦りの色が見えていた。



◇一方そのころ◇


体育館の半面では女子がバスケットボールの試合中だった。

3組エース美亜子が攻守にわたって大活躍し、大いに目立っていた。

何しろディフェンスにまわればほぼ確実に相手のボールを奪えるのだ。

美亜子の人並みはずれた反射神経と動体視力の賜物である。

攻めにまわってもキレのあるドリブル、相手の裏をかくフェイント、素早いパス回し。

はっきり言ってバスケ部レギュラーなみの大活躍だった。

が、その美亜子も試合が終わったので男子の方を見ていた。

傍らには放送部の酒井めぐみ。

「男子の方やけに盛り上がってるけど、なんかやってんの?」

美亜子がめぐみに聞くとさっそく歯切れのいい返事が返ってきた。

「うん、なんか3組と4組で広奈ちゃんをめぐって恋の火花が散ってるみたいよ」

すでに男子から事情を聞いていためぐみが事実を軽く歪曲して美亜子に伝えた。

「恋の火花ぁ?」

鸚鵡返しに聞く美亜子。

「うん、なんでも伊達君が広奈ちゃんに告白するのを4組が抜け駆け禁止、とか言って待ったをかけたんで、じゃあバレーボールで勝負だ、って」

ますます事実を曲げているめぐみ。

「勝負って、4組が勝ったら?」

「そりゃぁ、伊達君の告白は4組の抜け駆け禁止のせいで中止になるでしょ」

「え〜。ひど〜い。そんなの伊達君の純な恋心を踏みにじってるわぁ」

それを聞いていた榊原若葉が割と大声で叫んだので3組の女子も「なになに?なんの話?」と群がってきた。

そして数分後には広奈をのぞくほぼ全員に春樹の告白情報(ちなみに大幅にデマ)が知れ渡ってしまった。

哀れ春樹。

しかし、きゃーきゃー盛り上がっている女子を後目にひとり深刻な表情で4組の方を見ている人間もいた。

明智瑠華である。

彼女の目は普通の人間には見えない4組男子にまとわりついている黒い影を見ていた。

「まさか、4組の連中、魔王の瘴気にあてられているのか」

ただし、それが見えているのは瑠華だけ。

周りの女子はそんなことには気付かずに単に面白いイベントとして盛り上がっている。

そんな女子の様子を見かねて体育教師大友樹里が注意に向かったが、その前にさりげなく瑠華が立ちはだかった。

「…どうしたの明智さん」

「すまんが少し静かにしていてたもれ♪」

瑠華の声ではなかった。

“瑠華の顔をした瑠華ではない誰か”はにっこり笑うと口の中でなにやら呪を唱えた。

「……はい。静かにしています」

哀れ大友先生。



◇再び男子◇


試合は輪達の活躍で8対10まで追いついていた。

押され気味だった3組男子にモチベーションを取り戻させたのは意外にも女子からの熱い応援だった。

どれくらい熱いかというと美亜子を例に取るとこんな感じである。

「こらぁ淳二。そこでミスしたら放課後特訓の刑!」

それを聞いた淳二が必死に輪にトス。

「行け、輪。打ち殺せっ!!」

まさか美亜子の応援のせいではないだろうが、輪のバックアタック(!)は見事相手のブロックを吹き飛ばし、ボールは相手コートに落ちた。

「きゃぁぁぁぁ」

輪に女子から黄色い声援が飛ぶ。

これで9対10。

残り試合時間は1分を切っていた。

内藤のフローターサーブを淳二がレシーブし渡辺が上げて明石がスパイク。

決まった!

これでようやく同点に追いついた。

そしてサーブ権が移りサーバーは伊達春樹。

この段階で残り時間20秒。

これが最後のプレイになる。

コート全体に緊張感が高まっていた。

…………………。

春樹にボールがわたった瞬間。

「せーの、伊達君ファイト〜

3組女子からの黄色いエールが春樹に飛んだ。

もちろん女子は春樹の恋心を応援したい一心であった。

しかし、それを受けた春樹は、びくぅ、と露骨にびっくりするといきなり身体に力が入った。

ものすごく緊張しているのがすぐに分かる。

こちこちのまま春樹がボールを上げる。

一番確実なアンダーハンドサーブの構えである。

しかし、集団心理というのは恐ろしい。一度声援を送って気持ちよくなっている3組女子はそこで余計なことをした。

そ〜れっ♪

国際試合でお馴染みのサーバーに対する応援である。

しかし、応援される方は、応援されることに全く慣れていなかった。

「はうっ」

カチコチのままで春樹が打ったボールは明らかに力不足のままふらふら飛び、体育館全員の視線を集めたままネットに当たって落ちた。

もちろん3組コートに…。

ピ〜ッ。アウト。10対11。

そしてここで試合終了。

春樹痛恨のサーブミスで4組に敗北。

あぁ〜

がっかりする女子。

「さ〜て、大変なことになりました。ただいま入ってきた情報によりますと、これで3組対4組の4セットマッチは2対1で4組がリードしております。続く最後の試合に勝たなければ伊達君の恋心はむなしく4組に阻まれてしまうことになってしまうのですっ」

調子に乗ってきた酒井めぐみがすでに実況を始めていた。

「さぁ最後の試合に臨むメンバーがコートに現れました。順番に紹介しましょう」

4組ネット3組
馬場土屋増田
秋山保科大谷石田
小原山県後藤長束

「と、このようになっております。3組のメンバーでは主力となるのが後藤、大谷、島といった面々か。さぁ、注目の一戦です。解説には球技大会実行委員の本多美亜子さんをお招きしております」

「へっ? あたし?」

「はい、どうぞよろしくお願いします。さて、美亜子さん両チームの戦力をどう見ますか?」

すっかり自分の実況に酔っているめぐみの姿がここにあった。

それにすっかりつられて美亜子が解説を始めた。意外と乗せられやすい美亜子である。

「え〜っと、そうね。次生は去年あたし自ら鍛えてやったから大丈夫。島、後藤だって根性で戦えば何とかなるでしょ。ところで他の三人ってバレーボール得意なの?」

「ええと、石田君はそれほど得意ではないようです。他の二人も同様との情報です。美亜子さん相手チームは?」

「しらない」

身もふたもない解説者だった。

「え、ええと、4組のメンバーの戦力はまだ未知数のようです。それではそろそろ試合が開始されます」

ピ〜ッ。

島津先生の笛とともにまず3組サーバー島がオーバーハンドサーブ。

それを秋山がレシーブし、保科が後ろ向きにトスを上げて山県がスパイク。

それは石田尚貴の顔面めがけて飛び、とっさに顔をかばった尚貴の右手に当たって落ちた。

ピ〜ッ、0対1。

「お〜っと4組いきなり高難易度のDクイック炸裂。ちなみに解説いたしますとセッターのトスをすぐに打つのをAクイック、2mくらい離れて打つのをBクイック。セッターが後ろにボールを上げてすぐに打つのがCクイック。今やったようにセッターが後ろにボールを上げて2mくらい離れたところで打つのがDクイックです」

「へぇ、さすが将来アナウンサー志望。詳しいわね」

「解説の美亜子さんに褒められてしまいました。さぁ、そうしている間に4組のサーブ。打つのはスパイクを決めた山県聡士です」

バシィィッ!!

体育館にいい音が響いた。

山県聡士、彼もまたジャンピングサーブの使い手だった。

その威力は輪のそれとも互角かそれ以上。

長束が必死でワンハンドレシーブを試みたがボールの勢いに負け、大きくアウトに弾いてしまった。

ピ〜ッ、0対2。

「おおーっとこれは凄い。山県聡士の強烈なジャンピングサーブ。あのインテリ然とした顔とは裏腹になかなかやります」

「あいつ、経験者じゃないの?」

そこでめぐみに3組女子から耳打ちがあった。

「え〜っと、今入ってきた情報によりますと山県聡士はどうやら中学時代バレーボール部だったそうです。なるほど、道理でうまいわけです」

「…まずいわね」

美亜子の心配は的中した。

山県聡士のジャンピングサーブを止める事が出来ず3組はずるずると点差を付けられていた。

「さぁ、点差はすでに6点。どうした3組このままなすすべなく負けてしまうのか。さぁ、皆さんも応援しましょう」

ノリノリの実況に乗せられて3組女子も再び声援を送り始めた。

「頑張れ〜」

「ファイト〜」

そして一際よく通る美声が体育館に響き渡った。

「3組の皆さんっ、諦めないで。頑張って下さい」

渦中の人物。武田広奈であった。

「なっ、広奈さんが…」

どよどよと4組男子に動揺が走った。

途端に山県聡士のサーブが力を無くし、ボールはネットに当たった。

ピ〜ッ、1対6。

「おおーっと、ここまでノーミスだった山県聡士のサーブが失敗。広奈さんの応援が3組に力を与えたか?」

「…ていうか、4組の奴らいきなり意気消沈したんだけど」

美亜子の言は正鵠を射ていた。

何故かいきなり4組のプレイから冴えが無くなり3組は怒濤の追い上げでそのまま逆転したのだ。

「さぁ、大変な展開になってきました。大谷次生のサーブが立て続けに決まり、すでに8対6。逆転に成功しています」

「…4組は絶対におかしいわ」

美亜子と同じ感想を抱いていたのは先ほどから4組男子の様子を観察している明智瑠華だった。

(まさか、武田の声援が3組に行った途端4組の瘴気が弱まったのか)

そうこうしている間に試合は進み10対7。残り時間は1分半。

「4組の皆さんも頑張って下さい」

再び広奈の声援が、今度は4組に飛んだ。

おおおおおおおおおおおおおっ!!!!!

いきなり4組男子が火がついたように盛り上がった。

(なんなんだ?)

困惑する明智瑠華の目の前で4組チームの凄まじい追い上げが始まっていた。

山県が打つ、馬場がブロックし、秋山、保科は根性でボールを拾う。

「これは凄い、まさに広奈さんの応援で4組の闘志に火がついたぁ。解説の美亜子さんこれをどう見ますか?」

「…馬鹿?」

「にゃはは〜、確かに馬鹿です。非常に分かり易い4組男子。それもそのはず4組男子24名は全員『武田広奈ファンクラブ』のメンバーなのです。さぁ、負けるな3組。広奈さんを奴らに渡すな」

ノリノリの実況、3組女子の応援、4組男子の怒声、歓声と悲鳴が混じって体育館は大盛り上がり。

試合場では3組男子が必死に堪えているがそれでも4組の攻撃に点数を失っていた。

「さぁ残り20秒を切りました。現在10対10の同点、4組の山県のサーブです」

すっかり勢いを取り戻した山県のジャンピングサーブは大谷次生の正面に飛んだ。

「大谷っ」

輪も淳二も思わず立ち上がっていた。

(今度こそ止めてみせるっ)

バシィッ。

次生っち根性のレシーブ。

「よっしゃぁ、よくやったわ次生っ!」

解説を忘れて盛り上がる美亜子。

上がったボールを石田尚貴がなんとかトス。

「島君、頼みます」

「おう!」

島勝智が渾身のスパイク。

「決まれっ」

ビシッ。

しかし、馬場が根性で右手を伸ばしてワンハンドレシーブ。

ボールはそのまま3組コートに戻ってきた。

と…、すかさずボールのコースを読んだ後藤がバックアタック気味にちょいっとボールを相手コートに押しやった。

ひゅ〜〜、…ぽとっ。

「決まったぁぁぁぁ!! 目立たない男、後藤聖治。なんと土壇場で試合を決めるナイスプレーだぁ!」

おおーーーっ!

盛り上がる3組男子。

「…美味しいところ全部持って行かれたわね」

「おおっと4組男子悔しがっております。折角広奈さんから声援を受けておきながら、情けないぞ。そして喜ぶ3組男子。そうです、これで2対2の引き分け、このままベストメンバーによる最終決戦です」

「よ〜〜〜しっ、今度は勝つぞぉ」

淳二が気合いを入れる。

「…当然だ」

静かに燃えている輪。

「…集中、集中」

明石雄大もコートに入った。

「さぁ、どうやら両チームのベストメンバーが出そろいました」

おおおーーっ。

無意味に盛り上がる体育館。

ちなみに両チームの編成は以下の通りである。

4組ネット3組
馬場秋山大谷
高坂内藤真田明石
横田山県直江後藤

「(ところでみゃ〜こちゃん、あたしら調子に乗って観戦してるけどいいのかな〜)」

小声で耳打ちするめぐみ。さすがに女子の体育をサボっているのを気にかけているらしい。

「(平気よ。だって大友先生も見てるし)」

「(ほえ? あ、ほんとだ)」

女子の体育教師大友樹里、いつの間にか女子の間に混じって男子の試合を観戦していた。

ちなみにこれには事情があり、最初3組女子を注意しようとしていた大友先生は明智瑠華の怪しげな術によって操られ一時的にそれを黙認するようにされていた。

というのも瑠華は武田広奈応援効果を確かめようとしていたので女子が応援している方が都合がいいのだ。

3組の女子が全員観戦にまわり、しかも体育教師までがそれを黙認している状況…。

当然4組の女子も同じような行動に出た。

「きゃ〜、キョウさま〜、頑張って〜〜」

「おお〜っと、どうやら4組女子も応援にまわりました。負けるな3組。こっちも応援だぁ」

「3組ファイト〜」

乗せられて声援を送る3組女子。

女子からの声援に両チームは試合開始前から気合い十分の格好。

ピ〜ッ。

「さぁ試合開始の笛が鳴りました。まずは3組、大谷次生のサーブからです」

次生がネットに対して横向きに構えた。

「次生はドライブサーブの使い手よ。去年は結構これで得点してるわ」

美亜子が初めて解説らしいことを口にした。

ドライブサーブはボールに速い回転を加えてネットにスレスレに打つ強くて速いサーブ。

コントロールが付けにくいのが欠点だが、次生は美亜子の特訓を受けてその欠点を克服済みであった。

そ〜れっ♪

女子の声援をバックに次生のドライブサーブ炸裂。

「おっ!?」

自分に向けて飛んできたボールを馬場がその巨体を沈めてなんとかレシ−ブする。

しかし、ボールの回転のせいでセッターの位置に返らない。

高坂がそのボールを拾って前線に送る。

後ろから飛んできたボールはさすがの山県もスパイクできずに片手で軽く押しやるようにして3組コートに返しただけ。

「ちゃ〜んす、来い後藤」

「おう」

後藤が楽々とレシーブしセッター淳二にボールを送る。

「行くぞ輪!」

Aクイックのタイミングで輪が跳んだ。

4組山県と内藤がその前に立ちはだかる2枚ブロック。

「なんてね♪」

ひょいっ。

しかしそれは淳二のフェイント。輪をおとりにして島にトス。

「りゃぁッ」

バシーン。

「おおーっ、決まった。見事なDクイック。直前に直江輪をおとりに使いました。見事なセットプレーだぁ」

おおおおーっ!

盛り上がる3組男子。

「さぁ、3組が先制。再び大谷次生のサーブです」

そ〜れっ♪

しかし今度は高坂が見事なレシーブ。セッター内藤にボールが返った。

それにあわせて山県が跳ぶ。

「ブロック!」

輪と淳二が2枚ブロック。

しかし山県はスパイクは打たずにひょいと軽くボールにタッチし、ブロックの上をふわりと越えるボールを返した。

「しまった」

…ぽとん。

とっさに駆け寄った後藤の手も届かず。

「ああーっ、4組山県の頭脳プレー。これで1対1」

ぬおぉぉぉーっ!

4組男子の歓声が上がる。

サーブ権は4組に移り山県聡士がサーバーである。

「なんとしても奴のジャンピングサーブを止めろ、流れを呼び込ませるな」

輪がそう言いつつ後藤と明石の間近くまで下がった。

同じく島も明石と大谷の近くまで移動している。

そこへ山県の強烈なサーブ。

「島っ」

ぼごっ。

かなり痛そうな音を出しつつ勝智気合のレシーブ。

しかし上がったボールは輪の正面。

仕方なく輪はそれをそのまま淳二にトス。

スパイクは打てないと判断した淳二がそのまま返すだけ。

それを横田が拾って秋山に、その秋山のトスを受け馬場展男がジャンプ。

身長178p体重95sの巨体が宙を舞う。

そして強烈なスパイク。

しかし島のブロックに当たり勢いが殺されたボールは後藤の位置に飛んできた。

「真田っ」

「あいよ」

後藤からのボールが淳二の上にちょうどよく飛んできた。

それを見て輪と勝智がともにスパイクの体制に入る。

「くっ、ブロック!」

山県の声に反応して、内藤と秋山が輪に馬場が勝智についた。

「オレだよん♪」

ひょいっ。

しかし淳二はどちらにもトスを出さず自分でボールを相手コートに打ち込んだ。

ストン。

「うま〜いっ。真田淳二、見事に敵の裏をかいて2対1だぁ」

おおおーーっ。

これで再びサーブ権が3組に移った。

今度は島のオーバーハンドサーブ。

そ〜れっ♪

それを山県がレシーブし秋山に渡して馬場がスパイク。

輪がそれをブロックすると内藤が拾って再び秋山。

秋山のトスを受け再び馬場が打つと淳二が拾って輪がトス。

目立たない男後藤。しかし、結構強力なスパイクを放つ。

それを高坂が気合いで回転レシーブ。

上がったボールを内藤がそのまま打つと今度は次生が根性で拾う。

淳二がトスして輪がスパイク。

しかし馬場のブロックに跳ね返され、返ってきたボールを明石がレシーブ。

後藤が上げて再び輪がスパイク。

ブロックの間を抜けたボールがようやくコートに突き刺さった。

「決まったぁ、凄まじいラリーを終わらせたのはやはりこの人、3組のエースアタッカー直江輪!」

オオォォーッ。

盛り上がる男子。

きゃぁぁ〜ッ。

同じく盛り上がる女子。

これで3対1。

しかし輪の活躍は相手チームに火を付けた。

「馬場、内藤。奴らにJ.S.Aをかけるぞ」

「おう」

馬場が太い声で応える。

「おう」

内藤もぼそっと応じた。

「なんだぁ? まさか黒い三…」

淳二のつぶやきは女子の歓声にかき消された。

そ〜れっ♪

島のサーブは高坂がレシーブ。

秋山がボールを高くトスすると右から内藤、左から馬場がそれぞれ跳んだ。

(どっちが打つんだ?)

3組前衛真田、直江、後藤は一瞬攪乱された。

「ジャンピング!」

「三位一体」

「アタ〜〜ック」

内藤、馬場の声に続いて山県が叫んだ。

「なにっ?」

馬場、内藤はフェイント。そのままジャンプして交錯する。

前の二人をブラインドにし、本命は山県のバックアタック。

攪乱された前衛は対処できない。

バシーン。

「ああ〜っと、決まったぁ。前の二人をおとりにして山県が見事なバックアタックを決めましたぁ〜」

「…これが、J(ジャンピング).S(三位一体).A(アタック)?」

美亜子の顔が途端に真剣なものに一変する。

(こりゃぁ早いとこ対処法見つけないと球技大会の時に苦戦しそうだわ)

そして実際にJ.S.Aを受けた3組チームにも衝撃が広がっていた。

「まずいな山県の姿が見えなかったぞ」

そう、ちょうど馬場の巨体が完全に山県の姿を隠していたのだ。

これではブロックのタイミングが掴みにくい。

「ま、いい。気を取り直していこう」

冷静に明石が促す。

「おう」

今度は4組内藤のサーブ。

そ〜れっ♪

「おおーっと、ついに4組のサーブにも女子の応援がついた」

意外にも内藤のサーブは地味なアンダーハンド。

ふらふら〜と飛んできたボールをバックレフト明石が楽々オーバーハンドでトス。セッター輪が上げたボールを後藤がAクイック。

しかし秋山、馬場の二枚ブロックに弾かれて勢いが殺されそのまま4組バックライト内藤の上へ。

「…J.S.A」

内藤がぼそっと言いながらボールを横田に。

「どうぞっ」

横田それを高くトス。

「ジャンピング!」

「三位一体」

「アタ〜〜ック」

「山県が来るぞ」

3組前衛は輪の声にタイミングを見計らった。

しかし今度は右から馬場、後ろから山県と高坂が跳んでいた。

すかっ、すかっ。

山県、馬場はフェイク。

本命は高坂のバックアタック。

「なにっ!?」

山県の動きにつられてジャンプしてしまった3人の頭上を高坂の強烈なスパイクが通り過ぎた。

バシーィッ。

「きゃぁぁぁ、キョウさま〜」

4組女子の黄色い声援が飛ぶ。

ピ〜ッ、3対3。

「あ〜っと、3組、これで追いつかれてしまいましたぁ」

「う〜ん、まさか高坂もバックアタックが打てるなんて。前の試合では隠していたのね」

「そうですねぇ〜、驚きました4組の強力な連係プレー。一体誰が打ってくるのか全く分かりません」

一方コート上。

前衛3人が短くうち合わせ中。

「こうなったらあいつらに打たれる前にこっちが決めるしかない」

「そうだな」

「淳二、あれをやるぞ」

「うぃ、打つのは聖治ね」

「…わかった」

打ち合わせ終了。

再び4組内藤のサーブ。

そ〜れっ♪

ボールはバックセンター大谷の頭上へ。

「淳二っ」

「おう」

大谷が絶妙のレシーブ。

「いくぜ輪」

淳二と輪がAクイックの構え。

「させるかぁ」

高坂、馬場がブロックに跳んだ。

……すかっ。

「なにぃ?」

しかし輪のスパイクは空振り。

淳二のトスを受け取る本命は、輪の横2mにいた後藤聖治だった。

4組前衛反応できず。

バシィッ。

「すご〜い、見事に決まりました、3組の時間差攻撃。これで4対3だぁ」

「3組も本気を出してきたわね。去年は後藤の代わりに福島か加藤だったんだけど」

(でも後藤でも十分戦力になるわね)

と、こっそりほくそ笑む球技大会実行委員の美亜子だった。

「さぁ、これでサーブ権が3組に移ってきました。サーバーは先ほどの試合で伊達春樹の後頭部に見事なジャンピングサーブをかました真田淳二だぁ」

「嫌な紹介のされ方だなぁ」

苦笑しながら淳二がボールを放り投げた。

そ〜れっ♪

バシィン、……バフッ。

「ありゃ?」

ピ〜ッ、アウト。4対4。

「このアホが、何やってんのよ!!!」

美亜子の怒声が響いた。

淳二の打ったボールは見事にネットを揺らしただけだった。

「うにゅ〜、4組め〜、オレのサーブを防ぐとはなかなかやるな」

小声で呟いたはずの淳二の一言はなぜか美亜子の耳に届いていた。

「あんたのミスでしょうがぁぁっ!!」

美亜子は素早く懐をまさぐると何かを淳二に向かって投げつけた。

スパコーーン!!

「はぐぅ」

「お〜っと、解説の美亜子さん、一体どこからスリッパを取り出したのでしょうか? 真田淳二に強烈なツッコミです」

つんのめってぴくぴくしている淳二を見て青くなったのが約二名。

「ま、まさか球技大会になるといつもこうなのか?」

恐る恐るという感じで明石雄大が大谷次生に聞いていた。

「そうだよ。本多さんに殺されたくなければ頑張るしかないね」

至極まじめな顔のまま次生はそう答えた。

「………マジか?」

振り返って後藤が聞く。

「…マジだぜ」

「さぁ、気を取り直していきましょう。サーブ権は再び4組に戻りました。サーバーはちょっと地味な秋山君です」

そ〜れっ♪

ボールは淳二のもとへ。

「汚名挽回っ」

名誉挽回、あるいは汚名返上が正解。

誤用したまま淳二がレシーブ。

上がったボールはしっかりとセッター後藤の頭上へ。

「明石っ」

後藤が鋭く叫んでボールをトス。

バシィッ!

「お〜っと、決まりました。打ったのは明石ではなく直江。後藤意外と頭脳プレーのDクイックです」

してやったりと後藤が輪とハイタッチ。

「さぁ、これでまた3組にサーブ権が戻ってきました。そしてサーブを打つのは直江輪だぁ」

(ここで2点差にする)

輪は静かに集中すると去年何度も練習したジャンピングサーブを放った。

そ〜れっ♪

ボールは凄いスピードでネットすれすれをかすめてバックセンター内藤の左側へ。

「アウトだっ」

ワンハンドレシーブをしようとした内藤は山県からの声にその手を引っ込めた。

バシッ。

しかしボールは辛うじてラインの内側に落ちていた。

ピ〜ッ、イン、6対4。

おおおおーーッ。

きゃぁぁぁーっ。

盛り上がる3組男女。

「さぁこれは試合時間が4分を経過した段階で2点差ということになりました。しかも3組はまだ直江輪のサーブが続きます」

「ここで少し引き離しておきたいところだけどね」

しかし輪のジャンピングサーブを4組は再びJ.S.Aで返して6対5。

続く4組馬場の天井サーブはぎりぎりでアウトとなり7対5。

3組後藤のサーブではまたまたJ.S.Aを決められて7対6。

残り時間1分。試合は正念場、4組高坂のサーブである。

「さぁ、ここで同点にされると俄然苦しくなります。なにしろ4組のJ.S.Aはこれまでのところ決定率100%。3組チームここが踏ん張りどころだぁ」

酒井めぐみの実況にも力が入る。

「…これで決めてやる」

高坂がボールを高々と上げてジャンピングサーブ。

そ〜れっ♪

サーブを受けたのは後藤。しかしボールの勢いを完全に殺せず跳ね返ったボールがそのまま相手コートに入ってしまった。

「くっ、ヤバイ」

焦る後藤。焦る3組。

ボールをレシーブした馬場がそのよく響くバスで叫んだ。

「J.S.Aだっ!」

「おう」

フロントレフト内藤がぼそっと答える。

「おう」

フロントセンター山県も力強く応じた。

フロントライト横田が高くトスしたボールめがけて内藤、山県、馬場が跳んだ。

「ジャンピング!」

「三位一体」

「アタ〜〜ック」

(くっ、集中しろ、J.S.Aを破る方法を捜すんだ)

バックセンターの位置にいる輪は神経を研ぎ澄ませてJ.S.Aを凝視していた。

高く上がったボールにそれぞれタイミングを合わせて跳ぶ3人。

しかし、落ちてくるボールを最高到達点で打てるのは一人のはず。

右から跳んだ山県の手が空をきった。

後ろから跳んできた馬場は最高到達点を過ぎてしまっていた。

「内藤だっ!」

輪が叫ぶのと内藤が強烈なスパイクを放つのがほぼ同時だった。

前衛のブロック間に合わず。

内藤の放ったボールはコート中央に突き刺さった。

ピ〜ッ、7対7。

「同点! 同点になってしまいました。試合時間は残り20秒。泣いても笑ってもこれが最後のプレイです。果たして伊達春樹の恋心は成就するのかぁ!? 負けるな3組!!」

「…はい?」

大声で自分の名前を叫ばれて春樹は思わず酒井めぐみを振り返った。

そしてコート上。

「いいかっ、J.S.Aに惑わされるな。上がったボールだけ見るんだ。そうすれば誰が打っても関係ない。うまくタイミングを合わせて跳べ」

「わかった」

輪が前衛の3人に策を授けていた。

「でも、その前にオレらが決めれば時間切れで勝ちだ」

「おうっ」

淳二の声に5人が声を合わせる。

そして運命のボールが3組コートに打ち込まれた。

そ〜れっ♪

高坂の強烈なボールを輪がうまく腰を落としてレシーブした。

上がったボールはセッター大谷の上へ。

「頼むっ」

大谷次生がトスを上げた相手は島勝智だった。

「っりゃぁ!」

気合いを込めた強烈なスパイクはしかし高坂の真っ正面に飛んでしまった。

「もらった」

高坂がボールの勢いを殺してレシーブを決める。

「J.S.Aでとどめだ!」

フロントライト横田がボールを高く高くトスした。

「ボールをよく見ろっ」

輪が前衛に檄を飛ばす。

落ちてくるボールめがけて内藤、山県、高坂が跳んだ。

「ジャンピング!」

「三位一体」

「アタ〜〜ック」

しかし、3組前衛大谷、島、明石はその3人を見ずにボールの軌跡だけを懸命に追った。

フロントの人間が打つにはボールは若干後ろに飛んでいた。

「高坂だっ」

と輪が叫ぶ。

「高坂よっ」

こちらは美亜子が立ち上がって叫んでいた。

「鏡さんですわ」

そしてなぜか見切っている広奈。

「止めてみせる」

次生が跳ぶ。

「りゃぁぁ」

島もその手を大きく広げてブロック。

「ムンッ」

明石もスパイクのコースを塞いだ。

タイミングは完璧。高坂渾身のバックアタックは一番背の低い大谷次生の指先に当たってコート上空に舞い上がった。

(完全にブロックしきれなかった!?)

次生が慌てて振り返る。

次の瞬間。

彼の視界に飛び込んできたのはコート中央に向けて落下し始めたボールと、それにタイミングを合わせてダイレクトにバックアタックを放った直江輪の姿だった。

「直江っ!」

バシィィィッ!!

「なにっ?!」

4組コートはJ.S.Aを放ったバックライト高坂のポジションががら空きだった。

そこに輪のバックアタックが突き刺さった。

ピ〜ッ、8対7。

「やったか!」

着地した輪が大きく右手を挙げてガッツポーズ。

おおおおおおおおおーーっ!!

きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!

飛び交う3組男女の歓声。

「やりました〜。なんと土壇場で3組大谷がJ.S.Aを懸命のブロック。こぼれ玉を直江がダイレクトで打ち返して見事決勝点を決めましたぁぁ!!」

「…ハラハラさせるじゃないの」

美亜子が安堵の笑顔を見せた。

「素晴らしい試合ですわ」

広奈お嬢様、事情はよく分かっていないがご満悦。

「恋心って…………なに?」

気になって喜ぶどころではない春樹。

「……よかった」

初めて安堵の表情を見せたのは誰よりも真剣に試合を観戦していた石田尚貴だった。

「よ〜しっ、試合前の約束通り、これ以上ハルに余計なちょっかいを出すなよ。でもって“抜け駆け禁止”とかいうくだらないルールをふりかざすのもこれっきりにしろよ」

淳二が試合終了とともに4組の四天王にそう通告した。

ほとんど忘れられていたがそもそもの試合の目的はこれだったのである。

しかし、そう告げた淳二に向かって高坂はその顔を暴力的に醜く歪めると短く吐き捨てた。

「認めんっ」

それに山県、内藤、馬場も唱和する。

「そうだ」

「貴様らなんぞに広奈さんを渡すものか」

「…ふん」

それを見た石田尚貴が血相を変えて飛び込んできた。

「約束が違います!」

その様子に3組と4組の男子が集まってコート上は騒然としてきた。

(陰性の気がピークになったのか?)

4人のまわりにまとわりつく黒い影がその大きさを一気に増していた。

それを見て取った明智瑠華が慌てて4人のそばまで駆け寄った。

(なるべく人目に付きたくはなかったが、これ以上は放置しておけないか)

(そうじゃのう。ひとまず眠らせて後の処理はなつめに任せるとするか)

瑠華の頭の中で瑠華ではない女性の声が響いていた。

(しかし、これほどの陰性の気、押さえ込むのは難しいぞ)

(まったくじゃな、まさかこれほど短期間で成長するとは、厄介なことじゃて)

そうして明智瑠華が口の中で小さく呪を唱え、4人に放とうとした瞬間。

「一体どうなさったのですか? 今日の皆さんはどこか様子がおかしいですわ」

一触即発だった男子の間に武田広奈が割り込み、四天王に悲しげな声で呼びかけていたのだ。

「うっ…」

「ひ、広奈さん」

「……」

途端に意気消沈する4組男子。

(陰性の気が弱まった!?)

(よし、今が絶好の機会じゃ)

そして明智瑠華の口が小さく呪を呟くと、途端に四天王はぱたぱたと倒れてしまった。

(上手くいったようじゃな♪)

「まぁ、大丈夫ですか? しっかりして下さい」

意識を失う瞬間、自分たちに駆け寄ってきた広奈の姿をその目に捉えて、四天王は自分たちの精神を蝕んでいた“悪意”を一瞬忘れ、安らかに眠りについた。

「すぐに保健の立花先生を呼んでこい」

事態に気付いた島津先生がその野太い声で保健委員に指示を出した。



◇エピローグ◇


体育館に呼ばれた立花先生の指示で保健室まで4人を運んでいった生徒は、何故か明智瑠華が一緒に保健室に入っていくのを目撃していた。

そして保健室の前を通りかかった生徒が『悪霊退散っ!』とか『雷王咆吼撃!!!』 という叫び声を聞いたという噂がまことしやかに囁かれることになる。

とはいえその保健室で一体何が行われていたのか、誰も知る者はいなかった。

ちなみに四天王は全員この日のことはなにも覚えていないと話し、事件後は3組の男子に対して嫌がらせの類をかけてくることは一切無かった。

「そういえば昨日の夜、近道しようと五稜郭公園を横切ったのは覚えているが、後の記憶が無い」

とは高坂の証言である。

そしてこの日の彼らは様子がおかしかった、というのが4組女子のもっぱらの感想である。

この日起きたちょっと不思議な事件こそ、この後に輪たちを巻き込んだ、あるとんでもない事態の前兆であった。

この時点でそれに気付いていた人間はわずかに二人だけだった……。



蛇足。

3組女子はいつ春樹が告白するのかと噂していたが、結局春樹がいつまで経っても行動に移さないのでやがてその話題は消え去っていた。

なにしろ“告白”自体がデマなのだからしょうがない。

しかし、この事件をきっかけに春樹が妙に広奈のことを意識しだしたことは、まぎれもない事実である。




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おまけ


春樹の受難その1